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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
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坑道迷宮初日

25


早朝、フラウはガヤガヤとした騒がしい音で目が覚めた。

三区は建物の密度が高く、朝から作業を始める職人も多いことから、一日の始まりは早い。ベッドから起き上がると、腕の中にいるはずのルーティは、どこにも見当たらなかった。


(…リースがいい)


気だるさからノロノロと身支度を始める。すると扉をノックする音と、ルーティの声がする。


「フラウ、起きた?朝食にしましょ」

「わかった」


部屋から出て居間へ向かう途中、洗面所で顔を洗っているアレクと合う。


「おはようございます。ここで顔を洗えますよ」

「それは?」

「え?あぁ魔道具ですよ。これは水魔石を使った物ですね」


蛇口には多角形の結晶体である水色の魔石が付いており、アレクが手をかざすと水が流れる。そして使い終わると魔石を外して目の前の棚に戻した。

棚には他にも大小様々な魔石があり、形も色も一つとして同じものはなかった。

魔石は魔力が減るにつれ徐々に色が抜けていき、無色透明になると粉となって散ってしまうようだ。


「便利な物があるな」

「まぁそれなりの値段がしますからね。コルドランさんが有名な細工師で、稼ぎがいい証拠です」


居間へ向かったアレクに代わり、フラウも水の魔道具を使ってみる。


(人は便利な道具を造るのが上手だったな。今も昔も…昔?)


フラウは冷たい水に手を浸けたまま固まる。時折誰かの記憶が甦るのだ。


(懐かしく、悲しい…)


そのまま顔を洗うと居間へ向かう。コルドランは既に起きているようで、玄関で近所の職人仲間と何やら話をしている。フラウが席に着くと――


「フラウ、2の鐘が鳴る頃には坑道迷宮よ。しっかり食べておいて」


そう言って小麦色のパンと果実水、野菜のスープに赤い小さな果実を出された。


「…お腹は――」

「食べなさい」


ルーティはどこか怒っているようだった。


「まぁまぁ、迷宮までまだ少しあります。パンや果物なら後ででも食べれますよ」

「アレク~!甘やかさないで!」

「す、すみません」


フラウはルーティが目を離した隙に、目にも留まらぬ速さでパンとスープを皿ごと消してしまった。


「あら?」

「美味しかった」

「…皿は?」

「知らない」


ルーティは半眼になってフラウを睨むが、無表情のまましらを切る。


「アハハ…さぁ準備しましょう」


少ししてコルドランが戻って来ると、後ろには猫獣人のシャケがついてきていた。


「もう行くかにゃ?」

「おはよう。2の鐘までには行くわよ。予定では5、遅くとも6の鐘までには戻るから」


とルーティは手のひらに載せた小さなベルを見せる。

音や振動で時を知らせる魔道具だ。


「わかったにゃ」


シャケは金色の猫目を細め、頬の青みがかった銀色の産毛を撫で付ける。何かの革の服に、同じく革の手袋とブーツという軽装で、武器は短めの細槍と短刀を持っていた。


(かなりの軽装ね…坑道迷宮では出会う相手によっては厳しいかも)


ルーティはいつもの革装備一式に革の兜を加え、使い込まれた片手剣と、腕に固定もできる小さめの円形盾を用意していた。

アレクはパッと見では変わっていないように見えたが、ウエストポーチの中身を入念に確認していた。


部屋の隅で動かないシャケに、アレクが赤い果実が盛られた器を勧める。


「シャケさん、イチの実食べますか?」

「いっ…らないにゃ…」

「大丈夫ですよ」


目の前で小さな赤い実を食べて見せると、その様子を目で追っていく。


「…ほしいにゃ」




準備を終えたコルドランが奥から出てくると、その姿は歴戦の戦士という姿だ。

厚い胸板は銀色の鎖帷子を着込み、要所要所は鉄の板で補強してある。

手には鼻当て付きの黒い鉄兜を持っていて、腰に小型の片刃の斧と鈍器を下げている。

どれも長年使ってきた物なのだろう、とても自然に着こなしていた。


「準備できたか?、日帰りだからと油断するんじゃないぞ?」


フラウはいつもの無地の白銀鎧に純白の外套、左腰には銀の剣に背中側には紺色のウエストポーチだ。


それぞれに必要な物が入ったリュックを背負う。

フラウはウエストポーチに入れるふりしてしまってしまう。


「にゃんにゃ!?消えたにゃ!!」

「むう?」

「え!?まさか…」


昨夜の事を思い出したルーティが、フラウをジト目でみる。


「そ~だった。あなたにはそれがあるんだったわね。いいなぁ~うらやましいわぁ~」

「ルーティさん?あれはもしかしてマジックポーチですか?」

「そ~よ。フラウは前から持ってたらしいわ。リースの奴ぅ~」

「マッ、ママッ!!?」

「私はママじゃない」

「!…わかってるにゃ!うぅぅ…うらやましぃにゃ~」

「ホッホッホッこれは最深部へ行くのに大きな助けだの」

「預かろうか?」


ルーティ達は最低限の物は自身で持つと言い、すぐに必要性のないものだけ預けた。


(彼らは優秀だ。昨日の者達とは違う。だが…)


外套の中を覗こうと寄ってきたシャケを、片手で押し返しつつ家を後にした。




迷宮前は相も変わらず混んでいた。


「ちょっとぉ…まだ混んでるわよ」

「ぬぅ…何をやっとるんだ?」

「…なんだかまったく進んでませんね」


入口周辺で揉め事が起きているようで、一向に進まない。並ぶ探索者達も機嫌が悪かった。


「ちょっと見に行きましょ。場合によっては出直しもあるわ」

「うぅぅ、誰が道を塞いでるにゃ」


列の前に回り込むと、槍を持つ騎士の男と首輪をした男女が八人いる。皆装備はしっかりとしているのだが何名かは緊張したり怯えている様子だ。


「だから割り込むなっつってんだろ!?」

「貴様!私が誰か知らないのか!!」

「知るかよ!ここじゃみんな平等なんだよ!」

「貴族である私に向かって…もう我慢ならん!お前ら殺れ!」


騎士の男の発言に一気に回りが緊迫する。

列の先では衛士達が対応をどうするか話し合っていたようだが、さすがに迷宮前とは言え、都市内部で白昼堂々の殺しを見過ごせない。


「お待ち下さい!騎士の方、ここは帝国ではないのです。貴族階級ではなく秩序こそが重要であり、迷宮への入場をご希望なら列に並んでください」

「うるさい!貴族に対する礼を知らぬ愚か者共め…これだから蛮地の連中は!」


と言って奴隷達に衛士達を押し退けさせ強行する。


「な!?正気ですか!」

「私には崇高な使命があるのだ!これもまた赦される!」


そのまま無理矢理、迷宮内へ入って行ってしまった。

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