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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
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精霊石

31


「では行きましょうか」

「フラウさん、アレクさん、気をつけていってらっしゃい」


リースに見送られてフラウとアレクは中央区を目指す。嫌な空模様に反し、七区の人々は普段通りの生活を営んでいた。


「まずはエルフの方が出入りしているお店ですね。どの辺りですか?」

「…問題ない」

「?…そうですか」


内郭門を抜けて中央区へ入った二人は、真っ直ぐ道なりに進み、冒険者ギルドの正面入口に辿り着く。フラウは左右の通りを見渡したが、記憶に新しいエルフの店は見当たらなかった。


「…フラウさん?」

「あっちだ」


フラウは右の通りを指差し、数歩進んでは立ち止まる行為を繰り返す。三の鐘が鳴るこの時間帯、中央の人々は昼食の時間まで仕事をしており、人の往来も減って通りは静かになる。見慣れない場所に迷い込んだフラウは、他とは違う建築様式の大きな建物を眩しそうに見上げた。


「市役所の近くなのですか?」

「…わからない」

「はい?」


フラウは迷子になっていた。

古倉庫が乱雑に点在する七区と違い、中央区の通りは整然と並び建つ背の高い建物に囲われている。さらに十字路や曲がり角に行き当たれば、再び似たような道が続き、通り沿いの建物はどれも代わり映えしなかった。


(人の街はどこも同じに見える…迷宮だな)


困り顔のアレクが通りすがりの人に店の場所を尋ねたが、人を寄せ付けないエルフの店を知る者はいなかった。ついにはギルド前を通り越して南側まで探し歩き、やっと他とは違う植物に覆われた店の前に辿り着いた。


「無事着きましたね。良かった」

「すまない」

「いえいえ。さぁ入りましょう」

「ウチには人に合う服はないと思うわ」


店へ踏み入ろうとするアレクを拒む声が掛かる。入口には緩やかに波打つ金髪を束ね、肩に流した女性が立っていた。


「あっ…これは失礼しました。私は魔法士のアレクと言います。エルフの方にお知恵をお借りしたく、突然の訪問、お許しください」

「畏まらなくていいわ。私はハーフだもの。魔法士ってことは魔法学園の人かしら?そちらは…聖霊様!?」


フラウの存在に気付いた彼女はすぐに膝をつこうとした。しかし面倒事を嫌うフラウは手で制して押し退けると、店の中を覗き込む。


「アリエルはどこだ?」

「アリエルは今、街を離れています。まさか昨日の今日で来ていただけるとは思わず、申し訳ございません」


(ハーフとはいえエルフがこうも…フラウさんはやはり神話に語られる聖霊…全ての始まりにして、世界の管理者!)


自分の推測は正しかったと興奮するアレクに対し、不在と知り表情を曇らせるフラウ。


「いないのか…どうする?」

「あっあの、私でよろしければお話しをお聞かせください!」




テーブルに着いたフラウは氷の精霊の一件を話した。黙って聞いていたクリーリアの表情はみるみる青ざめ、悲痛な表情をして俯く。


「なんてことっ…アリエルあなた肝心な時に…失礼しました。その氷の精霊は間違いなく人の思念に犯され狂いだしています」

「思念?」


魔法士として精霊に強い関心があるアレクが問う。フラウは話を聞きつつ、自身の中に眠る記憶と照らし合わせていた。


「本来精霊は人里に現れません。なぜならとても純粋な精神体だからです。感情の起伏がほとんどない精霊は、無限ともいえる時の中で、変わる事なく存在し続け世界を廻しています。それが人の激しい感情や願望にさらされると、存在が歪み狂うのです。おそらく聖霊様の周りでは精霊達が触れて欲しくて、我先にと寄っては来なかったでしょうか?聖霊様に触れられ、話し掛けられることは、精霊達にとって喜びなのです」


風の精霊にしろ水の精霊にしろ、皆何かを必死に訴え掛けながら手を伸ばしてきていた事を思い出す。


(思い当たる節が多いな…)


「氷の精霊は…嫉妬でしょう。自らの主である聖霊様が、何をおいても人を可愛がる姿に嫉妬し、この街に住まう人々の思念に当てられたのです」

「…私のせいか」

「えっ!?いえ!決してそのような事は!」

「いやいい…私は私を知らずに居心地のいい場所で好き勝手していたのだ。私は責任ある立場の者なのだろう?」

「…はい。その通りです」

「氷の精霊を助けることはできるか?」


しばし考えるクリーリア。


「あります。非常に危険を伴いますが…契約を、精霊契約をして確かな繋がりを持てば、正常に戻るでしょう」

「どうやるんだ?」

「契約自体は精霊と交信するだけです。ただ依り代となる精霊石がなければ、人の思念の影響から逃れられないかと。氷の上位精霊ともなればかなり稀少な物が必要になります。精霊石とは強い精霊力が具現化した物です」

「…わかった。精霊石は私がなんとかしよう…?」


ふと隣を見ると、アレクは諦めたような顔をして泣いていた。


「あぁお気になさらずに…肝心なところが聞き取れず、世の無情に打たれていただけです」


フラウもクリーリアもどうしたものかと顔を見合わせたが、アレクは気を持ち直して提案した。


「精霊の目撃情報がほしいですね。街の近くで異常な自然現象が続く場所がないか、資料室を見てみましょう」

「アリエル達ならば苦労なくわかるのですが…禍精霊と言うのは狂った精霊の成れの果てなのです。その場所で精霊石が見つかるかもしれません」

「わかった。探してみる」




お昼時にギルドへ移動すると、首に手拭いを掛けたレイジが何かを飲みながら、依頼が張り出してある掲示板を眺めていた。近くには真っ昼間から酒をあおる、見覚えのある獣人達もいる。


「…ん?どうしたの?」

「休憩かい?僕らはちょっと調べものがあって資料室に行くところだよ」

「へぇ~。ちょっと時間あるし、手伝おうか」


冒険者ギルドの一番左端。馴染みになりつつある受付嬢の元へ行く。アレクは簡単に用を伝え、鉄の玉が嵌め込まれた銅級のカードを提出する。レイジも首から下げた石製のカードを見せた。


ギルドカードの端には親指大の穴が空いており、レイジは紐を通して首から下げていたが、本来は上のランクの玉を嵌め込む穴だった。


冒険者の中には故郷から出ず、試験を受ける資格がないまま実力をつける者もいる。その場合ギルドは条件付きで上位の依頼を受けられるようにしたのが玉証だ。


フラウも二人に習いカードを取り出す。


「申し訳ございません。フラウ様はランク条件が満たない為、入室できません」


とニッコリ笑う受付嬢。


「「…は?」」


なぜか付いてきた獣人達も含め全員がフラウを見る。


「ランク制限だって?フラウさん昇格試験は?」

「知らない」

「マジか?まさかウッドランクのままなのか?」


レイジは信じられないといった表情で受付嬢を見た。


「フラウ様はウッドランクですね」

「これは困った…」


アレクが呻く。


「じゃあ今受けなよ。簡単な筆記と依頼1回達成だから楽勝でしょ?」


レイジの言う通りお金を払い、試験を受けるフラウ。




「申し訳ございません。フラウ様は不合格になりました。またの挑戦をお待ちしてます」


「「…はぁ!?」」

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