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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
84/169

中州の街到着

83


曇り空の下、カーマインが操る馬車はゆっくり進む。


彼女は馬車の御者は初めての経験らしく、楽しそうに馬の手綱を握る。先程までフラウと言い争い険悪だった雰囲気も幾分か和らいだようだ。


そんなことをグレモスの着ぐるみを着たリースは、フラウの抱き枕になりながら考える。その手には眠りにつく前に渡された、魔法石の代わりになる魔力を宿した水晶球があり、中央で輝く赤い火の魔力は温かい。


「あぁ…怠い…」

「さっきから鬱陶しいわよ。怠いなら寝なさいよ」

「それ欲しい。くれ~」


がっちりと抱きしめられ身動きの出来ないリースは淀んだ目をしており、怠い怠いと呟き続ける。ケージランタンの中にいるリザはイライラしながらも何かを編んでいて、隣で手を伸ばしているキャスが煩わしい。


「…何を作っているの?それにその服はどうしたの?」

「あなたに関係ないでしょ」

「それくれたら教えてやるよ」


相変わらず可愛くないピクシー達にイラっとしつつも、少しずつ身をよじり続けた甲斐あって、フラウの拘束から逃れることに成功する。


「――ふぅ。もう…フラウさんのばか」

「リース、あれが見えるか?」


御者席のアリエルが窓から覗き込み北の山を指差す。黒森は南部山脈の麓を西から東へ続いており、未だ途切れる様子はない。指し示されたその先には一際大きな山があったが、不自然に頂が崩れていて背が低くなっていた。


その山には焦げ茶色の何かがいて息づいている。遠く離れたここからでもはっきり見えるそれの大きさに驚くリース。


「あれが崩山。私たちの先祖の間では霊峰―――と呼ばれていた聖地だ。とても重要な場所だったらしいが、魔族侵攻の際に崩されたと言い伝えられている」

「あの丸いのは何ですか?」

「あれは数いる異形の中の一体だ。神話の時代に封じられていた危険な存在だと言われているが、山が崩された際に解き放たれたらしい。まぁあれは未だかつてあの場から動いた事がないから、大丈夫だろう」


他にも異形は存在するらしく、アリエルが話している最中にも、崩山の上空を水面を進むかのように波紋を作りながらゆっくり進む、小さな舟が現れる。不思議でどこか落ち着くそれをボーッと見ていると、カーマインが黒森を指差し何かいると声を上げた。


「出たな…あれも異形だ。小さなマイコニドに似ているが凶悪な存在だ」

「へ?何あれ?」


森の一角には黒い木に半身を隠しつつ、こちらを窺う小さな生き物が現れていた。


その姿はキノコのようで、頭と胴の境がわからない寸胴な身体に短い手足が生え、頭上には種火のような明かりが見える。顔は泣いているかのような裂目があるだけで、リースはなぜか切ない気持ちを抱く。


「頻繁に見掛けられる異形だが決して近づいてこない。ただ一度、黒森の中を埋め尽くすほど大量に現れて、魔物達を圧殺していたのを見た事がある」

「圧殺?あんな妖魔はしらないな…興味深いな」

「あっ」


見ていると身体を震わせながら森の奥へ引っ込んで行ってしまう。すると今度は右手の南側で警戒の声がし、オリヴィアと数名が駆けていく。


「荒涼地帯に入ったな、ここからは魔物との遭遇が頻繁に起きる。気を引き締めていくぞ」

「遠くに見える大川が目的地の中州街か」


オリヴィア達は草木の生えない荒れ果てた地に、ぽつりぽつりと点在した岩を警戒している。その先遥か遠くには世界の端を思わせる壁があり、リースは夢で見た光景に一番近い場所だと気付く。


「ロックビーストだ。皮膚が石のように硬くなった蜥蜴で見た目以上に俊敏だ。だがあまり動かず近付かなければ襲われないだろう」


もぞもぞと動き出した岩の一つに小さな目が開き、こちらを窺っていた。




その後も馬車は慎重に進み続け、時折現れる甲虫や野犬、狼などの魔物をオリヴィア達が倒していく。


途中着ぐるみ姿が締まらないとカーマインから注意されたリースは、エルゥスィスの本に従い脱ぐイメージを思い浮かべて元の姿へ戻る。思いの外着心地がよかった事に困惑するリースは、気晴らしに魔爪杖を使いたいと言ったが、あっさりと却下されてしまう。


「それは魔法石とは違うだろう?純粋な魔力の塊では魔法の使えないリースでは扱えないぞ」

「あっ…そっか。ごめんなさい」


大人しく座っているとケージランタンの中ではリザが編んでいた物が出来たようで、煌めく半透明のショールをキャスの肩に掛けている。


「どんな効果があるの?」

「ほんと質問の多い子ね…影光蝶の鱗粉を使った物よ。知りたければ自分で調べれば?」


ムッとしたリースはエルゥスィスの本に頼るもわからず、勝ち誇ったような顔をするピクシー達に更にイライラが募る。




暫く進むと冒険者達がエメラルドウルフを倒し、解体している場所を横切る。一人が美しい翠の毛並みを痛めないよう慎重に作業しているようで、手持ち無沙汰な仲間の一人がアリエル達に気付く。


「おっエルフだ。おーい!エルフさん達。中州街に学園の人が来てたぞ?」


エルフの一人が近づいていき話を聞いていると叫び声がする。冒険者の一人が休憩しようと腰をおろした所、地中から現れた不気味な虫にお尻をかじられてしまったようだ。


冒険者達は仲間の無様な姿を笑うが、オリヴィアは急に駆け出していき、その冒険者を助け起こすとその場を飛び退く。


「マッドローパーだ!駆けろ!」

「な、なんだ!?」


アリエルがカーマインから手綱を奪い取り馬車を加速させる。オリヴィア達は助けた男を引き摺りその場を離れると、男エルフが土の精霊に願い噛まれた男を地に縛り付けた。


「お、おい。何を――!?」


冒険者達とオリヴィアの先には干からびた蛇のような物が首をもたげ、地中からはブヨブヨした巨大な芋虫が顔を覗かせている。


大きな口は先程の不気味な蛇を一本生やしているが、その暗い奥の方では何かが蠢き、土色の胴体には小さな脚が無数に生えていた。


そのおぞましい姿に冒険者達が慌てて武器を構え直し後退する。


「気味悪い…なんなんだ?」

「この地に生息する怪物だ。噛まれると錯乱し自身や仲間を傷つける。奴は馬車など大型の物を優先して狙うから、このまま大川の渡し場まで走り抜けるぞ!」


この世界には魔物ではない未知の生物が稀に現れる。妖精達の間では、それらはいつからあるかもわからない謎の遺跡と共にこの世に現れ、怪物として恐れられている。


「やっぱりこの世界にも…」

「――え?何?」


リザの声が聞こえて振り返るも、彼女はキャスをしっかり抱き寄せて目を閉じているだけだった。


「なら私も出よう!オリヴィア達だけでは――」

「ダメだ!あれは倒せない!この地の神格を持つ本物の化け物だ!」

「神格!?」


アリエルが操る馬車は猛然と突き進み、リースは馬車後方の窓へ飛び付く。暗い雨雲に覆われた空からは、ぽつりぽつりと雨が降り始め窓に当たる。


最後に見た光景は、怪物の身体が風船の様に割れて無数の触手が吹き出すのと、巻き上がった砂埃によって見えなくなるオリヴィア達だった。




馬車は黒森から続く大きな川まで走り続け、途中引き寄せてしまった魔物を、カーマインが生み出した不死鳥が焼き払う。渡し場には数隻の大小様々な舟が停泊していて、川へ飛び込みそうな勢いの馬車に驚いた様子の人々がいた。


「あ、あんた達。何かあったかね?」

「荒地の怪物が現れた。すぐ舟を出してくれ」

「――なんと!お、おい!皆に伝えなさい!」


渡し場の長らしき老人が指示を出すと、慌てた様子で舟の準備を始める男達。リースはオリヴィア達が心配になりアリエルに問うが、今はフラウを安全な中州街へ連れていく方が先だという。


「過去に一度出会い、生き延びた事があるオリヴィア達を信じよう…」

「毎回こんな危ない目に合っているのか?」

「いや…北の黒森には大川を歩いて渡れる場所があって、普段なら私達はそこを通る。それにあの怪物はもっと南の骸森周辺に現れるはずなんだ」




老人が所有する一番大きな渡し舟に馬車を乗せて出港する。他の舟は渡し場から少し離れると、西の様子を見守る為に残るようだ。


「リース、あそこが中州街だ」


開いた馬車の窓から外を覗くと、大川の中央を南北に広がった綺麗な街並みを見る。ドーム型の建物はどれも白い石造りで、中心地には大きな塔も見えた。


老人はリースが初めて来たと知ると、街の話を聞かせてくれる。


「七都市連合と南大壁国とでは領有権の主張に食い違いがあっての。連合は境界を荒涼地帯としているのじゃが、南大壁国は門を開くと妖精里の東から大川までを主張し、税を徴収するんじゃよ」

「払っているのですか?」

「うむ。不本意ではあるが争いは避けたいのでな…南大壁国の軍隊は強力なボウガンや弓で武装していての。建国当初に一度小競り合いをしている。建物が丸いのは矢の雨対策じゃよ」


他に中央の白塔は避難場所兼砦だったが、中州街が南部域における東西通商の中心地となると、一日中賑わう場所になったという。


塔には脱出用の地下があったのだが、気が付いたら迷宮化していたらしく、一階はその為の冒険者ギルドとなっているようだ。


老人が部下の男達に指示を出しに行くと、アリエル達が話を繋ぐ。


「始めは帝国のように侵略を繰り返す国になるかとひやひやしたが、急に壁内の何かに夢中になったようで、度々門を閉じるようになったと聞く」

「あの地は呪われている。大地の恵みはほとんどないし、精霊も避けている様子。私達も近づかない様にしている」

「そうなんですか…」

「たしかここには自由民国の品が多く流れて来ていたはずだ。後で見に行こう?」

「あっ…はい!ぜひ!」


オリヴィア達を心配し暗い顔をするリースを気遣い、カーマインは買い物に行く約束をした。




夕暮れ時。小雨の降る中州街の渡し場に着くと、白い街並みはとても美しく、曇り空でも明るい雰囲気があった。


ガヤガヤと賑わう広い通りには商店が多く並び、道行く人々は気に入った物を買い漁り、見せ合っている。笑顔の絶えない家族連れと入れ替わりに、店頭に並んだ品を覗くリース。真新しい服や色鮮やかな工芸品、見た事もない品が並んでいた。


「わぁ…賑やかですね」

「年末年始はここで過ごす者も多い。塔周辺はこの地の特産品を扱う店が多く、塔内には自由民国からの品もある。塔から見る大川の夜景はおすすめだぞ」


アリエルは何度も来ているようで、塔内の行き付けの宿に向かう。




大きな白塔にはアーチ状の入口が多数開いており、二階以上にも小さなアーチ窓が見える。塔を囲うように並び建つ厩舎の中には、多数の馬車や騎獣が停めてあった。


空いている厩舎の管理人にお金を払い馬車を預けるアリエル。しかし塔入口の混みように、すぐには入れそうにないと困り顔で話す。


「早く聖霊様をゆっくり休める場所へお連れしたいが…」

「あの変態が聖霊とは思えな――」

「おいっ。口に気を付けろよ?聖霊様を軽んじるなら、妖精種精霊種皆の敵となる。つまりは世界の敵と認定され生きてはいけないぞ?」


アリエルの言葉に唸るカーマイン。さすがに上位種族に狙われたら勝てる訳もなく、しぶしぶといった感じに謝罪した。


リースはリザの様子が気になり話し掛けるが取り合ってもらえず、赤い水晶球を見せつけキャスの注意を引く。


「…はぁ。言ってもわからないでしょ?いい加減にして」

「寄越せよ~ケチクサ娘め!」


顔を引きつらせながら震える手を抑える。


「な、何か話してみてよ。わかるかも知れないじゃない」


リザはイライラしながらも話し始めるが、リースにはまったくわからず、がっくりと肩を落とす。その拍子に水晶球まで落としてしまうと不自然に宙を曲がり、キャスが全身を使って抱き止めた。


「ちょっ!?ちょっと返して」

「なによ?キャスにあげたんでしょ?私だって只で話してあげた訳じゃないわ」

「うわぁ~♪スベスベしてあったか~い」


フラウから貰った大切な物を取られてしまい、どうしようか悩んでいると、無視できないような強い存在感を放つ者が近づいてくる。


その十二、三歳の少女は輝くような金の髪に金の瞳、お姫様が着るような豪奢なドレス姿をしており、その胸元を一輪の白い花が飾っている。それを同じく見ていたカーマインから、魔法王国の上級貴族だと教えられた。


背後に一瞬エルフかと見紛う青髪の美青年騎士と、自由民国ではよく見掛けられる着物を着て、明るい翠髪を三つ編みにした女性を連れていた。


「初めましてエルフ様。急にお声をお掛けして申し訳ございません。私は魔法学園から魔素儀式を受けに世界樹の森を目指しています、シャルロット・リリー・アルタイルと申します」

「この時期に魔素儀式を受けに来るとは珍しいな…」


アリエルが対応する中、カーマインは今回の旅について思案する。


(リリー…白の公爵家か。なんとも貴族と縁の多い旅だ…それにこの娘も帝国のガーネット公爵家令嬢と同じく西人国王家の…古代人の血を強く顕している)


リリーとローズ。二輪の花の公爵家は魔法王国で有名な上級貴族だ。


その片方の公爵家令嬢とここであった事に、カーマインは内心驚きつつ、アリエル達の話を静かに聞く。


彼女は美しい花の馬車を見掛けた騎士ミリアンの報告を受けて一目見ようと来た所、エルフの存在に気付き、今現在抱えている問題の相談に来たようだ。


「実は家の都合で無理を言って年内の儀式を受けれるようにしてもらったのです。私と後二人がここまで来たのですが、東の川辺に現れた魔物の群れにより立ち往生しています」

「水棲の魔物か…魔の森から南下してくる魔物の数は年々増加している。私達の仲間は森の守りで手一杯で、この辺りまでは対処出来ていないだろうな」


アリエルはエルフが抱える悩みを話すと、ミリアンと呼ばれた美青年騎士が中州街の事情を話す。


「この街の冒険者達は迷宮が目当てなのと、ある程度稼いだ事もあり、年内は危険な討伐依頼を受ける事に消極的です。群れは強力な水棲生物が二十近くいます」

「私の護衛に同行しているのは騎士ミリアンと忍のササネ。あと同級生の伯爵家からは騎士二人と従者が三人です」

「足りないな。ふぅ…次から次へと。問題の多い旅だ」


溜息をついたアリエルはとりあえず協力する方向で考えると話し、まずは今夜休める場所へ向かう為に塔の様子を聞く。するとシャルロットは彼女らが泊まっている、塔内の高級宿に招待すると言い、専用入口から向かう事にした。


フラウの事情を当たり障りなく伝えると、ササネが協力を申し出る。馬車の扉を開けて出てきたリースに対しシャルロットは目を見開き、次にフラウを見て動きが止まった。


「どうかしましたか?お嬢様?」

「ロッテ?大丈夫かい?」


ミリアンはまるで妹に接するように話し、彼女の様子に首を傾げる。


「あ…いえ…何でもありません。ササネお願いね」

「はい、お嬢様」


アリエルとササネが毛布に包まれたフラウを慎重に運び出す。リースは未だシャルロットと見つめ合い、お互いの存在に動揺する。


(この子…何かある。フラウさんみたいな…)

(落ち着いてシャル。今はだめよ…)


移動する為ケージランタンを背負い外套を羽織るリース。ミリアンの先導で人で混み合う入口を避けて、警備の厚い専用入口から塔へ入った。


その様子を建物の影から白服の男が見つめていた。

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