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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
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坑道迷宮深層へ6

49


紅蓮の炎が大蛇となり土人形を焼き払う。表面が焼かれると動きが遅くなり、次第にボロボロと崩れ去った。


ヴィヴィが掲げる深紅の杖は、噴き上げるマグマの形状をしており、魔力を通すと上部の宝石へ向かって赤い輝きが流れる。多角形の宝石を覗き込めば、内部では炎が吹き荒れていた。


「…土塊は任せて。ミスリル銀は魔法に対する耐性が高いから核を狙うのよ」


土塊の巨大なゴーレムは動きが鈍く、腕を振るって土の塊を飛ばすか、土人形を生み出す事しかできないようだった。


それに対しミスリル銀製の小人型ゴーレムは、胸部が発光した白銀の身体に地面から吸い上げた土を纏っている。右腕を鋭く尖らせた杭の形状にして、伸縮自在の突きを繰り出した。

しかし繰り返された突き攻撃の中で、杭の伸縮に合わせて身体の線が細くなるという脆弱性を露呈していた。


「にゃははは~♪びっくりしたにゃ。けどやっぱり強くないにゃ」


シャケが振るう魔槍は螺旋形状の突きに特化した槍だ。普段使う細槍より長くて重いが、力の腕輪により軽々と振り回している。魔槍が生み出す渦巻く風は土の装甲を吹き飛ばし、硬質な音を立てて小人型ゴーレムの核を貫いた。


「…出来たら最小限で済まして。光らなくなれば回収出来るわ」


首から上を失った土塊ゴーレムの肩部に、核を見つけたフラウが跳躍して斬りつける。しかし核は胴体内部を流れるように移動していき逃れた。


直後に脚部の一部が隆起して小人型ゴーレムが飛び出してくる。着地する瞬間を狙った白銀の杭を剣の腹で受け流し、フラウはあえて転がる事で距離を取った。


勢い衰えぬ白銀の杭は地面を大きく抉り、その威力を物語る。その隙に土塊ゴーレムは破壊された小人型ゴーレムへ寄っていく。


「…ミスリル銀を回収する気だわ」

「アレク!先に回収して!核は全て破壊するわよ!ヴィヴィも諦めて」


ブーっと膨れるヴィヴィを他所に、シャケとフラウは着実に核を削り出す。だが後一歩というところで狙ったように白銀の杭が飛び出し、二人に冷や汗をかかせた。


「面倒な奴にゃ!さっさと素材になれにゃ!」

「…焦らないの。土塊のゴーレムは確実に消耗しているわ」


そう話すヴィヴィの視線の先には、パーティーに加わってから今一つ連携がうまくとれないバーバラがいた。

ヴィヴィの前で盾を構えて土人形の相手をしていたが、速度と質量のある土の玉をまともに受けて尻餅をつく。

その際、腰の魔剣に手をやり何かに抗う様な表情を見せると、怯えた様子で辺りを見回し、盾に隠れるようにして戻ってきた。


何か言いたげなヴィヴィの後ろでは、新たに分離した小人型ゴーレムの注意を引いていたルーティが、青い鞘の湾刀をアレクから投げ渡される。


刀身まで鮮やかな青色をした湾刀は、蒼鋼とミスリル銀の合金で出来た魔剣で、斬りつけて出来た傷口を中心に凍らせる効果があった。


使い慣れない片刃の湾刀を走り抜けながら抜き放ち、小人型ゴーレムの脚を切る。ミスリルの純度の差から僅かに傷をつけただけで、ゴーレムに凍結効果は薄かった。しかし接近戦ではルーティが勝り、徐々に圧倒していく。


「こっちは私1人でも何とかなりそう!アレクはそっちをお願い!」

「任せてください。僕は師のゴーレムを相手にした経験がありますからね。いきますよ?」


小人型ゴーレムの残骸をマジックバックへ回収し終えたアレクは、土塊のゴーレムに対し最大威力の石礫を撃ち込み、胴に大きな風穴を作り出した。


しかし二発目を土塊の腕の中に取り込まれ撃ち返される。石礫はバーバラの盾を砕き、吹き飛ばされた。


ヴィヴィの二度目の炎の大蛇が土人形ごと土塊ゴーレムを焼き払い、そこへフラウとシャケが飛び掛かる。白銀の杭をフラウが光剣で受け止め、シャケの魔槍が左脇腹に移動してきた核を捉えて貫く。次の瞬間、土塊ゴーレムはバラバラになり、ルーティが相手していた一体と申し合わせたかのようなタイミングで、四体目の小人型ゴーレムが別々の方向に向かって逃げ出した。


「ゴーレムが逃げ出すなんて、始めてみましたよ」

「追って!」


大部屋の二つある出入り口に向かってそれぞれ別れた小人型ゴーレム。ヴィヴィを飛び越え背後の出入り口に向かった一体は、途中で倒れたままのバーバラへ進路を変える。

石礫を受けた際、盾と共に左腕も砕かれており、身を起こす事も出来ずに這って逃れようとする。


「嫌ー!」

「バーバラ!」

「伏せて!」


アレクの石礫がルーティの頭上を飛び、小人型ゴーレムの左腕を破壊する。バランスを崩したゴーレムは、バーバラの横を通り過ぎていく。


シャケと共に奥へ向かおうとしたフラウは引き返し、バーバラの治療をしつつ辺りを見渡す。するとそこへ入口から雷火の面々が入ってきて、白銀の小型ゴーレムと出会い頭の戦闘になった。


男達は即座に左右に分かれて武器を構えたが、後列の女の一人は話に夢中になっていたのか気付かず、ゴーレムに体当たりされて悲鳴を上げながら倒れた。


「ゴーレム!?トマス引き付けろ!マリックはレーンちゃんを回復してくれ!」

「キャー!こっちに来たわ!」

「エレク助けてー!」


その様子を見たルーティ達は追うのをやめて、散らばった小人型ゴーレムの残骸を集め始める。


「逃げるにゃ!おかわりが来たにゃ!」

「ちょっと!痛ったいわね!」


ルーティがゴーレム片を集めていると、奥の部屋から飛ぶようにして戻ってきたシャケとぶつかる。そして間もなく地鳴りが響き渡り、何かが向かって来ているのがわかった。




小人型ゴーレムが繰り出す杭を難なく避けたトマスが槌で叩き伏せ、エレクが放つ雷撃が核を撃ち抜くと止まった。


「やったか?」

「ふぅ。他に…は?」


血相を変えたルーティ達が駆けてくる奥からは、赤銅色の巨大なサソリ型ゴーレムが壁の一部を崩しながら迫ってきていた。


「んな!?なんだあれ!?」


女達と一緒に傍観していただけの男が驚く。

雷火の面々を無視して、フラウがバーバラを先に行かせると剣を構える。アレクも詠唱を開始するが、ヴィヴィに頭を杖で叩かれ中断した。


「…また魔力欠乏症になってるわよ」

「アレクも下がって!反論はなし!」


シャケとルーティが左右へ回り込み隙を窺う中、フラウが正面から注意を引く。正面に立てば大きな鋏が襲い、脇に立てば頭上から尾の針が襲う。鋏を振り上げ威嚇をするサソリの胴体部分には、白銀の小人型ゴーレムが張り付いていた。


「…そこの男ども女性が窮地に立たされてるのよ。ぼけっと見てないで、行きなさい」

「えぇ!?なんで俺らが…わかった!任せろ!」


一番後ろ、女性達に囲まれるようにして隠れていた軽薄そうな男が文句を言うが、フラウやルーティを素早く確認すると、他の男達の背を押しながら前に出ていく。


「――お!おい!?押すなアデル!」

「――たくっ!仕方ない。トマス、動きを止めてくれ。マリックは前に出るな。アデル!お前は前に出るんだよ!」


女達が応援する中エレクが詠唱を開始し、ルーティとシャケに離れるよう合図を送る。直後に土の土台がせり上がり、サソリの腹部を持ち上げると脚が宙を引っ掻きもがき始めた。そこへ雷撃が飛び振り上げられた尾を貫くと、火球が頭を直撃する。


「…へぇ。意外とやるわね」

「そうですか?結構魔力を無駄に消費していますよ」


派手な魔法の連続に、ルーティが歓声を上げているのを見ながら、面白くないアレクは我知らず貧乏ゆすりを始める。

その反応をヴィヴィが面白そうに眺めていると、シャケが鋏を突いて動かし、フラウが付け根を断ち切った。


柔らかいことに気付いたエレク達は剣や槍で突き、斬り、叩き潰すと、腹部に融合していた少し大き目のゴーレムが再び奥へ向かって走り出した。それを待っていたヴィヴィの火槍を受けてバタリと倒れた。




「ありがとう。助かったわ。私がリーダーのルーティよ」

「たいした事ないぜ。俺はアデ――」

「おい、この流れはリーダーの俺からだろ?俺はエレク。雷火のリーダーをしてる」


ゴーレムを全て倒し終えた後、簡単な自己紹介をする一行。

エレクに邪魔されたアデルはシャケやバーバラ、ヴィヴィを素通りしてフラウの前にやって来ると、馴れ馴れしく挨拶をする。しかしティアナと名乗った女がアデルの耳を摘んで連れて出ていった。


苛立った様子のアレクもルーティに対して、ゴーレム素材の回収を済ませて先を急ぐべきだと強く提案する。


「…おやおや、焼きもちですか?アレクくん」

「…いいえ。それよりフラウさんのアレを秘匿するなら、全ては持ち帰れませんよ?」


こめかみに血管を浮き上がらせているアレクは、平静を装いつつ倒したゴーレムの選別に向かう。土塊ゴーレムの中には砕けた核があるだけで、身体を構成していたミスリル銀は、四体目の核が持って出ていた事がわかった。


「ヴィヴィ。焼きもちとはなんだ?」

「…えぇ?食べ物よ。食べ物」

「フラウにゃに嘘を教えるにゃ」


雷火のリーダー、エレクと話し合った結果、サソリと小人型ゴーレム一体を譲ることになった。

彼らにはマジックバックなどないので、バラした小人型ゴーレムを各自が分担して担ぎ、一旦キャンプまで戻るという。


「私達はどうする?」

「しまって。魔道具を秘匿する為に荷物を担いで危険な目に合うなんてバカらしいわ」


小型のゴーレムニ体分のミスリル銀はかなりの重量で、これだけあれば都市中央の一等地に家が建てれるとシャケが喜んだ。




大部屋の奥にも大部屋があり、サソリ型ゴーレムが配置されていたと思われる空間があった。その先も大部屋が続き暗闇に何か大きな像が立っている。

まだまだ波乱がありそうだと警戒するルーティに、アレクは部屋固定の敵なら夏の宴が倒しているはずだと言った。

一度引き返して左の通路へ進むと、緩やかに下る坂と小部屋が続き、進むにつれて天然洞窟の景観だったものが人工的なものに変わっていった。


「これって闇ギルドが拡張した空間?」

「どうでしょう?迷宮の機能は…ありますね。あ!明かりです」


隊列を整え進むと今までにない広大な部屋に出た。

壁や天井は変わらず洞窟のままだったが、床は大理石のような艶がある、四角形の平らな床板に変わった。

正面には高さ三メートルはあろうかという大きな青水晶の杯が地面に固定されている。透き通った杯の内部に多数の金色に輝く小さな杯が入っていた。


「つ、着いたの?私達、最深部に着いた!?」

「みたいですね!迷宮杯があります」

「やったにゃー!魔道具にゃー♪」


(あの水晶…いや水晶の下から強力な…禍々しい魔力を感じる。怖い…近づきたくない)


ルーティ達が喜び飛び上がる中、フラウは青い顔をしており、ヴィヴィは冷めきった表情で水晶の杯を眺めている。


最初にルーティが横に設置されていた階段付きの台に上がり、水晶の杯から金の杯を取り出す。すると金の杯と水晶杯の背後にある大きな記念碑に、ルーティの名前が自然に刻まれた。


「これが…私の迷宮杯」


代わる代わる杯を取り出して確認する。

金の杯は小さな純金製で精緻な彫りが隙間なく施されていた。

魔力を流すと酒気がする透明な液体が湧いてくる。


「…それも魔道具よ。酒は魔力量に比例して上質なものになるわ。ただし消費魔力が高いけどね」


唯一、杯を取らなかったヴィヴィは、金の杯を用意したのが自身を含む魔法ギルドだと明かした。


迷宮杯の前でしばらく休憩していたが、雷火の一行は現れない。

ルーティ達は迷宮杯を手に入れたが、闇ギルドの隠し部屋は見つかっていないので、今後の方針を考えていると、フラウとヴィヴィが雷に打たれたかのように硬直し、ガタガタと震え出した。


「ど、どうしたの!?」

「あ、あぁ。そんな…ありえない。嘘よ…」


頭を抱えて蹲るヴィヴィと、青い顔をして虚ろな目をしたフラウが言う。


「奴らだ…奴らが出て来たんだ…」


シャケが全身の毛を逆立てながら入口を警戒し始めると、昼のような明るさだった部屋に闇が広がり、現れたのは異様な姿の魔神だった。

三メートルを越える筋肉の塊。赤くギラギラとした目を覗かせる蜥蜴の骸骨頭。左手には女の胴体と思われるものを引き摺っている。

逆に右腕は二の腕から先が唐突に白くほっそりした女の腕になっており、壮絶な表情をしたティアナの頭を持ち上げると、果実を食べるかのようにかじりながらゆっくり歩んでくる。


「赤い目…人が…古の魔神まで呼び出した…」

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