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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
24/169

開催

23


迷宮杯開催日。ギルド訓練所でガルドと別れた後、レイジはヴォルフ達に向かって頭を下げていた。


「助けてくれてありがとうございます!」

「お、おぅ…」


礼儀正しいレイジに困惑するヴォルフは耳を掻く。不機嫌なシャケは袖紐を弄りながらつまらなそうに睨んだ。


「へんなやつにゃ」

「にゃ!?にゃっていった!?」


冗談のような語尾にレイジが指をさして反応すると、シャケは全身の毛を逆立て怒りを露にする。


「にゃに見てんだにゃー!」

「ぐぁっ!」


シャケが放つ右フックが顎を捉えて尻餅をつく。そのままマウントを取ると顔を引っ掻きだした。


「痛い痛い痛い!」

「シャケ!?なにやってんだ!」

「ちょっと大丈夫!?」


シャケの引っ掻き攻撃を腕でガードするレイジ。二人をライガとルーティが引き離した。


「そいつがわたしをやらしぃ目で見たにゃ!」

「見てねぇ!見てねぇよ!」

「わりぃな!こいつ迷宮杯に行けなくて機嫌が悪いみたいなんだ」


レイジは無理して立ち上がろうとするも、生まれたての小鹿みたいに震えて立てない。それを面白そうに見ていたヴォルフが突っつき転ばせる。ルーティはシャケを観察してから提案した。


「うーん、私達は迷宮杯に挑むけど…来る?」

「なに言ってるにゃ!知らない人になんてついてかないにゃ!」

「シャケよぉ、教官の知り合いなら問題ないって」

「んだな。前から欲しがってたろ?迷宮産の魔道具。行ってみたらどうだ?」

「…簡単に人を信用しちゃだめにゃ」


金色の猫目を鋭くして睨むシャケ。獣人の中には人によって奴隷にされた者もいるので警戒していた。


「仲間を助けてくれた人に酷い事する訳ないでしょ?」

「そうですよ。一緒に行きましょう。ルーティさん、僕はレイジ君を休憩所に連れていきますね」

「私達も行きましょ。待ち合わせに遅れちゃう」


アレクがレイジに肩を貸して連れていき、ルーティとフラウが後をついていく。


「シャケ。ここで燻ってても、迷宮杯に挑みに行くパーティーはたぶんもう来ねぇぞ?」

「うぅぅ…」


去って行くルーティ達を見ながら爪を噛むシャケ。

ライガ達もさっさといなくなってしまった。




レイジを探索者ギルドの休憩所に預けた後、西側の出入口から外へ出る。ギルド前の人通りの多さに、無口なフラウがポツリと呟く。


「人が多いな」

「そうですね。ここから西は高級なお店が続いているので、富裕層の方がよく買い物をしています。さらに西の門を越えると迷宮区としては一番賑やかな、第一迷宮区と第二迷宮区がありますから、人通りが減る事はないですよ」


中央区と同じ一等地にあたる商業都市出資の一区、魔法王国出資の二区は、お互いの迷宮門が見える範囲にあり、地区を隔てる壁がない街となっている。

代わりに街路樹が並び、常時屋台も出ていて、昼夜問わず賑わっていた。


「迷宮都市は北西から南東に行くほど街の発展が遅いの。木工職人が多い六区と違って、資材倉庫が並ぶだけの七区は一番寂しいところになるわね」


ルーティの話しを聞きながら、リースと同年代と思われる少女が、楽しげに買い物をしているのを眺めるフラウ。


(リースがいる場所が一番厳しい環境なのか…)


リースの事を思うフラウは、しばらくその少女を見ていが、その姿は非常に目立っており、立ち話をしている間も道行く人が振り返っては見ている。

当の本人は気にした風もなく辺りを見渡し、西の内郭門から天秤の印が付いた、大きな馬車が来るのが見えた。


中から高価な装飾品とドレスで着飾った上流階級の女が降りてくる。その傍らを意匠を施した鎧を着る騎士風の男と、魔法の装備を身につけた上級冒険者が警護していた。


「商業都市から来てる人もいますね。迷宮杯の話を聞いて、迷宮産魔道具の買い付けに来たのかな?」

「行きましょ。坑道迷宮前で待ち合わせ――」

「まっ、待つにゃ~!」


ルーティ達の後ろから猫獣人の女が追ってくる。


「シャケ…だったわね。いくの?」

「うぅぅ、行くにゃ」

「アハハッ、よろしくお願いしますね」

「何人で行くにゃ?」

「私とアレク、フラウに坑道迷宮経験者の知り合いが1人よ」


シャケはそれだけ聞くと黙ったまま、少し距離をおいてついて来た。




第三迷宮区は探索者ギルドから北に位置し、第一から第七まである迷宮区の中で、比較的発展している二等地になる。武具を安く買い揃えたい者達が集まる、鍛治職人の街だ。


内郭門をくぐり迷宮門がある中央広場まで来ると、そこは人で溢れかえっていた。

ほとんどは不揃いな装備の探索者達だが、中には統一された装備を着た兵士風の者達もいる。彼らはみな一様に殺気立ち、迷宮の解放を今か今かと待ち構えていた。


坑道迷宮の入口は石造りの建物の中にあるようで、七区のような異様な見た目をした迷宮門はまだ見えない。露店も広場の端に追いやられ、客を呼び込む声は、探索者達の奮起する声に掻き消されて聞こえなかった。


「お~い!ルーティ!ここだ!ここ!」


どこからか銅鑼声で呼び掛けられるが、辺りを見回してもわからない。


「コルドラン!どこ?」

「あー、ちょっと待て!」


人の波の中から一際背の低い男が現れた。

その種族に覚えのあるフラウが記憶を辿る。


「…ドワーフか」

「モルトさんの紹介で知り合ったの。普段は細工師を生業にしているのよ」


ドワーフ――妖精種で山岳地に好んで暮らす種族――の男が見上げてくる。身長は130くらいで樽のような身体――でもなく筋肉質な身体をしている。堀の深い顔にかかる髪は長く、胸まで伸びたサラサラな髭と一体化していた。


ドワーフはフラウ達を見渡した後、ルーティに来るのが遅いと怒っている。


「ごめんごめん。それより準備は大丈夫?」

「もちろんじゃとも。だが人数が増えとりゃせんか?」

「…わたしは自分で用意するにゃ」

「今日は挑戦しないわよ。入口は人で埋まるだろうし」


迷宮の方を見ると建物の屋上にカミュとレミィが現れる。近くの探索者は攻略したパーティーについて噂話しをしていた。


「やっぱ現れないか」

「そりゃ暗黙の了解を破ったんだ。カミュが許してもグラントの手前、呼びにくいだろうよ」


フラウはなんの事か気になりルーティを見ると、アレクが小声で耳打ちする。


「迷宮を攻略する際はその意思を事前にギルドへ伝えるのが習わしとなっています。迷宮核を外すと迷宮魔物の分布が変わり、周辺の村にも魔物被害が出る可能性がありますからね」

「それだけじゃないわ。三区の代表パーティーに泥を塗ることにもなる」


代表パーティーとは各地区で最も活躍しているパーティーに贈られる呼称で、ギルドから一定の利益を受ける代わりに、迷宮の攻略状況を調べたり、迷宮異変が起きないよう巡回する等、割りの悪い役割を担うこともある者達だ。


「みんな!お待たせした!これから迷宮杯の説明をする!」


カミュの声に広場は徐々に静かになっていき、視線が集まる。続いてレミィが前に出ると、小柄な見た目に反し、よく通る声で話し出した。


「入口にて迷宮魔物の討伐を記録する魔法カードを配布しています。それとともに最深部にある封魔石の杯から到達証を手に入れ、ギルドへ持参してください。討伐情報をもとに適正な魔法の品をお贈りいたします」


その他にも注意事項が幾つか話され、最後にカミュと代わる。


「…よし、迷宮内の状況はギルドで告知された通りだ。魔物達の潜伏域は変わっている。充分注意してくれ!では…これより迷宮杯を開催する!」

「おーーーー!!」


数百人の探索者達が拳を振り上げ叫ぶ。

入口の門が開かれると、真っ暗な洞穴が見えた。

そして我先にと走り出す者と、それらを冷ややかに傍観する者に別れた。


「あーバカがたくさんにゃ…」

「ほんとね。広大な迷宮に挑むのに走るなんて本当に探索者なの?」


フラウ達は静かにその場を離れていった。

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