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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
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レイジ出動

41


「では行ってきます。モルトさんも気を付けてください」

「君達もね。全員無事に帰ってくるんだよ」


翌朝、衛士が警護する孤児院の庭でモルト達に見送られるフラウは、今生の別れのようにリースを抱き締めていた。


「レイジ君も行かないと?」

「あー…オレは今日休みなんでした」

「そうなの?なら修繕を手伝ってあげて」

「そう…だな。わかった」


歯切れの悪い話し方に疑問を抱くルーティだったが、コルドラン達を待たせている為出発した。




孤児院の正面玄関を担当するモルトから、居間の柱や窓の修繕を頼まれるレイジ。柱や窓枠はごく普通の木製だったが、窓枠に嵌まっていた丸みのある透明な物質が、何で出来ているのか解らないでいた。


「レイジ兄ちゃんそれ甲虫の殻だよ。院長先生が取ってきた魔物の素材。替えは2階の物置部屋にあるよ」

「お?ガラスじゃないのか」

「そんな高価なもの孤児院にはないよ。ほとんど魔物か迷宮産の素材だよ」


木製の椅子やテーブルは大樹迷宮から持ち帰られた材木から作られ、玄関の扉は魔樹の表皮の合板で出来ていた。


「あの迷宮の枝木は持ち出せたのか…?」


ふと玄関から聞こえていた作業音が止み、何かが倒れる音がする。レイジ達が不思議に思っていると階段の辺りから、リースの悲鳴が聞こえた。


「院長先生!院長先生!!」

「なんだ?」


玄関を覗き見ればモルトはうつ伏せで倒れており、リースが必死になって揺すっている。慌てて駆け寄ると、艶のない黒い革服を着た覆面の男が、玄関の外に立っていた。


「――っ!?」

(うっ…わ、わかる…強ぇよこの人。逆立ちしたって勝てる気がしない)

「デイズさん!」

「し、知り合いか?良かった…」


モルトの首筋を確かめたデイズは、六区の院長と同じだと言う。泣き出した子供達を置いて、モルトを部屋のベッドに寝かせていると、マールがアニィがいないと叫ぶ。


「マジか…拐われた?いつ?」

「レイジさんどうしよう!」


リース達から必死な表情で見つめられたレイジは、心臓が破裂しそうなほど早まり、眩暈を覚える。


(相手は人…だよな?モルトさん…は見てわかんだろ!ルーティ達に知らせないと…いやいや違うって!落ち着けオレ!)


動揺を隠しきれないレイジをじっと見ていたデイズが、教会に出入りしていた商人の倉庫がわかったと言う。


「お前はたしか訓練所に出入りしていたな。ランクは…いやいい。覚悟はあるか?」

「っ!ある!」

「…これをくれてやる。準備しろ」


デイズは何処からともなく黒革の服と黒い籠手、黒いブーツを出すと押し付けてくる。それらはデイズが着ている物に似ていて、どれも高級品なのが素人目にもわかった。

受け取ったレイジは頷き、すぐ近くのフラウの部屋で着替え始める。窓の外を見れば柵にもたれ掛かった衛士がぐったりしており、その仲間が誰かを呼びに行くのが見えた。


「カリム!どこ行くの!?」

「レイジ兄ちゃんと一緒に助けに行く!」

「バカ言わないで!あなたに何が出来るっていうの!」


廊下からはリースとカリムの言い争う声が聞こえてくる。


「お前達は動くな。後でロサナを来させる」

「行けます!」


着替え終わったレイジは、髪から目、服、籠手、ブーツと全てが黒一色で、サイズも丁度合っていた。

打ち合わされた両手の籠手から硬質の音を響かせ、意志の強い眼差しをデイズに向ける。


「よし。六区の南に商人達が利用する倉庫がある。そこの赤い屋根の倉庫を調べろ。毎朝大量の食事を運ぶ男が目撃されている。俺は四区の倉庫を調べる。何を見ても昼にはここへ戻れ…いいな!」

「わかりました!行ってきます!」


勢いよく飛び出していくレイジに不安を覚えるリースだったが、今は頼れる相手がレイジしかおらず、モルトの側を離れられなかった。




(と言ってもオレ1人でどうにかなる訳がない!あいつらに頼もう!)


道行く人々がびっくりするのも構わず、冒険者ギルドまで走り続けて訓練所へ飛び込む。その場にいた全員の視線が集まる中、息を整えながら探索者ギルド側へ向かった。


「――んぉ?おめぇ~レイ――」

「今は立て込んでんだ!何かあるなら今度じっくり聞いてやる!」


昨日の冒険者達が絡もうとするが、鬼気迫るレイジの表情に驚いて道を開ける。その奥で目的の獣人達が暇そうにしているのを見つけ、喋り出す間も与えずに捲し立てた。


「訓練はなしだ!頼みがある!」

「あぁ?遅れてきて何言っ――」

「時間がないんだ!来てくれ!歩きながら話す!」


要領を得ないレイジの話にライガが言い返そうとする中、大人しく聞いていたヴォルフは誰よりも先に二つ返事で了承する。するとオラがのっしのっしと走りだし、ライガはやれやれと首を振りながら後に続いた。


訓練所から飛び出していくレイジ達を見送ったガルドは、探索者ギルド二階の窓を見上げる。外の様子を窺っていたカミュが頷くとガルドは後を追っていった。




「で?勢いに乗せられて来ちまったが、相手は誰なんだ?」

「…帝国の奴隷商人と繋がりがある、教会に出入りしていた違法商人。たしか闇ギルドってとこの奴だ」

「はっ!?闇ギルドだと!!そんなヤバい相手に俺らを巻き込むな!!」


六区の倉庫が建ち並ぶ場所まで来ると、ライガが相手を知るなり騒ぎ始めた。

七区にある古くボロい倉庫群とは違い、整然と建ち並ぶ倉庫はどれもしっかりとした大きなもので、一部の倉庫は背の高い塀に囲まれてさえいる。

時折通りかかる人も仕事中なのか足早に通り過ぎていき、遠くからは木工職人達が作業する音が聞こえてきていた。


「…おれはやるぜ」


ヴォルフは普段と違い静かにそう言うと、腰に吊るした反りのある剣をしっかりと握り直す。


「オラもやるぞー!二児の父として黙ってはられないなぁ」

「…………ぅえぇぇ!?ちょっ!?オラはオレとタメ…同じ18だろ!?」


赤い屋根の倉庫を探していたレイジが驚愕する。


「何言ってんだ?獣人の中じゃ普通だぞ?いつ死ぬかわかんねぇこの世の中だ。レイジも子孫残せる機会があったら残しとけよ?」


ライガの言葉に価値観の違いを思い知らされる。獣人達に成人年齢なんてものはなく、生まれた時から一人前でなければ南大陸の過酷な世界で生き残れない。血の絆が強い獣人種は、早期に子供を作り自身の一族を望む。


(くそ。これから大事な時だってのに動揺させるなよ。あぁメーリンとの時間をもうちょい長く取れてればなぁ)





十字路の奥、右側に赤い屋根の大きな倉庫が見えてくると、ヴォルフが身を低くして警戒する。


「いるな…へへっ悪党退治といこうぜぇ~?」


倉庫は窓もなく馬車ごと入れる大きな入口だけがあり、この場に不釣り合いなほど完全武装した男が二人立っていた。


「そろそろ俺らも脱出しねぇと不味いんじゃないか?上は何してんだ?」

「知らねぇよ。あぁクソ!どうせなら最後に楽しんでおけば良かったぜ」

「あいつら抜け駆けしてたりしてな?」


下卑た笑い声を上げる二人の所までには距離があり、微かに聞こえてくる会話から建物内には仲間がいると思われた。


「裏手から行くか?」


レイジの提案にヴォルフがよく見てろといい、剣を抜くと身を屈めて構える。


(こっから!?――!)


ヴォルフは爆発的な瞬発力で急接近すると、振り返った男の兜と鎧の隙間を狙って剣を振り抜き、隣にいた軽装の男の眉間を貫く。

続くライガが首から血を吹き上げながら倒れ出した男を受けとめ、二人揃って敷地内の茂みに引き込んだ。


オラがレイジの肩を叩き、大きな身体を精一杯丸めて進んでいく。


(めちゃくちゃ強ぇじゃねぇか…訓練の時は本気じゃなかったのかよ)


遅れて倉庫脇の出入口まで行くと、既にヴォルフ達が中に入って調べている。ライガは机から何かが書かれた紙を手に取って読み上げた。


「荷物の一部は昼前に運ばれたらしいな…」

「シッ…」


部屋の奥に扉があり、話し声が聞こえてくる。

意を決したレイジがヴォルフと目配せすると、扉の左右に立ち、オラが蹴破った扉から同時に乗り込んだ。


「なんだてめえら!?」


中の状況をいち早く把握したレイジとヴォルフ。テーブルの左右に座る二人の男へ、それぞれ飛びかかる。


立ち上がりかけた男を椅子ごと蹴り飛ばし、右膝で相手の胸を押さえつけると、渾身の一撃を顎に決め意識を奪う。ヴォルフは男の喉を切り裂き、声を上げさせることもなく倒した。


「止めはささねぇのか?」

「…誘拐された人の行き先を聞き出す」


男を縛り上げて転がすと部屋の中を確認する。中央にテーブルと椅子、壁際の棚には何かの液体が入った小瓶に首輪や手枷があり、布で仕切られただけの奥にはベッドがあった。


(これって…あれか?あー気が重いなぁ)


部屋は他に二部屋あったが、いずれも人はおらず、食料や着替え、高級な嗜好品があるだけだった。


「いねぇぞ?…おい、本当にここか?」


ライガはやっちまったかみたいな顔をするが、既に人を取引した証拠を掴んでいるレイジは落ち着いて調べていく。すると一部の床が動く事に気付いた。


「地下か…暗いな」


ヴォルフが棚にあったランタンに明かりをつけて先に入る。階段は思いの外長く続き、見えてきたのはいかにもな牢屋だった。


「当たりだな…えーと?」


ライガはいつの間にか鍵束を持っていて、牢屋を開けていくと、二人の子供と三人の若い女性が恐る恐る出てきた。

皆、首輪をしておりそれぞれ鎖で繋がれ、服装は誘拐された時のままなのか、普通の街娘の姿だ。


「私達をどこへ連れてく気!?」

「いやいや!助けに来たんだよ!」


慌てたレイジが手を振りながらそう言うと、五人とも助かったと喜び泣き出す子供達。ヴォルフが他にいないか聞くが、やはり子供が二人連れ出されたと言う。


「遅かったか?あの男から聞き出すぞ」




叩き起こされた男は、仲間の死体を間近で見せつけられ怯えている。ヴォルフが尋問を始めるが、答えないと当然のように拷問を加える姿にレイジは動揺した。


(わかっちゃいるが…目の当たりにすると動揺しちまう)


「あ…そうだ。どうする?復讐しとく?」

「別にいいわよ。汚らわしいし近付きたくもない」

「私も昨日無理矢理連れてこられただけだし」


女達の予想外の反応に面食らうレイジ。


(あれ?なんか違うな…?)

「…こいつらになんかされた――」

「はぁ!?あっ!されてないわよ!!私も彼女達も!変な想像しないでくれる!?」

「わ、わりぃ!」


ニヤニヤしながら見ているライガに気付き、レイジはさらに顔を真っ赤にしてそっぽを向く。その時何度目かの鈍い音が響き、唸っていた男が叫んだ。


「ぐうぅぅ!さっ拐っただけだ!帝国の奴隷商はキズのない商品を高く買うから!」

「…子供は?皆女だけか?」

「子供もだ!女子供は奴隷商に、男は四区に送る手筈になってる!」


男の顔は殴られ続けた事により腫れ上がり、椅子の肘掛けに固定された腕は、肉が削げ落ち血だらけになっている。気分が悪くなった女達は部屋を出ていった。


「奴隷商は何処だ?何処で合流する?」

「…ああぁぁ!外!南の荒野で待ってる!やっやめてくれ!」


真っ赤な腕からは一部白い物が見え、レイジも堪らず部屋を出る。そこへ前から子供達を連れた女達が慌てて戻ってきた。


「馬車がきたわ!助けて!」

「ヴォルフ!新手だ!」


外ではオラが二人相手に戦っていて、馬車の御者は狭い路地を引き返そうと必死になっていた。

レイジは短剣を逆手で引き抜き、左側からオラへ斬り込もうとする男の間に割り込む。


(落ち着け!ヴォルフより遅い!)


振るわれた剣から飛び退きやり過ごすと、腕を掴んで引っ張りながら短剣で肩口に斬りつける。

苦悶の声を出して離れようとするが、そのまま腹に膝蹴りを入れて引き倒し、後頭部を殴り付けると動かなくなった。


「レイジもやるようになったなぁ~ガハハ♪」


見上げるとオラがもう一人の男を塀に叩きつけながら、こちらを見て笑っている。御者もヴォルフに押さえつけられ、ライガが馬車の中を確認する。


「あ?あいつならポーションぶっかけて寝かしといたぜ。抉った傷は残るだろうが、死ぬよりいいだろ?」

「こいつらぁ縛って放り込んどくよ~?」

「馬車は空だ。向かえの馬車って訳だな」

「…これって使えるんじゃないか?」


レイジの妙案にライガ達が乗り、五区の南に広がる荒野地帯に向かった。

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