表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
39/169

銀の像

38


上層は落ち着きを取り戻したようで、迷宮内の広場に屯する探索者達は、金銀財宝や高級武具が出たなど歓喜の声を上げている。それを聞いた新たな探索者達は、興奮した様子で顔を見合わせ、勢い勇んで迷宮の奥へと消えていった。


「闇ギルドの事や、中層の事を知らせておきましょ」


ルーティ達は混み合う警備室で情報を伝えたが、多忙極まる衛士は書き留める事もせず、壁を指し示した。

様々な情報が張り出された壁には、闇ギルドの他にも快楽殺人鬼や、狂気に囚われた者が暴れている等の情報が、重なるほど寄せられていた。


「上層は粗方魔物を倒し終えたようですね。こうなると怖いのは同じ人になりますか…」

「頭のおかしい連中に絡まれんよう、駆け抜けた方がよいの」


疲れた顔の一行が外に出ると辺りは暗く、懐の携帯鐘が震えて鐘八つとわかった。


「今日はもう休みましょ?明日は魔道具屋で鑑定してもらってからギルドで売却ね。一日休みを挟んで深層へ挑戦よ!」


コルドラン宅に移動する途中、情報屋の男が近づいて来る。情報交換が望みのようで神聖騎士団と中層での一件を話すと、身を乗り出して詳細を求めてきた。


「例の高級武具は騎士団の遺品だったか…よし。俺からは教会の話をしよう。軟禁されていたロメロだが、失踪した。帝国の奴隷商との繋がりを示す証拠が発見された他、教国から来ていた騎士団の関係者を殺害したようだ。今自警団の連中が血眼になって捜索している」

「奴隷商!?最悪だわ…六区の子供達は…」


情報屋が立ち去っていくのを、皆一様に悲痛な表情をして見送る。中層に到達して以来悪い話が続き、フラウは迷宮から抜け出せた気がしないでいた。




「おのれオルガンめ!地位も財産も奪い、その上迷宮核まで奪うか!どれも私が心血を注いで築き上げたもの!それを――!!」


薄暗い路地裏では、丸々太った身体に豪奢なローブを着た者が暴れている。向かいから似た服装ながら数段見劣る、白いローブを着た男が現れて一礼した。


「…ロメロ司教。早まった事を致しましたな。オルガンとその一行はお約束通り始末しましたものを」

「ファベルか!やつは死んだか!フハ、フハハハッ!でかした!迷宮核さえあればどうにでもなる…それで?迷宮核はどうした?」

「無事です。今はまだ迷宮にありますが、発見されることはないでしょう…迎えが来たようです」

「そうかそうか!わしはこのまま脱出する。迷宮核と奴隷どもを回収したら、商業都市へ行くぞ。いいな?」


ファベルが一礼すると、ロメロは暗い通路の先に到着した豪華な馬車に乗り込み、去っていった。


(バカな奴だ…迷宮核は我々のもの。あの男には奴隷関連の主犯として消えてもらおう)




翌朝。鐘の音を聞きながら朝食を終えたルーティらは、冒険者ギルド前の魔道具屋に向かった。

相変わらず店内に客の姿はなく、店主のヴィヴィはつまらなそうに奥のカウンターで頬杖をついている。


「おはようございます。魔道具と…変な石の鑑定をお願いしに来ました」


ヴィヴィは黙ったまま手を差し出し催促する。アレクがどろどろした銀の像と黒い石をカウンターへ置くと、彼女は急に飛び乗り、どこからか取り出した真っ赤な杖をアレクに突き付けた。


「っ!?なっなにを?」

「…これをどこで手に入れたの?正直に話しなさい。場合によっては殺すわよ」


ヴィヴィは一切表情を変えずに淡々と言い切り、アレクが急いで事情を説明すると、何事もなかったようにカウンターから降りた。


「…これは負の魔力の塊。巧妙に隠蔽されてるけど、砕けば濃密な瘴気が発生する」

「瘴気!?なっなぜこんなものが?」

「…その台座があった部屋が気になる。私も行く」

「え?行くって?」


ヴィヴィはいそいそとカウンター下から荷物を取り出して出かけようとするが、ルーティが一日休みを取ると伝えると、頬を膨らませて不機嫌さを表す。急な話と準備のよさに皆困惑した。


「わかりました。明後日一緒に行きましょう。あと銀の像も見てもらえますか?」


銀の像を一瞥したヴィヴィは、軽く触れて魔力を流した。すると期待に胸を膨らませていた一同は、みるみる肩を落としていき、ルーティが像を掴み上げて叩き割ろうとするのを全員で止めた。


フラウが今回の取り分に欲しいと言うと、ルーティ達に戦利品の売却を任せて、一人で探索者ギルドへ向かった。




「何かご用でしょうか?」


探索者ギルドの受付嬢に、カミュに会いに来たと伝えると、険しい表情をして断られる。だが二階への階段から現れたレミィによって通された。


二階は資料室以外立ち入り禁止になっており、ほとんど人がいなかった。異様に静まり返った廊下の、一番奥の部屋まで案内されたフラウ。レミィは緊張しているのか、扉をノックする手が震えていた。


「カミュ様。探索者のフラウ…様をお連れしました」

「開いてるよ」


レミィが扉を開けて中に入ると、カミュは正面の艶のある黒い机の奥で、椅子に腰掛けず立っていた。


「…そんなに警戒しなくていい。お前達に何かするつもりはない」

「そういわれましてもね…貴女のような方を前に楽にはできませんよ。世界の管理者…白の聖霊様」


カミュの言葉に頭痛を覚えて、頭に手を当てるフラウ。レミィは盾にでもなるかのように二人の間に立った。


(白…白の聖霊…いや今は要件を伝えよう。無駄な争いはしたくない)


「…ある情報屋に聞いた。探索者ギルドの偉い人がスライムを集めていると」


そう言った途端、レミィは般若のような顔で情報屋の名前を聞いてくる。フラウが首を振ると舌打ちをしてカミュに宥められた。


「集めていると言うほどではありませんが…それが何か?」


フラウは銀の像を机に置くと、魔力を流すよう手で示した。

怪訝な表情をしながらも、恐る恐る像に触れるカミュ。

すると銀の像はスライムのように動き出した。


「…これを買えと?」

「金じゃなく頼みたい事がある。坑道迷宮に話の通じるゴブリンがいた。わかるな?」


二人は驚いた表情をして顔を見合せると、幾分か緊張が溶けたようで話を再開する。フラウがゴブリンの保護と村まで連れ帰るよう依頼すると、カミュはひどく困惑した様子で尋ねた。


「…なぜ貴女が妖魔種を助けるのですか?」

「全ての妖魔が敵ではないのだろう?お前達は違うのか?」

「いえ…わかりました。その依頼受けましょう」


要件が終わるとそうそうに帰っていくフラウ。窓から見下ろす二人は深いため息をついた。


「カミュ様。あの方はいったい何を考えているのでしょうか?私達妖魔種を見逃すどころか助けるなど」

「わからないがまだ私達は生きてる…そのゴブリンは明日にでも回収し村まで送るように。頼んだよ」

「かしこまりました…それはどういたしますか?」


暫く悩んだ末、カミュは銀の踊るスライム像を掴むと、隣の部屋に投げ込む。部屋には毒々しい色をしたスライムがいて、投げ込まれた像に反応すると、素早くキャッチした。


スライムらしからぬ動きを見せたスライムに不審がるが、そのまま扉は閉められる。真っ暗な部屋では、像を取り込んだスライムが反応し始め、淡く光りだしていた。




フラウは冒険者ギルドへ向かう途中、訓練所でレイジといつもの獣人達と出会う。汗だくになり荒い息をしている彼等は、街中を走ってきたという。


「なぜ走る?」

「え?身体を鍛えてるんすよ。なんか皆は技を鍛えはするけど基礎体力とかないよね?」


周りを見ると探索者達は木剣や槍で動きを確かめたり、模擬戦をすると帰っていく者ばかりだった。

レイジはすでに息を整えたが、後ろの獣人達はまだ荒い息をしている。身体能力が高い獣人だが、瞬発力はあっても持久力はそれほどないようだ。


「へ…こいつしつっこいんだよ。戦いは一瞬だぜ?」

「なに言ってんだ。オラが言うには迷宮は広いし、冒険者の依頼は遠出すんだろ?体力がなきゃ連戦を生き残れないぜ?」


戦闘教官のガルドが、他の探索者の指導をしながらチラチラとこちらを見ては、聞き耳を立てていた。

レイジは今、ヴォルフ達から訓練を受けている。獣人相手に格闘戦を繰り返し冒険者に必要な知識を得ていた。


「そうか、がんばれ」

「おう!」


気合いの入った声を出すと、獣人達と共に再び走っていった。




冒険者ギルドの裏手では、戦利品の売却を終えたルーティ達が待っていた。


「槍を失ったシャケに多めに分けたわ。それでもかなりの収入よ。もう春まで依頼を受けなくてもよさそう♪」

「バジリスクの鱗と銀の宝箱がでかいのぅ。ワシはちょっと良い酒でも飲もうかの」

「わたしは身体が小さいから、合う武器がなかなか見つからないにゃ…」

「魔水晶を補充しないと。赤字…かなぁ」


それぞれが今回の探索で得たものを省みて、今後の事を考える。フラウ自身は魔道具でもある銀の像を取り分にしたので、今回現金の収入はなかった。

ただ襲撃者の短剣に食糧、魔道具の壺をゴブリンに渡したことを考えると、フラウの方が多いほどだった。


そのまま一行は解散し、フラウとルーティは孤児院へ、アレクは魔道具屋に寄り道する事となった。




孤児院に問題はなく、子供達は居間でルーティが買ってきた菓子パンを食べている。誰かがモルトに会いに来ているようで、皆静かにしていた。


「ルーティ姉さん。今院長先生の所に来てる人って、この前冒険者ギルドの裏口にいた黒服の人ですよ」

「え?デイズさん!?」


驚くルーティはモルトの自室に近づき、聞き耳を立てている。すると突然表情を曇らせた。


「…6区の院長が寝たまま?」


戻ってきたルーティは、最後まで教会の傘下に入ることを拒んでいた六区の孤児院院長が、寝たまま起きなくなったと話した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ