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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
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坑道迷宮深層へ3

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闇ギルドが拡張したと思われる通路を進み、何もない小部屋で休息を取るフラウ一行。途中で出会った帝国の女奴隷は、奪われた魔剣の奪還に来たのだという。

それに対し同行していた魔道具屋の店主ヴィヴィは、天人に選定された使徒である事を明かし、禁忌に触れた女を殺そうとする。


「ちょっと待って!彼女は奴隷なのよ?命令されたなら逆らえないじゃない?」

「彼女自身が魔剣を所有したとか、悪用したって訳ではないですし、いきなり殺さなくても…」

「…命令されたなら自害なさい。禁忌魔剣の存在を知ったなら命をかけて公表しなさい」


ルーティ達が説得するがヴィヴィのあんまりな言い分に唖然とする。


(禁忌魔剣は…存在してはならない。この世にある全ての命、存在に対する裏切り)


しばらく頭を抱え苦悩していたフラウは、ヴィヴィを押し退け女奴隷の正面に立つと、顎を掴んで顔を上げさせる。そして目を覗き込むと、断片的な記憶や感情が流れ込んできた。


帝国で暴れまわる異形の魔物達に対する恐怖。

僅かな領地を巡って争う貴族に対する怒り。

焼け出された人々の末路と、奴隷という選択の悲しみ。

そんな中、公爵家の待遇の良さに救われて恩を感じていた。


しかし魔剣の力に魅せられた当主はそれを奪われると怒り狂い、人が変わってしまう。女は奴隷相手にも優しかった帝国騎士の男と共に、当主を救うという使命感に燃えていた。


「彼女から悪意は感じない。禁忌について知る機会がなかった様だ。それにこの過酷な世界で常に選択肢がある訳ではないだろう」

「…無知だからと許される事ではないわ。魔剣の力について知っていて取り戻そうとしている。わかっているの?」

「贖罪の機会は与えよう。契約神に誓え。命を掛けて魔剣を奪還し、世界協定に提出するんだ」

「は、はい…私、バーバラは契約神に誓います」


ヴィヴィは「私が回収するのに」と頬を膨らませて怒っているが、張り詰めていた空気が和らぐ。その後、一の鐘が鳴るまで仮眠を取った。




シャケは魔槍を使ってみたものの重すぎる為に諦め、今はルーティが持つ白い石板を物欲しそうに眺めている。

この石板には3Dホログラムような地図機能があり、周囲の地形とそこに存在する生命を感知できる他、一度特定した人や物を追跡する事ができた。


「こんなの魔法学園でも見た事ないわ。国が管理するレベルの物なんじゃない?」

「…そうね。たしか魔法王国の宝物庫に似たような物があったわ」


どこかの迷宮産魔道具だと鑑定したヴィヴィは、オリハルコンでコーティングされた大理石の石板を、いざとなったら盾に使えと大胆な事を言う。


精神的な消耗が激しいアレクは、フラウの力を持ってしても完治には至らず、深い眠りに落ちている。限界を越える魔法の行使で、心身共にかなり危険な状態だった。

ルーティは寝ているアレクの側を離れず、優しく頭を撫でる。


「ヴィヴィ。落ち着かないから睨むな」

「…わかったわよ」


ずっと睨まれているバーバラは休むことができずに震えている。身体の傷は癒えていたが、帝国騎士らの全滅を知ってからはアレクと同じく精神的に滅入っていた。


これまでの出来事に、フラウは珍しく疲れというものを感じていた。


(死者の蘇生。禁忌。天人と使徒…何か思い出しそうで思い出せない…頭が重くて怠い。リースはどうしているだろうか…今ならルーティの様に優しくしてくれるだろうか?フフッ…)


ふと、前を見るとルーティがこちらを見て、驚いた顔をしている。


「フラウ?今笑ったの?珍しいわね。それに何を持っているの?」

「リースが使っていたリボンだ」


フラウは手に持っていた黄色いリボンを見せる。リースが髪を結うのに使っていたのだが、出発前に貰っていたのだ。


「そ、そう…ほんと仲良いわね」


若干引き気味のルーティを無視して、指に絡めたリボンを頬に当てるフラウ。僅かに薫るリースの匂いに鼻を近づける。


その時シャケが隙を見て石板に手を掛けた。ルーティは慌てて取り返すとシャケの鼻を押し返す。その後も何度か繰り返す二人の心中を察する。


(仲間を失って平気な訳がない。お互い気に掛けているのだろう。だが皆一人前…いや一流の探索者だ。しっかり気持ちを切り替えれるだろう)


石板を注意深く観察するルーティが、この辺りに生命反応がない事を伝える。代わりにまとまった数の何かが、行き来している事がわかった。




暫くして懐の鐘が震えると、出発の準備に取り掛かる。

装備の損傷が酷く武器もないバーバラは、パーティーの中央に位置し護衛されながら進む。暗い通路を石板の扱いになれたルーティが先行し、程なくして目的の部屋に着いた。


「ここね。気を引き締めて行くわよ!」


中を窺うと幾つもの大きな燭台が並び、昼のように明るかった。一番奥にはいかにもな祭壇が、壁際には様々な物が積み上げられていた。


中へ入るとヴィヴィは迷わず祭壇を調べ始め、シャケは外を警戒しながらも山積みの荷物へ寄っていく。


「探索者達の装備品ね。バーバラは使えそうな物を選んで。燭台は…普通の物ね」


と、ルーティ達も物色し始める中、フラウはボウガンを部屋の反対側の壁に向けて、風の矢を連射する。


「――なに!?敵!?ヴィヴィ!!」

「くそぉぉぉ!」


向かい側の出入り口に近い壁には、不自然な人影が浮き上がっている。風の矢を受けて飛び出してきたのは、光をまったく反射しない、闇のような外套を羽織った不気味な男だった。

男は手に持った黒いハチェットを、祭壇前にいるヴィヴィ目掛けて振るう。それに対しフラウは光剣で直線上を払った。

すると何もないはずの場所で、何かが弾かれたような音がする。再びハチェットを振るう男。


「床だ。影に気を付けろ」


明かりに照らされた部屋の中、床にはハチェットの形の影が飛ぶのが見えた。


「ちっ!これにも気づくか!」


ヴィヴィが祭壇から離れてシャケの後ろに回ると、男は懐から取り出した幾つかの黒い石を掲げて、何かを唱え始める。


「…いけない、召喚する気よ!」


黒い石から煙を立ち上らせると、ダイアウルフが三匹飛び出し、男が膝を着く。


「ぐっ!?ぐぁ!!ぐがあぁぁぁ!?」

「な、なに!?」


状況が把握できないままのルーティ達の前で、床をのたうち回る男に向かってダイアウルフが襲いかかる。


「ぎぃあぁぁ!?だっ!だましひぎっ!やがったなぁ!!」


男の身体が噛み千切られると、三匹は胴体が肥大化していき、融け合うように一つになった。


「――ケルベロス!?いや魔人!?」


アレクが見上げた先には、ダイアウルフの頭が三つある、三メートルを越える人狼だった。

身体は人であり灰色の毛皮を羽織っているかのようで、上半身は血に染まっている。苦悶に歪む男の顔が腹に現れ、見開いた目は赤い。


「…人をやめた…と言うよりやめさせられた感じかしら?どちらにしてもあなたには死しかないわ」


ヴィヴィが深紅の杖を構えて言う。

剣と盾を手にしたバーバラが左に並び、ルーティが中央、シャケが右に位置し、フラウ、アレク、ヴィヴィが後ろに控えた。


今にも襲ってきそうな三頭人狼は高く遠く吼える。


「――仲間を呼んだわ!!」


通路の先、暗闇からは多数の存在が迫ってくるのがわかった。

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