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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
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変身!

82


リースは幼き日の夢を見る。


いつも一緒だった母親がいなくなり、理解出来ずに泣き暮れていたある日、父親の仕事で隣街まで移動する事になった。


勝手に離れるなと言う父親の話を聞き流し、街道の休憩地に集まった大人達を見て回る。


商人は危険な地域を通過する際、冒険者を雇い、他の商人達と集団で移動する。その為、休憩地は多数の人と馬車でごった返していた。


当時のリースは好奇心に忠実で、気になる物を見つけると、それだけを見つめて駆けていくところがあった。


その時も馬車に積まれた色鮮やかな品物に引かれて駆けていき、横合いから出てきた馬車に引かれそうになる。


運よく護衛の男に助けられたが、父親には頬を叩かれ涙した。


それは初めて頬を打たれたからではなく、普段寡黙な父親が、必死な表情で訴え掛けてくる姿にショックを受けたからだ。


それから暫く会話どころか顔も見ようとせず、一人馬車の中で沈黙する。


しかし帰りの道中、不意に現れた魔物に襲われ、苦しみもがきながら命を落とした冒険者を目の当たりにしたリースは、父親の真意に気付く。


人はあっけないほど簡単に死ぬ。常に注意深くなければ惨たらしい死が待っていると。


それ以来泣いて過ごす事もなくなり、父親の愛情に救われた。




目が覚めると誰かが頭を撫でていた。

聞こえてくる心音は穏やかで、心地よい温もりに再び眠気が増してくる。


「目が覚めたか?」


聞き覚えのある声に身を捻ると、カーマインとアリエルがいた。慌ててフラウから離れて挨拶を交わす。


「まだ寝ていても良かったのに」

「聖霊様そろそろ出立の準備をしなくては…」


顔色の良いフラウは身を起こすと、リースの赤髪を手櫛で整える。


「とりあえず話を聞いてから出発の準備をするんだ。それと勝手に村を抜け出した事をしっかり反省したか?」

「はい…ご迷惑をお掛けしました。ごめんなさい」


リースが頭を下げるとフラウが次の話に移れとアリエルに視線で訴えた。


「ゴブリンは昼間見掛けた一団の残党ではなかったようです。金属の武器を持つ点からも、近くにヴーグがいると予想されます」


近くに魔物の集落があると言い、ゴブリンの襲来に備えてエルトゥスと数名はこの村に残ると言う。


「村長の息子アルトと言う少年ですが…一命はとりとめました。ですが腕と脚に負った傷は深く、今後の生活に影響が残るでしょう」

「っ!」


それを聞いて涙が溢れ出すリース。フラウは優しく撫でてやりながら、出発する前に少年の治療を約束した。


「フラウさん!ありがとうございますっ…」

「リース、今回は助けがあったが次もあるとは限らない。だから今日から身を守る術を教える」

「あっ!はい!私からも――」

「その必要はない」


指導を受けれると喜んだが、フラウに却下されてしまう。


「必要ない?なぜだ?」

「人の弱さは根本的に変わらない。生半可な力は敵に挑ませ、生き残る可能性を減らすだけだ。リースは私が守るから大丈夫」

「フラウさん…私は――」


リースが話し出そうとすると、抱き寄せられてタイミングを逃す。カーマインは不満を隠さず、弱々しいフラウの姿を見て指摘する。


「守ると言っても貴女は寝たきりじゃないか」

「おい、聖霊様に失礼だぞ」

「時期に良くなる…それまで危ないことはするなよ?」

「私は…私も戦いたいです!いずれ冒険者になって、誰も見たことがないような世界を見て回るつもりです。その時守られるだけの冒険者にはなりたくないです!」


リースの強い意思が籠る言葉に驚くフラウだったが、すぐに表情を曇らせて、抱き寄せる手に力が増す。


「危なくない訓練をします!せめて自分の身を自分で守れるくらいにはなりたいです!」

「危なくない訓練てのもなんだが…魔法に関するものならいいだろう?」

「…アリエル、見てやってくれ」

「は、はい。承知しました」


フラウは暫く悩んだ末、お目付け役にアリエルを指名すると、手をヒラヒラとさせて二人に退出を促す。カーマインは不機嫌な顔をしたままだったが、アリエルに背中を押されて部屋から出ていった。


フラウは徐に耳飾りを付けて、指でトントンと叩いて示す。意図を察したリースは少し困り顔で耳飾りを付ける。


(もう私の見ていない所で危ない事をしないと約束して)

(…はい)

(あのカーマインという者の訓練も、正直受けてほしくなかった。あれはリースと違って可愛くない)

(ちょっと!?やだっ、やめてください!)


抱きしめられたまま髪の匂いを嗅がれたリースが左手で押し返すと、その手を掴まれる。見上げてみれば、フラウは小指に嵌められていた金の指輪をまじまじと見つめていた。


(…この指輪は?)

(あっ裂目の…古代人の…?あれ?)

(大丈夫。私には話せるから)

(え~?どうして…はぁ。裂目にいたエルゥスィスさんに貰いました。妖精里で見せればまた会いに行けるそうです)


フラウの特別ぶりに驚きながらもいつもの事だと割り切り、裂目について話して聞かせる。すると金の装飾品は古代種達が好んで身に付けていた物で、一見普通の指輪は錬金術で作り出された特別な物だという。


(特別ですか?へぇ…フラウさん?)


不満顔のフラウは自身の真っ白な髪を一摘まみすると断ち切り、髪の毛で輪を作ってリースに手を出させる。


(あ、あの…まさか?)

(嫌なの?エルゥスィスなる者の指輪はしてるのに…)


真っ白な髪の毛の指輪は綺麗だったが、さすがにどうかと思うリースは顔をひきつらせる。だがフラウの悲しそうな表情と念話から伝わってくる雰囲気は断われそうもなく、溜息をつくと手を差し出した。


フラウは迷わずリースの薬指に白い指輪を嵌める。すると髪の毛は焼き物のように変わっていき、同時に金の指輪の輝きが陰り、くすんだ色に変わった。



(あっ!これなら目立たないですね♪私みたいな貧乏人の子供が金の指輪をしていると悪目立ちしますから…!)


自身の指に嵌まる二つの指輪からフラウへ視線を移すと、彼女の左手薬指にも同じ物が嵌められており、嬉しそうに触っている。


(えぇ!?な、なんでフラウさんまで?)

(お揃いだね。リース)


その様子を見てリースは婚姻に関する話を思い出す。結婚すると左手の薬指に指輪をする習慣は、ずいぶん昔に帝国から始まった習慣だ。


初めは馴染みのない習慣と高価な指輪を用意しなければならない事に、多くの人が昔ながらの婚姻の女神へ誓いを立てるだけで済ませていたが、その話が広まるにつれ様々な効果を持つ結婚指輪が流行るようになり、今では人種の裕福な家庭では当たり前の習慣になっていた。


(あ、あの…恥ずかしいんですけど…)

(いいじゃないか?二人はお互いのもの――)

(――っ!誓いはしないですからねっ!)


フラウは婚姻の女神の事など知らなかったが、たまたま口にした言葉が誓いの一文にある事を知るリースに逃げられる。


これ以上二人きりでいたら大変だとベッドから降りて身仕度を始めるが、やけに静かなケージランタンを不審に思い、覗きこむ。しかしそこにピクシー達はおらず荷物もそのままだった。


(ピクシーなら外を散歩している。ずっとその中では可哀想だからな)

(そうですね…私は朝食に行ってきます。フラウさんも食べれるなら何か食べないと)

(…私はいい。リースから十分栄養を吸った)

(――!?)


まさかの発言に青い顔して離れると、冗談だと言って小さく笑うフラウ。以前なら冗談など言わない彼女の変化に驚くリースだった。




部屋から出て一階へ降りると、廊下を通って宿屋の裏手へ向かう。裏庭に出ると東の空は曇っており、今にも雨が降りそうだった。


厩舎との間には小さな井戸があり、数人の冒険者達が顔を洗ったり軽い運動をしていた。


「う~飲みすぎたぜ…今日はどうすっかなぁ」

「俺はもう一眠りするわ。なんか空も怪しいしな…ぬかるむ森で魔物の相手はしたくねぇ」

「俺らは軽く採取したら移動するよ。もう十分稼いだし、年明けまで中州街で過ごす予定だ」


冒険者らしき四人は多少の誤差はあれど、皆厚手の布服を着ており、獣皮や木皮の靴を履いている。傍らには使い込んだ不揃いの皮装備とボロの金属武器が置かれていた。


石級以下の貧乏な冒険者なら、自作した粗末な装備を身に着けているものだが、彼らの身なりから銅級の稼ぎには及ばないものの、良い稼ぎを得ている様子がわかった。


四人と入れ違いに井戸へ向かい水を汲み上げて顔を洗っていると、背後から声がする。


「――バカな考えは持たない方がいいぞ?去れ」

「っ!」


リースが振り返ってみれば、舌打ちをして立ち去る男の姿があり、その先から険しい表情をしたカーマインがやってくる。


「村の中と言っても安全ではない。特に冒険者などはゴロツキと一緒だ。宿ではよく盗みや強盗があるから、気を付けるんだぞ」

「あ!はい…ありがとうございます」

「…リース。その…すまなかったな。叩いて」

「いいえ!逆にありがとうございました。私叩かれるのはたぶん二度目で…一度目は義理父からだと思います。今朝はその時の夢を見て、とても懐かしく思えました」

「そう、か…あぁ朝食にしよう」


それを聞いて僅かに微笑んだカーマインは、リースと並んで食堂へ向かった。




テーブルに着くとエルフ達は皆先に済ませた様で、アリエルは村に残るエルトゥス達と打ち合わせをしていた。


「集落があるとすれば、やはり黒森だろう。異形の活動が活発になり外へ出てきたか?」

「村の守りを固めるだけでいい。村長が中州街の冒険者ギルドへ依頼を出したと聞いた」


リースの隣ではカーマインが持ち物を調べている。


「これは私が知っている物と形状がだいぶ違うが…魔法の使えない者でも魔法石を嵌め込む事で、様々な魔法が使える様になる魔道具だな…たしか魔爪杖という物だ」

「魔爪杖ですか…」


カーマインの話を聞きつつリースは相槌を打つ。実は何度目かの挑戦で、エルゥスィスの本から銅の柄の詳細を知る事が出来ていた。


昔はガルーダの爪と呼ばれていたらしいそれは、古代人が製作した物で、よく似た物をヴーグと呼ばれる妖魔が作っていた。


万能な力を持つ古代人は魔法石など必要とせず、形状変化や応用力を優先したのに対して、ヴーグが作った物は魔力消費を必要としない代わりに、魔法石を必要とする劣化版だった。


「こちらはダメだな。作りが雑でいつ暴発するかわからない危険な物だ。私が処分しておくぞ?」

「はい…」


魔法石はすべて不良品らしく、取り上げられてしまう。

その際、エルフ達が嫌そうな顔をして石を見ていた。


「代わりは中州街で揃えよう…ん、蒼剛のダマスカス製ナイフか。重かったろう?リースの体格では扱うのは難しいな」

「ではこれを売却して魔法石を買う事にします。あっ!あとこのギルドカードを見てください」

「これは…迷宮都市登録の冒険者か。王国ではギルドに提出すると銀貨が貰えたが…ん?その指輪は?」

「――あっ、あははは…フラウさんに貰いました」

「……そう」


その後、靴やしっぽも見てもらうが、真名などの詳しい事はわからなかった。


食事を終えるとカーマインから魔力循環の訓練方法を説明される。


「魔力循環は魔法を習う上で比較的簡単な方だ。体内に宿る自身の魔力は感じるな?…そう。胸の中心辺りに感じる暖かい気配だ。それが身体中を巡るように意識して、魔力操作に慣れるんだ」


言うのは簡単だと思いつつさっそく実践するリース。その様子を見守っていたアリエルが逐一助言を出すが、早々出来る訳もなく、出発の時間になった。


残しておいた果実水の最後の一口を飲み終えたリースが、アリエルに連れられて部屋へ向かうと、テーブルに置かれた木の杯は突然真っ黒になり、灰の様に崩れ落ちる。それを見てカーマインは冷や汗を流した。




リースが部屋へ戻ると、着替え終えたフラウに世話役の女エルフ、ケージランタンには綺麗なワンピースを着たピクシー達がいて、いつでも出られる状態だった。


ケージランタンを背負う際、ピクシー達の腰に巻かれた白い糸に気付く。フラウは負の魔力から身を守る為に与えたと言う。


「その中にいれば大丈夫だろうが、出歩くなら魔族に注意しないとな」

「魔族…」

「私は抗えるけど、キャスはまだ心配なのよ」

「まぞくなんて怖くない!」


生意気言うキャスの頭を小突くリザ。リースは不安を覚えるも首を振って払い除け、ケージランタンの吊り紐を肩に掛けて部屋を出た。




宿屋の正面には村長を始め村人達が集まっていた。


その中には暗い顔して俯くアルトや、顔中腫れ上がらせたマルロ、泣き腫らした目でリースを睨むジニーもいて、リースは思わず目を逸らした。


「あの少年か?近くに…」


馬車の入口からアリエルに声を掛けるフラウ。杖をついてゆっくり歩み出たアルトは、怪我した脚が真っ直ぐ伸ばせないようだ。


「よくリースを守ってくれた。ありがとう。アルト」

「い、いえ。俺は…」


アルトはフラウの前に出ても顔を上げず、地面を見つめている。その頭に手を翳すと暖かな光りが差し、驚くアルトが顔を上げると、目に涙を湛えるリースと目が合った。


「――よし。もう大丈夫」

「…?…あっ!あれ?」


アルトはダラリと下げていた腕を上げ、引き摺っていた脚を徐々に動かす。


「な、治った?治った!」

「良かった…アルト、ごめんなさい」


リースはそれだけ言うと涙が溢れ、フラウを連れて馬車の中へ入る。何か言おうとしたアルトをアリエルが引き止め、馬の手綱を握るカーマインが出発させた。


(ふぅ…疲れた)

「ありがとうございました。お休みしますか?」

(いや。まだ寝ない…私もリースに癒してもらいたいな)


耳飾りを触りながら見つめてくるフラウに、リースも仕方なく念話で返す。


(はぁ…何をすればいいんですか?)


ややぞんざいに言うリースは、また抱きついたり匂いを嗅がれたりするのだろうと気落ちする。


(そのしっぽの効果は確かめた?マジックバックとして以外にも使い道があるはず)

(真名ですか?)

(それを彼女の本で調べてみて)


そう言われて半信半疑で調べてみると、真名らしき言葉が脳裡に浮かぶ。


(あ…これを?)

(さぁ言ってみて)

「…?グ、グレモフコート?わきゃ!?」


突如閃いたしっぽに目を瞑ると、自身の身体を何かが覆っていく。手探りで確かめてみれば、全身をふかふかでサラサラな毛並みに覆われ、頭に小さな三角耳と、おでこにはピンクの豚鼻、お尻のしっぽが左右に揺れる。その姿はいつか見たエルゥスィスの写真と同じ、薄桃色のグレモス姿になっていた。


すると我慢ならないと言わんばかりに、フラウが飛びつき揉みしだき始める。


「キャー!な、何をするんですかぁ!!」

「――!?どうした!リース!?」

「あぁリース!可愛いよ!可愛い♪」


ガッタンガッタン揺れ始めた馬車を、アリエルと村人達が呆然と見送った。

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