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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
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第四迷宮区強襲

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まだ陽も昇らない時分に目覚めたレイジは、モルトから貰った道具を確認する。狭い物置部屋の中には、ギルドの雑用で稼いだ金で買った、中古の小さなランタン型魔道具があった。


時々消える魔道具を気遣いながら、鎖鎌の鎖の丈夫さや端の分銅の重さを調べ、黒い粉の入った紙玉を慎重に取り付けていく。紙袋に入った黒いパウダー状の粉を確認して、ウエストポーチにしまう。


黒革服のポケットへ細々とした道具を入れていくと、胸ポケットの中から硬い感触がする。取り出してみると鳥の造形が素晴らしい、赤水晶のペンダントが入っていた。


(…なんだこれ?あ、リースちゃんに渡すんだったな…あ?誰からだっけ?)


朧気に覚えているのは男の声で、よく考えたら知らない相手から貰ったのだと今さらながらに気付く。




顔を洗いに出ると、モルトを始めロサナと子供達も庭の井戸にいて、顔を洗っている。その様子はなぜか楽しそうだった。


「やぁ、おはよう!君も顔を洗わせてもらいなよ」


モルト達は井戸から上半身を出した水の精霊から水をもらい、顔を洗っていた。

透明な水の人型がこちらを向いているが表情はわからない。

アニィに続いて両手を出してみると、精霊は水の腕を上げ、手の平からは冬場の水とは思えない温かな水が流れだした。


「子供達に呼ばれて来てみたら、井戸から顔を出して朝日を見ている精霊がいてね。近づいたら水をくれたんだ」

「そ、そうですか…フラウさんは知ってるんですかね?」


水の精霊はレイジの言葉にコクコク頷いてみせると、皆言葉がわかることに驚いた。はしゃぐ子供達の元へ風が吹き、肌寒かった朝の空気が幾分か和らぐ。


「アハハハッ!いつの間にか力のある精霊達が住みついちゃったねぇ。まぁ…いいか♪」


気楽に笑うモルト。そこへ隣の家から声がした。

振り返ると金色の髪に長く尖った耳をしたエルフが数人、家の窓や庭からこちらを見ていた。


「あぁ昨夜来た時にね。隣に越して来るのでよろしくと言っていたよ」

「…は?エルフが隣に住むんですか?」

「何かの務めがあって、その活動拠点にするらしいよ」


エルフ達がその場で膝をつき祈りを捧げ始めると、水の精霊がエルフに向かって水を飛ばして遊び始めた。


隣人の悲鳴を他所に、子供達を中へ誘いながらモルトは今日の予定を伝える。


「さぁ私達は朝食にしよう。あと私とレイジ君は今日一日出掛けるからね」


レイジは慌ててキッチンへ向かうリースを呼び止め、ペンダントを渡したが不思議がられた。その横からモルトが覗き見て驚く。


「おや?不死鳥の…会ったのかい?グレンに」

「え?あ、いや…すみません。よく覚えてないんです」


モルトが言うには、このペンダントは孤児院最初の子供グレンが持っていた物で、亡き母の形見らしい。

リースより暗めだが赤髪の冒険者なのだそうだ。


リースはペンダントを大事にポケットにしまい、朝食の準備に向かう。レイジが振り返るとエルフが二人、門から入ってきていた。


井戸の前で熱心に話し掛けている姿や、風に煽られ転んでいる姿に少し見入った。


(エルフだよな?…すげぇ美人だ。最後に良いもん見れたな…)




朝食後、直ぐに用意して玄関へ向かうと、鞘に収まりきらない曲剣を見たモルトが、研ぎ直しが必要だと言う。レイジは戻ったら直す事にして腰に下げた。


ロサナとリースは心配した表情を見せるが、レイジが笑うと苦笑し、子供達と共に見送る。


門には見慣れない人が立っていてモルトに朝の挨拶をする。

声からして女性だとはわかったが、細剣を持ち、キャスケットのような大きめの帽子を被って、深緑の動きやすい服を着ている姿は、どこか男の子っぽい感じがした。


「レイジ君。彼女は同じ冒険者の…フィーリア君だ。今回一緒に行くからね」

「よろしく…?」


女性は頭を下げるだけで、モルトについて冒険者ギルドを目指した。




七区も中央も街の人々の様子はいつも通りで、これから四区で殺し合いがあるとは思えない穏やかさだった。


冒険者ギルドも出入する者達に変化はなく、モルトはカウンターにいたデイズとチェイスに挨拶すると、さっそく四区へ向かった。


「時間がない。五区の獣人達が予定より早く貧民街に入ったと知らせがあった。他のメンバーは先に向かわせた」

「あらら、出遅れたか。レイジ君走るよ~」


デイズの話を聞いたモルトは訓練所に向かい走りだした。

レイジも続くが差は開くばかりだった。

フィーリアでさえ遅れずについていく現実に、レイジの心中に卑屈な感情が見え隠れする。


(わかってる!わかってるよ!オレはオレのできることをするだけだって!)


訓練所を通りすぎ南西の通りへ出ると、急に人の姿がなくなった。代りに門へ近づくと武装した自警団員が多数取り囲んでいた。


「…よし。ここから先は第四迷宮区。迷宮都市の裏の社会が支配する場所だ。覚悟はいいな?」


チェイスの問いに頷き、腰の苦無と手裏剣を確認する。

門の近くには一目で格の違いがわかる冒険者達がいて、合図を待っていた。


「まず倉庫の建ち並ぶ通りを抜け、迷宮前広場を制圧する。闇ギルドの拠点入口は広場南の教会という話だが、他に三箇所、怪しい場所も同時に攻める。オレ達あぶれ組は広場へ行かず北西の倉庫だ」


デイズの話を聞いていると、合図が出され冒険者達がなだれ込み分れていく。


建ち並ぶ黒塗りの倉庫は大きくしっかりしていた。

チェイスを先頭に走ると、左右の倉庫から大きな魔獣が飛び出してきた。


「当然のように登場か」


(これが本物の魔獣!人が生身でどうにかできるサイズじゃねえぞ?)


肩から大きな角が生えた四メートルはある四足の獣―ディアブルホーン―や、頭が二つある大蛇―ツインヘッド―が襲い掛かる。


チェイスは青い残像を引きながら走り、振るわれた剣は大きな角を容易く切り落とした。そして右側の前後の脚を断ち切ると、続くモルトが一太刀で首を落とす。

二頭大蛇も後方から飛来した光弾が頭を吹き飛ばし、あっさり倒れる。どちらも黒い靄を放出して何も残さず消えた。


(…だよな。これが異世界の人だよな)


目の前で起きた一瞬の出来事に高揚感もなく、ひたすら走り続ける。正面には大きな倉庫があり、扉は空いていて左右の曲がり道には樽や壊れた馬車など、障害物が置いてあった。


「――ゲイザーだ!」


そう叫ぶとモルトはチェイスと共に右へ跳躍する。その高さに躊躇してしまったレイジは、後ろから抱きついてきたフィーリアによって、左の建物上まで運ばれた。


倉庫の天井に隠れていた大きな目玉の化け物―イビルアイ―が姿を現し眼球が閃く。つい先程までいた路地の地面が溶解して弾ける。直後遠方から飛んできた光弾が、不可視の壁諸共イビルアイを貫いた。


(おわっ!な、情けねぇ…てか凄すぎるだろこの人…)


フィーリアは屋根の上で膝をつくレイジを、翠の瞳でじっと見下ろしてくる。その綺麗な瞳と十六、七歳くらいのフラウに並ぶ美しい顔に、レイジは思わず見とれてしまう。

すると向かいの倉庫上にいたモルトがどこか楽しげに敵の到来を知らせる。


「立てますか?」

「あ、あぁ!大丈夫!」


屋根の上に血のように赤い頭をしたゴブリン―レッドキャップ―が三匹、短剣を持って現れ、いつの間にか下に降りていたモルト達は鳥頭の熊―アウルベア―と多数のレッドキャップを相手に無双していた。


フィーリアがレイピアを抜き、レイジの出方を窺う。

レイジは苦無を握り絞め、迫る赤頭鬼の短剣を避けると、その腕を引き寄せながら首を刈った。

すぐ後ろに続く赤頭鬼めがけ、一回転しながら一匹目を投げつける。飛び越えてくる三匹目を左腰に下げた銀の鞘で叩き伏せると、苦無を突き立てた。

ニ匹目が起き上がる前に蹴り倒し、短剣を鞘で払い、止めを刺す。とそこへ光弾が飛んできて背後から迫っていた四匹目の頭を貫いた。


「フフフッ♪お強いのですね♪」

(チッ、4匹目か…見えてなかった)


若干赤くなりながら後方に手を振って感謝を伝える。下を見るとすでにモルト達の戦いは終わっていて、倉庫内を調べに入っていた。


「私達も向かいましょう。さぁどうぞ」

「――っ!い、いいよ!自分で降りられるから」


両手を広げて待つフィーリアの姿を見て、真っ赤になりながら視線を下げる。五メートル以上はありそうな高さに一瞬怯んでしまうが、意を決して飛び降りると意外と簡単に着地できて拍子抜けした。


(あ…れ?なんかいけるな…?)

「ご無事ですね♪ご自身のお力を信じてはいらっしゃらないのですね」

「…オレは弱いよ。期待しないでくれ」


そう言ってモルト達と合流する。倉庫内の左側には黒外套の男が死んでいて、チェイスが辺りを調べていた。


「…ここか!よし!」


黒外套の死体の近くには安物の家具が山と積まれていて、重そうな木の箱が引き出されると倉庫奥の床が動きだし、階段が現れた。

チェイス、モルトに続いて降りていくと、いつの間にかデイズが合流していて、レイジとフィーリアが続く。


(どっからいつ来た?銃は?あの距離で届くってなんてチートだよ…)


しばらく下ると先が明るくなり、モルト達が何かを見上げていた。


「どうし――!?」


そこは広大な空間が広がる場所で、一切の照明なしに地下とは思えないほどの明るさがあった。

正面には何かの灰色タンクが多数並び、中央には大きな要塞を思わせるニ階建て相当の黒い建物がある。


「――これは驚いた…想像以上だよ」

「モルトさん、これはまさか!?」


チェイスが驚愕し、デイズも警戒する。

タンクやそれらを繋ぐパイプからは、何やらゴボゴボと音がしていて不気味だ。

遠くからは争う音が絶えずしていて、唸り声も何処からかしていた。


「うん…間違いないよ。ここは迷宮だ」

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