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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
27/169

坑道迷宮初日2

26


帝国騎士の男が手続きなく迷宮内へ入っていく。


「…まぁ、よくある光景じゃな」

「よくある事なのか?」

「幾つもの小国を征服してきた帝国貴族は、ああやって威張り散らすのよ。それと帝国へは人種以外は行かない方がいいわ。酷い扱いを受けて最悪奴隷にされるから」


並んでいた探索者達は殺気立っている。列が乱れた為か、まだ数人が言い争いを続けていた。


「ざっけんなよ!帝国め!」

「困ったことになった…おい。団長とギルドマスターに連絡してこい」


若い衛士が街へ走って行く。残った衛士達はそのまま入場手続きを再開し、探索者達を入れていく。


「私達も並び直しましょ。中へ入ったらまず警備室に行くわ」

「警備室?」

「迷宮へ入ってすぐ横に衛士が仮設した部屋があるんです。常に数人は詰めていて、迷宮内で異変があれば外に知らせ、最悪の場合、門は閉じられます」

「警備室には誰でも見れる迷宮内部の情報があるんじゃよ。真偽のほどはわからんがな」




手続きを終えて石造りの建物の中へ入ると、洞穴の入口は緩やかな坂になっていた。

下っていくと奥は広場になっている。周囲の壁には松明が数本掛けられていたが、薄暗かった。

正面にはどこまでも続く、先の見えない通路があった。


「もう迷宮の中か」

「そうよ。ここは空間が違うらしくて、地面を掘り返しても辿り着けないらしいわ」


コルドランは持っていた魔法のランタンに、拳大の赤い魔石を入れる。すると明かりが灯り、周囲がよく見えるようになった。


入ってすぐ右側には、木の板で仕切られたたげの部屋がある。複数ある出入口の一つから中を覗くと衛士や探索者、怪我をして横になっている者達がいた。


「負傷者が多いわね」

「…なんだか違和感が」


負傷者達をよく観察すると、数人に共通点がある。


「彼らの傷は魔物によるものではないわ」

「やはりでますか…同業者狩り」

「同業者?探索者が探索者を襲っているのか?」

「珍しいことでもない…迷宮内に限らず、人目がつかない場所は常に無法地帯じゃ」

「ただ魔物が多数残っている内から、被害が出ているのは意外ですね」


フラウは負傷者の間を渡り歩く、白いローブを着た男に気づく。


「あれは…ロサナが着てる服に似ているな」

「教会の関係者よ。神聖教国から布教活動に来てる連中だけど、負傷者の傷を癒す代わりに、高額な治療費を要求すると聞いたわ…あっ!ロサナは教会とも教国とも関係ないからね」


ルーティは男を睨んでいたが、男は負傷者の耳元で何事かを囁くと、何も受け取らずに傷を癒して回っている。しかし完全に癒えてはいないのか、動けるようになった探索者のほとんどが、ふらつきながら迷宮から脱出していった。


(魔力切れを起こさないよう節約しているのだろうか…あの様子ではしばらく戦えないだろう)


「見てください。これによると表層にかなりの数の魔物が来ているようですよ」


魔道具の明かりが、壁に張られた紙を照らしている。書かれている内容のほとんどが魔物の分布と、死者が発見された場所や、行方不明者の情報だ。


「ぬぅ…死者9人。行方不明は12人か…2日目でこれは厳しいのぅ」

「みんなウッドランクの素人にゃ~」


部屋の奥では、衛士達が探索者から寄せられた情報を書き留めている。


「今朝早くに坂へ向かった奴等はどうなった?」

「左の通路。鐘2つの距離でハウンドの群れに遭遇した。数は7匹、若い奴等が追いかけていったぞ」

「右は順調だな。ほとんどの探索者がこっちに流れてるせいで、索敵済みの範囲が偏っている」


ルーティ達が右か左かで悩んでいると、部屋の外から探索者が慌てた様子で走り込んできた。


「おい!正面まずいぞ!さっきから怒鳴り声や悲鳴が止まない!どんどん近づいて来てやがる!」

「なんだと!?ここまで押されているのか!?」


入口から外を窺うシャケが、猫耳を動かしながら通路の音を聞いている。


「な、なんかデカいのが来るにゃ!」

「ここはまずいわ!外へ出で迎え討つわよ!」


ルーティは剣を抜くと誰よりも先に飛び出していく。すぐ後ろをフラウ達が続き、他の探索者や衛士も武器を抜いてそれぞれ別の出入口から出ていった。


「たっ助けてくれ!!」


全身血だらけの男が、正面の暗い通路から飛び出して来た。

左腕が肘から折れているのかダランと下げられ、転びそうになりながらも掛けて来る。


「そのまま走っ――!」


――グシャ!――


コルドランが声を掛けるが、探索者の後ろから急速に迫ってきた巨体の魔物に撥ね飛ばされてしまう。

男の身体は反対側まで飛び、壁を赤く染める。

ルーティは即座に反応し指示を出した。


「グレーターホーン1!フラウはアレクの前衛を!散開!!」


――ヴォォォォーー!


身長3メートル近い筋肉が隆起した体躯に、頭部の左右から生やした赤黒い大きな角は、緩やかに曲がりながら頭上を向いている。

二足歩行する黒い牡牛ような鉄級の魔物だ。


「くっ!グレーターホーンだと!?中層から上がってきたか!」


衛士長らしき人物は驚くばかりで、他の探索者も前へ出て戦おうとはしない。


「あれは突進が脅威ですが小回りが効きません!距離をとり突進してきたら回避を!」


黒牛が次の獲物をルーティに定め、前傾姿勢になると角を突き出し、強靭な脚で地を蹴る。

爆発したような勢いで迫る巨大な体躯。二本の赤黒い角に、ルーティは焦る様子もなく前転して避けた。


「やれやれ、初日から大物じゃの!」


狙いを外して余所見をする黒牛の左脚に、コルドランは両手に持った斧と槌で打ち据える。


ヴォオォォォ!!


バランスを崩して倒れる黒牛。

そこへシャケが素早く走り寄り、細槍で左足首を突くとすぐさま跳ねるように後退する。起き上がろうとするも踏ん張りが効かない黒牛の顔に、石礫が直撃してさらに暴れ出した。


「おぉすごいぞ、こいつら」


居合わせた探索者達は、剣や槍を振りかざすだけで、黒牛が振り向けばその進行方向から逃れようと、右往左往している。中でも警備室の陰から見ている探索者は、武器も構えず他人事のように楽しんでいた。


そんな輩をルーティは黒牛の注意を引き付けながら、視界の隅で確認する。


左脚への集中攻撃により、動きが鈍った黒牛を斬り、突き、打ちのめすと、動かなくなるまでそれほど時間はかからなかった。


「ふぅ、お疲れ様です。シャケさんも素晴らしい連携でしたよ」

「…余裕にゃ」


戦闘後の興奮の影響か、シャケは少し赤くなった顔を反らすと、黒牛が消えていない事に気付く。


「わたしらのにゃ!持って帰るにゃ!」

「まだ来たばかりよ?解体して進みましょ」

「わしに任せとけ。すぐ済む」


コルドランは剥ぎ取り用のナイフを取り出すと、黒牛を解体し始める。角と蹄、脚の靭帯を切り取り、目玉を瓶詰めにする。


「嬢ちゃん頼む」

「わかった」


フラウはコルドランのリュックに入れるふりしてマジックポーチにしまうと、遠巻きに見ていた探索者の男が仲間を連れてやって来た。


「お前らすげぇな!ランクは?」

「なぁ5人なら俺達と一緒に来ないか?俺らなら迷宮踏破なんて楽勝よ!」

「…見てるだけのお荷物はお断りよ」


ルーティはそう言って皆を連れて通路に向かった。




ルーティ達が先に進んでいった後、衛士達は吹き飛ばされた探索者の死亡を確認する。


「これで10人目か…奥でも悲鳴が聞こえていたようだし。螺旋迷宮の時より状況は悪いな」

「隊長は螺旋迷宮経験者でしたね」

「あぁ。ただの衛士の立場だったがな。探索者ギルドマスターのカミュとその仲間らが、迷宮内にいた高ランクの魔物をあらかた倒していたおかげで、死者は5人も出ていなかった」

「今回はほとんど残っているんですかね?」

「恐らくな…」




勧誘を断られた男が、黒牛の死骸を蹴り上げる。


「チッ!気に入らねぇ女だ!」

「…で、どうするよ?今追うと怪しまれるぞ?」

「追うな。計画通りにしろ」

「わかってる!…衛士が戻ってくるぞ」


白いローブを着た男が、探索者の男達から離れて通路の方を眺める。


(あの男達の実力では逆に討たれるか、最悪捕縛される…)


暗い目をした司祭の男は迷宮から出ていった。

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