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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
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坑道迷宮初日3

27


坑道迷宮は蛇行した長い通路が蜘蛛の巣状に広がり、各所に緩急激しい坂が続く迷宮だ。


道幅は五人が横一列になっても余裕がある。高さも長槍を持ち込めるほどあるが、真っ暗な通路は淡く光る石や茸が照らしているだけで、広い空間を満たす程ではない。


剥き出しの地面や土壁、天井には運がいいと稀少金属が顔を出していて、貴重な収入源になる。そして初心者の大半が意気揚々と下っていき、帰りの登り坂で力尽きるのだ。


「じゃあワシがよく行っていた場所を見て回るか?」

「…そうね、初日の肩慣らしにいいでしょ。見聞きした感じだと、まだまだ最深部到達者は出そうにないし、焦る事ないわ」


コルドランはランタンをアレクに預けると、地図を取りだして明かりの下へ身を寄せる。


「まずは左だの。真っ直ぐの道じゃから迷わぬ。突き当たりを左に曲がり、二つ目の分かれ道を右じゃ。昔はダマスカス鋼が採れたんじゃよ」

「へぇミスリルはないの?」

「滅多に出んのぅ。何故かは知らんが、迷宮の壁は掘り返してもすぐ埋まりよるから、表面に見える物だけじゃ」


歩きながら鉱石の話をするルーティは、フラウが珍しく不安そうな顔をしていることに気付く。


「フラウ?大丈夫?」

「大丈夫」


(…地下の暗闇からは嫌な感じがして落ち着かない)


最初の通路を左へ曲がる。先程まであった淡く光る石――先に入った探索者の明かりの魔法を受けた石――がなくなり、光源はコルドランの魔法のランタンか、夜光茸のみになる。


「…敵だ」

「え!どこ!?」


フラウは外套の下から左腕を出すと、手には弦のない白い小型のボウガンが握られていた。


「…上にゃ!」


フラウの持つボウガンが風を切る音を数回させると、頭上から大きな蝙蝠が二匹落ちて、魔石となって霧散した。


「はっ!?待ってください!そのボウガンは…魔弓ですか?」


アレクが慌てたように尋ねるとフラウが頷く。


「す、すごい…伝説、いや幻想級?わからないけど魔法の矢を連射なんて聞いたことがないですよ!」

「似たようなものはないのか?」

「単発ならあるようですか…いずれにしても魔法王国なら宝物庫にあるような物ですよ」

「すごいにゃ!魔道具いっぱい持ってるにゃ!」


シャケはフラウに抱き付こうとするが、片手で頭を抑えられる。


「…フラウ、とりあえず私達以外の人の前では使わないで。奪おうとする人が出てくるわ」

「わかった」

「ホッホッ、嬢ちゃんには毎回驚かされるわい」


通路は結構な長さがあり、まだまだ先があるようだ。地面は凸凹しており自然と体力が奪われる。アレクが口を開こうとした時、暗い通路の先から物音がした。


「来よったな」

「私とコルドランでやるわ」


前方の闇から二匹のハウンドが飛び出す。

コルドランは左手に持った槌で飛び掛かってきたハウンドを叩き落とし、右の斧で首を断つ。


ルーティも避ける動作に合わせ剣を抜き放ち、一太刀で首を落とした。


「警備室の探索者が言ってたハウンドかしら?」


ルーティが消えずに残ったハウンドへ近寄ろうとすると、フラウが警告する。


「まだいる!」


フラウの声に即座に皆が円陣を組む。


「…!」


ランタンに照らされた壁の一部に影が揺らめく。


「シャドウノッカー!アレク!!」

「――世界を偽りし姿無き者を映し示せ――」


アレクが短く詠唱した後、黒曜石の輝きを持つ杖を振るう。壁の前に漆黒のゴブリンのような生き物が現れた。


シャケがすかさず接近し影鬼を突くが、捉えたと思われた一撃は空を突き外れる。フラウがボウガンを二連射すると、風の矢は曲線を描き、壁際にいる影鬼から少しずれた位置を射ぬいた。


「――ギィーー!!」


影鬼は耳障りな断末魔を残して倒れる。


「外れたにゃ…」

「シャドウノッカーは不可視化能力と、ずれた位置に姿を見せる半実体の死霊…だったわね」

「元は土の妖精か精霊という人もいますが…ん?この先には瘴気溜まりがあるようです」


フラウが顔を曇らせる。

瘴気溜まりは負の魔力が濃密になった場所で起こる現象で、死霊を生み出す危険があり、発見次第場を浄化しなければならない。


「ほれ、聖水じゃ」

「ありがと。シャケとコルドランはハウンドの解体を、フラウとアレクは警戒して」


ルーティは受け取った小瓶の水を影鬼の死体に掛ける。泡立つ死体は溶けて消えていき、後には禍々しい血濡れのナイフとゴブリンの腕が残った。

ナイフを踏み砕き、腕と一緒に土をかける。解体が終わるとルーティが通路の先を剣で示した。


「慎重に進みましょ。恐らくだけど…転化しているわ」

「私が先に行く」

「え?…そう。わかったわ」


聖水の入った小瓶を渡そうとするが、フラウは受け取らずにそのまま進む。




暫く進むとT字路に当たり、右手の通路で何かがランタンの明かりに照らされる。


「…三人はまだ転化してない。アレだけね」


まだ若い探索者達の死体が四つ、内一つは立っていた。


「死霊にゃ~埋めてしまうにゃ」


ノロノロとこちらに迫る死霊――ゾンビに、フラウはボウガンを構え、光る矢を射る。


「フラウ!?貴女いったい幾つの属性を使えるの?」


ルーティ達が驚くその先では、光る矢を眉間に受けたゾンビがボロボロと灰になって崩れていく。


「秘密」

「秘密って…もぅ」


そのままフラウは三人の死体にも光る矢を撃ち込む。


「な、なんという魔力量…ハーフエルフはこれほど魔法の矢を連射できるものなんですか?…どうしました?」


アレクが反応のないフラウを不審に思い前を見ると、通路左の壁に何かが埋まっていた。


「おぉ!幸先いいな!どれどれ…」


コルドランがアレクとフラウを押し退け、壁から顔を出した金属の塊を掘り返す。


「鉱石じゃないのか?」

「なぜかは知りませんが、迷宮の鉱石ははじめから製錬されてますね」

「お宝にゃ~」


コルドランは嬉々として壁を掘り返し、人のこぶしほどの歪な金属の塊を取り出す。


「おぉ…銀じゃ」

「金貨1枚くらいかしら?」

「そうじゃな、それくらいか」


フラウは鉱石には興味がなく、来た通路を振り返ると左側の通路に向かう。


「さぁ次いくわよ!どんどん稼ぎましょ♪」

「…そうですね。2つ目を右でしたか」

「まわりくどいにゃ…やっちまうにゃ」

「しっ…油断は禁物ですよ」


コルドランが示した地点まで来ると、行き止まりの広い部屋に出た。


「…ないのぅ」

「まぁそうそうないから価値があるのよね」

「迷宮核がなくても鉱石は出るのか?魔物達は転移も作成もされないのだろう?」

「迷宮核が無くても、鉱石が出てくることはありますね。他にも死体は迷宮に飲み込まれますし、壁を崩しても元に戻ります」


迷宮核が外された後でも迷宮が機能していた場合、迷宮主か、新たに迷宮核が出来る恐れがあるとアレクは話す。四区の時は小さな迷宮核が出来て、数日後に封魔石が設置されてからはなくなったそうだ。




部屋の中央で立ち話をしていると入口に七人の柄の悪い男達が現れる。


「よぉ!調子はどうだ?なんかいいもんでもあったかよ?」

「バカが来たにゃ~♪」

「…あ?」


少し前から後をつけてくる存在に皆気付いていたが、あえて無視していた。


「あんた達が同業者狩りをしてる連中ね」

「ハハハハッ!知ってて行き止まりの部屋に入ったのか?バカな女だ」

「バカでも女は女だ。へへへっ可愛がってやぶべっ!」

「「!?」」


いやらしい目でルーティを見ていた男は、顔面に石礫が直撃して、血を撒き散らしながら通路まで吹っ飛ぶ。


「な!?なにしやがる!!」

「何って同業者狩りですよ。と言っても同業者を狩る屑共を狩っているのですが」


アレクがニッコリと笑顔で応え、再び無詠唱で軽く振るわれる杖。


「うぁ?…ぎぁぁぁぁ!?」


入口で通路を見張っていた男は、視界が高くなった異変に見下ろし、自身の足から石の刺が無数に生えいる事に気付く。


「あぁ!?や、やれ!殺せぇ!!」


真ん中にいた男が走りだし、残る四人も後に続く。


「バカにゃ~、坑道なんて場所で土の魔法使いに挑むなんて、にゃはははー!」


ルーティ、コルドラン、シャケが迫る男達を迎え撃つ構えをとるが――


(こんなのは見たくない…)


――バシュー!!――


フラウが男達を冷たく一瞥すると、光輝くボウガンを構え、猛烈な風が発生する。無数の氷の矢が嵐のように打ち付け、男達をボロボロに貫き、背後の壁が砕けた。


「「!?」」


今にも男達と刃を交えようとしていたルーティ達が、突然の事に硬直し、驚愕の表情でバラバラになった男達と砕けた壁を見る。


「…凄まじい力ですね。その魔弓も、貴女も…それがボウガンの真名の力ですか?」


(魔弓だけじゃない。この魔力量は異常だ…学園の賢者でもこれほどの方はいない…彼女はハーフエルフじゃない?)


「真名?」

「っ!知らずに…真名は遺跡等から発掘される、伝説級以上の魔道具が持つ本来の力ですよ。禁啓言語と同じく力ある名です」

「知らない…もう帰ろう」


そのまま脇を通って部屋を出ていってしまう。


「え?まっ待ちなさい!待ってフラウ!」

「これはどうするかのぅ」


呼び掛けても反応しないフラウを追いかけていくルーティ。コルドランは足下に広がった氷と血の海、肉片に途方に暮れる。


「ここまで解体されてれば迷宮が食べるにゃ~」


濃密な血の匂いが辺りに充満し、誰もが早く立ち去りたかった。




「ちょっと!フラウ?大丈夫なの?魔力は?」

「問題ない」

「そう…だけど一人で行かないで。それに出口はそっちじゃないわ」


追い付いたアレク達と出口を目指す。


「一応、彼らの無事なギルドカードを見つけましたよ」

「うわぁ…よく見つけたわね」

「いえいえ、最初に通路に飛んだ奴のは無事でしたので」


コルドランがギルドカードを見るが、すぐ落胆する。


「偽物じゃのう。ギルドカードの偽造となれば出所は1つ」

「闇ギルドですか…」

「や~な所が出てきたにゃ…」


闇ギルドとは裏社会の組織だ。迷宮が攻略されて人が少なくなった第四迷宮区を、主な活動場所にしている。


「闇ギルドが絡んできたとなると、迷宮杯は本格的に荒れるわね」


ルーティ達は話し合いながらも警戒心なく進む。

目の前では行きと違い、雑な感じにボウガンを四方八方に向けては風の矢を撃ち出して、魔物を倒しながら進むフラウがいた。


「どうしたのかしら…」

「なんだか飽きちゃった子供みたいですね、アハハッ…」

「むぅ。たしかにのぅ」

「すごいにゃ~欲しいにゃ~」

「シャケさん、あの魔弓はやめた方がいいですよ。たぶん常人が引き金を引いたら1、2発で気絶、最悪死にますよ」


「「…は?」」

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