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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
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その後

56


クリスマス間近の寒い休日。

エアコンの効いた快適な部屋では、ベッドに寝転がったレイジが、スマホを片手にネット小説を見て寛ぐ。

その脚にはギプスがしてあり、顔や手には擦り傷が目立つ。

銀青色の猫がベッドに飛び乗ると、レイジの顔を跨いでいく。


その猫は一週間前に助けた他所の家の飼い猫だ。

トラックと接触して危うく死にかけるも骨折だけで済み、怪我一つなかった猫はあくびをしていた。


飼い主は名乗り出ないどころか、訪ねて行けば迷惑そうに猫を押し付けてきて、今ではレイジの家の猫となっている。


人懐っこく、甘えん坊で、スマホを弄り出すと決まって戯れて来る。鮭の切り身を食べる変わった猫だったので、安易にシャケと呼んでいた。


生き物を飼うのは初めてなレイジは、自身でも驚くほどシャケに夢中になった。

抱き上げた猫に頬擦りしていると声が聞こえてくる。


「君ねぇ、また死にかけたの?こうやって話すのは1度だけのつもりだったのに…シャケちゃんを見習いなよ」

「――!?」


いつの間にか上も下もない空間にいたレイジは驚く。

目の前ではおかしな人影が、やれやれと首を振っていた。


「まぁ今回は間接的に役立ってくれたみたいだから、特別だよ?ただし次はないからね。何か知りたいことがあるなら直接会いに来なさい」


そういうと気配が消え、ぐるぐると全てが回りだした。




目が覚めるとベッドの上だった。

白い天井には染み一つなく、ベッドの枕も布団もふかふかで温かい。一瞬日本に戻ったかと錯覚するが、部屋に入ってきたフィーリアを見て違うとわかった。


「レイジさん!目が覚めましたか?良かった…」

「えっと…っ!」


自身の顔を触ろうとして、左手が無いことに気付き動揺する。


「ごめんなさい。欠損は私にはまだ治せません…レイジさん。私は命を粗末にする人が嫌いです。あなたのとった行動は愚かです!」

「――っ!…わかってる。自己満足だって。ただの逃げだって。だけど弱いオレにはこんな戦い方しか」

「弱いのはお前の心だ。生きる術は学んだはずだ」


部屋の入口にはデイズがいて、外からはモルトの声もする。

身体を起こそうとするとフィーリアが手伝ってくれて、左手が無い事と、髪が短くなっている以外は完治していることに驚いた。


「彼女に感謝しなよレイジ君。普通なら死んでたからね。それとここは中央の病院だよ。気になってるみたいだからあの後の事も教えよう」


モルトによればレイジは丸一日眠り続け、今はお昼過ぎだと言う。意外にも早く目覚めたので、皆多少は驚いていたようだ。

レイジが倒れた後、要塞内部では濃霧が発生し、捜索は中断して撤退となった。

今までに判明した事は、第四迷宮区全域が迷宮化した事、次いで死霊バジリスクに足止めされていた獣人達も、濃霧の影響で撤退し貧民街も迷宮化した。


螺旋迷宮に潜っていたカミュ達からもたらされた情報によれば、魔物が多数発見され、迷宮核が復活している可能性があるという。闇ギルドの長は見つからず、現在対策を練っているらしい。


「四区と螺旋迷宮に地下要塞が全て繋がり、それに貧民街が迷宮化。偵察した探索者の話だと、他の迷宮と同じく空間拡張と改変が起き、魔物達も多数いるみたいだよ」

「そ、そんなに迷宮が…」


明日にも市長から発表があるらしく、おそらく貧民街は新たな迷宮となるが、第四迷宮区、螺旋迷宮、地下要塞は全体で1つの迷宮として考えられるだろうと予想された。


「問題はただの迷宮ではないことだよ。人が生み出した迷宮であり、赤い目をした人や獣人が目撃され、倒すと魔石を残したらしい…」

「え!?それって迷宮核が人や獣人を生み出したってことですか!?」


モルトは静かに頷き、前例のないことだと言う。


「ただの迷宮核ではないってことだね。もしかしたら…核を取り込んだ迷宮主がいるのかも」


モルトとデイズは、明日冒険者ギルドに来るよう言い残して出ていった。フィーリアから囚われていた二人は無事救出され、隣りの病室にいると教えてもらう。


「レイジさん。今のあなたはたくさんの人に支えられて生きています。それなのにあんなことをしてはみなさん、きっと悲しみますよ。もっと周りの人の気持ちをわかってあげてください」

「…ごめん」


フィーリアはため息をつくと帰る準備を始め、レイジに今日一日はこのまま入院して明日退院するよう告げる。

治療院は主に魔法による早期回復を施す場所で、病院は長期入院が必要な者が、魔法や魔法薬による治療を受ける場所となっていた。

フィーリアが帰り一人になると昨夜の出来事が思い返された。


(結局迷惑を…心配掛けてることに違いはない。どんな世界でも生きている以上、支え合って生きてるんだ。あんな真似はもうやめよう。だけど闇ギルドのような連中もいる…ギルドマスターはオレがやらなきゃ…?)


横のテーブルに置いてあった銀の鞘は傷一つなく、剣もしっかり収まっている。服やポーチもあるが苦無や手裏剣は使い果たし、鎖鎌も自動人形に使った際に鎖は切れ、鎌も紛失していた。


(剣が…直ってるな。でもこの手じゃ…これからどうするかなぁ)


いろいろ考えていると次第に瞼が重くなり、シャケの事を思いながら眠った。




翌朝、身体を揺すられて目が覚める。

綺麗なナースが…と思ったが、がっしりした体格のおっさんに優しく起こされた。

ひどくがっかりしていると、一の鐘はなったようで、これ以上は追加料金が必要だと言われる。

昨晩まではモルトが出していたようで、また迷惑をかけていることに落ち込んだ。

急いで着替えるが、左手がないという事が想像以上に不自由な事を知る。


(これ…日常生活も大変だぞ?ギルドの手伝いも出来るかどうか…)


ベッドを直していたおっさんが気付き、レイジに欠損の治療がしたければ、高位の回復魔法を使える者がいる魔法王国か、神聖教国に行くと良いと教わった。

だがそれに見合う高額な治療代を覚悟しなければならないそうで、冒険者で言うなら銀級以上の稼ぎで数年分はするそうだ。


(シルバーランクの稼ぎって…大金貨!?はぁ〜)


帰り掛けに隣りの病室を覗くと、未だ眠ったままの黒髪の男がいて、おっさんが言うには女の方は更に状態が悪く、奥の部屋に隔離されているという。


病院を出ると冒険者ギルドの北の通りである事がわかった。

通りを挟んだ反対側には訓練所も見える。

見上げれば朝日が眩しく、冬の晴れた日の空気は清々しいものだった。


(いろいろあったけど闇ギルドの拠点は潰した。同郷の男も助けたし、今後の身の振り方を考えないとな)


冒険者ギルドへ向かうのに訓練所北の入口から入ると、ライガとオラが待っていたようにいた。

レイジの姿を見て一瞬笑顔を見せたが、すぐ呆れ顔になり首を振っている。


「バカが来たぞ。ったく…無茶しやがって」

「レイジがバカなのは最初からだぁ。まぁ計算だけはできるみたいだけどなぁ」


ライガ達はヴォルフの事を伝えに来たようで、五区の東、鎮魂の森に眠る彼女のもとに埋葬したそうだ。

獣人は葬式や墓石なんて習慣がないらしく、仲間内で別れを惜しんだら、自然豊かな場所に埋葬することが普通らしい。


そして唐突にオラは冒険者を辞めて、港湾都市に帰郷するという。実家の仕事を継ぐそうで、これからは東の森を管理するそうだ。

左目に眼帯をしているライガも、引退してガルド教官のもとで新人育成の仕事を始めていた。


レイジが小さな声で謝ると背中を思いきり叩かれ、笑いながら悪くないと言い、もとから来年には引退する予定だったと話す。二人が去っていくとガルド教官が近づいてきた。


「お前を初め見たときは自殺志願者かと思ったが…見違えたぞ、闇ギルド幹部の一人、調教師イヴ討伐の報酬が冒険者ギルドで出ている。それとデイズが持ち帰った物があるそうだ。忘れず受け取っておけ」

「討伐報酬?わかりました。ありがとうございます」


ガルドは伝え終わるとさっさと行ってしまった。

レイジが冒険者ギルドに入ると受付のメーリンがすぐ気付き、小走りに近寄ってくる。


「レイジさ――っ!左手が!?…いえ、よく生きて…心配しましたよ!本当に!」


メーリンが飛び付き胸を何度も叩いてくる。

冒険者ギルド内にいた少なくない人数の男冒険者達から、殺気のこもった視線が向けられる。


「大丈夫。大丈夫だって。メーリン近い近いって…」

「――!し、失礼しました。レイジさん、二階の会議室でギルド長から話があります。それと討伐報酬がありますので後で私の所に来て下さい。いいですね!?」


有無も言わせぬ勢いで迫られ、頷くとカウンターを通り二階へ上がる。資料室の横、広い部屋には長テーブルに椅子が複数あり、奥の床では見知らぬ女性がガチャガチャと何かを弄っていた。


「――あなた?彼女を連れてきたの?」


立ち上がった女性はレイジとほぼ同じ身長で、オレンジ色の髪を後ろで束ね、ツナギを着た如何にも技術者な格好をしている。


彼女の足下を見ると地下要塞で戦った自動人形があり、後頭部や背中の装甲が外され、色々な部品が見えていた。


「彼女?あ~たぶんデイズさんが拾ってきたと思う。オレは倒したけど気を失ってたから。え~と?あなたは?」


女性はキッカと短く答えると再び作業に入り、タイミングよくギルドマスターらしき人物が会議室に現れた。


「お前がレイジか?…ふむ?まぁいい。今回の闇ギルド討伐はご苦労だったな。緊急依頼はランクが足りず受けれなかったらしいが…幹部討伐報酬は出るぞ。それとランクも上がるからな。あぁデイズが持ち帰った自動人形はお前に渡すよう言われている」


ギルド長は一方的に話し終えるとキッカと何事かを話し、会議室を出ていった。

キッカも自動人形を台車に載せると、持ち帰って修理すると言い、明日一区にあるカンパニーへ来いと言い残して出ていく。


(皆一方的だなぁ…いやオレがトロくなってるのか?今までがあっという間だったからなぁ)


ノロノロと一階に戻ると、受付を交代したらしいメーリンに連れられ、奥の部屋に入る。その部屋ではチェイスと男性職員が勘定をしていた。


「…来たか。お前の分だ。あとメーリンにギルドカードを渡してランクの更新をしていけ」


受け取った袋はかなり重く、今すぐ中を覗きたい衝動にかられる。ギルドカードをメーリンに渡すと部屋を出ていった。

するとチェイスが要塞であったことと、今朝あった市長からの発表を教えてくれる。


チェイスが対峙していた闇ギルド幹部、戦闘部隊長のロトゥは抜け道を使い何処かへ消え、モルトが戦ったトロル魔神は濃霧の影響で討ちもらしたらしい。


市長の発表により第四迷宮区全域と地下要塞、螺旋迷宮を人が造ったものとして、新たに禍罪迷宮と命名し、貧民街を死街迷宮とした。

隣接する迷宮区の門はより厳重になり、今は調査期間で攻略はまだ先になるようだ。


「各迷宮には守護者がいる。表層となる四区には濃霧の中を飛び回る金属製のガーゴイルがいて、地下要塞にはトロル魔神と不定形魔獣がいる。死街迷宮には死霊バジリスクと魔人騎士がいるそうだ」

「…山盛りですね。なんか魔法で一掃出来ないですかね?」

「できるぞ?」


レイジが何気なく聞いた質問に、軽く答えるチェイス。

間の抜けた顔をしていたのかチェイスが軽く笑い、手に負えなくなった迷宮は世界協定の執行者が光の柱をもって、周辺ごと灰塵に帰すと言う。

もちろん迷宮都市が無事な訳ないので、ここに住まう人々は様々な事情を抱えつつ、迷宮に挑むのだそうだ。


メーリンが戻りギルドカードを渡されると、銅玉が嵌め込まれていた。銅級になるには試験が必要で、実戦能力だけ認められた今回は玉証だけらしい。


(こういう時って飛び級するんじゃないのか?やっぱ優しくねぇな、この世界…)


部屋を出るとメーリンに手を引かれ、別の部屋に連れ込まれる。ドキドキしていると、無茶をしたことを長々と説教され落ち込む。帰ってよしと言われ、トボトボと七区へ向かった。




お昼頃、孤児院に着くとモルトと子供達に出迎えられた。

左手がないのを見ると子供達はわんわんと泣き、抱きついてきた。

それに対しレイジは強がるが思わずもらい泣きする。


(これだよ…こういうあったかい人達に出会えたことがオレのチートだろ!あいつらの方がオレよりよっぽど辛く苦しかったはずだ!オレがやらなきゃな…もう簡単に命を投げ出さない、1人でも多く救う!)


病院で今もなお眠っている男を思い出しながら、銀色の鞘に収まる弱者の剣をしっかりと握った。

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