坑道迷宮深層へ4
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背後の通路から伝わる地響きによって、数多くの敵が向かって来ている事がわかる。ルーティが白い石板を確認してみれば、等間隔で枝分かれした各通路から、複数の反応が次々と現れていた。
「何よこれ!?こんなの聞いた事ない!」
「…あの不自然な迷宮構造。挟撃する為の罠だったのね。恐らくその先にも連動した祭壇があったんだわ」
「前に進むしかない」
部屋の反対側の出入り口には、この状況を作り出した三ツ首の人狼が立ち塞がる。その腹部には肉体の元となった男の顔があり、苦悶に歪められて、血のように真っ赤な目を見開いていた。
「「ガァァァー!!」」
その雄叫びに応じる様にして、黒い煙を立ち上らせる祭壇は赤い明滅を繰り返した。
「一気に倒して退路を確保するわよ!」
後列からフラウがボウガンを連射し、多数の風の矢が三頭人狼を襲う。それに合わせてヴィヴィが火槍を投げつける。
アレクが敵との間を隔てる不可視の壁を作ると、三頭人狼を風と炎が襲った。
「…まだよ!」
炎に包まれた上半身からは巨大化したダイアウルフの頭が飛び出し、ルーティを頭から丸かじりにしようとする。しかし不可視の壁に阻まれて金属を引っ掻いたような激しい音を立てた。
「ここにゃ!」
シャケがその一瞬の隙をつき短刀で目玉を貫く。ヴィヴィが振るう深紅の杖からは赤く輝く軌跡が生まれ、ダイアウルフの顎を削り取った。
「…炎は効き目が弱いみたいね。狼のくせに」
「あの巨大化はやっかいです…僕が止めてみましょう」
アレクは魔水晶を構えるが、ヴィヴィは杖で押し留める。
「…やめなさい。あなた死ぬわよ。当分は強力な魔法を使わない事」
「ですが!」
三頭人狼が両手を地に着けて走り出すような構えを取ると、突撃してくる。
フラウのボウガンが輝き氷の雨を浴びせると、三つの頭はボロボロになったが、構う事なく両腕を広げて直進し、不可視の壁を割って迫った。
「避けて!」
シャケとルーティが転がる様にして避けると、進路上にいたアレクも身を投げ出しながら杖を振るう。駆け抜ける三頭人狼の足下で床が窪みバランスを崩して曲がっていく。
ヴィヴィはフラウに抱き抱えられて避けられたが、急な進路変更に対処出来なかったバーバラは、構えていた盾に振るわれた腕が当たって、祭壇奥まで飛ばされた。
四つん這いになって倒れた人狼は、再び頭を巨大化させていく。探索者らの荷物が山積みとなった場所へ倒れていたアレクは、慌てて魔水晶を構えるが、それを見たフラウが光り輝く長大な光剣を作り出し振り抜いた。
三つの頭は首元から断ち切られ、夥しい血が吹き上げて祭壇を赤く染める。ルーティとシャケが未だ立ち上がろうとする人狼の背中や、腹部の赤い目をした顔を突くと動きが止まった。
「バーバラ!?無事!」
「…だ、大丈夫です」
皆がお互いの状態を確認していると、真っ赤に染まった祭壇は震え出し、人狼から黒い靄を吸い出し始めた。
「…人狼を生け贄にしてさらに召喚されるわ」
「魔物が来るにゃ!」
部屋の奥では赤く明滅する血塗られた祭壇が震え、背後の出入り口からは、すぐそこまで迫った魔物達の足音が聞こえてくる。
「奥の通路へ!」
「…ダメね。何かが向かって来てる」
「フラウさん?大丈夫ですか?」
皆が対策を考える中、アレクに心配されたフラウの表情は暗く、頭を抑えながら自身の剣を確認している。より強い力を開放する度に、酷い頭痛と嫌な記憶が脳裏を過っていた。
(誰だ?この力は私の…頭が…)
目の前の人狼は黒い靄となって広がり消えていく。その後には黒いハチェットと影の外套が残った。
嬉々とした様子のシャケが拾うと、男が隠れていた辺りの壁に注視する。
「この壁の下は床に擦れた跡があるにゃ!隠し部屋にゃ!」
「開けられる!?」
シャケが壁に飛び付き調べ始める。
その間も祭壇からは黒い煙が立ち上ぼり靄となって広がっていく。
入口ではアレクが土の壁を築き時間稼ぎをするが、迫って来ていたのは巨大な体躯のトロルで、その怪力の前にあっという間に崩された。
ヴィヴィが高温の炎の大蛇を生み出し、トロルと背後に続く無数の魔物達を焼き払う。
フラウは黒い煙を出している受け皿へ光る矢を放つが、たいして勢いが弱まらず、中から大きな腕が出て来て祭壇の端を掴む。しかし祭壇はボロボロに崩れてしまい、大きな腕は必死になって掴める物を探している。
「…なるほど。強力な奴を呼び込んだけど、入口となる祭壇が小さくて出れないのね」
フラウが祭壇に向かってボウガンを連射すると、破壊されて煙は徐々に霧散していった。
「――ゴォガアァァー!!」
部屋が震えるほどの咆哮を残して、大きな腕がブツリと切れて転がる。間もなく赤黒い煙を出し始めた。
「毒よ!離れて!」
焼け爛れたトロルが土壁を破壊し部屋に入り込んでくるが、床の窪みに足をとられて転がった。
巨体故に後続の魔物が前に出れず、シャドウウルフやダイアウルフが飛び越えてくる。
「アレクは魔法を使わないで!バーバラ手を貸して!」
「は、はい!」
「にゃ〜…この辺にゃ!」
その時シャケが壁の一部を押すと、一人分の幅で壁が回転して一瞬で姿が消えた。フラウが最後尾で光剣を振るう中、慌ててルーティ達が続く。
壁の先は狭い通路が続き、螺旋階段のある円形の小部屋に繋がっていた。壁掛けの棚には様々な物が置いてある。
奥にはベッドと机、椅子があって、男が寝起きをしていた場所と思われた。
「見るにゃ!魔道具がいっぱいにゃー!」
「え!こんなに…追っては来ないわね。あの壷は魔除けの魔道具かしら?」
「…待ちなさい。まず私が鑑定してからよ」
シャケが我先に漁ろうとするも、横からヴィヴィが割って入り調べ始める。アレクは椅子に腰かけると頭を抱えて俯き、杖を取り落としてしまう。ルーティが心配してベッドへ連れていった。
「…アレクが優秀な魔法使いなのは知ってるわ。でも魔力の使い過ぎ。人は妖精種や精霊と違うのよ。命を縮めるわ」
「っ…ヴィヴィさんの方が強力な魔法を使い続けてますよ」
「…私はもう人の域を越えた…あっこれ、いいわね」
「待つにゃ!何勝手に自分の物にしてるにゃ!」
フラウは机の下にあった箱を調べる振りしてバーバラの様子を窺う。祭壇裏から戻って以来どこか上の空で、今は落ち着きなく腰の辺りを気にしていた。
(…禁忌魔剣は祭壇にあったのか。強力な力に明らかに動揺している。ヴィヴィが気付いていない訳がない」
バーバラは祭壇裏に飛ばされた際、背面に隠された短剣より少し長い、禁忌魔剣を見つけていた。近くにあった布を巻き付け腰の防具に隠したのだ。
「…魔道具は結構あったわ。どれも安全よ。他に食料が少しとこの辺りの地図ね。この螺旋階段は深層まで続いているらしいわ」
「深層まで!?すごい…けど闇ギルドは深層にまで…ここで少し休憩にしましょ。アレクが持たない…」
魔道具は男が持っていた影のハチェットや影の外套を始め、不可視の盾を発生させる籠手や凍傷を与える青い剣、危険が迫ると青く光る警戒の短剣、魔除けの壷、鑑定の水晶板、抵抗の指輪や力の腕輪、重量軽減の鱗鎧等は迷宮産の品で、気温調整の外套と肩に掛ける大きなマジックバッグからは魔法薬や魔法の便箋等、高級な品が多数入っていた。
「一部の品は探索者達の遺品ね…これから深層よ。有効活用しましょ」
「力の腕輪が欲しいにゃ。魔槍を試してみたいにゃ♪」
「…私は金の指輪がいいわ」
「私はいらない…あ、やっぱり外套を貰う」
皆思い思いの品を手に取り、ルーティが盾の籠手と青い剣を取るが、剣はアレクが取ったマジックバッグにしまう。青い剣は曲刀であり使いなれていないからだ。
「アレク?無理じゃない?それ…」
少しやつれたアレクは、マジックバッグにベッドを詰め込もうとして皆から驚かれる。試みは失敗に終わり、それほど容量は大きくないとわかった。
しかしヴィヴィがベッドの敷板が僅かに浮遊していることに気付く。
「…これはいまいちね」
「一応魔法の品ですか…折り畳める様ですし、入れておきます」
防具がボロボロだったバーバラは、少し大きい鱗鎧に替える。警戒の短剣は鞘から抜くと眩しいくらいに光り、実用的でないと落胆した。
代わりに影を飛ばすハチェットを手に持つが強い明かりがないと意味がなく、扱いもかなり難しいと判明した。
影の外套も同じ性能のようで隠れることが主体なので、アレクのマジックバッグにしまわれる。
「ん?これはなんでしょう?」
アレクがマジックバッグの中身を確認していると、拳大の石を取り出す。
「…それは扱いに気をつけて。恐らく爆裂の魔法石よ。普通の物と違うけど…たぶん迷宮の崩落に使われた物ね」
「そんな物が!?迷宮を作り替えたり破壊できない物を建てたり…やはり闇ギルドは恐ろしいですね」
暫く経つとルーティが白い石板で部屋の敵が散っていくのを確認する。
「鐘五つね。先に進みましょ」
螺旋階段を下って行くとやはり小部屋があるが、たいした物はなく落胆するシャケ。力の腕輪を右腕に着けた今は、魔槍を片手で持っていた。
石板で確認した後に扉を開けて外を覗くと、昼のように明るく、遥か高みには太陽のように全体を照らす大きな明かりがあった。
「これが…坑道迷宮の深層」
高台の上に出たようで、左手には林があり、右手には湖が見えた。正面には水晶のような輝く平岩が積み重なり、その先に洞窟が続いている。
「中層の安全地帯みたいなところだな」
フラウが辺りを見渡し魔物がほとんどいないことを確認する。探索者達もいないようで、聞こえるのは小動物のたてる音や、湖の生き物の音だけだ。
「…とりあえず林の方から降りられるわ。あの洞窟近くまで慎重に進みましょ」




