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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
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最近の第七迷宮区

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いつも通り手を繋いだフラウとリース。孤児院への帰路の途中、冒険者ギルド前へ来ると、向かいの商店街にエルフらしき人影がある事に気付く。


道行く人達も気になるのかチラチラと見ており、ギルドからもエルフが出てくると、フラウに気づき話し掛けてきた。


「聖霊様!どうかなさいましたか?」

「エルフが人の街を頻繁に訪れるのは珍しいな」

「はい。我々も長老からの指示で、第七迷宮区に活動拠点を置き、迷宮の調査を始めました」


必要以上に人と関わる事を嫌うエルフが、人里に活動拠点を作る事は珍しく、今まで迷宮に興味を示す事もなかった。


フラウは忘れているが、目の前のエルフはアリエル達と一緒にいた禍精霊対策班のエルトゥスだった。

他にも若いエルフが数人いて、リースは普段馴染みのない者達に囲まれて緊張している。


南の通りからはオリヴィアと数人のエルフが、買い物袋を抱えてやって来る。彼女達は最近故郷で噂になっている、エルフ服屋アルヴィナの服を買っていたらしい。新緑色の生地に赤色と黄色の刺繍がしてある服は彼らの間では、再生や再誕を表すそうだ。


故郷で作られた物より、仕立て方や色の種類が豊富で、森にはない素材で飾り付けされた服も人気だという。


「フィーリア様からお話しは伺っております。聖霊様のお支度が整いましたら、どうぞ遠慮なく仰ってください」

「わかった」


エルトゥス達が東門へ向かって行くのを見送った後、南の通りを見ればクリーリアが忙しそうに接客していた。


(見て行くか?良さそうな服があれば買ってあげよう)

(私はいらないです。フラウさんはその服かローブしかないですよね?買わないのですか?)

(私はいい。特に困ってないしな)


フラウの纏う外套、無垢なる乙女は穢れを払う為汚れる事がなかった。




東門広場へ向かう通り沿いは南側に一般住宅地が広がり、北は迷宮都市唯一の不動産屋と、住宅街を挟んで東門側には大きな建物があった。


(図書館ですよ。市長さんの紹介で私も以前はお手伝いをしてました)

(本か…リースの本は図書館で?)

(南の古本屋です。院長先生が文字の教育の為に買ってくれました。続きが読みたかったけどないんです…)

(探してみよう)


東門広場を南へ逸れていくと、古い木造家屋が見えてくる。

店として建てたものではなく、民家の一部を強引に拡張して、店舗兼住居にしていた。その為僅かに傾いており、リースは不安を覚える。店内は本が乱雑に山積みにされていて埃っぽく、ひどく狭かった。


(前にも探してみたけどなかったですよ?)

(そうか…)


本の山の間を通って店内を見て回る二人。奥の一段高くなった場所で椅子に座っていた店主は、フラウ達が入ってきても相手にせず、何かの作業をしていた。


一通り見て回った後、一冊の本を手に取るフラウ。軽く埃を払い、ボロボロな表紙を慎重にめくる。中身は湿気によるものか、滲んでいて読めなかった。


(だめですね。このお店は入口近くに、状態が悪いものを捨て値で積み上げるんです)

(これを買おう)


リースが止めるのも聞かずフラウは奥へと向かい、黒いローブを着た陰湿な感じの老人に本を見せる。するとフラウ達をじろじろ見た後で、銀貨五枚を要求してきた。


(はぁ!?ありえ…あ!)


リースが驚く中、フラウは躊躇わず銀貨五枚をしっかり確認して渡してしまう。


「ひひひ。そんな本に銀貨を出すなんて…儲けたわい」

(だめですよ!そんな本使えないのに――)

(大丈夫。この本は生きてる)

(――え?生きてる?)


意地悪く笑った店主にはなにも言わず、リースを連れて立ち去ると、東門近くまで戻る。


(リース、よく見ていて)


フラウが薄汚れた本に手をかざすと淡く光りだし、表紙がゆっくりと綺麗になっていく。題名はどこにも書かれていなかったが、代わりに小さな新芽を見下ろした子供の絵が表れ、ページが一枚ずつ捲れていった。


その内容は何かの種が成長していき、フワフワの綿毛を付けて飛んでいく様子が描かれたもので、裏表紙が閉じると白くて細長いしっぽが背表紙から生えた。


(――!?)

(本に宿り成長していく妖精の一種だな。とても珍しい、弱い妖精だ)


真っ白になった本から生えたしっぽは、数回揺れると消えていき、小さな綿毛がフラウの周りをゆっくりと漂い始める。


(妖精!?すご~い!初めて見ました!)

(撫でてあげて)


フラウが本を手放すと、綿毛は空に溶けて消えてしまう。リースは慌てたが、表紙を撫でると再びしっぽが生えて、綿毛が飛び出した。


(私が預かってていいのですか?)

(あげる。本が無事なら特に世話しなくてもいい)




二人が孤児院に到着すると、門の前にはアリエルが待っていた。他のエルフからフラウの帰宅を聞いて来たらしい。簡単な挨拶を済ませると、隣家へ帰っていった。


(ほんとエルフの方が増えましたね。それに…)


リースの視線の先には、実体化した水精霊が井戸から身を乗り出し、いつの間にか設けられていた花壇に水を撒いていた。

その花壇の土はもこもこと動いていて、何かが潜んでいる様子。庭に踏み入れば僅かに暖かく、木の枝葉は独りでに揺れていた。


(…増えましたね)

(そうだな。屋根裏にも何かいるようだ)


玄関前ではロサナとモルトが話をしていた。

ルーティに言われてアニィの様子を見に来たそうで、ついでに街の噂話をしていたらしい。


「お帰りなさい。フラウさんも無事でよかったわ。少し驚いていたけど、アニィちゃんも子供達も無事よ」

「すまなかった。後で謝ろう」

「子供達は二階にいるよ。っとそうだ聞いたかい?ウチは今、精霊の住まう孤児院として有名らしいよ。七区にエルフが増えたのもそのせいだって。良かったね〜」


喜ぶモルトに不思議そうに首を傾げるフラウ。

今まで七区には特筆する事がなく、一番発展の遅い地区だったが、エルフ達が集まればそれを相手に商売をする者達が集まる。新たな店や家を建てる職人も集まり、仕事が増えれば七区であぶれていた人達も、働き口が見つかるので嬉しいらしい。


「では私は帰りますね。また何かあれば遠慮なく言ってください」

「いつもありがとう。気をつけて帰ってね」


ロサナが帰っていき、モルトが玄関の修理を再開する。

フラウは子供部屋を回って謝ったが、アニィ達は気にしておらず、逆にレイジの怪我が治った事を喜んでいた。


リースは着替える為にそのまま部屋に残ると言い、フラウも自身の部屋に戻ると、一瞬にしてローブに着替えた。するとやることがなくなったフラウは、念話でリースの着替えの様子を聞いたりして怒られていた。


夕方まで部屋で寛いでいると疲れた顔したレイジが帰ってきて、明日からは同じ七区の迷宮前広場に部屋を借りたので、孤児院を出ると言う。


「フラウさんの迷宮杯到達とレイジ君の門出を祝って夕食は贅沢にするよ~!」


モルトは急遽、夕食の買い出しに出かけていき、子供達は食卓の準備をしていると、レイジが宝石のお礼を言う。


「フラウさん、宝石ありがとうございました!なんか知らない間に契約っての出来てました。このお礼は必ずしますから!」

「そうか。よかったな」


レイジの影には気配があり、何者かが潜んでいると伝わってくる。手に持つ宝石も白い輝きが暗い輝きを放つ黒い宝石へ変わり、氷精霊の時と同じ変化を見せた。


夜、モルト達はてっきりルーティ達も来るものと思っていたが現れず、祝宴は始まる。代わりに隣の家からアリエルがエルフ料理を手に現れ、フラウ達に振る舞うが、ほぼ野菜のみの精進料理にレイジを始め男の子達には不人気だった。


「…茸や木の実はわかるけど…花に葉に茎に…これ芋虫か?…スープおかわり貰います」

「兄ちゃんずり~!肉取り過ぎだよ!」

「芋虫じゃない食用の樹液だ、肉ばかり食べずに野菜を食べろ、そんなだから人は変な病気にかかるのだ」


アリエルは野菜を避けて肉を食べるレイジ達に説教を始め、その横ではモルトが何かの白い茎に塩を振り、兎のようにモリモリ食べつつ少量のお酒を飲んでいる。

リース達にはほんのり甘い樹液の練り物が好評で、おかわりを繰り返してすぐに完食した。


思い思いに全員が腹を満たして食後のお茶を飲みながら世間話を始めると、アリエルが大樹迷宮の攻略理由を話す。


「私達の住まう大森林は、北の魔の森から南下する魔物の脅威にさらされています。現在の所は食い止めていますが、常に人手が足りず、各地に散らばって暮らすエルフを、呼び戻している状況です」


そこでエルフ達は個々の力を強化する為に、強力な魔道具を探しに大樹迷宮へ潜る事にしたと言う。狙いは火の魔道具か土の魔道具で、彼女達エルフはその属性の精霊と契約する者が少ないからだそうだ。


「森の民エルフが大樹迷宮に挑むなら、攻略も時間の問題だね。もう中層はほとんど調べたって?」

「はい。次は深層に向かい樹海迷宮と繋がる道を確認する予定です」


レイジは過去の苦い経験が思い返され顔を顰めるが、すぐに気を持ち直しどんな魔道具が見つかったか、それとなく聞いてみる。


「…詳しくは話せないが目的の火属性はなかった。土の魔道具は少量ながら見つかった。あぁ振ると砂ぼこりを起こすハタキなんかもあったな」

「ハタキ?砂ぼこりって…武器なのか?」




夜も更けていい頃合いになるとアリエルは帰っていき、フラウは当然のように身体をお湯で清め着替えたリースを、子供部屋から連れ出して自室に引き込む。


(噛まないでくださいね)

(わかってる…あ、明かりはけさないで!)


明かりの火を消そうとすると、酷く怖がり昨夜の取り乱したフラウの姿を思い出す。


「大丈夫ですよ、側にいます…」


声に出して伝えながら震えるフラウの背中をさすり寝かしつける。

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