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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
70/169

禁忌魔剣と黒髪の男

69


「…使徒の仕事を手伝えることは名誉なことなのよ!それなのに特定の組織の飼い犬になるなんて!」

「まぁまぁ。今は魔剣回収に集中しましょう」


迷宮入口での一件からヴィヴィは機嫌が悪く、困った顔をしたフィーリアに宥められている。その後ろを暗い顔したレイジが静かに付いていく。


黒髪の男の目撃情報があった西側へ向かう途中、レッドキャップが数匹現れたが、シフォンが盾を使うまでもなく警棒で叩き伏せ、金属の補強材が仕込まれたブーツで首を踏み砕いた。


「すごいにゃ〜。誰かさんより良い動きしてるにゃ」

「うぐっ…」


シャケは見てるだけで戦闘には加わらず、シフォンの活躍に拍手を送る。さらに進むと道幅は広がり、大型のダイアウルフが三匹駆けてきた。


左右にステップを踏みながらシフォンの目の前へ躍り出た一匹は、廃屋の壁を蹴って飛び掛かる。それを盾で受け止めて押し返すと、浮いた上体へ警棒を突き入れて電撃を放った。


大きな魔槍を軽々と振るうシャケも、危な気もなく恐狼の喉を貫き、吹き荒れる風が首を爆ぜさせる。


「…あなたもさっきのとぅんふぁ?っていうの使ってみなさいよ」

「そうだな…よし!」


トンファーに鉄球を装填し勢いよく回転させる。シューという音と共に回転が止まると、遅れてやって来た恐狼目掛けて撃ち出した。


鉄球はそれなりの速度で発射されたが、難なく回避した恐狼はレイジに向かって跳躍する。それに対して盾を構えたシフォンが体当たりをして防ぐと、反対側にいたシャケの魔槍を首に受けて倒れた。


「…だめじゃない!まだスリングの方がいいわ」

「オレに言われても…」


失望するヴィヴィから視線を下げるレイジ。一行は廃屋に挟まれた通路を進むが敵は現れず、しばらく荒れ果てた街を黙々と歩き回った。


「――ぉぉおおおーーー!!」


唐突に遠くから大音量の雄叫びが上がり、何かが走ってくる。


「――!なんだ?階層の守護者ってやつか?」

「表層はガーゴイルのはずですが…」

「ひどい臭いにゃ!」


鼻を抑えたシャケが魔槍で指し示した先からは、巨体を左右に揺すりながら走る毒々しい色をしたオークが現れた。


「…変異種よ。焼き払うわ」


ヴィヴィが長大な炎の槍を頭上に作り出していると、オークは急に嘔吐き始め、赤紫色した不定形生物を数匹吐き出す。それらが地を滑るように迫ると、後にはグスグスに溶けて泡立つ地面が顕になった。


「――気色悪っ!見るからに毒持ってるだろ!」

「下がってください!あれに触れてはだめです!」


フィーリアが風の刃を放つが、分断されてもスライムのように繋がる。続いてヴィヴィの炎の槍が投擲されたが、スライムを飛び越えていき、再び吐き出そうとしていたオークの顔面を激しく焼いた。


オークは数歩後退した後、倒れて動かなくなる。赤紫スライムはシフォンが構えた盾に衝突して弾け飛び、周囲のゴミや地面を汚してジュクジュクと音を立てながら煙を上げた。


「…全員下がって!」


ギンカがシフォンを後ろから引き寄せると、ヴィヴィの炎の大蛇が嘗めるようにスライムを焼き払い、オークを包み込む。でっぷりした腹が弾けて赤紫色の粘液を撒き散らすと、何も残さず消えていく。


「うわ!盾が溶けてる!」

「聖水を使ってください」


シフォンの盾は溶けかけており、聖水を使って汚れを洗い流した。レイジは身体にも毒液が付いていないか丁寧に調べる。


(――よし。どこにもかかってないな。それにしても綺麗だなぁ。整い過ぎた顔が逆に作り物だと気付かせるけど…)


「いやらしいにゃ~。レイジがシフォンの身体を撫でまわしてるにゃ~」

「なっ!?何言ってんだ!毒が付いてたら大変だろ!?」

「レイジさんも大人です…ですが相手の意思を尊重し、時と場所を――」

「違うっての!」


レイジ達が騒いでいる隣では、ヴィヴィが白い石板を取り出して辺りを確認している。ギンカはぷるぷる震えながらボーッとしていて、時折遠くから聞こえる叫び声や近くの足音に反応していた。


「…そろそろ行くわよ。この通りをまっすぐ進むと、レイジ達が通った地下要塞への入口に出るわ。けど気になる場所があるから次の分岐を曲がりましょ」


ヴィヴィの言う分岐点まで進んでみると、そこは倉庫を通り抜けて進むようで、中は暗く、古い木箱が山のように積み上げられていた。


木箱の一つをシャケが魔槍で突くと、中からは無数の赤紫色の蛆が溢れだし、レイジ達は悲鳴を上げて飛び退く。


(うっわ〜吐きそうだよ…これも慣れて来るのか?)

「…ここは進みたくないわ。もう一つ先でも曲がれるみたいだから行きましょ」


しかしギンカは木箱に挟まれた通路に進みたいのか、レイジの腕を引いて進もうとする。


「や、やめ…ん?」


少し入った先に真新しい金属の箱が一つあり、近くには焚き火の跡と死霊化したオークがいた。


「…もぅ…ここでは火を使えないわよ。聖水を使ってあなた達で倒してらっしゃい」

「わ、わかったって」


ギンカに引かれてレイジが中に入ると、シフォンが続く。脚のないオークが地を這って来るが、レイジが聖水を投げつけて灰にする。すると向かいの出入り口からアウルベアが飛び込んできた。


「やばい!こんな狭い場所に無理――うぉおおおー!?」


木箱を崩しながら進むアウルベアは、無数の蛆を被り、おぞましい姿となってシフォンの盾に体当たりをする。


「ギンカは箱取ってこい!シフォン押し返せ!――ギャー!!」


適当に投げた聖水が蛆を退かせると、露になったアウルベアには目玉がなく、皮膚が剥がれ落ちた凄惨な姿となって暴れる。


「…何?何かいた?」

「来るな!撤退!撤退ー!!」


背後でヴィヴィの声がしたが悠長に答えている暇はなく、ギンカが金属の箱を運んで来ると、迫るアウルベアに至近距離から鉄球を撃ち込む。


鉄球は脆くなっていたアウルベアの頭を貫通したが、勢いは衰えず、胸を殴り付けて突き放した。


「ぐぅ!?いてぇ!聖水くれ!」


殴り付けた際、腕に赤紫色の蛆が付着して焼けるような痛みを覚える。シフォンを後ろから抱きかかえて倉庫から飛びだすと、炎がアウルベアと蛆を焼き払い、倉庫が軋んで倒壊した。


シャケに聖水を頭から掛けてもらうと徐々に痛みが引いていく。腕を見ても火傷のような跡はなかったが、黒革服の袖が焼けたようになくなっていた。


「あ!シフォンの腕が!?」

「――!?あちゃー!これ直るのか?」


盾を構えていたシフォンも、自動人形本来の装甲は無傷だったが、肘から先の袖と皮膚がなくなっていた。


「…さっきの変異種と同じかしら?かなり強力な腐敗毒ね」

「キッカさんなら直してくれますよ」


レイジはウエストポーチから白い包帯を出すと、シフォンの両手に巻き付けていく。


「優しいですね。レイジさん」

「あ、あれだよ?迷宮から出た時に自動人形だってバレちゃうからな」


燃え上がる倉庫から少し離れた場所では、ギンカとシャケが金属の箱をガタガタと揺すっていて、蓋が開くと中には黒い腕が転がっていた。


肩から指先まで真っ黒で、よく見ると僅かに震えていて生きているかのようだ。


「…あっ!待ちなさい!私が見てからよ」

「気持ち悪いからいらないにゃ…」

「箱は…銀でしょうか?」


ヴィヴィは直接触るのが嫌なのか箱をひっくり返し、腕が転げ出すとレイジの影に入るなり、穴に落ちるかのようにストンと消えてしまう。


「…あ」

「ぅおい!?何してくれ…てん…だ?」

「影の中に落ちたように見えましたが…どうかしましたか?」


レイジは急に左肩に違和感を覚えて軽く腕を回すと、シャケが驚いた顔をして影を指差した。


「レイジの影の腕が動かないにゃ!?」

「…影の外套と同じよ!…たぶん」


レイジの疑わしげな視線から逃れるように、ヴィヴィは焼け落ちた倉庫を見る。倉庫は下から徐々に直り始めていて、迷宮の一部である事がわかった。


「倉庫が直っていきますね。中にあった木箱は…なくなったままです」

「後ろから敵が来てるにゃ!」

「…今のうちに進みましょ。ここを通ると広場があるはず」


影が気になるレイジをギンカが引っ張って連れていき、シフォンとシャケを先頭に半分近くまで直った倉庫を通り抜ける。


倉庫の反対側に出ると建物に囲まれた場所らしく、表と違いゴミが散乱していたり血痕があったりせず、迷宮化する前の状態が保たれているようだった。


「ここは?安全地帯とか?」

「…一見大丈夫そうな場所ほど危険よ」

「あれ見るにゃ!」


向かいの建物の二階には明かりがあり、そのまま一階の入口へと視線を下ろすと、二人の探索者が倒れていた。


「…二階に反応が一つ。魔剣の男かもしれない」

「なんだこの匂い?」


明かりのついた建物に向かう途中、隣の倉庫からの異臭に振り返ると、様々な魔物が解体されて吊るしてあった。


「こいつは…間違いないな」

「こっちも食われてるにゃ」


シャケが二人の探索者を確認するが既に息絶えていて、食われた跡があった。


その時、二階の朽ちた窓から何かが飛び出してくる気配を感じ、レイジが咄嗟に頭を守ると、金属同士が激しくぶつかり合う音を立てる。


「っ!…やっと会えたな。来るのが遅くなって悪い」

「うひひひ、うひゃひゃひゃ!」


黒髪の男は全身ぼろぼろで、探索者から奪ったであろう服をだらしなく着ている。禍々しい剣を右手に持ち、左手にはかじった跡のある誰かの腕を持っていた。


「言葉も忘れちまったか…」

「残念ですが、完全に転化しています」

「…もう助からないわ。楽にしてあげなさい」


顔は醜く歪み日本人の面影もなく異様な笑い声を上げ続けている。そんな男にレイジはあるものを見つけた。


(――!…そうか。それを取り返したかったのか)


男の胸ポケットからは割れた液晶画面が覗いていて、イヤホンを耳に当てていた。


「こいつはオレにやらせてくれ」

「…わかった。私達は周りの雑魚を相手するわ」


ヴィヴィの言葉にチラリと辺りを窺うと、周囲の建物からはリザードマンやオークがわらわらと現れていた。


(どうなってんだ?罠?…いや今はこいつを成仏させる事を考えろ!)


右手に弱者の剣を持ち、左手にはトンファーを構える。剣は光を帯びておらず、ヴォルフの姿をイメージしても変化はなかった。


(夜だけなのか?…いや、教わらなくてもやれるさ!)


同郷の男を救う為、レイジは禁忌魔剣に挑む。

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