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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
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坑道迷宮深層へ1

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「…来るのが遅い」


フラウ達がヴィヴィを迎えに魔道具屋へ立ち寄ると、カウンターの上に座った彼女は、足を揺らしながら待っていた。


身長130弱の幼い少女は、緩やかに波打つピンクの髪に赤味を帯びた金の額冠を被り、複雑な模様が金糸で刺繍された豪華なゴシックドレスを着ている。

肩には赤いショールを羽織り、金の腕輪や指輪を複数嵌め、身長を越える長さの深紅の杖を膝の上に乗せていた。


そのどれもが魔法の品であり強力な力を秘めていたが、一見するとパーティーにでも出掛けるかのような格好をしていて、皆固まったまま見入ってしまう。


「…なにしてるの?早くしなさい」


そう言ってヴィヴィは待ってられないとばかりにカウンターから飛び降りる。フラウを一瞥した後ルーティ達を押し退け、一人出ていってしまった。




三区に入ると迷宮門前の広場は騒がしく、例の情報屋が待ってましたとばかりに駆け寄ってくる。

ヴィヴィは無視してスタスタと歩いて行ってしまうが、誰もついて来ていないと知ると頬を膨らませて戻ってきた。


「お前達やっと来たか。面子が違う様だが…まぁいい。とっておきの情報があるぞ。未知の魔物と探索者達の変化について…金貨1枚!」

「聞かせてください」


ルーティが何か言うよりも先にアレクが払い終えると、広場の端からコルドランとシャケがやって来る。


「…よし。最初の鐘が鳴る少し前の、人の出入りが少ない時間帯に迷宮内で異変があった。飛び出して来た衛士らは慌てて門を閉じようとしていたが、大きな手が門をこじ開け衛士ごと吹き飛ばしちまった!俺もこの目で見ていたが…本物の化け物だったよ」


歪んだ角を生やした化け物は、3メートルを越える目が無いオーガのような姿だったという。広場に居合わせた人々へ襲い掛かり大勢の死傷者がでたが、赤髪の探索者が一太刀で化け物の首を落とすと、黒い靄を出したきり何も残さず消えたそうだ。


「魔神…だっけ?」

「フラウさんはそう言っていましたね。また出ましたか…」


アレクの言葉に頷いたフラウは、暗い顔をして迷宮を見る。


(やはりまだいるのか…人の欲望は深い。魔神が纏う闇のようだ)


ヴィヴィはひそひそ話を始めたアレク達に耳をそばだてると、魔神という言葉に目を細める。


「あと探索者についてだが…最も先行していたと思われる帝国騎士と奴隷達は、中層入口の目撃情報以降、行方がわからなくなっている。他に上層で同業者狩りが、中層では人をやめた奴等…魔人が徘徊しているらしい」

「最悪!」


魔人とは負の魔力を利用したり、魔物の肉を食べる事で転化した者達だ。力が増す一方、理性を失い攻撃的になる。


「今じゃ魔物被害より人による被害の方が多い。代わりにそれだけお宝の回ってくる可能性も高いってんで、探索者の数も減るどころか増えている。まったく人の欲望ほど恐ろしいものはないな」


ルーティ達は複雑な表情をして情報屋を見送った。




補修作業が行われている迷宮門前では、少女にしか見えないヴィヴィのギルドカードが偽造を疑われ、激怒した彼女が魔法を使おうとする騒動があった。


騒ぎを聞きつけた年配の衛士が止めに入り、渡されたカードを見て頭を抱える。


「…私は貴族よ。不敬罪で燃やされたいの?」

「まてまてまて!本来貴族を示す宝石の証は1つのはずだが…まぁわかった。しかしこの絵はなんなんだ?」


銀級のカードには二本帯と赤い印、金の玉証が嵌め込まれている。その他になぜか小粒のアメジストを目に例えた猫のシルエットが描かれ、カードの縁はルビーの欠片で装飾されていた。



「ヴィヴィさん…また勝手に飾り付けましたね?マリさんもカードはやめておくよう言っていたじゃないですか?」

「…私は特別。後でグラントにでも確認なさい」


そう言ってカードを奪う様に取り返すと、迷宮の中へ入って行ってしまう。順番を待つ一部の探索者達からは「また貴族か」という呟きが漏れる。


「すみません。あの方は市議会の特別顧問もしていますので、後ほど確認してください」

「…まったく。もういい。さっさと進んでくれ」


アレクがその場をとりなそうとするが、衛士や探索者らの雰囲気は悪くなる一方で、それらの非難の視線から逃れるように迷宮の中へ入った。




「これは酷い…魔神の被害ですか」


警備室内は重症者で埋まっていて、入りきらない者は外に寝かされている。白いローブを着た治療師の姿はなく、教会が機能していない事が窺えた。


衛士の一人を捕まえて話を聞けば、既に死者や行方不明者の数は把握できておらず、迷宮内では死体が回収されずに死霊化した者が多数発見されていた。

他に素材も魔石も残さない魔物が出始めた為に、市議会は対応を検討したが、探索者ギルドが続行を指示したという。


「闇ギルドの一件のせいでしょう。門を閉じたところで脅威は拡大していきます」

「まぁある意味、今の状況のが迷宮らしいがのぅ」


コルドランは前回とほぼ一緒の装備だったが、鎖帷子の上に白いコートを纏っている。

シャケは高価なエルフ製防護服の上に青鱗のチェストプレート、細身の槍は彼女の体格に合わせた特注品を用意してきていた。


一通りの情報収集を終えると、ヴィヴィが早く早くとフラウの外套を引っ張り、燭台のあった部屋へ向かう。




予想に反して何事もなく到着した部屋は、アレクの魔法による偽装が解けている以外、変化はないように見えた。


「燭台はなくなってしまいましたが、この辺りに台座がありました」


アレクが掲げた魔法のランタンによって、照らしだされた部屋の一角を、ヴィヴィは躊躇なく魔法で爆破する。すると禍々しい大きな台座が無傷で現れた。


「ヴィヴィさん、もう少し静かにやってくださいよ。魔物が来ます」

「…あなた達は調べ物が終わるまで見張ってなさい」


ルーティは何か言い返そうとしたが、アレクが宥めて入口を見張る。


「なんなのよ。あの子は」

「ヴィヴィさんは魔法学園の元教師で魔導師です。古い魔道具集めの趣味が高じて、迷宮都市で魔道具屋を始めて、今は魔法による都市防衛の特別顧問もしていると聞きました。たしか…モルトさんより歳上っ痛!」


小声で話をしていたアレクの頭に小石が当たる。

皆が振り返ると、ヴィヴィは台座の上部にある器へ黒い石を載せていた。

すると黒い靄が立ち上ぼり、辺りには言い知れぬ嫌な気配が満ちていく。


「…これは古い魔術に関わる召喚の魔道具ね。見たことない物だけど…凝縮された瘴気から魔に属する物の影を生み出せる」

「それって…今も喚べるので?」

「…来るわよ」


ヴィヴィの言った事が理解できなかったアレク達の前に、突如灰色の大型魔獣が飛び出してくる。


銅級のダイアウルフはルーティが掲げた盾を蹴りつけ、その勢いのままシャケに向かって飛び掛かる。鋭い牙が首筋にかかる直前、コルドランの斧槍を受けて壁まで吹き飛び、さらにフラウのボウガンから放たれた魔法の矢を受けて、黒い靄となって消えていった。

しかし台座の器からは靄が立ち上ぼり続けている。


「ちょっと!危ないじゃない!?」

「…予想外よ。これは他の何かと繋がってる。何処かで召喚の儀式が行われているわ」

「なんですって!?それでは靄が消えるまで魔物が出てくるのですか?」


皆が台座に向かって身構える中、ヴィヴィが深紅の杖を振るうと高温の炎が台座を包み、部屋の温度が急激に上がっていく。そして炎が消えると共に台座も消えて、嫌な気配はなくなっていた。


「熱いにゃ」

「…力業だけど消した。たぶん召喚していた者は繋がったり、途絶えたりした事に気付いたはず。移動するわよ」


コルドランを先頭に十字路の隠し部屋前まで来ると、遠くから争う音が時折聞こえてくる。周囲に人の気配がないか確認する皆をフラウが呼び止め、十字路の奥を見据えた。


「誰!出てきなさい!!」


ルーティの声に応じて奥の曲がり角からは複数の死霊達と、赤黒いローブを着た魔法使いが現れる。


「リッチ!?アレク!抵抗魔法を!」

「…邪魔よ」


ルーティの指示を待たずにヴィヴィの杖から放たれた火球が死霊達を焼き尽くす。すると爆炎の中から雷光が閃き、隠れる場所もない直線の通路を稲妻が走った。


アレクが展開した不可視の魔法障壁を貫くと、身を挺して皆を庇ったコルドランが膝を着く。後ろからルーティが聖銀の短剣を投擲するが、リッチの手前で不可視の壁に阻まれた。


「下がれ!」


フラウが輝くボウガンを構えると同時に、リッチが巨大な火球を生み出す。光の矢は火球に呑まれ通路いっぱいに炎が広がった。


「シャケ!コルドランを部屋に!」


アレクの作り出した土壁は炎によって瞬く間に崩されたが、ヴィヴィが放つ火球が炎を巻き込みリッチを焼く。その隙に中の確認もしないまま、皆一斉に隠し部屋へと飛び込んだ。


フラウがコルドランに声を掛けると、しっかりとした返事が返ってくる。コルドランは聖水で清められた白のコートと、アレクからの魔法抵抗上昇により生き延びていた。


「上層でリッチが出るなんて!」

「…瘴気の塊だから当然死霊も生み出せる訳ね。いずれにしても影であって何も残さない」


外の様子を窺うヴィヴィから、靄以外何も残っていない事が伝えられる。


「台座の様子を見に来たってところね…入り込んでる闇ギルドはいったいどれだけ生み出したの」

「…あの黒い石は瘴気を凝縮して作り出してる。簡単には数を用意できないはず。より上位の魔物を生み出すなら必要な量も増えると思う」


そう話すヴィヴィは何処から取り出したか、水筒からコップに水を注いでいる。


「ヴィヴィさんもマジックポーチを持ってるんですね」

「…当たり前でしょ。迷宮都市一の魔道具屋の店主よ?」


アレクは小声で「迷宮都市一…」と呟く。

ヴィヴィにはポーチどころかバックもリュックもなく、先程まで振るっていた杖もなかった。

水を飲み終えるとくるっと一回転して見せ、両手に持っていた水筒とコップも消える。

鼻息荒く見つめるシャケの隣で、ルーティはフラウとヴィヴィを交互に見た後、首を振ってその場を離れた。




フラウがコルドランの回復を終えると、螺旋階段を下っていく。

中層の安全地帯は既に魔物が入り込み安全ではなくなっていたが、広い空間の外側には岩場があり、岩陰には探索者達が休憩している姿があった。

中層の奥へ進むと、黄色い光りを放つ石が無数にある明るい通路に出た。


「結構な人数の探索者がいたわね。情報にも魔人の出没もあるし、気を引き締めて行くわよ!」


通路を進むと石人形や岩蜥蜴、スライム等の一般的な迷宮産魔物の他に、探索者の死霊や倒すと黒い靄を出し消えていく魔物も現れた。


広い部屋の入口から中を確認すると、暗闇の中を佇む影が複数見える。


「…いるわ。死霊も何体か…アレクの魔法を皮切りにフラウとコルドランは魔神を。ヴィヴィは死霊をお願い。私はアレクをシャケはヴィヴィを守って」


全員が頷き部屋へ飛び込むと、アレクの重力魔法が魔神を襲う。

魔神は全長6メートル以上はあるラミアのような姿をしていたが、上体は鋭い脚を持つ蜘蛛で、頭が細長く目が無かった。

重力の範囲に囚われた魔神が激しく暴れだした為に、近づけずにいたフラウはボウガンを射つが、風の矢は弾かれてしまう。


ヴィヴィが放った火球が死霊達に向かい、その姿を映し出した。


「帝国の騎士!?やはり全滅したのね…」


火球が騎士を捉え炎に呑み込まれていくが、騎士はお構い無しに走り出し、魔槍をシャケに向かって突き出した。


「にゃ!?にゃあ!!」


細槍でうまく軌道を逸らすが魔槍の効果によるものか、シャケの腕に無数の切り傷を付け、血が吹き出した。


「シャケ!?」


ルーティが聖銀の短剣を投擲し魔槍で受けさせ時間を稼ぐと、ヴィヴィが杖を一閃させ、赤い輝きが騎士を弾き飛ばす。


「…その魔槍を受け止めてはだめよ」


ヴィヴィが杖で弧を描き炎の渦を生み出すと、死霊となった奴隷達を舐めるように焼いていく。

アレクが不可視の壁をシャケの前に展開した後、赤い傷薬を腰のポーチから取り出してシャケに投げ渡した。


騎士だけはほとんど無傷で、七人の奴隷達も焼けただれてはいるが立ち上がると迫ってくる。


「クリスタリア!」


魔神の尾の一撃を避けたフラウが叫び、氷の精霊が現れる。その姿は美しい長身の女性、氷のドレスを着て片手には不釣り合いな巨大な氷の剣を持ち、宙を滑るように駆けるとルーティ達に向かう。そのまま通り越すと、ルーティ達の背後に迫る影に一撃を入れて押し留めた。


「新手!?魔神2体!!私が――」

「コルドラン!私がこれをやる!」

「よし!」


ルーティとアレクが対峙した魔神は以前の腕の長い骸骨のような魔神だったが、片方の脚を失い這いずっている。

クリスタリアが大剣で押さえつける相手は、たるんだ腹をしたオークのようで手足が短いが、頭のあるべき位置には無数に牙を生やした触手が生えていた。


「大変にゃ!敵がいっぱいにゃ!」

「…落ち着きなさい。迷宮ではよくあることよ」


魔槍を鋭く突き出す騎士に対してシャケが素早く下がると、代わりに炎の大蛇が騎士と後に続く奴隷達を呑み込み、壁へ叩きつけた。


ヴィヴィの紫の瞳が怪しく光る。

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