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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
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坑道迷宮深層へ5

48


闇と静寂が支配する大部屋に、白いローブを着た男が立っている。額には玉のような汗が浮かび、血で汚れた手をボロ切れを使って頻りに拭いていた。


「これで全部か?手順を間違えたら…失敗はできない」


男は息を整えると部屋の中央に立った。

右腕を振ると右の壁付き燭台に火が灯り、左腕を振れば左の壁付き燭台に火が灯る。幾つもの燭台に照らされた部屋の奥に、荘厳な祭壇と山と積まれた死体が現れ、天井、壁、床には血を使った魔術的な陣が描かれていた。


「最早全ての瘴石を使って、可能な限りの強大な存在を召喚するしかない」


白いローブの男――ファベルが瞼を閉じ両腕を広げて長々とした詠唱を始める。右手に赤い宝石を付けた捻れた杖を持ち、左手の黒い石が入った銀の盃を頭上へ掲げた。


祭壇と杖の宝石が赤く輝き始めると、その光は天井の魔法陣へ移り、壁、床へとゆっくり流れていく。陣の内側にあった捧げ物と共に死体がグズグズに溶け出し悪臭が立ち込める。


黒い石からは黒煙が上がり、ファベルは顔を歪めて堪える。その目や鼻、耳からは血が流れ出し、肌は灰色に変わっていく。燭台の明かりは徐々に弱まり、陣の内側を中心に闇が深まる。


耐えかねたファベルが膝を着くと、闇から大きな存在が歩み出て来た。


「ごふっ…お、おぉ。魔神よ、召喚者たる我に従い敵を――?」


吐血しつつも顔を上げたファベルは、いつもと違う魔神の姿に困惑する。


骨と皮だけの蜥蜴頭は漆黒の巨体に比べて小さく、ギラギラとした二対の赤い目を光らせていた。

曲がりくねった赤黒い角が側頭部から伸び、胸から肩、背中にかけて燃えるような赤い体毛を生やしている。地に着きそうなほど長い左腕に対し、なぜか右腕がなかった。


牡牛の脚が石の床板を踏み砕き、破片がファベルの元まで転がってきた。


今までの無機質な魔神達とは違い、生気を感じる姿にファベルは言い知れぬ恐怖を覚えた。


「…お、わ、我の――!?」


命令を下そうとした矢先、頭の上に左手を乗せられる。


「――は?」


パンッと頭の上半分がトマトのように握り潰された。

残った下顎が垂れ下がり、舌が痙攣する。

膝を着いた状態のまま血を吹き上げる姿は噴水のようだ。


白いローブは赤く染まり、魔神は握り潰した物を食らう。そして足元にあった黒煙を上げる銀の盃を取り上げると、顔を近づけて深呼吸を繰り返す。煙を吸った魔神は満足そうに唸った。




緩やかな坂を下り林に入ると天井の輝きが地上の太陽のようで、迷宮の地下だということを忘れさせる。

木々の合間からは小さな鳥が飛び立ち、右手の澄んだ湖を覗けば魚がいた。


「魚にゃ!たべ――」

「…無理よ。目を見て。少し赤いでしょ?」


小魚達は若干赤い目をしていて、負の魔力の影響を受けている事がわかる。


「…1匹や2匹なら影響ないなんて話は嘘よ。一度でも口にすると耐え難い欲求にかられて、次から次に食べてしまうわ」


負の魔力を摂取した者は早期なら助かるが、自身の力だけではほぼ立ち直ることは不可能だと言われている。

暴れるのも構わず縛り上げて隔離するか、高位の神聖魔法によって浄化されるのを待たなければならない。


林を抜ける途中で開けた場所を見つけて、ルーティが立ち止まる。


「僅かだけど野営の跡があるわ。夏の宴もここを通ったのね…少し早いけどここで休みましょ?」

「僕は大丈夫ですよ。洞窟を覗いてから戻ってきましょう」

「…アレク。迷宮では休める時に休みなさい。その先を覗いたら最後。連戦になることもあるんだから」


ヴィヴィの言葉で野営が決まり、テントを広げて周囲に仕掛けを施す。


シャケは湖の畔で魚を相手に魔槍を試したが、水の中に突き入れた瞬間、渦巻く風によって水飛沫が上がり、びしょ濡れになって鳴いていた。


アレクは早々に寝てしまいルーティが側で石板を見ている。そこから離れた場所ではバーバラがヴィヴィに追い詰められていた。


「…あなた、私がわからないとでも思った?禁忌魔剣を出しなさい。今は殺さないであげるから」

「ひっ、わ、私は…」

「ヴィヴィ。迷宮を出るまでは待ってやれ」

「…待て待て待て待て。そればっかり!迷宮の中なんだから、この小娘を片付けてしまえば済む話でしょ?」


頬を膨らませ怒りを顕にするヴィヴィに対し、人差し指で突っつき間抜けな音を出させる。頬をひきつらせたヴィヴィは、諦めた顔して自身のテントに戻っていった。


「あ、ありがとうございます」

「迷宮から出たらお前から差し出すんだ。じゃないと本当に殺されるか、もっと恐ろしい目に合う事になる」


バーバラは小さく返事をしただけで戻っていく。




翌朝鐘一つに目が覚めると、ルーティ達が湖と反対側の林の奥を見つめていた。


「…誰か来たようだな」

「おはよ。思ってた以上に早いわね」


こちらに向かって来たのは、いつかの獣人パーティー六人と、見慣れない男女八人からなるパーティーだった。

こちらを確認すると手を上げて挨拶を交わし、少し離れた場所で休憩に入る。


「あら、シャケじゃないの…ふ~ん。早いのね」

「お互い深層へ辿り着けて良かったわ」


獣人パーティーのリーダー兎獣人のララカとリリカがやってきて挨拶をする。ルーティ達は一瞬顔が曇るが気を持ち直し、シャケは若干身構えた後無視して、もう一つのパーティーを観察する。


「彼らは第二迷宮区の探索者だけど、同行している彼女達は自由民国から来たらしいわ。知ってるでしょ?あの国に唯一ある変わった迷宮」

「養殖迷宮かにゃ?養殖された探索者にゃ!よくここまで来れたにゃ。にゃははは!」

「養殖?」


フラウがわからないでいるとリリカが丁寧に教えてくる。


自由民国の南端には国が管理している唯一の迷宮がある。

細かく階層分けされた珍しい迷宮内では、生息する魚や自然食材は、負の魔力の影響を受けていないらしい。

海の幸、山の幸から稀少鉱石、安価だが魔道具まで出て、魔物は三層からという、まさに駆け出しや低ランク探索者の為のような迷宮だという。


女性探索者に人気が高く全体の八割を占め、全てを一度に受け入れると迷宮内が人であふれてしまうので、一季毎にくじ引きを行う完全予約制となっているようだ。


その迷宮出身の探索者達は養殖迷宮に入れる期間は安全に稼ぎ、それ以外の期間は副職か転職、有力な探索者を探してパートナーになろうとする。

だが他の迷宮に挑む者達からすると緊張感がなく、弱くて足手まといになり、通常は組みたがらない。


「彼ら[雷火]はカッパー相当の実力があるストーンランクの4人組みで、武器も魔法も使えて二区では新進気鋭のパーティーって噂よ。街の酒場で知り合った彼女達にねだられて迷宮杯攻略を目指してるのよ」

「バカにゃ」

「私達もそう思ったんだけどね。あの4人に関しては意外とちゃんとした探索者だったわ。それに昨日から中層が静かになってね。トントン拍子にここまで来ちゃったのよ」


リリカの話に顔を見合わすルーティ達。闇ギルドの隠し部屋を発見してその場にいた男は倒したが、まだまだ魔物達がいたはずだ。


「そういえば…あのドワーフは?」

「死んだわ…中層で」


ララカは何気なく聞いたのだが、訃報が伝えられるとリリカから肘鉄を食らう。


「ごめんなさいっ!…惜しい方が亡くなりましたね。細工師のコルドランさんは有名な方です」

「大丈夫…まだ…」


鬼気迫るルーティの反応にリリカがたじろぐ。ララカ達六人は明日の朝出発する予定で、ルーティ達が先に洞窟に向かう事になった。


途中、雷火というパーティーを遠目で見ると、アレクくらいの男達と女達が仲良く話をしている。

男達は軽装で剣や槍等を持ち、短杖を腰に差している。女達も似たような装備だが汚れはほとんどなく、男達の視線を引く美しい容姿だった。


「アホらしいにゃ。さっさと行くにゃ」


シャケが先頭でどんどん進んでいくと、水晶のように透明な大きな平岩の階段に着く。


「これは水晶なのか?…削れないか」

「迷宮の構造物で材質不明な物は珍しくありません。そういう物は大概破壊出来ず持ち帰れないですね」




深層の洞窟に入る。明るく広い通路は中層と同じだったが、壁や天井からは水晶が顔を出し、ここでは採取できる様だった。

だが採掘には時間も掛かり荷物になる為で先へ進む。


「もったいないにゃ~。結構高いにゃ」

「魔道具を複数手に入れただけで今回の収穫は十分でしょ?」


しばらく進むが魔物は現れず最初の小部屋に辿り着き、ルーティが白い石板で周辺を確認する。


「う~ん…よくわからないわ。形が定まらない」

「…その魔道具の限界みたいね。迷宮の深層に満ちる魔力が合わないのよ」


注意深く部屋の中を確認するが何もおらず、さらに先の分岐をシャケの直感を頼りに右の道を行く。すると大部屋の中央に金属製の見るからにゴーレムとわかる存在がいた。


「…気を付けて!普通のゴーレムじゃない」


ゴーレムの頭と胴体、両肩が輝くと周囲の土が集まり始め、高さ4メートルの土ゴーレムになった。

ゴーレムが腕を振るうと小さな土の玉が無数に飛び散り、バーバラが盾で防ぎながら後退する。

ルーティがアレクの前に立ち、左右の籠手に半分ずつ描かれた魔法陣を組み合わせると、不可視の盾が現れて難なく防げた。


フラウが光剣で左脚を削り、シャケの魔槍が右脚を貫く。渦巻く風はただの土塊を大きく抉り、ゴーレムの動きを鈍らせた。

杖を構えたアレクの隣から、ヴィヴィが火槍を投げつけゴーレムの頭を吹き飛ばした。


「弱いにゃ~、あ!?」


吹き飛んだゴーレムの頭の中から小人型のゴーレムが現れ、シャケに対し鋭く尖らせた右腕を突き出す。ルーティが割って入り受け流したが、剣は砕け散ってしまった。


「…おそらくミスリル銀製の核ゴーレムよ。発光してる核を全て破壊しない限り動き続けるわ」

「ミスリル!?鋼鉄製の武器じゃ通じない!避けて!!」


ルーティが飛び退くと、巨大ゴーレムの腕から土の塊が複数撃ち出されて立ち上がる。


「これは?核が増えた?」

「…土系統の魔法によるゴーレム作成!ゴーレムがゴーレムを生み出すなんて…あなたの師匠がいたら発狂して喜ぶわね」


ヴィヴィの言葉に苦笑いを浮かべるアレク。


首なし巨大ゴーレムと小人型ゴーレムを取り巻くように、魔法の土人形達が立ちふさがる。

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