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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
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卵ミサイル

67


「――いっ!」


リースは急な痛みに目が覚める。痛む頭を手で押さえると、髪の毛が引っ張られている事に気付く。その先を辿っていけば、隣で寝ていたフラウも同様に痛がっていた。


「な、なにしてるんですか!」

「痛い。動かないで」


赤と白の二人の髪は、混じり合う様に三つ編みにされていた。


「痛いです!フラウさんこそ動かないで!」

「嫌だ。まだ出来てないのに」


髪を解こうと指を掛けるリース。それを邪魔するフラウは痛むのもお構い無しに、毛布の中へ逃げていく。




昨夜から体調を崩しているフラウの為に、リースはルーティ達が帰った後も、一緒に休んでいた。


その間、フラウは自身が着ているのと同じ白いローブを取り出して、リースに着るようしつこくせがんだ。


リースが仕方なしに着替えると、今度は見たこともない魔道具を見せながら、使い方を教え始める。


それは各属性の魔力を秘めた色鮮やかな水晶玉や、覗けば何処かの風景が映る綺麗な筒、羽織ると身体がフワリと浮き上がる透明な羽衣等で、一通り教え終わると全てあげると言いって、リースを困らせた。


その後、疲れた様子のフラウは横になるとすぐに眠ってしまう。リースはせめてもの気持ちで添い寝をして眠りについた。


それから数時間後、リースはフラウのいたずらで目を覚ました。




(もぅ~!引っ張ったから固くてほどけない!)

(ほどかなくていい。ずっとこのまま…)


精神的に不安定な時のフラウはなぜか赤い髪に執着する。その上最近はよく抱き付いてくるので、触れ合う事にリースもだいぶ慣れてきていた。


窓の外は徐々に暗くなっていき、廊下からはルーティ達の声がする。


「霧が出てきましたね」

「珍しいね。まるで噂に聞く禍罪大迷宮のようだね」

「――!ちょっと外見て!なにか来たわ!」


ルーティの警戒を促す声にひどく怯えた様子のフラウは、リースを力いっぱい抱き締め、カエルが潰れた様な声を出させる。ロデウスが何かを唱えると地響きが起こり、窓から差し込んでいた光が遮られた。


「ふ、フラウさん…くるし…」

(リース!来た!やつらが来たよ!)


外からは大きな音や眩い光、激しい振動が起こり、窓を震わせる。ロデウスの誇ったような笑い声が途中で途切れ、アレクの呆れたような声がした。


(フラウさん!落ち着いて!死んじゃうぅ~!)

(リース!リースが死んじゃう!)


ベッドの中で格闘しているとロデウスを抱えたモルトが扉を開けて部屋を覗いてくる。


「おや?大丈夫かい?騒がしくしてごめんね。もう大丈夫だから」


ぐったりしたリースを抱えたフラウは、未だ落ち着きを取り戻さず、そのまま気を失ってしまう。


「うぅ…死ぬかと思った。ルーティ姉さん達はどこへ?」

「彼らはレイジ君を迎えに行ったよ。すぐ戻るから」


フラウをベッドに横たえ、窓のカーテンを払うと外の景色に絶句する。霧の立ち込める荒れ果てた庭には崩れていく土の巨人がいて、周りには実体化した様々な精霊達が好き勝手に暴れていた。


エルフ達が隣の敷地から現れて、音の鳴らない笛を吹きながら何かを話している。


「いったいなにが…?」


様々な疑問が思い浮かぶが、フラウが気になってベッドへ戻った。






「――ってそうそう死んでたまるか!」


夕闇と濃霧の中、ギルド支部の東側で空から飛来した敵と対峙するレイジ。


卵型ガーゴイルが撃ち出した複数の黒い矢をしっかり捉え、体勢や足運び、剣を振るう動作をイメージする。


するとレイジの脳裏に剣を振るう誰かの姿が浮かび上がり、すぐ目の前まで迫った黒い矢を、真横に跳躍して躱し、続く矢を剣で払って掻き消す。


三発目、四発目の矢を剣と鞘で払い退けると、暗い光を帯びている事に気付いた。


(これって魔道具と同じ光!?)


ガーゴイルは上昇していき大きく旋回すると、再び加速する。レイジは突撃と予測して重心を低くして備えたが、数メートル先でまた黒い矢を放ってくる。


焦る気持ちを抑えて待ち構えていると、レイジは不思議な感覚を覚える。黒い矢は僅かに逸れて背後のギルド支部の壁に当たった。


続けてガーゴイルが真正面から迫ると、闘牛を躱すようにギリギリの間合いで側面へと身を翻し、後方の赤黒い光を放つ複数のパイプを纏めて切り裂く。


「――っしゃあ!」


背後の壁にぶつかる音を聞きながら、すぐさま起き上がり振り向く。支部の壁には大穴が空いていて、中にいたギンカがガーゴイルへ取り付き始めていた。


(これはヴォルフの剣術だ!それに…)


昼間、無茶な使い方をして多少痛んでいた剣と鞘は新品同然で、銀色の鞘には表面に揺らめく影が差していた。


暴れていた卵型ガーゴイルの中から黒い影が現れると、鞭のような足でギンカを払い退けてレイジに飛び掛かる。しかし地面から石の杭が突き上がり、黒い影の大きな目玉を串刺しにすると、何も残さず消えていった。


「!?――アレクか!」

「――はぁ、はぁ、大丈夫かい?」

「あんた優勢だったじゃない?やるわね」


息を切らした様子のアレクとルーティが濃霧の中から現れる。よく見れば明かりを持った人が数人、辺りを見回していた。


「孤児院で夕食の準備を手伝っていたら庭が煩くなってね、外を覗いたら精霊達が騒いでいたんだよ」

「精霊が…なんて贅沢な警備だ」


ギルド支部に出来た大穴からは、中身の無くなった卵型容器の残骸が転がり出てくる。その後からは人型をしたギンカが姿を現した。


「あれは?」

「そうか、まだ紹介してなかったな」


レイジが振り返った瞬間、突如赤い光に辺り一帯が照らされる。


「西の空が赤いわ!この濃霧だと正確な距離がわからないけど、探索者ギルドの辺りね」

「自警団が動いてます。今は孤児院で大人しくしていましょう」


レイジが壁に出来た大穴をどうするか悩んでいると、アレクが土を盛り上げていき、即席の壁で覆う。金属の卵を支部の中に運び込み、ギンカに再び留守番を頼むと、孤児院へ向かった。




道中では大勢の自警団員が、ガーゴイルの行方を聞いて回っていたが、レイジには気付かずに通り過ぎていった。


孤児院前まで来ると、庭は嵐が吹き荒れたかのように地面が掘り返され、水浸しになっていた。


「精霊達がやったのか?」

「一部はそうだけど、ほとんどロデウス師のゴーレムだよ。ガーゴイルは精霊達を無視して、フラウさんの部屋に飛び込もうとしていたんだ」

「そういえばオレが相手してたガーゴイルも、始めは孤児院に一直線だったな」


アレク達は驚き、ガーゴイルがフラウを狙う理由を心配し始める。


「――お帰り~!大丈夫だったかい?さぁさぁ入って」


玄関から顔を出したモルトに応えつつ荒れた庭を通ると、隅にぺしゃんこになった金属塊が転がっていた。




孤児院の居間には、モルトとロデウスの他に子供達がいたが、フラウとリースの姿はない。


「災難だったねぇ。迷宮からガーゴイルが飛んで来るなんて」

「霧が出ている間だけ動けるのでしょうか?」


そこへ、リースがフラウを連れて部屋から出てくる。二人ともお揃いの白いローブを着ているが、リースはサイズが合ってないようで裾を引きずっていた。


(末期だな…死相なんて知らないオレでも分かるくらい病んでる顔だ)


フラウは長らく入院していたようなやつれた顔をしており、足元はおぼつかず、手は震えていた。

その場にいた皆に一言お礼を伝えると、リースを連れて部屋へ戻ってしまった。


「二人のは別に取ってあるから、遠慮なく食べていいよ!」

「おおっ?めちゃデカい手羽先だな。体もあったら人より大きくないか?」

「魔獣でなくても大きな動物はいるからね。中にはそこらの魔獣より強い固体もいるよ」


レイジの胴体ほどもある肉厚の手羽先から肉を取り分け、具沢山のクリームスープと、カボチャの味がする黄色い柔らかなパンを食べる。


端が膨らんだきわどい見た目のバナナのような果物を、疑いながら食べてみたり、熱々のビールに似た甘い飲み物を飲んで食事を楽しんだ。


「フラウ達の馬車も手配が済んで、明日の朝鐘二つに東門から出発するらしいわ。私達も見送ってから魔法学園に行く予定にしたわ」

「そうか…留守の間は任せてくれ」

「無理してまた大怪我しないようにね」


隣のテーブルではリオが魔法学園行きが楽しみらしく、カリムやアニィと話しているが、マールは浮かない顔をしており、時折ルーティとこそこそ話をしている。


「まさかリオ君が精霊使いになるとはね」

「人の精霊使いは珍しいんだっけか?」

「滅多にいないよ、まず実体化してない精霊は見る事ができないからね。リオ君は見えなくてもなんとなく感じるらしいよ」


以前より気配を感じていたが、リオとマールが花壇を作った時から明確に感じる様になったらしい。

花壇に植えられた種は隣のエルフから貰った物で、精霊達が好む植物なのだそうだ。


「そうそう!発表があるんだった!近日中に新たに加わる子がいます!楽しみだね~」


モルトが唐突に伝えると子供達が色々質問をするが、まだ誰がいつ来るとは決まっていないらしい。

六区の眠っていた院長が引退し、療養しながらギルドの手伝いをするので、数人の孤児が他の孤児院へ移されるのだそうだ。


「その人の名前は?」

「ナッシュだよ?昔はギルドの事務員だった男でね。私と似たような経緯で孤児院を開いたけど、教会の事件でだいぶ弱ってしまってね。経済的にも苦しいから引退するそうだよ」

「――あぁ!ギルド支部に来た人ですね。東門のすぐ近くにある空き屋に住むそうですよ」


モルトがいずれ挨拶にいこうと話していると、静かに酒を飲んでいたロデウスが、懐から小さな水晶盤を取り出して一瞥する。


「――そろそろおいとましようかの。モルト殿、庭を荒らしてしまい申し訳なかった」

「いえいえ!子供達に怪我もなく助かりましたよ。またいつでも来てください」


突撃してくるガーゴイルを撃墜する為に、大型ゴーレムを作成したところ、庭が盛大に荒れてしまい、怒った精霊達が暴れだしたのだ。


「凄い大きかったよ~!この家と同じくらいに!途中で水精霊からの水玉を食らって飛ばされなければ、もっと大きくなりそうだった!」


カリムが興奮した様子で話すのを聞きながらロデウス達を見送ると、外はいつの間にか霧が晴れ、厚い雲は散り散りになり始めていた。


「禍罪大迷宮の変異は雲と霧が予兆のようだね」

「これからは気を付けないと」

「ではまた明日、見送りに来ます」


アレク達を見送った後、カリムから泊まっていくのか聞かれたレイジは、今夜から支部の夜番の仕事がある事を思い出して、慌ててあとを追いかけていった。




第七迷宮区の通りには、明かりの魔道具を持った自警団員や衛士が頻繁に巡回しており、要所要所に篝火も多数設置されていた。


都市の西側も落ち着いたようで、中央へ向かうアレク達と別れ、真っ暗な支部に入るとユラリと人影が現れる。


「うお!?ギンカか!?いきなり現れるなよ…明かりは――」


照明の魔道具を探していると急に背後が明るくなり、見ればギンカが発光していた。


「魔法が使えるのか!?」


ギンカが首を振ると、魔道具をカウンターの下から取り出してくれる。


「ありがとよ。部屋に行って寝よう…そう言えばスライムは寝るのか?」


先程と同じく否定するギンカ。部屋へ行くと奥の壁に大穴が空いており、真新しいベッドや棚、机などの家具も埃や木片まみれで使えなくなっていた。


「うは…そうだったガーゴイルに壊されたんだっけ…隣の部屋使わしてもらおう」


事務室の奥には左右に個室が二つずつあり、鍵が付いている。

レイジとキッカはカンパニー支店側の部屋を使い、ギルド側は今後、派遣されてくる職員が使う予定になっていた。


ベッドに横になると早くも眠気が襲って来て、抵抗する事なく、深い眠りに落ちていった。

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