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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
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それぞれの戦い

89


南の方角で叫び声が聞こえたが、アリエル達は接近してくる鎧鰐に対処する為、舟から桟橋へ飛び移る。その際ササネは着ていた着物を舟へ脱ぎ捨て、袖無しの丈の短い忍び装束姿になった。


鎧鰐は途中まで泳いで近づいて来ていたが、ササネが桟橋を飛び越えて水面上に着地すると、太く短い後ろ足と尻尾を使って立ち上がる。腹まで鱗に覆われた姿は、全身鎧を着ているかのようだった。


鎧鰐の小さな目が赤く光り、大きな口を開けて威嚇してくる。ササネが水面上を駆けて渡し場の裏へ誘うと、半壊した家屋の影に隠れていたミリアンが飛び出し、水流渦巻く魔槍で踏み出した足先を削り取った。


「ギャャオォッ!――」


前のめりに倒れ始めた鎧鰐の顔面へ、炎の槍が飛んで悲鳴を止める。ササネが折り畳み式の大型短刀で、もう片方の足を掬うように切りつけると、頭をミリアンへ向ける形で仰向けに横転した。


「首をっ!」

「承知っ!」


ミリアンが掲げる魔槍には高圧の水流が旋回し、燃え上がる鎧鰐の顔面下、鎧のような鱗が薄くなっている部分を深く抉って血を吹き出させた。


「次が来るぞ!同時だ!」


アリエルの警告を聞いて引き返すササネと、岸を駆けていくミリアンは、同時に接近してくる鎧鰐と対峙する。


カーマインは不死鳥の魔法の準備を始め、アリエルが呼び出した水の精霊が、起き上がろうともがく鎧鰐を抑え込む。もがけばもがくほど首からは大量の血が流れ、次第に静かになってゆく。


「ササネ!二頭を引き離せ!――っ!」


ササネが浅瀬寄りの一頭を引き連れて離れていくと、ミリアンに向かって来ていた鎧鰐は、尻尾と後ろ足を使って飛び跳ねる。それを身を投げ出して避けると、すかさず魔槍を振るって鎧鰐の脇腹を浅く切り裂いた。


「いくぞ!」


カーマインの声と共に燃え盛る大きな鳥が飛翔していき、うつ伏せに倒れていた鎧鰐の上へ覆い被さる。鎧鰐は激しくのたうち回るが、頑丈な鱗諸共瞬く間に炭化した。


「よし!ササ――ササネ!後ろだ!!」

「――っ!?」


鎧鰐の突進を余裕を持って回避したササネの背後、北から津波のように押し寄せてくる何かが見えた。

ササネは咄嗟に鎧鰐の川下へ逃れたが、その何かは次々と川から跳ね上がり身体を掠める。


「アローフィッシュの群れだと!?カーマイン!桟橋から離れろ!」


半壊した家屋を迂回して桟橋に向かっていたカーマインは、矢魚の群れに気付くのが遅れて桟橋ごと呑み込まれた。




「うわぁぁぁ!」


大きな鋏で薙ぎ払われ宙を舞うロランを、デリックは呆然と見送る――。


北東の渡し場、浅瀬にいた鉄蟹を囲う伯爵家の騎士達は、南から響く魔獣の叫び声に反応した子蟹を討つ為、従者を向かわせた。


当初、矢を射掛けて順調に注意を引いていたが、ロランの素人操舵によって浅瀬に乗り上げてしまう。


「なにやってんだ!」

「囲まれるぞ!?槍だ!槍を寄越せっ!」


バーキンに殴り飛ばされたロランが慌てて槍を渡していく。しかし親蟹より小さいとはいえ、人と同じ体高の子蟹の鋏は槍の間合いに匹敵し、甲羅の硬さも並みの鉄槍では刃が滑り、キィンという金属音を響かせ小さな傷を付けるだけだった。


唯一バーキンの赤熱した槍の穂先が脚の関節を切り離していたが、ビンスやロランの槍は威嚇にしかならず、舟に取りつかれてしまう。


「ビンスは舟を出せ!ロラン!お前が敵を引き付けろ!」


舟から蹴り落とされたロランが子蟹二匹に追われて、親蟹と戦うダントン達の方へ向かっていく。


「おらぁぁぁ!」


デリックの渾身の一撃から始まった親蟹二匹との戦いは、片方の鉄蟹の甲羅を砕き、ダントンの炎を纏った穂先が深々と刺さって、甲羅の隙間から火を吹き出させた。


直後、激昂したもう片方の鉄蟹が人より速い速度で二人に迫る。その突進を斧槍で受けたデリックが弾き飛ばされると、追撃の大鋏が振り下ろされた。


そこへダントンの炎の魔法矢が顔目掛けて飛び、反対の鋏で受けさせる。狙いが逸れて無事だったデリックが石突きを地に突き立てると、大地が一瞬突き上げられたかのように揺れ、鉄蟹の脚をもつれさせた。


「デリック!もう一度だ!」

「駄目だ!立ち上がった鉄蟹は高すぎる!」


横振りされた大鋏を屈んで避けたダントンが、槍を同じように振り抜くと、金属の柱にでも打ち付けたかのような手応えと共に腕が痺れる。


デリックが振るう斧槍が重心の掛かる鉄蟹の脚を切り離すと、そのままもう一回転させてさらに切り離した。


大鋏で倒れまいとする鉄蟹は、もう片方の鋏で倒れたダントンを刺そうとするが、転げ回って逃れる。暴れ始めた鉄蟹を前に、そのまま距離を取った二人は子蟹を連れてやって来るロランに気付いた。


「ばかやろう!来るな!」

「舟が!?俺がやる!舟を出せ!」


転んだロランの頭上を斧槍が振り抜かれ、子蟹を弾き飛ばす。ダントンは炎の槍に怯んだ子蟹を無視して、浅瀬から離れ始めた舟へ向かう。


「――ス!?やめろ!」

「――るしてくれ!」


バーキン達の声が微かに聞こえてきた直後、上流で水飛沫が上がり、舟と子蟹を押さえ付けていたバーキンが呑まれた。


そしてダントンが最後に見たものは、身体中に矢魚を受けたバーキンと、無数の矢魚を含む津波だった。


津波に呑まれて消えていったダントン達と舟に、呆然とするデリック。背後から迫る親蟹と目の前の子蟹に挟まれ、ロランは丸腰だった。


「ロラン!立て!」

「デリック様っ!もうだめです!」


涙と砂でぐしゃぐしゃな顔を向けてくるロラン。その首に迫る子蟹の鋏を石突きで払い除けると、そのまま一回転させた斧槍で叩き潰す。


直後に右肘を親蟹の鋏で切断されたデリックは、そのまま横振りされた一撃を受けて吹き飛ばされる。すぐに身体を起こしたが、薙ぎ払われて宙を舞うロランと斧槍が見えた。


「うおぉぉ!!」


跳躍したデリックは左腕一本で空中を舞う斧槍を掴むと、親蟹が突き出す鋏が腹を抉るのも構わず顔面を強打する。鐘が鳴るような音を響かせると同時に振動が親蟹の身体を駆け巡り、浅瀬に大きな波紋を作った。




「神よ!どうか我らに力をっ!」


ロメロはゆっくり迫る小山のような岩亀から後退りならがも、小さなハチェットを構えて戦う気でいるブロンに神聖魔法を掛ける。


一時的に肉体を活性化させて強化する魔法を受けたブロンが、動きの遅い岩亀の側面に回り込み、ハチェットを振るう。しかし石の様に硬い皮で守られた前足を浅く切り付けるだけに終わると、鈍重な岩亀の噛みつきを容易く避けて下がった。


ベセルは駄目元で弓矢を放つが、岩のような甲羅や皮膚に刺さるはずもなく、自棄になって地面へ叩きつける。


「くそっ!――無理だ!助けてくれ!」


ベセルは浅瀬から遠くにいる教会監督官達に叫ぶが、一切反応せず見ているだけだった。


そこへ溺れていたボルポが運よく流れ着くと、生きているのを確認したベセルは、戦槌を探しに舟の転覆場所へ潜る。


「ううっ…てめぇ!見捨てやがって!」

「ぶはっ…し、仕方なかったんだ!それより岩亀が来るぞ!?」


殴られたベセルが指差すボルポの背後には岩亀が迫っていたが、ブロンが左前足を集中して切りつけたお陰で片側に傾いている。猛然と駆け寄ったボルポは、岩亀に飛び付くと登っていき、狂ったように甲羅を滅多打ちにし始めた。


「おらぁ!どるぅああっ!」

「おぉ神よ!ご覧下さい!彼らの勇姿を!私の善行を!!」


反撃は長い首を使った首振りや噛みつきだけで、一方的な展開になる。手の空いたブロンは辺りを見渡して目を見開いた。


「おおぉぉぉ!」


甲羅を叩き割り最後の一撃を振り下ろすと、岩亀は水飛沫を上げて沈む。戦槌を高々と掲げて雄叫びを上げたボルポだったが、無数の矢の雨が降り注ぐとハリネズミとなって岩亀から転げ落ちていった。


「げぇぇぇ!?」

「な、なんじゃ――ぎゃあぁぁ!?」

「――っ!!」


離れて見ていた監督官達の舟も津波に呑まれて転覆する。

矢魚を脚に受けたロメロは勢い衰えぬ津波によって、南の骸森まで押し流されていった。


難を逃れたベセルは一人逃げようとするが、岩亀の水飛沫に反応した浮遊海月がふわふわと浮き上がり、接近してきている事に気付く。


慌てて津波の過ぎ去った川へ逃れようとするが、奴隷の首輪により全身が麻痺してしまうと、触腕に巻き付かれて宙へ持ち上げられる。


「ぎゃー!や、やべでぐれぇ!」


触腕に包まれた身体は瞬く間に腫れ上がり、肉玉となったベセルを体内に取り入れて溶かし始める。そして岩亀の影に隠れて生き残っていたブロンにも触腕を伸ばした。


「……あ、あーあー。やれやれ。やっと自由の身か」


迫る触腕を一振りで切り離すと、左手で首輪を引きちぎり、右手に持ったハチェットを器用に回す。


「さぁて。ちゃっちゃっと終わらせてずらかるとするか」


左目に眼帯をして無精髭を生やしたブロンは、肩に小さなハチェットを担ぐと身体をユラユラと揺すり始める。青い残像を後に残しながら目の前の巨大な浮遊海月に向かってゆっくりと歩んでいった。

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