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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
53/169

第四迷宮区強襲前夜

52


闇ギルドの幹部ザグリと戦闘部隊を倒したレイジ達は、第五迷宮区の南門で獣人達に迎えられていた。


大きな獅子獣人の後についていくライガを見て、自身もついて行こうとするがオラに止められる。


「レイジィここまでだ。後はゆっくり休めよ~。あっそこのおっさんは持ってってな〜」

「オレも戦う!連れてってくれ!」

「…だめだぁ。レイジは弱いからなぁ。ガハハハッ」


オラは取り合わず行ってしまう。代りにデイズがロメロを軽々と引き摺ってきて、孤児院にアニィの事を伝えるように言われた。


「…そう、だった」

「やる気があるならモルトさんに聞いてみろ。おそらく目覚めたはずだ」


デイズは拐われていた子供二人とロメロを連れて、六区の夜番をしている衛士の元へ向かう。残されたレイジは左手に持つ歪んだ剣を握りしめ、七区の孤児院を目指して歩き出した。




夜の通りはとても静かで寒く、思い出したくないものほどよく思い出された。


(彼女は…日本人だった!オレと同じ高校生の…彼女がヴォルフを…どうしてだ!なんでこうなった!…オレが弱いからだろっ!1人じゃ何もできないから、あいつらを巻き込んで死なせちまった!!)


通りの木を拳で殴ると乾いた音がして、木は幾分か凹んだ。

レイジは手から伝わる痛みに顔を顰めるが、何度も殴りつけると皮が破けて血が流れ出した。


ぐるぐると同じことを考えて苦しんでいると、近所の家屋に明かりが灯り、慌ててその場を離れた。


「なにやってんだオレ。結局アニィちゃんを連れ戻せなかった…情けねぇ」


六区から七区へ入り、考え事をしながら歩くとあっという間に目的地に着いた。

孤児院の入口には明かりが灯っていて、数人の人影が見える。


(戻るのか。戻る資格があるのか…さんざん世話になってこのザマでっ!)


顔を下げ振り返ろうとした時、人影からリースの声がする。ビクンと過剰に反応すると、いつの間にか目の前にモルトがいて驚く。


「――っ!?」

「レイジ君!心配を掛けたね。私はこの通り無事だよ。さぁ来て!皆心配して待ってる」

「オ、オレは…ません…」

「アニィの事は聞いたよ。迷惑を掛けたね。でも大丈夫!とりあえず行こう」


モルトに腕を捕まれ強引に連れられると、孤児院の入口には、リースの他になんとアニィがいて、金色髪に尖った耳のエルフが二人いた。


「――なっなんで?」

「レイジさん!おかえりなさい!無事で良かったぁ…アニィはこちらのエルフの方々が助け出してくれて無事です」

「妖精里から来たのだが、異様な速さで走る不審な馬車を見つけてな。精霊がざわつくので調べたところ、子供達が縛られていたので、とりあえず東門まで連れてきたのだ」


一歩引いた位置にいたエルフが補足する。

アニィは泣いていたのか、泣き腫らしたような赤い目をしていた。


(無事?…だったんだ。そっか…はははっ)

「よ、良かった。良かったなぁ!アニィちゃん!おかえり!」

「レイジー!」


アニィがトテトテと走りよりレイジの腰に抱きつくと、レイジも腰を落とし頭を撫でてやろうとして止まる。


「あ!怪我してます!ロサナさん呼んで来ますね!」

「――私が治しましょう」


そういうと今まで黙って成り行きを見ていた、白金の髪をした美しい女性が手を振る。するとレイジの右手の甲の傷が瞬く間に癒え、跡も残さなかった。


「――あ」

「いえいえ、お気になさらずに」


アニィの頭に右手を乗せ撫でてやろうとするが、視界が滲み、アニィが不思議に思い見上げる。

レイジは泣いていた。


「レイジー?大丈夫?」

「…皆。外は寒いから中に入ろう」

「では私達はこれで、行きましょう」


後ろのエルフがそう言うと、白金のエルフがレイジの様子を窺ってから去っていく。

リースがアニィを連れて家に入ると、モルトがレイジの横に立つ。


「皆、君に感謝している。普通なら目を背け耳を塞ぐだろう。相手は殺しも厭わぬ連中だ。君は立派だよ。アニィを助けに行ってくれて本当にありがとう」

「――っ、オ、オレは…なんにも…」


レイジは溢れる思いと涙に言葉が出ず、暗い夜の中、静かに泣いた。




モルトに背中を押されて玄関に入ると、ロサナと子供達が起きていて、お礼を言ってくる。レイジは少し微笑むと手で制し、装備を置いて来ると言って部屋に入っていった。


「レイジさん大丈夫でしょうか?なんだか様子が…」

「…後でデイズも来るだろう。話を聞いてみよう」


ロサナが温かい飲み物を用意しモルトが答える。

リース達は二階に上がり寝床の準備を始めた。




レイジは自分が使っている物置部屋に入るとそのままで、自分のした事の意味を自問自答し、沸き上がる激しい感情を抑えていた。


(バカだ…オレは大バカだっ!)


心に深い後悔と怒り、悲しみ、苦しみ等様々な思いが何度もあふれ、声なく涙を流した。




しばらくすると部屋の外に気配がして、モルトが話し掛けてくる。


「レイジ君、ちょっと話さないかい?」


レイジは重い体をなんとか起こし扉を開けると、モルトが大きな杯を持って立っている。


「ちょっと飲もうよ。今夜は冷えるね~」

「…オレ、酒は」

「ちょっとだよ。ちょっと。大丈夫だから」


モルトは強引に引っ張り出すと自身の部屋まで連れていき、杯を勧めてくる。


「…聞いたよ。さっきデイズが来てね。ヴォルフ君は残念だった。素晴らしい戦士だった」

「――!オレの…オレのせいで…」

「違う。違うよレイジ君。悪いのは闇ギルドの連中だ。そして私のせいでもある。私達年長者が力も時間もあったのに、解決も対策もとらなかった。先延ばしにした結果、若い命を犠牲にしてしまった。すまない…だがもうこれまでだ。私も全力で戦うつもりだよ」


レイジは黙ったまま杯の琥珀の液体を見て、様々な思いを落ち着いて考える。


(落ち着け。もう充分自己嫌悪はしたろ…これ以上落ちようがない。死ぬか?バカか?本物のバカだ…やることやってからだろ)


モルトは夜が明けたら冒険者ギルドの上位ランク限定の緊急依頼を受けて四区へ乗り込むと言う。

レイジは真っ直ぐ見つめ自分も連れて行ってほしいと言うと、モルトは頷き徐に立ち上がると、部屋の奥から袋を持ってくる。


「君は道具の扱いがうまいらしいね。ギルドでも噂になってるよ。変わった考え方でよりよい成果をあげると。これを君に譲ろう」

「…え?な、なんでこれが!?」


モルトが出した袋には様々な道具が入っており、赤い筒や、きめ細かい黒い粉の入った紙袋、粘土のような黒い塊、そして苦無や手裏剣があった。


「昔、自由民国に行った際に購入したものだよ。投げて使うらしいけどうまく投げれなくてね。他のも各地を見て回った時の物だよ」


レイジは道具を一つ一つ確認していき、有り難く受け取る。

最後に万が一の話をしようとすると、モルトは首を振った。


「万が一なんてないよ。君は必ず生きて戻る。そう約束しないなら連れて行かないよ」


レイジは頷き、約束すると出発まで一休みする。


光源のない真っ暗な物置部屋で、脚を曲げて横になるレイジの側を、更に深い闇がふわふわと浮かんでいる。歪んだ剣を抱いて、レイジが眠る姿をじっと見下ろしていた。

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