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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
34/169

精霊契約

33


「エルトゥス!」


アリエルに名を呼ばれた長身の男は、強風に煽られながらも、渦巻く風に手を翳した。


「風の精霊よ!狂わされし友を鎮めてくれ!」


暗い色を含んだ渦巻く風は、エルトゥスから放たれる輝きを帯びた風に巻き上げられると、その実体を露にした。


「実体化している…」


所々黒く変色した石膏像のような美しい少女が、瞼を閉じて浮いている。その手足はひび割れて、黒い靄を出していた。


「深度2!浄化はできない!自然に還します!」


アリエルともう一人の女性が手を翳すが、狂った風の精霊は自身の肩を抱くと、目を見開き血の涙を流す。


「っ!かいひ――!」


猛烈な風が吹き抜けると、二人は地面ごと吹き飛ばされ、後を濁った風の刃が迫る。


「くっ!風よ!」


エルトゥスが両手を振り下ろすと、アリエル達の周囲で旋風が巻き起こり、風の刃は霧散した。


「オリヴィア!火の精霊を召喚して!」

「風の精霊にぶつけても無駄よ!」

「わかってる!時間を稼いでちょうだい」


アリエルはすぐに立ち上がり、銀色の髪に褐色の肌、紫の服を着たエルフの女性――オリヴィアの無事を確認すると指示を出した。


「火の精霊よ、力を示したまえ!」


オリヴィアが手に持った赤銅色の杯を空高く掲げると、中から炎の蛇が生まれ、狂った風精霊に飛び掛かった。


「――キィーーー」


耳障りな音が辺りに響き、再び渦巻く風が生まれると炎の蛇は阻まれた。炎と風により、周辺の草は燃え広がるより先に炭化する。


「想定以上の力だわ!もっと早く対処できていれば――!」


複数の小瓶を取り出していたアリエルは、後方から何かが急接近してくる気配を感じたが、振り返る間もなく通り過ぎていく。


「聖霊様!?」


薄暗くなり始めた草原をフラウは走り抜け、放たれた輝く風は、より力が増した渦巻く風を霧散させる。

再び露になった風の精霊に対し、光を放つ剣が振るわれると、風精霊の身体を腰から両断した。




風精霊の下半身は霧散して消えるが、上半身はそのまま残り、爆風を生み出してフラウを遠ざける。


「聖霊様!その精霊はもう浄化できません!完全に霧散させて自然に還します!」

「わかった!」


フラウが着る白銀鎧に雪の結晶模様が浮かび上がり、冷気が風精霊を襲う。


「――!?」


浮かんでいた風精霊はさらに上昇しようとするが、冷気の檻が精霊を捕らえる。フラウは瞬時に跳躍して縦に両断した。




辺りは暴風によって地面が掘り返され、ひどく荒れた場所になっている。エルフ達がフラウの周りに集まり膝を着くと、遅れてやってきたアレクを警戒する。


「待て。連れだ」

「人ですか…聖霊様、ご助力感謝いたします。こちらの2人は禍精霊対策班のオリヴィアとエルトゥスです」


二人は深々と頭を下げたが、フラウはキョロキョロと辺りを見回すばかりで、アリエル達は困惑する。

すると息を整えたアレクが手を上げて注意を引く。


「エルフのみなさん。はじめまして、魔法士のアレクと申します。突然ですが私の話をお聞きください――」




「そ、そんなことが…申し訳ございません!私が側にいながら…」


アリエルは青い顔をして俯く。


「いい。私のせいだ。それより精霊石はないのか?」

「え?…おそらく精霊石はないかと。精霊石は禍精霊が全ての力を解放した際に出来る結晶ですので」


オリヴィアがそう話すと、ひどくがっかりした様子のフラウ。燻る杯を見つめていたアレクが話を続ける。


「困りましたね…氷の精霊との契約に必要なのですが」

「え?契約を!?…でしたら聖霊様が持つ白輝晶石をおいて他にありません!あれは精霊石より遥かに稀少で、代わりになるものですから!」


諦めきれず辺りを探していたフラウがピタリと止まり、おもむろにアリエルを見る。左手首に触れるが、アレクの視線を感じてそっぽを向いた。


「…聞き取れませんでしたが、フラウさんは精霊石の代わりになる物を既に持っていると?」

「そ、そうなりますね…最高位の物なので大精霊様とも契約を交わし、常に共にある事も可能かと」


フラウがウエストポーチから取り出した、眩しく輝く白い宝石を見せられるアレク。思わず手が出そうになるのを堪え、眼鏡の位置を正した。


「良かったですね!…では帰りましょうか?」

「いや、ここで契約する。不安を抱えたままでは戻れない」


そういうと白い宝石を髪留めに近づける。すると台座に付いた三本の爪が広がり、丸い宝石をしっかりと掴んだ。


「へぇ…ヴィヴィさん、結構良い物をくれましたね。形状補正の魔道具ですよ」


フラウが頷くと左腕の籠手。その手首の内側にある蒼い宝石が輝き、氷の精霊が正面の荒れ果てた場所に現れる。アレクとエルフ達は引き下がり、フラウが前へ出ると氷精霊は顔を上げた。


「…セイレイサマ」

「お前を苦しめたのは私だ。私は人を好きだと言ったがお前達、精霊を蔑ろにした訳ではない。時間はかかるだろうが、私が誰かを知るつもりだ。身勝手な私を赦してほしい」

「ユルスナド…カッテナフルマイヲシタノハ、ワタクシデス、シットニカラレ、アヤマチヲオカシマシタ、セイレイサマノ、オナサケヲ、ウケルシカクモアリマセン」

「私はお前を赦そう。契約を受け入れてくれ」

「セイレイサマハ、ワタクシタチノスベテ…」


膝を曲げ恭しく頭を垂れる氷の精霊。オリヴィアが助言する。


「聖霊様、名をお与えください。より確かな繋がりになります」

「…よし、お前の名は――」




フラウはアリエルに手伝ってもらい、白雪のような髪を後ろで束ねると、青く光る宝石の付いた髪留めで結んだ。


「う~ん。学園で聞いていた話とだいぶ違いますね。精霊との契約はもっと低姿勢で、命懸けで挑むものかと?」


精霊力によって荒れた土地を放置すると、異常現象が起きる為、地ならしをしながら尋ねるアレク。オリヴィアは精霊との契約に使われた杯を覗き込み、肩を落とす。杯には小さな赤い結晶が付いていた。


「聖霊様の方が遥かに格上ですから、特別です。私は一度ではダメだったなぁ…」

「無事目的は果たした。帰ろう」

「あ!まっ待ってください!この笛をお持ちください、症状の軽い精霊達の穢れを祓います」

「わかった。ありがとう」


アリエルはこのまま妖精里まで行き、別の任務に就かなければならないと言う。


「すぐに戻りますので、その際には何卒大森林へ…」

「わかってる。お前達が戻るまでには用事を済ませておく」

「大森林へ行くのですか?…そうですね。まだ始まったばかりなので何とも言えませんが、フラウさんがいれば攻略も早いでしょう」


アリエルらと別れて街へ急いだが、閉門時間に間に合わず、門外の衛士詰所で一夜を明かすことになった。

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