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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
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流星の丘

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大きな街と違って街灯などの照明がほとんどない村では、主に月明かりが頼りとなり、松明や蝋燭などは夜間の務めがある者だけが使う。今も不寝番がいる東西の入口には、松明の小さな明かりが遠目に見えていた。


そんな中、足元に注意しながら進む三人。アルトに続いて建物の影から影へ、滑るように移動したリースが小声で問いかける。


「ジニーはいないの?」

「彼女は妹の世話があるから…母子家庭でね。母親はいつも遅くまで仕事をしているよ。あの小屋での石鹸作りは大変だろうに…」


時折アルトは子供らしくない話し方をする。ジニー達は元々南大壁国の出身で、村の北側にあるアルトと祖父が暮らす大きな家に居候していると言った。




村の南西にある資材置き場まで来ると、塀の前に丸太が山積みされた一角があった。


その山の影になっていた塀には、不自然に木の棒が立て掛けてある。アルトが木の棒を丸太の間に差し込むと簡単に傾き、子供がなんとか通れるくらいの隙間ができた。


村を守る塀を壊した事にリースが顔を曇らせると、それを見たアルトは慌てて弁明する。


「あっ壊してないよ?元から立て付けが悪かったんだ」


先に行くマルロはぽっちゃりした体型が引っ掛かり、アルトに後ろから押されると、塀の向こう側へ転がっていく。その後をアルトが続いていくが、木の棒を腰に差した姿にリースは不安を覚えた。


「…ほんとに大丈夫なの?」

「大丈夫。夜は光る花が魔物を払うから安全だよ。それにここからなら流星の丘まで目と鼻の先だからね」

「めとはなのさき?おかしな言葉を使うのね?」

「あ、あはは…―――の言葉だよ」

「…?」

「あっと、自由民国ね」


リースは納得すると同時に、レイジも度々おかしな言葉を使っていたと思い出す。まだ自由民国の名前は聞き取れなかったが、モルトからはいずれ行けばわかると言われ楽しみにしていた。


「流星の丘には逸話があるんだ。摘むと消えてしまう光る花は流れ星が降る夜には硬くなって、そのまま光り続ける花になるんだって」

「こ、今夜は雲がないから。もしかしたら…」

「あっその花が取れるかもしれないのね」


塀に沿って進み、不寝番に気付かれないよう身を低くして淡く光る丘へ向かう。村から少し離れると、遠方に世界を隔てるかのような果ての見えない壁が急に現れたが、今回は落ち着いて見る事が出来た。


(エルゥスィスの本では古代人が建てた防衛拠点だと教えてくれたけど、なにが先にあるかまでは答えてくれなかった。もっと具体的な問いじゃないとだめなのかな?)




村から続く緩やかな登り坂を駆け上がると、なだらかな丘には淡く光る花が一面に咲き乱れ、満天の星が広がっていた。

小さな白い花の特徴は、五つから六つの花弁を持つ星形をしていて、鼻腔がスゥーとする爽やかな香りがした。


「わぁー!綺麗ね!上も下も星の海みたい!」

「いいでしょ?ここに来たなら見ていかないとね♪」

「夏と冬ではまた違うんだよ。ぼくは夏の方が好き。いろんな色があるんだ」


面と向かって話す時のマルロはどもりが酷かったが、光の海を眺めている今は普通に喋れていた。

指折り花の色を答えるマルロを置いて、アルトは屈んで光る花を調べ始める。


「う~ん、ないなぁ…」

「エルフの人が話してたけど滅多に見つからないのでしょ?仕方ないわ」

「昔一つだけ見つけた事があるんだ。石鹸作りの為にお金が必要で売ってしまったけど…記念になればと…う~ん」

「ぼく、あっち見てくるよ」


マルロは丘の先に向かって行ってしまい、アルトも探すのに夢中でそれぞれ離れていく。三人が離れ離れになると急に不安が増してきたリースは、初めて夜中に壁の外へ出た事を自覚する。


辺りは星空と光る花に照らされ明るいものの、虫の鳴く音もなければ、光りの届かぬ闇の先に何が潜むのかもわからない。花の香りはいつしか寒気を覚えるものに変わり、知らず知らずのうちに身震いしていた。


「ね、ねぇ。もういいわ。戻りましょ?」

「も、もうちょい。あっ!あっちの方が明るいな」

「マルロ?どこ?もう戻ってきて」

「あ!上見て!」


その時だいぶ離れた場所にいたマルロが、今日一番の大きな声を出す。二人が見上げると星空に一筋の光が流れた。


「これは…!」


その後もポツリポツリと流れ始めた光りは、初めは遠くで消え、徐々に近くまで達するようになる。雨のように降り注ぐ流れ星を呆然と見上げていると、一筋の光りが頭上を越え、光る花の一つに落ちた。


「…そ、それだー!」

「うそ!?ほんとに!?」

「あ、あわわ…」


三人が一斉に走り寄り、強く明滅する花を見下ろすと、五つの花弁を持つ白い花は内部が透き通って見える結晶に変化しており、キラキラとした輝きを閉じ込めていた。


「本当に流れ星が落ちるとは思わなかった…うん。これは以前見た物と同じ流星花の結晶、――だよ」

「すごく綺麗…星そのものみたい」


隣のマルロは他にないかとキョロキョロしていたが、既に流れ星は止んでいて、辺りは元の静かな丘に戻っていた。


アルトから花を摘むよう勧められたリースは、お礼を言いつつ輝く花の結晶へ両手を添える。すると茎から下がパリパリと砕けて消えた。


その瞬間、頭の中で言葉が浮かび花の名を知る。


「――っ!ス、スターライト?」


リースが驚いていると、摘んだ場所の周囲から花の光が消えていき、あっという間に丘全体が暗くなる。


「――消えたわ!?」

「大丈夫。以前も一時的に消えたけどすぐ光りだしたよ」


しかし丘は暗いままで、アルトはなかなか光り出さない花に焦り始める。うろうろしていたマルロが立ち止まっても草花を踏む足音が途絶えず、不審に思った二人が顔を上げると同時に足音も止み、少し離れた場所から子供が一人こちらを見ていた。


「あ…」

「――!?」


アルトは思わず声が漏れ、リースは息を飲む。

その子供は口を半開きにし、ボーッとしたような顔をしつつも目は爛々と赤く輝き、ダランと下げられた右手には鋭く光るナイフを持っていた。


「逃げて!」

「えっ?ど、どうしたの?」

「ゥゥウ~ギイィィー!!」

「っ!マルロ走れ!」


リースは叫ぶと同時にマルロの手を掴み走り出すが、見た目通りに足の遅い彼をアルトの方へ押しやり振り返った。


ゴブリンは両腕を振り上げ奇声を発すると、ナイフを振り回しながら駆けてくる。マルロを受け止めたアルトだったが、彼のもたつく姿に途中で追いつかれると考え先に行かせると、腰に差していた木の棒を手にリースの横へ並ぶ。


「何してるの!?逃げなさい!」

「君こそ先に逃げなって!俺が時間を稼ぐから!」


ゴブリンが目の前まで迫るとアルトが飛び出していき、慌てたリースはマジックバックから銅の柄と、適当に選んだ石を取り出して嵌める。


「――てぃ!まさか木の棒でデビューするなんて!相手は青いスライムじゃないのかよっと!」


棒を振り回してゴブリンの足を止めたアルト。その後ろでは石から風が吹き出し始めた事に焦ったリースが、ゴブリンへ先端を向ける。


しかし強めの風が顔に吹きつけるだけで、鬱陶しそうにしていたゴブリンはアルトへ迫ると、棒で受けようとしたその腕に切りつけた。


「――あっ!?痛っ!」

「アルト!?」


痺れるような鋭い痛みにアルトは棒を放してしまう。直後に体当たりを受けて倒れると、太股を深く刺されてしまった。


「あぁっ!?」

「ア、アルト!…なんでっ!?」


思い通りにいかない銅の柄を諦めたリースは、蒼い刃のナイフを取り出したが、思いの外重く、狂気に顔を歪ませたゴブリンを前に足が竦む。さらに背後ではマルロが悲鳴を上げ、逃げた先にも二匹のゴブリンが現れた事を知る。


「そんな…まっ待って…!」


奇声を発しながらマルロに迫ったゴブリン達は、急に眉間から角を生やすとパタリと倒れ、さらに何かがリースの横をよぎる。


今まさにアルトの首へナイフを突き立てようとしていたゴブリンは、側頭部に矢が刺さった衝撃で横倒しになる。その拍子にナイフは首の横を浅く切るだけに留まった。


呻くアルトの元へ行こうとするが足元が定まらず、すぐ横に現れたエルトゥスに押し退けらてしまう。周囲にはいつの間にかエルフ達が現れ、背後ではマルロを立たせて村へ向かっていくエルフの姿があった。


「始末を頼む」


エルトゥスは気絶してしまったアルトの止血を手早く終えると抱え上げ、ゴブリンの死体を前に部下へ指示を出すと、足早に村へ引き返していく。暗い顔したリースには何も言わず、エルフの一人に背中を押されて帰路についた。




「いたか!?――リース!」

――バチン!

「っ!」


村では松明を手にした複数の村人が走り回っていた。

反対側の門から駆け寄ってきたカーマインに、出会って早々頬を叩かれたリースは、堰を切った様に涙を流す。


横では気を失ったままのアルトを治療ができる女エルフが見ているが、表情はおもわしくなく、村長は膝から崩れ落ちる。


青い顔したマルロの元にも両親がやってくると、怒鳴りつける父親に殴り倒され周囲の人に止められていた。


「夜に外を出歩くなどお前は何を考えている?獣を一匹や二匹倒したからと言って、良い気になってるのか!?」

「カーマイン、移動しよう。ここではゆっくり話もできないだろう」

「アリエル、先に話がある」


エルトゥスに呼び止められたアリエルは、丘で見た事を聞かされ、血の付いたナイフを手に険しい表情を見せる。その横で嗚咽を我慢していたリースは、カーマインに腕を捕まれると、引き摺られる様にして宿屋へ向かった。




「お前がこんな軽率な子だとは思わなかったぞ。高価な魔道具で身を飾り、気が大きくなったか?魔物を甘く見過ぎだ!」

「…ごめんなさい」

「プッ…プクククッ!」


部屋に放り込まれるとカーマインはすぐに説教を始めたが、ケージランタンの中にいたキャスが口に手を当てて笑う。リースは今までにないほどの怒りを覚えて強く睨むが、カーマインに顎を掴まれ向きを変えられる。


「そのピクシーが騒がなければ気付くのが遅れ、エルトゥス達の助けも間に合わなかっただろう。お前は今夜に限ってはそのピクシーより劣ると思え」

「――!」


キャスを見ると興ざめしたように首を振り、毛布の切れ端で作ったらしい寝袋に潜っていく。


「流星の丘の花を見に行きたかったなら、なぜ私達に言わない?ダメだとは言わないさ。だが危険な塀の外へ行くのだ。戦える大人が同行するのは当然だろう?」

「はい…私が間違っていました。何かあっても自分で何とかできると思って…」

「…リース。お前は子供だ。知恵も力も経験も、覚悟だってない。お前などが魔物を倒せるような優しい世界なら、人はこんな小さな大陸とうの昔に制覇している…ゴブリンに襲われたあの少年の傷は決して浅くはないだろう。年長者だったならどの時点でどう行動するべきだったか、よく考えるのだな…今夜はもう寝ろ。だが明日も話があるからな!」


カーマインが勢いよく扉を閉めると、急に部屋は静かになる。リースは暫く椅子に座ったままで、自身の愚かしさに深く後悔して泣き続けた。


「…バカな子。人ってすぐ調子に乗って無謀な事をする。そして後悔してもまた繰り返すんだわ」


声がする方へ振り向けば、窓枠には光沢のある赤紫色の綺麗なワンピースを着たリザが座っており、色違いのもう一着を大事そうに抱えていた。


最初ピクシー達は露出度の高い革服を着ていたのだが、何処かから新調してきたらしい。


「そう…私がバカだから。死にかけたのよ…私が――」

「あー!あー!やだやだ!泣き言なんて聞きたくないわ!死にかけた?ほんとバカね。そんな綺麗な身なりの死にかけがいるもんですか!あんたはちょっと怖い思いをして泣いてるだけじゃない。その甘ったれた考えが変わらないなら早死にするわね。けど私達を巻き込まないでよね!」


そう言うとケージランタンの中へ入っていき、寝ているキャスに服を掛けると寄り添うように横になる。


再び静かになると最後に見たアルトの姿が思い返され、耐え難くなったリースはフラウのベッドに潜り込んで声を上げて泣き出した。


だがフラウに起きる気配はなく、リースは寂しさや悲しさからすがるように抱きつく。そのうち泣き疲れて深い眠りに落ちていった。

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