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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
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自動人形到着

68


大樹迷宮前にある冒険者ギルド支部。その静まり返った一室で、レイジは寝苦しさから目が覚めた。


身体の上には馬乗りになったギンカがいて、ひんやりした手で顔を撫で回してくる。


「うひゃひゃ!ってなにやってんだ!?」


それを払い退けるとスルリと滑り降りていき、銀色の手を差し出す。朝日が差し込む窓の外では、一の鐘が鳴り響いていた。


「…あぁ銀か。隣の部屋に破片があったろ?」


頷いたギンカが足音もなく出ていった後、赤ジャージから黒い革服に着替えて部屋を出た。


(カンパニーのおかげで現代的な設備が揃ったな。まぁ電気じゃなくて魔道具だけど)


ギルド支部は個室以外カンパニーと共用になっている。事務室と作業場の間には居住空間があり、中央にテーブルと椅子、作業場側に小さめのキッチンと木製冷蔵庫、調理器具があった。


奥の作業場に続く廊下には洗面所にトイレ、シャワー室まであり、全てカンパニーから届いた魔道具が使われている。


洗面台に据付けられた魔道具から水を出して顔を洗い、鏡で身だしなみを整えるレイジ。すると顔から銀色パイプを生やしたメーリンが現れて驚く。


「うぉい!いちいち脅かすなよ!」


注意されたギンカは銀色ヴェールに銀色ローブのいつもの姿に戻ると、笑っているかのように身体を震わせる。


(なんて人間臭いスライムなんだ…オレも腹減ったな)


業務用並みに大きい木製冷蔵庫の中を覗けば、分厚い金属板が張り巡らされた内側は狭く、何も入っていなかった。


(そっか。これからは自分で用意しなきゃな)




席に着いてボーっとしているギンカを見ながら待っていると、ギルド正面の両開き扉の鍵が開く音がする。少しして事務室から顔を覗かせたナッシュと挨拶を交わし、レイジは裏口から外へ出た。


大樹迷宮前広場の露店で、探索者達に混じって買い食いしていると、東の外郭門前に集まった人の多さに驚く。


「なんだあれ?」

「…フラウとリースを護衛するエルフ達がいるのよ」


いつの間にか隣にはヴィヴィがいて、杖で指し示した門の外には、若草色のエルフ服に深緑色の外套を纏い、弓や細剣で武装したエルフ達が整列していた。


その珍しさに人が集まり、朝一の輸送馬車が立ち往生していたが、事前に伝えられていた衛士の対応は落ち着いていた。


「…あなたには悪いけど、二人はもう孤児院前で乗せたわ。この人混みでさらに悪化するといけないから」

「そうか…」


綺麗な花の装飾が施された馬車が外郭門を通過し、エルフ達に囲まれて離れて行く。その後を赤髪の女性がついて行った。


(ん?あの人どっかで…?)

「…なに?寂しいの?ふふっ」

「さ、寂しくねぇよ!?」


からかわれつつ見えなくなるまで見送った後、ヴィヴィからルーティ達がまだ孤児院にいる事を教えられる。ナッシュに一言断ってから走って向かい、見送りに間に合わせた。


「フラウ達よりは早く戻れると思う。霧の日は孤児院の事も気に掛けてあげてね」

「おう!任せろ!アレクも気を付けてな」

「君も無茶しないようにね」


初めての遠出にリオは緊張しているのか硬い表情をしている。泣き腫らしたような赤い目をしたマールから花の栞を貰うと幾分か表情が和らぎ、大事そうに鞄にしまっていた。


ロデウスが出発を伝えると、マールはリオが見えなくなるまで手を振り続けた。




ギルド支部に戻ると既に探索者の姿があった。その対応をしているメーリン達へ、片手を上げて挨拶を済ませる。事務室の裏へ回れば、探索者の姿を模して戯けるギンカと、それを見て笑うシャケとフィーリア、ヴィヴィがいた。


「怖かったにゃ~!真っ暗な中、黒い矢が飛び交ってて、火を吐く魔獣まで出てきて大変だったにゃ!」

「自警団が奮戦していましたがガーゴイルには対応できず、高ランク冒険者が現れるまで被害が広がってしまったようです」

「…しばらくすれば霧が晴れて魔物も引き下がるようね。これからは霧が発生したら鐘が鳴るから注意なさい」


レイジは受付を見ながら昨夜の出来事について聞いていたが、迷宮帰りのエルフは一人も現れず、人種の探索者や外回りの依頼を終えた冒険者が数人来ただけで、メーリン達は暇そうにしていた。




三の鐘が鳴る頃、早く迷宮へ行きたいレイジは焦りつつも約束の相手を待っていた。


大型の馬車が裏手に止まるとレイジを呼ぶ声がする。馬車の側面にはカンパニーの印である単眼ゴーレムの印があり、御者席からキッカが降りてきた。


「おまたせ…来て」


キッカがそう言うと馬車後部からは、艶やかな長い黒髪をポニーテールにして、本格的なメイド服を着た女性が現れる。その顔立ちはなぜか日本人風で、レイジと同年代に見えた。


「…女?」


切れ長の目をしたクールな感じの自動人形は何も言わず、レイジの前まで来ると頭を下げて完璧な礼を執る。


「彼女があなたから預かっていた自動人形…シフォンよ」


予想外の見た目に居合わせた全員が驚き、幾人かはレイジを睨んだ。


(なぜ睨む。これはオレの要望じゃない…けど…けどめっちゃ好みなんですけど!)


この世界に来て二度目となるアジア風女性との出逢いに、相手が自動人形ということも忘れて鼓動が早くなる。


「…とりあえず作業場に案内してくれる?」


しばらくシフォンと見つめ合っていたレイジは、その冷めた声に慌てて作業場へ案内する。シャケは見慣れない金属の塊や、材質不明の機械のようなものに興味津々で、ヴィヴィ達と一緒になって弄り回していた。


「素の状態では目立つから、テルルの指示であなたと同じ黒目黒髪にしておいた」

「そ、そう…自動人形て性別が決まってるのか?」

「詳しくは知らないけど、古代人は自動人形を全て女として定めていた。テルルが言うには彼らが崇めていたのが女神だかららしい」


シフォンという名前は型名らしく、研究熱心だった古代の人々の生活面を支えた支援型自動人形で、パーツが揃えば会話も可能だという。


「部屋は4つある。男女別にするなら冒険者ギルド側の部屋を使ってくれ」

「別にいい。それより少し話がしたい」

「ん?…わかった」


ヴィヴィ達はシフォンが気になるのか作業場に残り、キッカに続いて空き部屋に入ると、ある物を見せられた。


「これがなにかわかる?」

「っ!?あ、あぁ…銃だろ?…ま、まさか?」

「そう…私は転生した。あなたと同じ世界からかはわからないけど」


突然の告白に驚愕するレイジ。キッカが手にした黒い拳銃は映画やドラマでよく見るもので、彼女は唐突にレイジに向けて引き金を引く。


「――あっぶね!?やめろよ!」

「大丈夫。なぜか知らないけど、この世界では特定の形状や仕組みの銃が機能しない。さらに硝石が滅多に産出されないから火薬が用意出来ないの」

「え?自由民国にはあるだろ?前にかんしゃく玉みたいなの使ったぞ?」


キッカは首を振り、レイジが使ったのは錬金術により作られた炸裂の魔力粉と言うもので、ヤマトでは大変高価な物で新年のお祝いに鳴らすものだと教わる。


「私は16の時に死んだ。私のいた世界は人を喰らう化け物で溢れかえっていて、人類は絶滅しかかっていた。幼い頃から武器の製造に携わっていたから得意で、その繋がりでテルルと出逢った」

「人を食う化け物!?」


聞いた限りほとんど同じ世界のようだったが、一日の大半が夜であったり両性の人間が多数を占める等、レイジの知らない事が多々あり、別の世界がある事を知る。


(パラレルワールドってやつなのか?銃は…材料が揃っても使えないのか)

「テルルに言われて試作品の魔道具を持ってきた。宣伝も兼ねて使えって」

「お!?いいのか?ありがてぇ」


お互いのことは追々話す事にして、魔道具の扱いを教わりに戻る。ヴィヴィはシフォンから古代の情報を引き出せないかあれこれ質問していたが、キッカは記憶媒体が破損していて無理だと伝えた。


「…残念。彼女も迷宮へ連れていくの?」

「彼女も戦える。人より遥かに能力が高いから盾と武器を用意した」


キッカは重厚な作りの大きな箱から透明な長方形の盾を取り出し、布に包まれた黒い棒を見せる。


「おっ!?これって――」

「似たような物を作ってみた。警棒は電気が発生する魔道具を内臓している」


盾と警棒は警察が使っている物と同じで、透明な盾は身体全体を隠しつつ、相手を視認できた。

シフォンはそれらを軽々と振り回し問題ないことを示したが、メイド服なだけにしまらない。


「なんでメイド服なの?防具は?」

「テルルの指示。下手な防具より彼女の装甲の方が遥かに硬い…と言うのは建前。あなたに如何わしい事をさせて弱みを握る為だと言っていた」

「おいっ!ぶっちゃけたな…しねぇよそんなこと…ハッ!?」


シフォンがスカートの裾を摘まみお辞儀する。黒いストッキングに包まれた脚が見え、唾を飲み込むレイジ。ふと背後からフィーリア達の視線を感じて視線を逸らす。


「あなたにはこれ」


キッカから黒いトンファーの様な物を渡される。


「これ?…普通のトンファーか?」

「柄を握って回してみて」


柄を軽く握りクルクル回すとシューと言う音と共に、持ち手の端に金属の丸い突起が出てくる。盾を構えたシフォンに向けて突起を押すよう言われた。


突起を押し込むと先端から圧縮された空気が抜け、金属の玉が透明な盾に当たり大きな音を立てた。


「――!空気銃か!?」

「まだ試作品。圧縮の魔道具は数がないから注意して」


金属の小さな玉を柄の端から装填する単発式で、反対側には金属杭が飛び出す仕組みが内蔵されていた。


「…準備できたなら迷宮へ向かいましょ。そろそろ四の鐘。昨日と同じ流れで西側を探索するのよ」


メーリンに出掛ける事を伝えた後、冒険者ギルド本部に向かう。




ギルドの中は慌ただしく、噂話をする者達で混んでいた。


「昨日の騒動で富裕層にも被害が出たってよ。朝から有力者達が市長の元へ押し掛けていたぜ」

「内壁をより高く丈夫にするらしいけど、ガーゴイルは防げないわね」

「五区の方は一部壁が崩れて濃霧が広がってるって話だ。侵略してくる攻撃的な迷宮だってよ」


噂話を聞いていると何人かはレイジの方を見て、周りに多数の女性を連れていると知ると、敵意を含む視線を送ってくる。


(ヒィ…狙ってこの面子になったんじゃねぇのに。にしても個性的なパーティーになったな)


ヴィヴィはゴスロリ衣装を着た可愛らしい少女姿で、フィーリアは大きな帽子を被っていて少年のような姿だ。

小柄なシャケは銀青色の毛並みの猫獣人で、ギンカは全身銀色装備で統一した女魔法使いに見えなくもない。

シフォンは終始無表情だが、その顔は整い過ぎなほどの美少女で、黒髪という珍しい髪色も目立っていた。


(ハーレムパーティーってやつか!ふははは!…って気にはならないな。実際なってみると肩身が狭い)


禍罪大迷宮の門に到着すると自警団員が状況を説明する。今朝から門周辺には多数の魔物がいて、探索は進んでいなかった。


「…すぐ戦闘になるわね。盾持ちの彼女が前でいい?後ろはギンカとレイジね」


シャケと肩を並べたシフォンは片手で軽々と門を押し開き、盾を構えながら進んでいく。自警団員達はシフォンが持つ盾に興味があるようで仲間内で話す声が聞こえた。


「とても丈夫で軽いですよー。カンパニーで販売中ー。どうぞよろしくお願いしまーす」


棒読みな宣伝をしながら迷宮内へ立ち入ると、ヴィヴィから睨まれる。


「…カンパニーの宣伝は後にして」

「…はい」




迷宮内の右手側にある鉄板で補強された建物に、五人組の女性探索者達がいた。

ほとんどの者が黒い鎧を着込み、ゴーレム印の黄色いサーコートを着ている。


「はぁ…やっと来たぜ。お前がレイジだろ?」

「え?あ、はい?」

「ずいぶん頼りない感じね。けどシフォンを連れてるしキッカと会ったようね」


女性探索者達から二人が近づいてきて話し掛けてくる。一人は黄色いラインの走る黒い鎧に黒い丸盾と幅広剣を持ち、赤銅色の髪をベリーショートにした男に見える女戦士で、かなりの実力者に思えた。


もう一人は絹の艶がある紫色のローブに金属質の短杖と、細身の突剣を腰に差した、銀色の髪に尖った耳、褐色の肌はダークエルフの精霊使いだ。


「おれらはカンパニーお抱えの冒険者パーティー、黒鉄の戦乙女だ…あぁ言っとくが、パーティー名は代表が決めたんだからな?」

「彼女はリーダーのヒルダ。私はルーシアよ。昨夜の襲撃で市長からテルル代表に、ガーゴイル討伐の要請があったの」


ルーシアがそう紹介すると建物の影から大きな球体のゴーレムが現れる。三メートルはあろうかという灰色の大きな眼球は、音もなく浮遊してレイジの前まで移動すると、テルルの声を発した。


「おっそーーい!!働けレイジ!シフォンを直したり、ギルドに魔道具納めるのにいくらしたと思ってるんだ!さっきみたいな宣伝じゃ死ぬまでこき使ってやるからな~!」

「――っ!…あ~セレンさんは?」

「ふふん♪彼女は不在よ!それよりあんた!いろんなとこに借りを作り過ぎよ!その身体は髪の毛一本までカンパニーの財産なんだから、これ以上他所に借りを作るなー!」

「えぇ~!?いつの間にそんな話に…」


テルルの理不尽な話に動揺していると、ヴィヴィが顔を真っ赤にしていて、また癇癪を起こす予兆に焦る。


「あ!オレら西側の探索に行くからまた今度!」

「まてこら~!」


ヒルダ達に取り囲まれる目玉ゴーレムを背に、レイジ達は迷宮を進む。

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