精霊発見?
3
思考の渦に飲まれていると唐突に抱き寄せられる。
何がおきたのか…今日何度目かの驚きにも慣れて振り返えろうとするも、細腕からは見た目以上の万力のような力で締めあげられ、身動きができずにいた。
「うぅ…な、なにを?」
「リース…あたたかいな」
いつの間にかフラウを追い越していた為に、後ろから抱きつかれたようだ。
おかしなことに硬いはずの白銀鎧からは、金属の感触が伝わってこない。
(く、苦しい…けど柔らかい鎧?…外套もだけど物語に出てくる架空の装備と同じ特徴だわ)
物語に出てくるその鎧はミスリル銀糸を編んだもので、普段は柔らかい布鎧のような状態を保ち、装備者の体格に合わせ最適なサイズになる。さらに衝撃や力が加わるとミスリルの名に相応しい剛性を発揮する。また魔力を流す事で大小様々な雪の結晶を浮かび上がらせ、周囲に冷気の影響を与える神話級の魔法鎧と書かれていた。
「お礼はもう受け取った」
「え?」
「孤児院へ行こう」
ひとしきり抱きしめられた後やっと解放される。気落ちしていたリースは気遣われたのだと知る。
「ありがとう、ございます」
「どうした?」
「なっなんでもないです。それよりもフラウさん!もう少し力加減をお願いします」
自身の両肩を擦るリースは恥ずかしさを誤魔化す様に注意する。フラウは見た目からは想像できないほど力があり、このままだと誰かに怪我を負わせそうだ。
「…そうか、すまない」
「いえ。嫌ではないので…あ!え~…行きましょう!」
自分の言っていることに気付くと恥ずかしさからフラウを省みずにスタスタと先に進む。すぐにも前が明るくなりはじめ森から抜け出せた。
「やっと出れた~。魔獣に追いかけられてる時はまったく出れなかったのに…」
「同じ場所を回るよう誘導されていたのだろう」
「そうなんですか!?あの犬~!やっぱり嫌なやつ!」
傷つき魔狼に追われていた時は気付かなかったが、足を噛まれ倒された後など、遊ばれていたことを思い出し怒りが込み上げてくる。
フラウを見るとまたどこかを見ている…と言うよりは何かが見えているかのように目で追っていた。
リースも見渡してみるが、背後は今抜け出してきた森があるだけで、前方には帰るべき迷宮区が見えるだけ。左手には森と街とを繋ぐ道が伸び、右手には小川が街まで続いている。注意深く見てみるも、やはり見える範囲に生き物はいなかった。
「何か…見えますか?」
「あぁ。リースは見えないのか?」
「?」
「ほら、そこにいる」
となにもいない中空を指差すフラウに、リースは困惑する。
「えーと…何がいますか?」
「風…風の精霊だな」
「え!?精霊が見えるんですか!?」
「あぁ。何かを伝えようとしているが…小さくて力の弱い下級精霊だからわからない」
リースは先程示された辺りを凝視したが、特に風が渦巻いてるなどの変化はなく、風はごく普通に吹いているのでわからなかった。
「精霊が見えるって…たしか特別な魔力を秘めた瞳をもつ人か、妖精種ですよね?」
「知らない」
「そ、そうですか…」
「行こう。日が沈む」
「あっ待ってください」
フラウは左手を差し出し、リースの右手と繋ぐ。
(…この感覚は好きだ)
(手を繋ぐのはいいけど、近い~顔近いですよぅ)
フラウはリースから伝わる気配に、懐かしさと温かさを感じていた。