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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
30/169

暗雲

29


探索者ギルドは人手不足もあって、依頼や買取業務等の面倒事を、冒険者ギルドに一任している。

その為冒険者ギルドの裏手には、迷宮で入手した魔石や素材を換金しに多くの探索者が集まり、迷宮外の仕事を受けてきた冒険者との間で、争い事が度々起きていた。


「てめぇらのせいでおれたちゃ迷惑してんだよ!探索者ギルドで換金しろや!」

「はぁ?なにいってんの?あっちに買い取り所はないって知らないの?」

「そんなこと知るかっ!ここはおれたち外の依頼を受けた冒険者が使う場所だ!てめぇらはどっか行きやがれ!」


順番待ちをしていたルーティと、列に並ばず騒ぎ立てている大柄の男が揉めている。周りを取り囲んでいた男達が背後から詰め寄ると、アレクが杖で地面を打ち鳴らし、引き下がらせた。


「エルフのせいでモヤモヤしてたにゃ!ぶちのめすにゃ~!」

「また人同士で争っているのか…」

「んにゃ?…人も獣人も闘争の末に今があるにゃ。生きる事は戦う事にゃ!ここで逃げたら今夜のお魚が買えないにゃ~!」


やる気満々のシャケは今にも飛びかかりそうで、フラウが首根っこを捕まえる。一向に収まらない様子にげんなりしていると、後からやって来た探索者達が迷惑そうに見ながら噂をする。


「あれって火竜のアギトだろ?」

「あぁ…最近パーティの構成員が50人を越えたからと、市に新ギルド設立の申請をしたらしいぜ」

「毎日どっかで揉め事を起こしてるな」

「しっ!聞こえるぞ?」


ルーティの前にいた男が換金を終えて退くと、彼女は窓口にいたギルド職員に規則を尋ねた。職員はギルドの奥を窺ってから一言、問題ないと答えた。


「ほら見なさい!問題ないって言ってるじゃない!」

「うるせぇ!おれたちが問題あるって言ってんだよ!んっ!?良いもん持ってんじゃねぇか!今回はこれで我慢してやるよ!」


ルーティがカウンターへ置いた銀塊を、横から奪う。酒の匂いをさせた大男は興奮していて、銀塊を掴んだ腕を振り回す。


「ちょっと!なに取ってんのよ!」

「うるせぇ!うるせぇ!おれたちゃ火竜のアギトだぞ!文句あんならかかってこぶっえぇぇ!」


大男は逃げようと振り返るが、背後に現れたフラウに蹴り上げられ、そのまま買い取り所の壁まで吹っ飛び地面へ落ちた。

仲間らしき男達は、口をあんぐりと開けたまましばらく固まっていたが、誰かが立てた物音に先頭の男が上擦った声で叫ぶ。


「なっなんだてめぇ!?こっこんなことしてただですむと思うなよぉ!?」

「それはお前らの方だ」


ギルドの中から声が掛かり、奥から青髪の男と数人の冒険者達が出てくる。男達を取り囲んだ冒険者らは、皆一目見てわかるほどに、歴戦の猛者の風格を漂わせていた。


「ギルドカウンターに置かれた物を奪うとは、いい度胸だな。火竜のアギトはウチに喧嘩売るほど偉くなったのか?」

「ひぇ!?チ、チェイスさんっ!誤解です!俺達は別に喧嘩なんて…」


威勢の良かった男達は急に大人しくなり、皆チェイスの視線から逃れようと俯く。チェイスと呼ばれた青髪の男は、道を塞ぐ大男を一瞥した後、邪魔だとばかりに蹴り付け男達の足元まで転がした。

冒険者らに睨まれより小さくなっていた男達は、白目を剥いて気絶している大男を引き摺って逃げていく。


「…誰?」

「冒険者ギルドの用心棒、シルバーランクのチェイスさん。心気の使い手でギルドでの揉め事は彼らが対応してくれるの」


チェイスは地面に落ちた銀塊を拾い上げ埃を払うと、カウンターへ戻した。


「悪かったな。二階にいたんで来るのが遅れた」

「いえ、ありがとうございます。助かりました」

「いや…俺が来なくても問題なかったみたいだがな…」


チェイスは去り際、フラウを一瞥してから大きくへこんだ壁を見上げ、戻っていった。


「では鑑定致します」


ギルド職員は何事もなかったように対応する。ほぼ毎日荒くれ者を相手しているだけあって、落ち着いたものだった。




「はい五等分。明後日の朝は鐘2つまでに迷宮前に集合。中層までいくから、一泊するわよ」

「了解にゃ」

「うむ。準備は万全にしておこう」


シャケとコルドランはそれぞれ別の方向へ帰っていき、ルーティ達も孤児院へ向けて歩き出だした。


フラウの歩みは速く、遅れまいとついていくアレクが話題を振る。


「フラウさんは何を買ったのですか?」

「買ってはない。貰えたんだ、新品の服を。リースに着せる」


嬉しげなフラウが胸に抱いていた袋を見せるが、アレクは困った様子でルーティを見た。


「あ~フラウ?孤児院の子供達はみな古着でも服はあるわ。リースだけに新品を着せるのはちょっと…」

「…」


するとフラウは見るからに元気がなくなってしまう。


「あっ!リースちゃんは来年の春に、15歳の誕生日を迎えるはず。その時に渡してみては?新たな門出に丁度良いですよ」

「門出?」

「15歳の誕生日を迎えて成人した者は、孤児院を出ることになってるの」


短く返事をしたフラウは服をポーチにしまい、トボトボと歩いていってしまった。


「フラウってよくわからないわ…」

「ですねぇ。リースちゃんに聞いてみては?」




孤児院にはロサナが来ており、居間で留守にしていた間の情報交換をしていた。


「レイジさんは朝食を終えるとすぐに行ってしまったわ」

「そう。やる気があってよろしい」

「偉そうねルーティ。フフフッ、モルトさんはいつも通りよ」

「…例の男達はどう?」

「ここは大丈夫…だと思う。ただ他の孤児院で動きがあったわ」


ロサナの話では第六迷宮区のほとんどの孤児院が教会に属し、子供達の半数近くが街を去ったという。最後まで残った孤児院も、教会から子供達の将来を狭めていると批判され、近隣住民も巻き込んでの活動になっているそうだ。それを煽り先導しているのが男達だった。


第六迷宮区は第七迷宮区の南に位置し、さらに南西の方角へ進んだ先、獣人が多く住んでいる第五迷宮区との間にある。

六区の特徴は三区が鉱石等を使う鍜冶職人の街に対して、北の森や迷宮産の木材を利用する木工職人の街で、それなりに発展していた。

その為多少生活にゆとりのある大人達は、孤児達の将来に責任も持たずに、簡単に口を出す輩が多かった。


「ひどい!完全に教会とグルじゃない!」

「一番の問題は子供達をちゃんと送り届けているか、わからない点ですね」

「モルトさんが連れ出される子供を見て、後を追いかけたそうよ。けど妖精里の辺りで見失ったって。教会は教育の為に本国へ送ると言ってるけど…奴隷売買の可能性があるって…」

「奴隷!?そんな!!」


ルーティが青い顔して口を押さえる。


「帝国では今、非合法な子供の奴隷売買が行われているそうです。魔法王国や七都市連合、自由民国、神聖教国は奴隷に対する法がしっかりしてるけど…帝国は身分の低い者や人種以外に厳しいですから」

「モルトさんが戻ったら聞いてみましょう」




フラウは孤児院へ戻るなり、自室に引きこもっている。本当はリースに渡したい物があったのだが、他の子供達の為に我慢していた。

その事をルーティからこっそり聞かされたリースが、様子を見に来たのだが、扉が開くと同時に部屋へ引きずり込まれ、抱きすくめられていた。


「フラウさんっ…恥ずかしいです」

「リースは来年、ここを出ていくのか?」

「え?…はい。15歳の成人した者は孤児院を出るのが決まりですから、私ももう準備しています」

「準備?…ここを出たらどうするのだ?」

「私には夢があるんです。以前助けてもらった時、本を持っていましたよね?私も世界中を旅して冒険譚を書きたいんです。その為に少しずつお金を貯めて、本と筆はもう買ってあります」

「冒険…」


その言葉を聞いたフラウは、知らず知らずの内にリースを抱く腕に力が入る。


「っ!…?フラウさん苦しい…」

「すまない。冒険は…冒険者になるつもりか?」

「はい。冒険者学校も魔法学園も出てない私じゃ何もできないかもしれないけど、まったくいない訳じゃないですよ。それに時間がある時は院長先生に指導してもらってるんです」


(無理だっ…この子にはこの世界は過酷過ぎる…)


フラウは自身でもわからないほど、目の前の赤髪の少女を大切に思っていた。知識だけは誰かから譲り受けたように多くを知っていたが、感情が溢れると身体が言うことを聞かなくなる時があった。


「外は危険だ。リースではゴブリンの子供が相手でも死んでしまう」

「ゴブリンの子供って…フフフッ♪魔物の子供は滅多に見ないそうですよ」


リースは笑っているがフラウの脳裏には嫌というほど、凄惨な光景が浮かんでは消えていく。恐ろしいものから目を背けるように、キツく目を閉じていたフラウの頭をリースが撫でた。

小柄な少女が長身のフラウの頭を撫でる姿はおかしなものがあったが、部屋には二人だけ。穏やかな表情を見せるリースは、子供をあやすように頭を撫でながら言い聞かせる。


「今すぐと言う訳じゃないですよ。まだ一緒にいます」

「…」




しばらくしてフラウは唐突に窓の方を睨みつけた。

リースもつられて窓を見たが特に変化はなく、夕食にしようと離れていく。フラウは静かに立ち上がり窓へ寄ると、魔虫の素材で出来た窓枠の一部が凍っていた。

外はいつの間にか暗い雲が空を厚く覆っていた。

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