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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
37/169

坑道迷宮中層へ3

36


二の鐘が鳴り坑道迷宮内の入口には、行き交う探索者達の姿があった。

その中を黒い外套を着た男が縫うように進み、白いローブを着た男に近づくと、強引に物陰へ連れていく。


「ファベルっ!ハリクの奴がしくじった。魔神の影は喚べたが、魔物の邪魔が入って祭儀部屋はそのままだっ」

「なんだと!?」


ファベルと呼ばれた白いローブの男――司祭は驚愕して声を上げる。近くにいた探索者達の視線が集まると舌打ちをして、警備室から離れた場所まで移動してから再び黒い男に向き直った。


「まずいぞ…影は2体喚べたか?命令は?」

「1体だ。命令はしたが実行されたかは確認できていない」

「誰かに見られる前に祭儀部屋を処理せねば…」


ファベルと黒い男は、連れだって迷宮から出ていった。




迷宮には二通りの魔物の他に、妖魔がいる事もある。

迷宮核によって外から転送されてきた魔物と、それを元に迷宮核が創造した迷宮魔物。そして呑み込まれずに、負の魔力が抜けて自我を取り戻した妖魔だ。

この三つの存在はいずれも敵対関係にあり、迷宮内を探索する者達は、稀に争っている場面に遭遇する事もあった。


フラウは微かな音に目覚めると、腕の中ではシャケが丸くなって寝ていた。

テントの外を確認すれば、不寝番のコルドランが武器を構えて、罠が張られた通路を睨んでいる。シャケ以外の二人も身体を起こして、状況を確認していた。

盛り土から僅かに頭を出していた燭台の火は、今だ付いたままだった。


シャケを起こして無言のまま準備を整える。音もなく震えた鐘は一つとわかった。

コルドランとルーティが罠を確認し、アレクは眼鏡に触れると通路の奥を覗いた。


「糸は切れてる…近づいてこない?仕掛けに気付いたなら探索者?」

「この匂いはゴブリンにゃ」

「2つ目の岩の裏です!」


暗闇に向かってフラウが光る矢を撃ち込むと、ルーティ達が通路へ飛び出す。一瞬照らされた岩影には、半裸の緑の子供が驚いた顔して立っていた。


「わぁーー!!」


絶叫しながら通路を走っていくゴブリンに唖然としつつ、ルーティが追跡を指示して走る。


「動けるわね?あのゴブリンは何か変だわ!捕まえるわよ!」


暗い通路を進んで行くと、右手の支道に遠ざかる足音がする。人一人分の狭い下り坂を抜けると、先からはむせかえるような濃密な血の匂いが漂い始める。

ゴブリンの姿は見当たらず、代わりに何かが地面を這ってくる広い場所に出た。


「これは!?」


アレクが魔法のランタンを掲げると、それは両足があらぬ方向に折れた探索者だった。


「ヒュー…ヒュー…」


喉が潰れているのか声にならない声を上げ、こちらを見る探索者。ルーティが警戒を促すよりも早く、探索者の頭上に大きな影が差すと、鹿の蹄が頭を踏み砕き、赤い花が咲いた。


「なっ、なにあれ?」


(魔神!?目は赤くないが魔神だ!!なぜ!?)


あまりに異質な魔物の姿に、呆然としたルーティ。その後ろでフラウは驚愕し手で口を抑える。

足元を確認していた魔物は、ゆっくりとこちらを見て、首を傾げた。


「構えよ!ただならぬ相手ぞ!!」


コルドランの声に一歩踏み出して構えるルーティ。アレクは最初から水晶を取り出し、シャケが砕くと光る石をばら蒔く。フラウだけは精神的な衝撃で動けずにいた。


(ま、魔神…魔神は地下に…頭が!!)


魔神は頭を抱えて後退るフラウに向かって跳躍すると、斧槍が振るわれ鹿足の蹄に当たる。後ろに降り立った魔神はバランスを崩して手を着いた。


「フラウ!?しっかりして!!」


ルーティの声にフラウが振り返ると、頭を握り潰そうと迫る魔神の右手を、シャケの細槍が正確に捉えて軌道を反らす、しかしシャケは掴まれてしまった細槍ごと打ち払われて、ルーティとぶつかった。


「っ!」


フラウが振るう銀の剣は長大な光の刀身を作り出し魔神に迫るが、黒い靄のようなものが左手に集まり光剣を受け止める。


「時間を稼いでください!」


アレクが黒曜石の杖と水晶を合わせ、詠唱を開始する。コルドランの斧槍が魔神の注意を引く中、フラウは高速で剣を振るうが、魔神は両の手を巧みに使い凌いだ。

急に飛び退くフラウに対し、手を伸ばした魔神は一瞬膝を着きそうになるも、力ずくで側転して逃れる。


「むぅ!避けたか!」


フラウが輝くボウガンを構えると、強風と氷の矢の雨が魔神へ降り注ぐ。立ち上がりかけていた魔神は左膝を着き、右腕で頭を庇って氷の雨を受けた。


全身針ネズミのようになるも、構わず立ち上がろうともがく。しかし氷の雨は止まず、接近したフラウの光剣によって、右腕を肩から絶ち斬られた。

最後は背後から追従していたコルドランによって、魔神の頭は叩き割られた。


「シャケ!?無事?」

「うっ…にゃ…」


投げ飛ばされたシャケに怪我はなかったが、槍は折れていた。

コルドランは今だ斧槍を構えて注意深く魔神を見ていたが、黒い靄を出しながら溶けるように消えていき、後には何も残らない。


「…やったか?」


周囲を見渡しても、探索者の無惨な死体だけだった。




ルーティ達は魔石も残さず消えた魔物に注意しつつ進むと、辺り一面死体と血の海となった通路を見つけた。


「気持ち悪いにゃ…」


シャケが青い顔してフラウの背中に顔を埋める。


(獣人故に人より鼻が効く。ここの空気は辛いのだろう)


フラウは外套でシャケを覆うと通路から離れた。

コルドラン達が死体を確認すると、神聖騎士団のものだと判明する。


「このままでは死霊になるわ…遺品諸とも埋葬しましょう」


迷宮で見つかる遺品は発見者の物だが、教国の騎士団の物は揉める原因になる為、埋めてしまう事にした。


「まぁ別の形になって出てくるからの。問題ない」


奥に進むにつれて死体が増えていき、通路の端で二つ折りになって倒れている騎士隊長を発見した。


「全滅…か。まださっきの魔物がいるかもしれない。引き返しましょ」


と手早くオルガンを埋めようとしたら、血で染まった赤い手帳を発見する。


「騎士団は元々、迷宮に来る予定ではなかったようね…司教ロメロの供述に闇ギルドとの繋がりと、迷宮核!?」


手帳にはロメロが闇ギルドと繋がりがある事、坑道迷宮で迷宮核を作る実験をしている事が書かれていた。




燭台のある部屋の手前まで戻ると、部屋から漏れる僅かな明かりに照らされた人影が揺らめく。

ルーティが手で合図を出して静かに近づくと、ゴブリンが部屋の一角をしきりに調べていた。


「なにしているの!」

「ひゃ!?ひーー!!」


ゴブリンは驚き、壁まで下がって縮こまる。


「ころさないで!」

「!?…噂の喋るゴブリン!目が赤くないですね」


ルーティ達が驚いていると、ゴブリンは持っていた腐敗しかけの何かの肉を寄越してくる。


「…しまいなさい」

「お前操られてないな?どこから来た?」


フラウが一歩前に出て話す。


「おいらはだいじょうぶ!むらにいた!めがさめたらここにいた!」


ゴブリンは地下にある妖魔種の村にいたそうだが、迷宮の転送域に捕まってしまい、気を失ったらしい。数日前から正気に戻るも、赤い目の魔物から狙われ、ずっと隠れていたという。

ルーティ達はいくつか聞き取れなかったようだが、フラウにはわかった。いや知っていた。


(妖魔種すべてが敵ではなかったが…)


「たすけて!たすけて!」

「左から何人か来るにゃ!」


と、シャケが警告する。


「探索者?一応備えて」


通路からは足音が途絶え、代わりに艶のない黒いナイフが暗闇から放たれた。


「っ!敵よ!」


飛び出してきたのは黒ずくめの男達だ。

皆一様に黒い短剣や黒い投げナイフを持ち、裏家業の者達だとわかる。


「ひーー!?」

「アレク!」


ゴブリンは奥の通路に飛び込んで行ってしまう。

アレクに向かって投擲されたナイフを、シャケが短刀で払うと不可視の壁を作る。コルドランとルーティが賊を迎え討とうと構えた。


フラウの風の矢は的確に一人の男を捉えたが、男は無視して燭台に黒い袋を投げると、火のついた燭台が消えて暗闇になる。


「しまった!」


ルーティは動揺したが、アレクが魔法のランタンに火をつけると、周囲を確認する。三人の男達は短剣を片手に飛びかかる姿で凍っていた。

フラウの髪留めの宝石が青く明滅する。


「死んでるわ…闇ギルドね。あ!」


何かが投げつけられた燭台は、後も残さず消えていたが、壁際の禍々しい台座は、完全に埋もれていたので残っていた。


「溶けた?わからないことだらけだわ」

「とりあえず。ゴブリンを連れてきましょう」




予想通り崩落で行き止まりだった奥の通路で、ゴブリンは縮こまっていた。


「なにもしない。どうやって生き残っていたか話せ」


フラウがやけに積極的に会話をするのを、不思議に思いつつゴブリンの話を聞くルーティ。


ゴブリンはやはり魔物から狙われているようで、支道の坂を下った先、十字路にある隠し部屋にずっと隠れていたが、争う音に怖くなって出てきたという。


「隠し部屋?…なんでここにきたの!」


ルーティが高圧的に聞くとゴブリンは震えだし、聞き取れない言葉になる。


「落ち着け…なぜここにきた?」

「ヒトがまほうのつぼもってた!ちかづけないばしょ!あんぜん!」

「結界や魔除けの類いの魔道具ですか?貴重品ですね…この部屋に?バジリスクはいましたが?」

「大物には効かないってとこじゃろうな」


コルドランとシャケは壁をつぶさに調べ始める。


「そう…で、どうしよっか?」


ルーティが腰の剣に片手を掛けながらゴブリンを見下ろすと、大粒の涙を流し始める。


「…隠し部屋と言っていたな。下層への抜け道はわかるか?」

「し、しってるよ!あんないするよ!」


信用していいものかわからないルーティが微妙な顔をしていると、コルドラン達が騒ぐ。


「おぉ!あったぞ!壷だ!」

「魔道具にゃ~♪」


紫色した歪な金属製の壷を掲げている。


「…しょうがない。これを頭から被ってなさい!ゴブリンと仲良く歩いてるところなんて、他の探索者に見られたら面倒になるわ」


ルーティは闇ギルドの男が着ていた、艶のない黒い外套をゴブリンに投げつけ、通路を進んで行く。




通路に出て再び支道を下っていく。十字路の手前でゴブリンが壁をドンドンと叩き出した。


「ここ!ここらへん!」


すると壁がもとから扉だったかのように開き、中は小さな部屋になっていた。

中央にはしっかりした造りの石の螺旋階段があり、下は暗闇で見えない。


「…ほんとにあった。信じられない」

「夏の宴が使った抜け道かもしれませんね」


暗い螺旋階段を下った先には同じような部屋があり、外には広大な空間があった。

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