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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
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迷宮杯景品授与

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坑道迷宮から脱出したフラウは、シャケを連れたまま探索者ギルド前まで来ていた。


お昼過ぎの商店街はゆったりとした時間が流れている。通りの南側には高級料理店や酒場、高級宿があり、さらに南側へ行けばオークション会場がある。逆に北側には高級住宅地に大商会の高級専門店、森林公園から続く学舎があった。


「フラウにゃ景品は?他の人に先越されるにゃ」

「いらない。早く帰りたいんだ」

「わたしは欲しいにゃ…あ」


フラウは手を離すと探索者ギルドの中へ入って行く。


「…シャケ?フラウはどこ?」

「ギルドを通ってったにゃ…」


迷宮杯を弄りながら迷っている様子のシャケ。ヴィヴィはギルドの中を覗くが、フラウの姿は見当たらなかった。


「…大丈夫よ。今は皆、長ったらしい祝辞を聞かされててしばらく動けないから。それに賞品を貰う時は皆揃うまで待ってくれるわよ」

「う〜…ならいくにゃ!」




七区への内郭門を足早に通り過ぎたフラウは、大樹迷宮前広場で道に迷い苛立っていた。そこへ迷宮から出て来たエルフの一団がフラウに気付くと、人目もはばからず膝をつく。先頭にいた銀色の髪に褐色肌をしたダークエルフ――オリヴィアが頭を上げる。


「聖霊様!ご機嫌うるわ――」

「孤児院はどっち?」

「え?あちらですが?」


エルフ達には目もくれず、フラウは指し示された方向へ歩いて行く。しかし一本隣の路地へ入って行く姿に、慌てて後を追い掛けたオリヴィアが同行すると言った。


「私達はこれから隣の家を活動拠点として、聖霊様のお世話をさせていただきます。なんでも申し付けてください」


孤児院前まで案内して来たオリヴィアが振り返ると、すでにフラウの姿はなく、庭先で顔を覗かせていた精霊達も無視して玄関へ向かっていた。


「リース!リースどこ!?」


鍵の掛かった玄関を無理やり開けようとして罠が発動したが、力づくで押し入り破壊した。そこへ丁度二階から降りてきていたリースが、驚いた顔をして迎える。


「え!?フラウさ―ぐっ!?」


何か言うよりも先に飛びつくように抱きつかれたリースは、廊下の壁に頭をぶつけると、そのままフラウの部屋に引っ張り込まれた。


「く、くるし…フラウさん離してっ」

「リース!魔神がいた!魔神がいたよ!」

「…?」


フラウが今までになくはっきりとした感情を示して何かを伝えてくるが、リースには聞き取れなかった。

ベッドに腰掛けフラウに抱き竦められていては動けず、落ち着くのを待つ。


「…フラウさん大丈夫ですよ。ここは安全です」

「安全じゃない!この世界に安全な場所なんて――」


開け放たれたままの扉からカリム達が困惑しながら見ていると、破壊された玄関からヴィヴィ達が入ってきて、間もなく状況を理解する。


「…フラウ。彼女は生きてる。大丈夫だから力を抜いてあげて」

「フラウにゃ。どうしちゃったにゃ?」


リースは初対面の二人に疑問はあったが、今はフラウを宥めようと背中をさすってあやした。




「…私達はフラウと共に迷宮杯に赴いた仲間よ。ちょっと強い敵にあって…ルーティ達も無事よ。迷宮杯は手に入れたから、後は賞品を受け取るだけなのだけど…」


ヴィヴィの話を聞いた子供らは喜んだが、フラウは虚ろな目をしたまま聞いている様子はない。


(リースは無事だった。いつまで?いつまで無事なの?魔神はすぐそこに…いつだって側にいるのに!)


「あれ?扉壊れてるね…ん?」


玄関からモルトの声がすると、カリム達はそれぞれ競うように捲し立てる。しかし大半が賞品は何かという話で要領を得ない。


「あぁ!ヴィヴィさん。お久し振りです。いつもお忙しい様子で、以前会ったのは――」

「…年を言ったら殴るわよ。それより――」


状況が理解出来ずにいるモルトへヴィヴィが説明をする中、集まって来た皆が鬱陶しいフラウは、リースの胸へ顔をうずめようとして全力で押し返されていた。


「なるほど…赤い目の魔神!?」


すると窓をバンバン叩く音がしてシャケがカーテンを開く。そこには子供達には視認できない風の精霊がいた。なぜか隙間なく凍結している窓を叩きながらフラウを心配そうに見ている。


「にゃにゃ!?な、何かいるにゃ!」

「…しまった。聞かれたわ」


フラウが煩そうに笛を取り出して吹くと、精霊は大人しくなったが、未だ窓に顔をくっつけて覗き見ている。子供達が笛に興味を示した事に気付いたフラウは、アニィに渡して吹かせた。


「…精霊達の前でアレの話はなしよ。フラウ。大丈夫だから魔道具を貰いに行きましょう?」

「フラウさん!私も見たいです!一緒に行きますから」


ヴィヴィに合わせてリースや子供達も見たいと騒ぎ始める。嫌そうな表情をしながらもフラウはリースと共に部屋から出た。


リースだけズルいと騒ぐカリムを筆頭に、子供達に強請られたモルトは、大人しくするよう言い聞かせて外へ出る。扉が壊れている事を思い出したリースが、精霊に守ってもらえないか頼むとフラウを介して了承された。




全員でぞろぞろと内郭門をくぐり探索者ギルドへ着くと、ルーティ達が待っていた。フラウの様子等の情報交換をする。


アレクは到達祝いを辞退し、病院へ行ってララカの入院手続きをしていたらしい。

ルーティ達はギルドマスター達の長々とした話を聞かされる中、愛想笑いを振り撒き疲れた顔をしていた。


「雷火達は先に行ったわ。まぁ選ぶ順番は私達の方が先らしいから大丈夫でしょ…レイジは?」

「あぁ彼は出掛けているよ。こちらもいろいろあってね。後で話そう」


モルトの言い方に以前無茶をしたレイジが思い返され不安になるが、フラウがリースを連れて帰ろうとするので中へ入る。探索者ギルドの受付で話をすると、すぐにレミィが現れて地下へ続く階段前に案内された。


「ここからは到達者の皆様だけでお進みください」

「えー?だめなのかよ…」


残念がるカリムらと共にリースは離れようとしたが、フラウは手を離さず、ルーティ達がどう説得しようか悩んでいると、カミュが現れた。


「…いいですよ。みなさんどうぞ」


驚くレミィを手で制し、大きな扉を開けると中はかなりの広さがある部屋で、地上で言えば訓練所や冒険者ギルドの下にまで達していそうだった。


「え!?これってどういう…」

「それは秘密です。さて、到達者諸君!おめでとう!式典で散々祝辞はしたから省略させてもらうよ?迷宮杯底に記してある一番の方から前へどうぞ。自分の討伐カードを確認して、ランクの範囲内で好きな品を選んでくれ」


ルーティ達がそれぞれのカードを確認すると銀級または鉄級で、フラウだけがミスリル級を示していた。カミュがはいはいとわかった風に手を広げ、全てのランクから選ぶ権利があると言う。


展示された魔道具はざっと見ただけでも二百を越え、全て迷宮産だとレミィから説明を受ける。入口から奥に向かって行くにつれ価値が上がっていき、ルーティはとりあえず奥から見ていく事にした。


ところ狭しと置かれた魔道具の数々からは確かな力を感じ、最奥の中央にある二メートルを越える両手剣は、ルーティには扱えない物でも一目で別格だとわかった。


剣や槍、鎧などの武具から、アレクが部屋に立ち入ってからずっと凝視している巻物や古書。子供達が喜ぶキラキラした置物まで様々な物があった。


ルーティは部屋の中央辺りで、物干し竿にかけられた青みの強い紫色の服を発見する。


「綺麗な色…外套なの?」

「それは自由民国の迷宮産で、買い取り鑑定した商人が言うには、キキョウ柄長羽織と言うものらしいです」

「…服の教導魔道具なんて珍しい…魔力量からしてシルバーランクの剣術を学べるわね」


レミィが馴染みのない名前を伝えると、ヴィヴィが鑑定して補足する。それを聞いたルーティは迷わず選んだ。

フラウはリースの様子から多少興味を持ったようで、気付いたヴィヴィが慎重に説明する。


「…教導魔道具は知識や技術を覚える事が出来る魔道具よ。例えば素人に剣を持たせてもろくに使えないけど、これを身につければ一時的に達人のような使い手になれるわ。そして使い続ければ知識や技術はその人のものになるのよ」

「…ふ~ん」


急に興味なさげな反応を示すフラウに、ヴィヴィは引きつった顔をして、こめかみに青筋を立てる。アレクが宥めていると、羽織を身につけたルーティが戻ってきて一回転して見せた。その姿に見とれていると、シャケに背中を押されてつんのめる。


「――っ!す、すみません!」

「―!い、いいよ別に…」


ルーティに正面からぶつかってしまったアレクは彼女の肩に触れる。顔の近さに二人とも赤くなって背けた。


「…早くするにゃー」


半眼で睨むシャケに急かされたアレクだったが、迷わず黒い巻物を手にして戻ってきた。


「…やっぱりそれよね」

「これしかないですね。あはは」


魔法使いのヴィヴィとアレクの間で話が通じ、雷火の三人はアレクが巻物を手にした時、悔しそうな顔をしていた。


「わたしにゃ~♪わたしも決めたにゃ♪」


シャケも衣服類がある一角に行き、赤と黄色で太陽の意匠が刺繍してある外套を纏ってくる。


「…陽光の加護ね。いいものだわ」

「にゃははは~♪これで疲れ知らずにゃ~♪」


喜ぶシャケの横で、ずっとリースの手を握って不安そうにしていたフラウは、カリムが大剣がいいと言うのも聞かず、入口の小物類から耳飾りを二つ手に取った。


「「えーー!!それなのー?」」

「あの…それは最低位の品ですが?それに二つは…」


落胆する子供達を他所に耳飾りを付け始めるフラウ。レミィが困惑しながらカミュを窺うと許可が下りた。


「…なぜ念話?なるほど…ほどほどにね」


リースはヴィヴィの哀れむような目に不安を感じていたが、急に耳を触られて驚く。


「――なっ!?なんです?」

「じっとして」


ルーティ達はフラウの考えがわかり、どうしたものかと悩んだ。




その後ろでは古風な短剣を手にしたバーバラに続き、雷火達が順に魔道具を取っていく。


エレクは変わった形状の籠手を、サキは小さな水瓶を。トマスは一瞬レーンを見るとフラウと同じように入口横の小物類から指輪を取った。

レーンも同じ指輪を取るとサキ達は驚く。


「え!?ちょ、ちょっと…本当に?」


トマスは少し赤い顔を固くしたまま黙っていて、レーンは無表情ながら俯く。誓いの指輪は結婚指輪にもなる高級品だった。


それを見ていたマリックもアコを見つめてから指輪を取ったが、アコはマリックを見ないようにしながら、生活魔道具類がある場所に行き、変わった見た目の壺を抱えて戻ってくる。空間拡張はないが時間が緩やかに流れる保存の魔道具だ。


「…え?」


エレク達は薄々わかっていた結末にどうしたものかと悩んだ。


「…俺たちも行っていいっすか?」

「あなた達は…ちゃんと討伐はしてたの?」

「…あ」


男五人組の駆け出しパーティーはほとんど倒していなかったようで小物類から指輪を五つ取るとレミィを窺う。彼女から冷めきった視線を送られた男達は、指輪を握り絞め、泣きながら出ていった。

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