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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
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リースの両親

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「リース、あれが塩森だ。貴重な塩の産地となっているが、備えなく立ち入れば生きては帰れない。その奥地は幻獣の領域となっていて、我々エルフが管理している」


馬車の御者席に座るアリエルが、南に見えた真っ白な森を指し示す。


「へぇ…」


眠たげな目をしたリースは雪が降ったかのような白い森を見て、あれが全て塩だと思うと喉が渇き、生唾を飲み込む。ふと視線を感じて前を見れば、カーマインが声を出さずに口の動きだけで注意してくる。


慌てて姿勢を正し何か言おうと頭を悩ませるが、うまく働かない。街の外の世界に疎いリースの為に、カーマインがアリエルに頼んで教えてもらっていたのだ。




再会後、自身の血縁者だと言う女性を紹介されたリース。急な話しに言葉に詰まっていると、疲れた表情を見せるフラウを案じたアリエルの勧めで、エルフ達が用意した仮住まいへ移った。


そこで何があったか説明を求められたリースは、奈落の裂目で過ごした三日間の話をしようとするが、エルゥスィスの戒めの効果なのか、肝心な所は口ごもってしまう。


里の内情やピクシーの話は出来たが、天人サルサユエルの庭園やエルゥスィスに関する事はほとんど話せなかった。だがフラウだけはエルゥスィスの本を手に取るとリースの唇に触れ、その様子から全て知っているのだと理解した。


アリエルやカーマインは、リースの持ち物がどれも魔法の品である事にとても驚いた。赤い蕾の靴やマジックバックのしっぽは、地上においては伝説の品になるらしく、魔法王国の宝物館が一般公開された際に見たことがあると、カーマインは鼻息を荒くしながら語った。


「秘密にしないと…これが知れ渡ったら、無知な者は喜んで飛び降りるぞ」


冗談めかして話すカーマインに少し笑ったリースは、そこに至り言葉少なに挨拶を交わした。




その後グレモスの素材を一つ一つ取り出していく時には、なぜかアリエルやエルフ達がそわそわし始める。銀箱に入った霜降り肉のブロックを取り出すとリースを取り囲み、グレモス退治をベタ褒めした。


それを見ていたフラウが小さく笑い、訳を話す。


「リース、グレモスの肉はエルフも好んで食べる幻の食材なんだ」

「あ、じゃあ皆で食べましょう」

「感謝する!昔は森でも見掛けたんだが、年々数が減ってな。みんな喜ぶ」

「グレモスの霜降り肉…あぁ、何年ぶりだろうか?ダイスグレモス…」

「エルトゥス、みっともないわ。エルフが欲深に思われるっジュル…」


エルフ達は喜んでいたが、リースは体験談を伝えられず悶々とした気持ちを抱く。するとフラウは以前渡しそびれていた魔法の外套を取り出してリースの肩に掛けた。


「それはリースのだ。渡すのが遅れてすまない」

「ありがとうございます!大切にします」


ベッドへ上体を倒して一息ついたフラウは瞼を閉じると寝てしまったようで、世話役を残してアリエル達は隣の部屋へ移る。


部屋を出る際、覗いた鳥籠風ランタンには、裂目に落ちた原因を聞いたアリエルに怒鳴られて以来、ビクビクしていたピクシー達がいたが、フラウの許しを受けた今はだいぶ寛いでいる。


「面倒なんて見てもらわなくても結構よ。私達は私達だけでやっていけるんだから」

「そうだそうだ~」


リザがつまらなそうに言い放ち、キャスは格子に手を掛けガタガタ揺すりながら言う。


(このっ!羽虫どもめ~!やっぱりアリエルさんに渡してしまおうか…)


近くにあった布を被せてやると、ピーピーと鳴いて騒いだ。




部屋を出ると外が騒がしい事に気付く。窓から覗けば田畑は輝き昼の様に明るい。そこではモースを捕まえようと駆け回っている者達がいた。


「モースもグレモス程ではないが美味しい。だがモース祭のモースは捕まらない事を知らない愚か者が毎年いる」


そう言って夕食を買い出しに出掛けていくアリエル。後にはカーマインと緊張した面持ちのリースだけとなった。


「そんなに固くならなくていい。改めて…私はカーマイン。君とは異母姉妹になる」

「は、はじめまして…リースです」

「君は…自身の出自を聞いているか?」


リースはモルトから聞いた話をすると、カーマインは目を閉じて何度か頷き、両親の話を聞きたいか問う。


「…聞きたいです。母は私が六歳の時流行り病で亡くなったそうです。父ダンテが殺された際の影響で、以前の記憶があまりないんです」

「そうか…わかった。では今から話すが、もし聞きたくなければ言ってくれ」




カーマインは今から二十年以上前の、魔法王国と帝国の戦争の話から始めた。


当時は魔法王国から魔の森までの一帯には小国が乱立し、ほぼ毎日戦争に明け暮れていた。


帝国は大陸中央に誕生した小国で、大陸統一を目指しどんどん小国を侵略していき、魔法王国に隣接する双子国まで迫っていた。


魔法王国と双子国が同盟国となり、魔法王国からはリースの父親コルゴン含む魔導師隊が参戦して、飛竜山脈を南に擁する双子国からは竜騎士が参戦した。


戦争は同盟国側の大勝で、コルゴンは夜天の大火と呼ばれる高名な大魔導師に出世する。魔導師は士爵位、大魔導師は伯爵位に相等し、貴族入りしたコルゴンはカーマインの母、侯爵令嬢のカーラと早々に結婚した。


当時から魔法王国は魔法才能がそのまま地位に反映する位、魔法を重要視しており、コルゴンとその子供には期待が集まっていた。


翌年にはカーマインが産まれ、全てが順調だった。

さらに翌年、コルゴンは度々行方がわからなくなり始め、女遊びの噂が囁かれるようになると、侯爵家からの小言も合わさり、母親は精神的に弱り病気がちになる。

彼女は心配していたが、六歳になって魔法学園へ向かう時には、両親に笑顔で送り出される。

連休には無理してでも帰り、両親の様子を窺っていたが、九歳の誕生日に届いた知らせは、母の死と父がメイドの一人と失踪した内容だった。


彼女は悲しみよりも怒り狂い、学園を飛び出そうとするも、母方の侯爵家の者に学園へ軟禁される。

十五になり創作魔法さえ覚えた彼女は、侯爵家から魔導師課程へ上がるよう知らせが来るが、逃げ出して噂を便りに魔法王国に向かう。


だが国境で母カーラの側仕えにして、リースの母ユリスを見たという商人の話を聞く。

彼女はコルゴンに連れられ、魔法学園都市近郊に来ていたという。

まさか二人がすぐ近くに来ていたとは思わなかったカーマインは、さらに怒り憎しみを抱く。

そこでリースを産み、一年は仲睦まじく生活していたそうだ。

だがある日を境にコルゴンは帰らず、ユリスは何の後ろ楯もなく、女手一つで育てなくてはならなくなり、途方にくれ、まだ幼いリースを連れ死を望んだ。

そこに顔見知りだった行商のダンテが助けに入り、一命を取り留め、二人は共に行商に出たという。




「リース、私達にはあと一人、身元のわかっている兄妹がいる、赤い水晶のペンダントを人伝に渡されなかったか?」

「――!はい、あります…?」


リースがマジックバックのしっぽから取り出した赤い水晶の鳥、フェニックスのペンダントを渡そうとするが、カーマインは受け取らない。


「それは…コルゴンがグレンという、君にとって異母兄妹に当たる男の母へ送った物らしい」


カーマインはペンダントの形状が自身の使う創作魔法と同じ、不死鳥である事に嫌悪していた。だがグレンにとっては母の形見であり、壊したくても壊せず、憎しみだけが増している。


「グレン…院長先生が最初に引き取った方ですね」

「そうだ。ダンテというリースの義理父が殺された日に、燃え落ちる建物から君を救い出したのも彼だそうだ」

「――え!?そうなんですか…ずっとわからなかったんです。私は助け出された後すぐ自警団の人に預けられて、誰も名乗り出なかったそうです」

「機会があれば礼を言うといい…リース、私は始めユリスを憎んでいたが、事情を知り間違いだとわかった。母を捨て多数の女性を不幸にしたコルゴンを…私は許さない」

「――っ!」


無表情のカーマインから発せられるのは殺気だった。


リースには可哀想、酷い話だと思う気持ちはあったが、憎しみまではなかった。ダンテの死に一度壊れた心や無くしてしまった記憶が、他人事に感じさせていたのだ。


そこへエルフ達が戻った音が聞こえて、カーマインは最後に、魔法王国へ一緒に来ないかとリースを誘うも断られる。


「ごめんなさい…私のせいでフラウさんが危ない状態になってしまったんです。私が世界樹まで連れていかないと」

「世界樹?…よし。私もついていこう」

「――え!?」


アリエル達がやって来て夕食を並べていくと、カーマインは話は終わりだと離れていく。リースは今聞いた事について深く考え様とするが、やはり記憶にない父親の事など他人事に思えて、とりあえずフラウの事に集中しようと決めた。




塩森を右手に街道を東へ進む馬車には、アリエルとカーマインが御者席に座り、中には眠るフラウとリース、ランタンにピクシー達がいた。


ピクシーのリザは時折何処からか色々取って来ているようで、その度にランタンの中身は増えて重くなっている。


(持つのは私なんだからやめてほしいな…)


リースが眺めていると、何かの切れ端を底面に敷いていたリザがプイッと顔を反らし、赤い果実を食べていたキャスがリースに向けて種を飛ばして笑う。


(…捨てる時はまとめて捨ててやる)


里を出てからは地理を知らないリースとカーマインに、アリエルが先生役となって説明しながら進んでいる。


「北に見えるのが黒森だ。あそこには強力な魔物が現れるから近づくな。木々は黒く森の恵みも少ない。我々も浅い場所を見て回るだけにしている」

(どこかで…見たような気も?)


南の真っ白な森に対して北には真っ黒な森があり、とても印象的な光景だったが、霞みがかかったように思い出せない。


「もう少し進むと正面に流星の丘が見えてくる。夜の丘には光る星形の花が咲き、魔物を遠ざける力がある。稀にその花は石のように固まり、光の魔力を宿す高価な装飾品になるが本当に稀な事だ」

「石のように…硬質化しなくても魔除けに使えるなら価値は高いな」

「残念だが丘から摘み上げると瞬く間に光は消えるようだ。おそらく丘自体に膨大な光の魔力が宿っているのだろう」


リースは視界の片隅に現れたある物を見て記憶が鮮明になり、身体が震える。


「――リース?どうした?リース!?」

「どうしたのだ!?」

「あ…あれ…」


震えるリースが指差したのは、南側の塩森の終わりに、突然現れた壁だ。

とてつもなく巨大な灰色の壁は、空を貫き果ては見えない。

遥か東まで続く壁はとても人の成せる物には思えず、まるで自分が小人になったような気分になる。


(あれは!?思い出したわ!ここは戦場!黒い森からたくさんの魔物が!灰色の壁から光の雨が降り注いで、大きな騎士と魔獣が私を!!)

「―――ース!!しっかりしろ!?リース?」

「あ…あ、あれ?私…何を?」


いつの間にか一行は停止していて、アリエルとカーマインがびっくりした顔で覗き込んできている。


「だ、大丈夫か?…休憩にする!各自予定通りに!」


アリエルが指示を出すとエルフ達は速やかに周囲に散り、等間隔で距離をとると、地形を利用し隠れ休憩に入る。

リースは自身の事で歩みを止めてしまった事に謝るが、カーマイン達はそれよりもリースが指差す為に前に出した手を掴み、念入りに調べ始める。


「異常はないな…リースどこか痛い所はないか?」

「え?…大丈夫ですよ?」

「…お前は今自身に何が起きたか覚えているのか?」


アリエルの問いに首を振ると、カーマイン達は顔を見合わせ、ゆっくりと教えてくる。


「リース…落ち着いているか?いいか?…さっき君の手が…突然火に包まれたんだ――だがすぐ消えた!大丈夫だ!」

「―――!?」


カーマインが起きた事を伝えると、びっくりしたリースは弾かれたように自身の手を擦り合わせる。その姿は火を消そうとしているようだ。


すぐに手を取り落ち着かせようとするが、再び震え出したリースは目を見開き泣き出してしまう。すると、急に力が抜け落ち倒れるリースを支えるカーマイン。隣ではアリエルが風の精霊を呼び出しており、心配そうに見ている。


「あぁ…助かった。ありがとう」

「彼女はどうしたのだ?」

「…昔、義理の父親が目の前で殺され、焼き殺されるのを見たらしい。火に強い恐怖心があるようだ…だがそれ以前に火を生み出したのがなんなのか…」

「ここには火の精霊はいない。無詠唱か?彼女は魔法を使えるのか?」

「いや…使えないはずだ。それに…」


リースをフラウの横に寝かせると、しばらく様子を窺う二人。

足元にあるランタンの中ではリザが怪訝そうな顔をしており、キャスはいつもと違い、静かにリースを見つめていた。

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