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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
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天人登場

61


フィーリアが頭を上げると白金の髪が流れ、尖った長い耳が顕になる。翠の瞳はフラウを正面から捉え、必ず連れ帰るという強い意志を感じさせた。


「…ふ~ん」

「――え?」


フラウはそう言うと、ベッドから抜け出し服の乱れを整えていたリースを捕まえて、毛布の中へ引きずり込んでいく。


「い、いい加減に…ひゃ!?」

「ちょ、ちょっと待ってください!フラウさん。あなたの為なんです!それに――」

「今は忙し――」


フィーリアがあたふたしていると、パチンという小さな音が毛布の中からする。暴れていた二人はおとなしくなり、ムッとした顔のリースが出てきた。フラウは叩かれた頬に手を当てて悲しむ。


「フラウさん!いくらなんでもだめです!それにちゃんと話をしてください!」

「…フィーリア。今すぐは行けない。バーバラが気になるし、ルーティ達に渡す物がある」

「…わかりました。ですがもう時間はあまり残されてはいません。いざという時は無理にでもお連れします」


話終えると朝食が運ばれて来たが、フラウはやはり手を付けず、リースはフィーリアと分け合って食べた。




しばらくすると硬い表情をしたヴィヴィが現れた。後ろには白絹のゆったりとした服を着て、金色のヴェールで顔を隠した女性を連れている。


「ま、まさか!?」


フィーリアが突然立ち上がり声を上げると、その女性は口元に右手人差し指を当て、フラウの前に立った。


身長は百五十位でリースとそう大差はなかったが、圧倒的な存在感を放っている。輝く金色の髪は腰まで届き、肌は透き通るように白い。


フラウは怯えてリースの手を握った。


「あなたがフラウね…そして白の聖霊様。本当に転生なさるなんて、思いきったことをしましたね」


優しく語りかけてはいるがフラウは怯えて目を逸らす。

ヴィヴィは黙って成りゆきを見守り、フィーリアはいつの間にか膝をついていた。


「大丈夫よ。私はあなたの敵ではないわ。私はウィンディア。あなたの中に眠る白の聖霊様に仕えた天人の一人よ。今日はあなたに助言をしに来ました」


ウィンディアと名乗った女性は一言一言ゆっくりと話す。

それはリースを見れば明らかで、額に汗をかきながらフラウにしがみつき、何かに耐えているからだ。

すると急に手の力が抜けてフラウの膝にパタリと倒れた。


「ごめんなさいね。これ以上、力を抑えられないの。少し寝かせたわ…フラウ。あなたの中には白の聖霊様の意識があるわ。本来は転生により知識や経験、力などは全てあなたと同化し生まれ変わるはずなんだけど…まだ同化しきれていない様子。それが迷宮での一件により衰弱し、あなたも聖霊様も危うい状態にあるのよ」


ウィンディアが話すことはフラウには心当たりがあり、さして驚きも悲しみもなく聞く。このままの状態が続けば近いうちにフラウも聖霊も消滅すると、助かるには世界樹に赴く必要があると話す。


「…わかってる。ここでの用事が済めば向かう。ただリースも連れていきたい。魔素儀式とやらを受けさせたいんだ」

「もちろん彼女にも行ってもらいますよ。無関係ではないですから」


ウィンディアがそこまで話すと、フィーリアを連れて少し離れた場所まで行き、話をしている。彼女は時折驚き、最後に納得したあと了承して病室を出ていった。


「ではまたお会いしましょう。白の聖霊様、フラウ。ヴィヴィあとを頼みましたよ」

「…はい。ウィンディア様」


ウィンディアは窓から差し込む朝陽に溶け込むように消えていき、ヴィヴィは緊張が解けて肩を落とすとため息をついた。


「…ふぅ。あなたは大丈夫?リースは直に目覚めるわ…ウィンディア様に限らず天人の方々は神々に近い存在と言われているわ。格が違うのよ…これからの事だけど、私とフィーリアは禁忌魔剣を追うわ。バーバラは…だめだった…あなたはアリエル達に連れていってもらう予定よ」

「…そうか」


フラウはただただ眠るリースの頭を優しく撫でているだけで、その姿は儚く、何か悟ったような顔をしている。


少ししてルーティ達がやってくると、貴族殺害事件の顛末をヴィヴィから伝えられ、短い間ながらも共に魔神に立ち向かった仲間の死に涙した。


ヴィヴィによればバーバラには弟がいて、帝国の上級貴族に奴隷として囚われ、最底辺の生活を強いられていたらしい。

そして公爵家の戦闘奴隷として魔剣回収に参加していたバーバラは、弟との交換を持ちかけられていた。


彼女は迷宮杯の賞品に、すり替えの魔法が掛かった短剣を選び、ヴィヴィに託した。その魔道具の鞘は収められた魔剣に溶けるように消えていき、その魔剣を使うと短剣と入れ替わる。


昔、魔剣の試し切りをしたがった悪逆非道な領主がいて、一人の女を巡って男と決闘をした際に、囚われていた女が領主の愛剣に仕掛けた逸話があった。


だが短剣は砕け散り、魔剣は禍罪大迷宮へ持ち去られた。


「…私の考えが足らなかった。まさか迷宮産の魔道具の力を上回るなんて」

「そんなことが…けど上級貴族は死んで、レイジが助けた男が魔剣を持ち去ったのよね?それでヴィヴィとフィーリアさんだっけ?二人は魔剣を追うのね」


ヴィヴィが頷くと、丁度リースが目覚めた。

フラウはアレクを近くへ呼び寄せ、ベッド横の机から紺色のマジックポーチを取り出す。中から白銀のゴーレムや魔道具、魔物の素材を出していき、全て出し終わると眠たげな目をしたリースを連れて、帰る事にした。


「…そうね、ゆっくり休める場所の方がいいわ。今の七区にはエルフ達も出入りしてるし」


と、入口からレイジがフィーリアに付き添われて現れる。


「おぉ?皆揃ってるな。あっフラウさん。その、ありがとうございます!左手治してくれて。本当に、ありがとう…」


最後の方は震える声で感謝を伝える。その目には若干涙が光っていた。


レイジは昨晩、助けた男の事が気掛かりで左手が戻った事に実感が持てていなかった。だが今朝改めて確認し、涙を流して喜んでいた。


フラウはポーチから白く輝く宝石を一つ取り出して手渡すと、リースを連れて帰っていく。


「…それ白輝晶石よ。今では手に入らない物だから大事になさい」

「えっ!?とっさに受け取っちまった…なんでも貰う癖がついてんなオレ」


シャケに半眼で見られ頭を掻くレイジ。ルーティ達はフラウが置いていった物も含め、換金しない物を分配しようとした。


「…待ちなさい。私は分けまえはいらないけど、白石板と迷宮核。爆石は預かるわ」

「え~!?迷宮核はわかるけど…白石板は欲しいわ」

「…だめよ。一介の冒険者が持ってていい物じゃないし、誰かに知られたら命を狙われるわよ」


ルーティとアレクは泣く泣くそれらを渡すと、魔除けの壺と鑑定の水晶板を取り、シャケは悩みに悩んだ末に警戒の短剣を貰う。


「あとは黒いハチェットに影の外套、趣味の悪い杖ね…ゴーレム二体は潰して装備にしたいわ。どうかな?」

「わたしも賛成にゃ♪ミスリル銀の装備にゃんてシルバーランクにゃ~♪」


貴重な品を前にレイジがプルプル震えていると、ルーティ達が顔を見合せ苦笑する。するとアレクが外套を差し出した。


「――あ、またとっさに…」

「影の外套って言う魔道具らしいよ。ヴィヴィさんが言うには、物影とかでじっとしてれば見つからないらしい。君はいつも真っ黒だし、ちょうどいいよね?」

「う、受け取れねぇよ…アレク達が命懸けで取ってきた物だろ」


初めて魔道具らしい魔道具を手にしたレイジは、震える手で返そうとしたが、アレク達はアニィの救助やこの街の為に戦った事へのお礼だという。


「オ、オレはそんな大したこと…」

「してるにゃ!ヴォルフの事は残念だったけど…獣人の皆も、自分達の街を取り戻す切っ掛けを得られたって、感謝してたにゃ」


涙を湛えたシャケから強く押し返される。昨夜の内にライガ達から伝えられていたが、レイジの状態を思いずっと黙っていたという。


「受け取っておきなさいよ。これからも冒険者続けるんでしょ?それで報いればいいじゃない」


レイジは改めて頭を下げると、皆に勧められて影の外套を羽織る。するとなぜか外套は空に溶けるように消えていき、レイジは焦って見回すがどこにもなかった。


「あ!?あれ?えー!!ないぞ!?」

「ちょっとなにやって…ないわね?」

「…?」


ヴィヴィが唐突にレイジの服を引っ張り頭を下げさせると、至近距離で目を覗く。


「へ?あっいや、オレの守備範囲外よ?幼じょぶっ!!」

「…死にたいのね。いいわ」


ヴィヴィが何処からともなく取り出した深紅の杖が振るわれ、レイジが廊下の向かいの壁まで吹っ飛び柱の影に入る。


「レイジさん。本当に殺されてしまいますよ…?」

「え?レイジ?どこまで飛んでったのかしら?」

「…違うわ。そこにいるわよ」


深紅の杖で指し示した場所は柱の影で、唐突に頭を振るうレイジが、窓から差し込む日の光の下に現れる。


「いってぇ。本当に死を間近に感じた。てかなぜ通じ…どした?」


ヴィヴィ以外がポカンとする中、レイジが不思議に思っていると、厚い雲が日を覆い光が陰るとレイジも僅かに陰る。


「――にゃ!?」

「…影の外套を取り込んだ?適正者?」

「適正者?え?オレ今どうなってるの?」


ごく稀に特殊な魔道具を持つとその効果を取り入れて、自在に使えるようになる者がいるらしい。だがレイジからはそんな力を感じず首を傾げるヴィヴィ。


「…面白いわね。やっぱり黒いハチェットは貰うわ。後で調べてみる」

「と、とりあえずなくなった訳でなくてよかったね。僕達はギルドに行くけどレイジ君はどうする?入院費用は一応明日まで払ってあるけど、今出ても払い戻しはないよ」

「…あ!オレやらなくちゃならないことあるんだった…オレもしかしたら孤児院出てどっかに家借りるかも」


ルーティ達は少し驚いたが、本来は孤児院を出るべき年齢なので了承する。


シャケはやる事とはなにかを問い、カンパニーでの一件や支店を七区に用意する事、フィーリアから依頼された禁忌魔剣奪還に協力する事を話した。


「にゃに~!?禍罪大迷宮に行く気かにゃ?レイジじゃ死ぬにゃ!やめるにゃ~」

「…オレは死なない。必ずあいつを連れ戻す!」


シャケ達は病院に来る途中、冒険者ギルドにて情報収集をしており、だいたいの事を把握していた。

ヴィヴィとフィーリアを連れて病室から出ていくのをウズウズしながら見ていると、ルーティがシャケの背中を押す。


「シャケ。あいつはいっつも無茶するわ。いつか本当に死んでしまうかもしれない。あなたにお願いする筋合いはないけど…彼を守ってあげて」

「僕からもお願いします。レイジ君を見ていてあげてください。あぁ換金したお金やミスリル銀は、後でギルドに預けておきますよ」


シャケは強く頷きレイジ達の後を追う。


残された二人は、素材をマジックバックではなくリュックに積めていき、袋を被せたゴーレムをアレクが担ぎ上げた。


「ありがと♪先に三区にいる彼の所にいきましょ。コルドランの事もあるからね…」

「そうですね。彼なら最高の装備を作ってくれますよ」


雲はあるが日の光の暖かさは強まりつつある空の下、三の鐘を聞きながら寄り添うようにして病院を後にした。

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