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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
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お風呂

86


孤児院では普段お湯を使って身体を拭くだけで、ちゃんとしたお風呂に入るのは初めてのはずだった。


幼少期の記憶が定かではないリースは、こうゆう場合前向きに捉えて楽しむ事にしている。


着替えと部屋にあった高級タオル、丘の村で貰った黒森石鹸を抱え、肩にはリザが頭にキャスが乗る。ただでさえ乗られるのが嫌なのに、ベトベトの手をしたキャスが髪に掴まるので苛立つリース。


塔内部を一周する廊下をぐるりと回り浴場に向かう途中、向かいからミリアンがやって来た。

革の鞘に収まる蒼鋼ナイフを腰に差し、着替えを持っている。


「ロッテ達は先に向かいましたよ」

「ミリアンは彼女を愛称で呼ぶのだな」

「ええ。リリー公爵家とは遠縁になるのと、兄妹同然に育ちましたから。公式の場以外ではそう呼ぶように言われています」


彼もこれから浴場に向かう様で、優雅に一礼して去っていく。カーマインは彼がエルフとのハーフかもしれないと言った。




廊下を進むと右側に入口が見えてくる。丈の短いカーテンには、中央に変な印が刺繍してあった。


それをくぐり中へ入ると、竹と蔓を編んで作られた長椅子が並ぶ部屋に出る。壁には大きな姿見と端には観葉植物があり、反対側のカウンター内には女性の使用人が立ち、奥から出てきた別の宿泊客に飲み物を勧めていた。


「お風呂は体内の水分を消費するんだ。学園でも長風呂した者がよく倒れていたな…リースも出たら水を貰うんだぞ?」


奥の曇ったガラス扉を開けると、籠の収まる棚が奥と右壁、中央に並ぶ脱衣所に入る。左側の少し開いているガラス扉からは熱気が漏れており、突き当たりの棚の前ではシャルロット達が服を脱いでいた。


「リースさん。もし抵抗があるのであれば、そこの戸棚の中にある水着を使うといいですよ」

「あっ…だ、大丈夫」


上質の絹の肌着一枚になったシャルロットは、恥ずかしくないのか平然としている。マジックバッグになっているらしい手のひらサイズの小さな袋から、変な形状のブラシ棒と乳白色の液体が入る小瓶、タオルを出すとさっさと裸になってパメラを急かす。


「…君は貴族にしては変わってるな。食事もミリアン達と一緒に取るし、公爵家なら貸切風呂にでも入りそうだが?」

「シャルロット様は普通の貴族様と違い、誰にでも分け隔てなく接するんですよ」

「パメラ、もういいでしょう?堅苦しい呼び方はなしよ。ササネもいつも通りでね」


二人も普段は愛称で呼ぶようで、パメラは服を脱がされると小さな悲鳴を上げ、風呂場へ連れていかれた。


ササネも胸に巻いていた白い帯を外すと、着物の上からでは予想だにしない程の豊満な胸が露になり、スラリとした美しい姿を隠す事なくシャルロット達に続く。


その姿に驚愕していたカーマインは、一瞬クラリと上体が傾き、隠れるようにして革服を脱いでいく。

リースも同じ思いでいると、彼女はチラチラと盗み見ては悲しそうな顔をする。


「リースはまだ成長途中だ。気にするな」

「――!きっ気にしてませんよ!?。カーマインさんこそがっかりしてないでください!」

「…ね、姉さんと、呼んでもいいのだぞ?」


そう言い残してさっと風呂場へ行ってしまう。

リースはその言葉を気にしつつも、いつの間にかいなくなっていたピクシー達に気付き辺りを探す。するとガラス扉の隙間からキャスを抱えたリザが飛び出してきた。


「もぅ。だからお湯の中には飛び込むなっていったのに…」

「きゅ~」


そのままのぼせているキャスを抱えて出ていってしまう。




タオルで前を隠すだけになり、ガラス扉を開けると湯気と熱気が全身を撫でる。


部屋と同じ扇状の広間を、横から入る形になる風呂場は、正面に三段の噴水があり、湯が吹き上がらない程度に湧いている。


その奥から右側手前にかけて、広々とした浴槽があり、美しい空が描かれた壁のアーチ状の窓から外へとお湯が漏れていく。


左側手前には個室があり、扉に付いた丸窓から中を覗くと、リースでも知っている温室風呂だった。


左奥の壁際には一人分に仕切られた場があり、鏡の前の木の椅子に座るシャルロット達が楽しそうにお湯を掛け合っていた。


「あっつ…」

「そうだろう?私達エルフには少しつらい…ドワーフなんかはこれ以上に熱い湯を好むらしい」


熱気に目を細めていると、タオルを巻いたアリエルが出てくる。少し赤い顔した彼女は怠そうで、そのまま入れ違いに出ていった。


「リースさん!こっちに座ってください。私達が教えてあげますよ♪」


シャルロット達が呼ぶ隣ではカーマインが残念そうな顔をしている。おずおずとパメラ達の間に座ると、魔道具の蛇口からお湯を出して肩へ掛けてくれた。


「あ、石鹸ですか?一応ここにもあるのですが、やはり自分用があるといいですよね」

「おかっ!…め、迷宮都市に来た行商の方から貰ったんです」


危うく丘の村で貰った事を言いそうになり訂正するリース。突然背中を撫でられ悲鳴を上げつつ背を反らすと、パメラが慌てて謝り、赤い髪が綺麗だと丁寧に流してくれる。


一通り流し終えるとシャルロットに続き浴槽に入るのだが、乳白色の石の浴槽は滑り、勢いよく転んでしまう。しかし運良く先に入っていたササネが受け止めてくれて、事なきを得た。


豊満な胸へ顔を埋めたリースの顔は、一瞬にして髪のように真っ赤になり、慌てて離れようとして再び転びそうになる。


「ごっごめんなさい!」

「大丈夫ですか?手摺に掴まると安全ですよ」


ササネが指差す奥の壁際には手摺があったようで、パメラはそこからこちらを心配そうに見ていた。


熱い湯に早くもボーッとしてきたリースはシャルロットに呼ばれ窓に近づく。一見、窓は湯が流れ落ちていくのが見えるだけで、塔の高さを考えると怖さもあり、恐る恐る足下を確認しながら進む。


「大丈夫ですよ。窓には魔道具の守りが施してあるので、絶対に落ちません」


窓の外、直下には水路があり塔の外周を回って排水口から地下に流れているという。


「晴れていれば眺めが良かったのですが…」

「ここからなら崩山と、川向こうに広がる世界樹の森が一望できるんですよ」


生憎の空模様で外は真っ暗、ただ冷たい風が熱気に交わり心地良くなる。


胸まで浸かると最初は熱かった湯も心地良くなってきた。

だがカーマインは肩までしっかり浸かれと言う。辛くなったリースが浴槽から抜け出して振り返ると、彼女は熱い方が好みらしく、噴水近くで肩まで使って寛いでいた。


その後、体を洗う際に黒森石鹸を使うと、これまでの旅で疲れた心が癒されていく。


「これ魔力を帯びた石鹸じゃないですか!こんな高級な石鹸を貰えたなんて…すごいです」

「学園でも実験的に作った物が出回る事がありますが、なかなか手に入らないですね」


パメラ達に見つめられると恥ずかしくなり、石鹸を皆にも薦めて話を逸らした。


代わりにシャルロットから王国で流行っているという、乳白色の液体が入った小瓶を使わせてもらい髪を洗う。目を閉じていると急に背中を柔らかい何かが擦りだし、悲鳴を上げる。振り返ってみればシャルロットがくるくる回るブラシ棒を持って笑っていた。




お風呂場から出た後は、柔らかな高級タオルで身体を拭いて着替える。肌は今までにないほどすべすべしており、髪はさらさらで良い香りがした。


「自由民国様式はお風呂も多様で、木の木目が優しかったですね。北部は石造りで機能重視なんですよ」

「お風呂大国だからね。本場の温泉にも入ってみたい」


パメラと話しながら着替え終わると、リースの靴をじっと見ているシャルロットに気付く。


「…リースさんの靴って、やっぱり花の蕾なんですね」


シャルロットは見た事があるようで、パメラも気になっていたようだ。


嘘をつきたくはないが話す事もできず、貰い物とだけ話す。国の宝物館にあるような物を貰った上に使っているリースを見て二人は驚いていた。




休憩所に出ると何を言うでもなく、使用人がガラスの杯に果実水を注いでくれる。喉を潤しながら休んでいると、シャルロットは真剣な表情をする。


「…パメラ。申し訳ないのだけど先に戻っていてくれる?」


パメラは不思議に思いながらも従い、先に休憩所を出ていくと、シャルロットはリースを隅に連れていき、声を落として話す。


「…リースさん。ご両親の事をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「――!…はい」


リースは自身の事と、カーマインから聞いた話を思い出しながら話すと、静かに聞いていたシャルロットは確信を得たような顔をする。そしてリースに父親に関する話を聞くか問い、頷くのを確認するとゆっくり話し始めた。


「リースさんの父親コルゴンはある秘密結社と関わりがあったという噂があるのです。魔法王国内で昔から暗躍する組織、アンダーロザリウムに加担している疑いのある彼は、ローズ公爵家に追われています」


リースでも知る恐怖の秘密結社の名を聞いて驚く。

西人国時代から続く秘密結社、アンダーロザリウムは魔族を崇め、意識を維持したまま魔人の力を得る方法を模索する、狂人達の集まりだ。


アンダーロザリウムは紫の薔薇に荊の冠をしたドクロが印で、深紅の薔薇が家紋のローズ家は功績を上げる度に疑いを掛けられていた。


そこで帝国侵略戦争で名を上げたコルゴンの協力を得て、アンダーロザリウム本拠地を壊滅させて疑いを晴らした。


ローズ家は学園からの恋仲だったという一人娘の令嬢と、彼との仲を認める約束をしていたが、王家との縁談がまとまると約束は果たされず、コルゴンは侯爵家との縁談を決める。


暫くしてアンダーロザリウムの女組員と一緒にいる所を見たという噂が急に流れ、ローズ家の手の者が捜査する中、コルゴンは宝物館に安置されていた魔道具、血の双子月を持ち出して失踪したという。


しかし目撃者は言ってることが二転三転する怪しい者だったので、侯爵家が擁護したコルゴンの子、つまりカーマインには咎めはなかった。だがこれによりコルゴンを得てより力をつけ始めていた侯爵家は停滞した。


魔法王国内では再びアンダーロザリウムの影がちらつき始めており、ローズ家はコルゴンを探しているから、ローズ公爵家の者には気を付けるよう警告された。


あまりにも詳しく話すシャルロットは別人の様で、リースは思わず誰何する。しかしシャルロットは薄く笑うだけで、今は秘密と言って答えなかった。




帰り道、シャルロット達の部屋の前ではパメラとミリアンが立ち話をしていた。

なぜかパメラは一目で演技とわかる嘘泣きをしていて、困り顔のミリアンが助けを求めてくる。


「どうかしましたか?」

「いえ、男湯の噴水風呂が故障しているようで、ルヴァル君が支配人に詰め寄っていたのを、パメラちゃんに聞かせていたら――」

「ミリアンさんに叩かれました!」


パメラはおよよと嘘泣きをしていて、ミリアンはやれやれと肩を竦めつつ訳を話す。


「私なら女湯でもいけると言われましてね。軽くおでこを叩いただけですよ?」

「パメラったら。さすがに失礼よ」

「ごめんなさいっ♪」


ルヴァル達は下層の、風呂がある宿を貸切にして入っているようで、ミリアンはお湯を貰って自身の部屋で済ませたと言う。


「先に出たササネ達は?」

「カーマインさんと休憩所にいましたよ。これでまた煙管愛好家が増えてしまいましたね」

「身体に害はないと聞きましたが、何がいいのかわからないですね…」

「あのいろんな色の煙には味があるのですかね?」


リースが疑問に思っていると、今行けば見れると言われ、おやすみの挨拶をしてから休憩所に向かった。




休憩所では窓際の席に着くカーマイン達が、煙管と呼ばれた筒からモクモクと多彩な煙を上げていた。


「どうした?湯冷めしない内に部屋へ戻りなさい」

「すぐ戻ります…それって、おいしいのですか?」

「おいしい?う~ん…」

「この感覚は実際に吸う者にしかわからないでしょうね。あっリースさんはだめですよ?子供には効き目が強いので」

「効き目?…薬なんですか?」


気になるリースが何を聞いても曖昧な事しか聞けず、テーブルに置かれた壺から何かの粉を煙管の先で掬うと、壺の縁でキンキンと軽く叩き、粉が赤熱する。煙を上げながら笑い合う二人に疎外感を感じ、トボトボと部屋へ戻った。




部屋へ戻ると正面のテーブルでは、アリエルが何かを舐めつつ琥珀色したお酒を飲んでいた。


「…お酒」

「――ん?だめだぞ?人の子にはまだ早い」


カーマイン達に続きアリエルからも子供扱いされ、ムスッとしたリースは大股で自身の荷物に向かうと、伝記を書く予定で買っていた本とシャルロット達と記念に買った羽根ペンを取り出す。


サイドテーブル上の白紙のページを前に、煌めく翠の羽根ペンを持ち直し、これまでの旅を思い返す。


(凄く忙しかった。あっという間に時間が経っちゃったわ…オリヴィアさん達が気になるけど…アリエルさんは落ち着いているし、するべき事をしている。私も頑張って着いていこう)


スラスラと書き綴っていく途中で、アリエルの目を盗みながら、小人里で貰ったお酒を取り出す。少し小さいお酒の瓶には黄色い液体が入っており、ハチミツ酒の香りがした。


はたと赤い顔してキスをせがむスノウを思い出し、寂しさが押し寄せる。白い本を取り出し撫でると、白い綿がポンっと飛び出し宙を漂う。その姿はまた少し大きくなっていた。


と、コツンと頭を叩かれて振り返れば、アリエルがお酒の瓶を指で摘まんで振っていて、綿の妖精に気付くと目を見開く。


「幻の妖精じゃないか。まだいたんだな…」

「名前を知ってますか?」

「名などない。神話の時代からいると聞いたが、あまりにも弱い存在なので、今では滅びたと言われていた」


指で突っつくとふわふわと流れていき、フラウの頬にくっついて止まる。カーマインが帰って来てもう寝ろと言うが、ピクシー達がおらず、探しに行こうとして止められた。


アリエルが両手で何かを囲う仕草をすると頷く。


「妖精界にいるから大丈夫だ」

「え?それってどこですか?」

「ここではない何処かだ。これに関しては知らなくていい、下手に知ると帰って来れなくなるぞ?」


帰って来れないと聞くと、なぜか極彩色に染まった世界を連想し、それが何処だったか思い出せない事に戸惑う。


「寝なさい。明日も早いぞ」


静かな部屋の温かなベッドに寝かせられると、魔法でも掛けられたかのように眠気が増し、あっという間に夢の世界へ旅立った。

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