表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
58/169

カンパニー

57


レイジは穏やかな気持ちで庭先で遊ぶ子供達を見守る。あれからモルトに入院費のお礼を言い、討伐報酬の入った袋から数枚の金貨を取り出して返した。


病院のおっさんから聞かされた費用は、たった二日の入院費でも、石級や銅級にとって大変な額だった。


その代わり病気や怪我の治療はもちろん、身の回りの世話までしっかりしてくれるらしく、血に染まった身体を隅々まで清め、着替えさせたのはおっさんだと打ち明けられた。


その後モルトに迷宮と闇ギルドついて尋ねると、新たな迷宮は上位ランク限定で開放されるだろうと教わる。闇ギルドは元から迷宮化していた地下要塞で活動していたのだから、逃げ出したりはしないだろうと予想された。


幹部はわかっているだけでも半数は残っており、要塞から持ち出された資料から、拠点は他にもある事がわかっていた。




夕方になると、頭を耳元まで覆うニット帽を被ったフィーリアが訪ねてきて、一緒に夕食をという話になった。


レイジは上品に食事をするフィーリアの姿に、何度も見惚れ、マールにからかわれる。野菜のスープやパンは食べるが肉類は取り分ける際に断り、少量で終える姿はフラウにそっくりだと思った。


(フィーリアは綺麗だけど…綺麗過ぎて彼氏彼女の関係になるイメージができないな…その点リースちゃんは細かいことにも気が利いていいな。たぶん、いや間違いなく手を出したらフラウさんに殺されるだろうけど)


目の前ではレイジが使った食器を代りに片付けてくれるリースがいて、湯気の上がる熱いお茶を入れてくれた。


モルトと何事かを話していたフィーリアは帰る際、庭先で笛を取り出して吹いていた。


「彼女のこと気に入ったかい?」

「――え!?な、なんです?」

「アッハハハ!もしその気があるなら後悔しないよう正直に伝えなよ?」


モルトはそういうとレイジの肩を軽く叩いて家の中に入っていく。レイジは顔を赤くしながら頭を掻き、自身の部屋へ向かうと装備の手入れをした。


金貨や銀貨を小袋に分け、身体の変化を確認しながら寝間着にしている赤ジャージに着替える。


(左手以外完璧に治ってるな…冒険者は無理かなぁ。商人か、以前誘われたギルドの職員になるか…いや、この剣があるんだ。冒険者しかないだろ?)


右手に持つ反りのある諸刃の剣は、刀身の中程から柄にかけて片刃になっていて、レイジは小烏丸に似ていると思った。


ライガの話では小振りなこの剣は南大陸では人気がなく、ほとんどは細槍を使う猫獣人が予備に持つくらいだそうだ。


ふと気が付くと銀の鞘にうっすら影が差す。びっくりして背後を振り返るが何もなく、気のせいだと思い横になってランタンの灯りを消した。




翌日、晴れた空からは眩しい朝陽が差し、冷えきった空気を若干温める。日増しに暖かくなってきているようだった。


レイジは顔を洗い終えると体操をする。子供達はレイジが来てからそれを真似するようになり、次第にモルトも真似をしていた。


隣のエルフ宅からは二人のエルフが出て来て、朝露を集めた瓶を井戸にいる水の精霊に捧げたり、何かの香を焚く綺麗な壺を庭の一角に置いていた。


朝食を終えるとレイジは病院へ向かう。黒髪の男と女の容体を知る為だ。

モルトとリース達が勉強を始める中、門へ向かうと明るい緑の服を着たフィーリアがいて、ついていくと言う。


「そう言えばフィーリアの事ほとんど知らないんだけど、依頼とか迷宮へは行かないのか?」

「え?あ、私は今お金に困ってないので…」


急に口ごもりながら話すと、耳をすっぽりと隠す大きな帽子の位置を調節する。白金の髪が肩へ流れると、レイジは何処かで見たような気がしたが、思い出せなかった。




病院に到着したが男も女も寝たきりで、治癒魔法と魔法薬による治療が続いていた。


「肉体よりも精神的な傷が深いのかもしれません」

「目が覚めたとしても当分は入院生活かな?そう言えば支払いって…?」


入院費や治療費はどうしているのか聞いた所、今のところは様子見で、都市が立て替えていると言われた。


本来連れてきた者が肩代わりするか、助かる見込みのある者ならば都市が立て替え、本人が目覚めたら完済するまで都市の仕事をさせるらしい。


見込みがなければ最低限の処置の後、裏の安置所に移されるそうだ。


「それって…」

「可哀想ですが…見込みがない者まで助けていたら、この病院は続けられないのでしょう」


昨夜整理して判明した懐事情から、視線を逸らすレイジ。闇ギルドから開放された次は、都市の奴隷みたいな処遇になると知り、二人は心を痛めて顔を曇らせた。




しばらく様子を見た後、レイジは一区のカンパニーへ向かう予定だったが、探索者ギルドから西へ行ったことがなく、フィーリアも詳しくない事から冒険者ギルドへ向かった。


すると一番左端の受付にいたメーリンが、何に驚愕したのか慌てた様子で駆けてくる。フィーリアから離れた場所まで引き摺られていくと、吃りながら問い質された。


「れ、レイジさん!?あ、あの人と…ど、どう…どちらまで!?」

「いぃ!?一区まで行く予定だけど?彼女は行くかわからないよ?」


急なメーリンにたじろぎながら答えると、フィーリアが離れた場所から行きますよと、当然のように答えた。


メーリンはフィーリアを頭から足下まで何度も見返しながら唸る。カウンター右端に立つチェイスが咳払いをすると、悔しそうな顔をして自分の受付窓口へ戻っていった。


レイジは戸惑いながらもメーリンの受付まで向かい、カンパニーまでの道程を聞くと少し遠い事がわかった。


「カンパニーはここから北西にある、第一迷宮区の南端にありますから。南に隣接する二区から向かっても結局同じ位になります」

「どんなところなの?」

「カンパニーの代表はゴーレムマスターと呼ばれる、特老賢者の地位を持つ少女です。敷地は迷宮都市最大規模を誇り、複数の巨大倉庫と社宅があります。旧文明の技術を研究、開発し、高級魔道具の商売と、お抱えの女性冒険者のみで構成されたパーティーがいます。他には…」


レイジは話を聞いていてまったく違うSF世界を想像する。


(カンパニーってどう考えても日本人関わってるだろ。転移か転生か知らないけど、恵まれた者と恵まれない者の差が激しいな)




フィーリアと共に訓練所を通ると、ライガがガルドと共に新人らしき数人の冒険者の指導をしている。ライガに投げ飛ばされた新人は、悪態をつきながら、さらに投げ飛ばされていた。


探索者ギルドの前を通り、西へ西へと繁華街を抜けて、第一迷宮区への西門を通る。すると広場から少し北へ行った場所に迷宮門があり、南のだいぶ離れた場所にも迷宮門が見えた。


「本当にお互いが見える範囲にあるんだな」

「七区と違い門は囲われていないですね。代わりにずいぶんと綺麗に整えられてますが…」


一区の迷宮門周辺には、堅牢な作りの大きな柱が立ち、大きな鋲が打ち込まれた門と合わさり城塞迷宮に相応しい外観をしていた。


それに対して向かい合わせに立つ二区の迷宮門には、門を覆うかのように左右から伸びた岩塔があり、門は影っていてよく見えなかった。


迷宮門を隔てる大通りの端には街路樹と水路があり、内郭の壁の代わりになっている。


大通り沿いの建物に木造家屋は存在せず、全ての建築物が整ったガラス窓を嵌めた石造りのもので、背は低いものの二階から三階建てまであった。


(すっげ!どんどん文明レベル上がってくな。もっと西へ行くと高層ビルとかあんのか?)


一区南側のカンパニーに着く頃には、日は真上に差し掛かる時分になっていた。


「結構ゆっくりしちゃったからな。帰りは急いだ方がいいか」

「ですね。迷宮都市は七都市連合でも一番広いと聞きました」


敷地は高い塀に囲まれ、入口には大きな門と守衛所がある。門の先を見上げれば、一番高い物見櫓の上に球体の像があった。


「ゲイザーを模したゴーレムのようですね。すごい…」

(ゲイザー!?ってあれか?目が光ると死ぬとか石とかになるやつか!?そりゃすごい防犯設備だな。過剰防衛が過ぎるだろ…)

「――何かご用ですか?」


レイジ達が門の前で見上げていると、守衛所の冒険者風の女性が声を掛けてくる。


「えっと、キッカさんに自動人形を直してもらってるレイジと言う者ですが?」

「…しばらくお待ちぇ!…ださい」


馴れない喋り方なのか、舌を噛んだ女性は目に涙を浮かべ、銀の耳飾りに手を添えると小声で誰かと話し始めた。


(――電話かよ!魔道具なんだろうけど…あぁスマホ欲しいなぁ)


女性が何かを操作すると大きな門が勝手に開き始め、中の様子が窺える。左手には巨大な倉庫が三棟あり、右手には先程の物見櫓があった。


右奥の緩やかな坂を登った先には大きな屋敷があり、左奥は寮になっているようだ。


物見櫓は所々建てられていて同じようなゴーレムが配置してある。敷地内では多数の人や獣人、ハーフらしきエルフが行き交い、ツナギを着た女性が倉庫に荷物を運んだり、冒険者風の武装した女達が広い敷地内を走っていた。


(女しかいねぇ…ちょっと緊張するんだけど)

「レイジ様ですね?私はカンパニーの副代表をしております、セレンと申します。代表がお会いになりますので、ご案内致します」


いつの間にか眼鏡を掛けて金髪を編み上げた、仕事ができそうな女性が立っていて、屋敷へ案内される。唯一の男レイジは多数の視線を感じてぎこちない歩き方でついていく。


「…ぷっ♪ふくくくっ♪」

「し、しかたねぇだろ。笑うなよぅ」


フィーリアが我慢出来ずに笑うと、情けない声を上げるレイジ。セレンが微笑みながら手を振ると、作業しながらチラチラ見ていた女達が建物の中へ入っていった。


「レイジ様はカンパニーで有名人なんですよ。冒険者ギルドに出入している者が訓練の様子を見ていまして、走る事や体操の重要性を最初に示した方とか。他にも明確な仕分け方や効率のよい計算方法、最近では闇ギルドに囚われていた女性を助け出した噂などを聞きましたわ」


(誰だよそれ?ってオレか?なんか実感ないな…訓練は自分の為だったし、仕事も早く終わらせれば次の仕事取れるし…助けたって言っても全員ではなかったしなぁ)


屋敷は小高い丘の上にあり、三階建てのようだ。

内部は白い石造りで一階の外壁は全面ガラス張り、二階以上は高級感ある黒っぽい木材を重ねて使用している。玄関は大きなガラスの回転扉で中はどこかの会社のエントランスのようだった。


(もう世界が違うよ…格差社会とかのレベルじゃねぇ…)


一階は受付と広い応接室や会議室、自動人形やゴーレムの展示場、マスター専用工作室等の仕事場がある。

二階は客室と各部署の責任者の個室があり、遊戯室、調理場、浴室など生活空間があった。

三階がテルルとセレンのプライベート空間らしい。


レイジがキョロキョロしていると、応接室に案内される。中にはガラス製の大きな楕円形テーブルがあり、白いモコモコした椅子が並ぶ。一番奥には誰かが座っているのか、左右に椅子を回転させていた。


「テルル代表。レイジ様とフィーリア様をお連れしました」

「――んっ!ごくろー!」


と振り返ったのは銀髪ロングに銀の瞳をした少女だった。


(フラウさん!?な訳ないか…アルビノか?てかコスプレか?)


モコモコした白い椅子に深く座った少女の姿は、リースより少し幼い感じを受けた。赤いゴスロリ衣装を着て、ルービックキューブを弄る様はとても良く似合っていて、違和感がなかった。


不敵な笑みを浮かべながらレイジを見た後、右手人指し指を向けてきて言い放つ。


「白金貨っ!白金貨1枚で買ってやる!喜べ!」

「…ちょっと失礼します」


セレンがスッとテルルに近づき椅子を回すと、拳骨が落とされる。ゴツンという音と、ギャ!という声が重なり、再び回転するとテルルは涙目だった。


「…よく来た。私がテルル…カンパニーの代表よ!自動人形は順調に修復されてるわ…うぅ」


と、頭を押さえながらセレンを睨んで呻く。


「…あ、あぁそうですか。ありがとうございます」

「あの自動人形――彼女は旧文明時代に造られた自動人形の中でも初期の原型。とても珍しく私の所にもない。そこで!私に売りなさい!」


いきなりの申し出に戸惑うと、セレンがテルルの頭をグリグリと拳で抉りながら話す。


「失礼しました…代表は珍しい自動人形に興奮しているようです。代わりの者を呼ぶのでお待ちください」

「いたい!いたい!バカになるっ!」


セレンの説教を受けるテルルを見ていると、レイジ達が入ってきた扉とは別の扉からキッカが入ってくる。

セレンと話した後に、レイジ達に人形の状態を伝えた。


自動人形は整備不良と瞬間的な衝撃で機能が停止しただけで、部品の交換と調整をすれば動くようにはなるという。

ただ内部の部品はどれもミスリル銀製で、ミスリル銀の素材か、ミスリルを含有する金貨と錬金術で生み出せる魔法銀、または銀貨が大量に必要になり、重要な拡張機能を持つ部品は再現出来ず、在庫も現在はないそうだ。


ちなみに外装は全てアダマンタイトで大金貨が必要らしい。

最後に白金貨をいくら積まれても売らない方がいいと言われ、テルルを見れば顔を真っ赤にしてキッカを睨んでいた。


「大量って…どのくらいですか?」

「金貨だけでも頭部の平衡機能に300、胴体の動力装置に700、全体の可動部に500」

「白金貨1枚に大金貨5枚…ハハハッ…無理っすね」


レイジが即答するとテルル達は少し驚いた顔をする。


「暗算できるんだ…やっぱり自由民国は学力の高い人材が多いわね」

「へ?自由民国?」


レイジが何を言われているのか解らず変な顔をすると、テルル達が少し間をおいてハッとなり、セレンとひそひそ話しを始める。


「マスター、この方があの方の言われていた――だとしたら…」

「むむむ!け、けど…」

「あの方との約束を反故にすると…それに調べによると例の関係者かと」


テルルががっくりと肩を落とし、セレンが何かを計算し始め、キッカがじっとレイジを見つめる。


「う~!わかったわよ!直すわよ!ただし…キッカを専属の技師として七区へ派遣するわ!あなたは活動拠点を用意しなさい!」

「へ!?い、いや金ねぇって…」

「修復の代金はこちらで持ちますわ。代わりにレイジ様には七区に自動人形の調整や修復のできる拠点を用意していただきます。あとうちの商品の宣伝、販売もしてもらいましょう。カンパニーは高級魔道具専門で、国や大貴族相手にしか仕事をしないという先入観を持たれています。生活魔道具の販売ができる場所もお願いします」


セレンがどんどん話を進めてしまい、レイジは無償で自動人形を修復してもらう代わりに、キッカの活動拠点を用意することになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ