孤児院到着
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「あ!ルーティさん。リースちゃん。無事だったんだね!良かったぁ~」
孤児院前を彷徨いていた青年は年齢が十代後半の、濃紺色のローブに眼鏡を掛けたまさに魔法使い然とした男で、暗闇の中でも目立つ金髪に金色の瞳をしている。月が出ていない星明かりだけの中、見通しが悪いにも関わらず、こちらに気付いて近寄ってきた。
「アレク、悪いけど今度話すから」
と、ルーティは立ち止まる事なく横を通り過ぎ、リースは小さく「ごめんなさい」と伝えて、腕を引かれていく。フラウは一瞬アレクに興味を示したが手を繋いでいた為離れていった。
「わ、わかりました。おやすみなさい。ルーティさん、リースちゃん…?」
「おやすみ」
「おやすみなさい、アレクさん」
取り残されて少し肩を落としたアレクは、ふと横に黒髪の男がいる事に気付く。
「あ、どうも」
「?あぁ…こんばんは?」
それ以上話が続かず気まずい空気が流れる。するとそろ~と孤児院に入っていくレイジ。
「!…あの男も?ルーティさんの知り合い?…気になるけど、招かれてないのに入れないよなぁ」
アレクは魔法王国の田舎に領地を持つ下級貴族の出だ。生まれと教育の良さで礼儀を知り、性格的なものも合わさり、なかなかの奥手で知人達からはよくからかわれている。
眼鏡の水晶体が淡く光り明滅すると、アレクは眼鏡にそっと手を添え小さな声で何事かを呟く。すると光りが保たれた後消える。そのまま孤児院に背を向け、確かな足取りで闇の中に歩き出していった。
孤児院の小さな庭を越えて玄関前で立ち止まる。ルーティが扉の上を手で探ると、カチッという音が鳴り扉が開いた。
L字型の一部二階建てになる孤児院は意外と広く、玄関から少し入ったところで左右に扉があり、左奥に二階へ続く階段があった。
右奥からはうっすらと明かりが漏れ、複数の微かな声が漏れている。
「ロサナ?リースを連れてきたわ!」
「院長先生は?」
リースが恐る恐る聞くと、ルーティは腕を組み、庭先でもたもたしているレイジを眺めながら答える。
「モルトさんなら東門にいったわ。私が北門から出て周辺を探す手筈になっていたのよ」
「えっ!?じゃあ外にいるの?」
「たぶんね。一通り探して見つけたら北門か、東門の守衛所で朝まで待つ事になってたから…大丈夫よ。モルトさんは元ミスリルランクの冒険者。お年でもここらの獣相手に不覚をとるような人ではないわ…早くして」
院長先生ことモルトが門の外にいると聞き、ショックを受けるリース。玄関で足元を見たきりなかなか入らないレイジを急かし扉を閉めると、上部にある何らかの仕掛けを入れた。
「ルーティ?リースちゃん帰ったの!?」
「大丈夫よ。こっちの2人が一緒にいて助けてくれたみたい」
「ロサナさん…」
「リースちゃん!」
ロサナと呼ばれた二十代の女性がリースに走りより、キツく抱きしめた。
後からはリースと同年代位の男の子と、五~六歳の少女が現れる。
「心配したのよ!どうして街から出たの!?」
「ロサナ、まずは着替えさせてあげて…なんだか綺麗になってるみたいだけど、破れてたりするから。フラウ達はこっち来て」
「わかったわ。行きましょう」
ロサナがリースを連れて二階へ向かうと、男の子は待ちきれないとばかりに聞いてくる。
「ルーティ姉!リースのやつどこにいたの!?」
「カリム。あんたリオとマールはどうしたの?」
「部屋にいるよ、ご飯も食べた」
「ならあんたも行きな」
「なんだよっ教えてくれてもいいじゃん!」
「うっさい!モルトさんに部屋抜け出してたって言うよ!アニィもおいで」
リオは十歳の男の子で、マールは十二になる女の子だ。どちらも聞き分けの良い大人しい子で、リースやカリム、アニィを入れて、この孤児院にいる五人の子供達だ。
奥の部屋へ進み小さな燭台の明かり見えてくる。六人掛けの食卓にフラウとレイジを座らせると、ルーティはカリムと呼ばれた少年と、アニィという少女を連れて二階へ上がっていった。
「…」
「…あ、あー孤児院ってこんななんだ?」
「知らない」
「フラウ…さんて家族は?」
「知らない」
「あ、そう…」
レイジは早々にコミュニケーションを諦めた。
二階からは物音や話し声が聞こえる。
フラウは考える、自身のこと、リースとの出会いを。




