変化
22
結局レイジは一晩中目を覚まさなかった。
翌朝には自身の脚で孤児院へ帰り、モルトや子供達に心配をかけたことを謝罪する。その顔は無茶をする前とどこか違っていて、清々しくまっすぐ前を見ていた。
モルトはおかえりとしか声を掛けず、朝からプンプンしながら訪れたルーティも、レイジと面と向かって会うと頭を軽くはたくだけだった。
リースにはわからなかったが、いつも興味なさそうにしていたフラウの、レイジを見る目が少し変わったように感じていた。
(変な夢を見たけど、結局何も変わった感じはしないな。まぁここがそんな優しい世界だとはもう思ってないけど)
レイジは部屋で身体の状態を確かめている。魔法のおかげで、骨折した右手首や打撲は完治していた。
気を失っていた間の事はルーティ達から伝えられ、ギルドで自分を負かした獣人の男に助けられたと聞いていた。
「迷宮杯かぁ…やめよう。オレはオレにできることからしよう」
顔を両手で叩き気合いを入れると、身支度をして部屋を後にした。
ルーティはアレクやモルトと居間で話し合っていた。
「レイジが助かったのは、本当に運が良かっただけ。このままではいつか死ぬわ」
「訓練所で聞いたところ、教官は指導を断ったみたいです」
「うーん、彼が断ったとなると…レイジ君の何かが指導をするに値しなかったんだろうね。たとえ素質のないものでも見捨てるようなことはしない人だから」
そこへレイジが二階から降りて来る。全員から注目されたが、以前のように狼狽えることもなく、姿勢を正すと敬礼をした。
「訓練所まで行ってきます!」
モルト達が微妙な表情を浮かべてお互いを窺い合う中、レイジは笑いながら続ける。
「もう無茶はしませんって!」
「アハハッ、わかった。いってらっしゃい」
「信用できないわ!私もついてく!」
「じゃあレイジ君がちゃんと訓練所に着いたのを確認したら、予定通り迷宮杯に参加しにいきましょう。レイジ君はいいんだね?」
「あぁ、オレはいかない」
「まぁ後から追いかけて来るのもいいよ」
迷宮杯に細かいルールはなく、誰でも参加できた。
開催期限も特になく、四区の場合も魔物が狩り尽くされたと判断されるまで続いていた。
今回ルーティとアレク、フラウが参加予定だった。
最初フラウは興味がなく行かないと言っていたが、リースがルーティ達を助けてほしいと頼み込み、渋々了承したのだ。
(私が離れていれば、ここへ氷の精霊が現れる事はないか…)
フラウ達一行が中央区へ着くと、街は大賑わいだった。
普段見ない芸を披露するものや、遠い国の名産品を売る者、ちょっと贅沢な食材を使った屋台等様々だ。
「迷宮杯の開催式はお昼頃からよ。それと第三迷宮の最深部までは数日かかるわ」
「前半はみんな迷宮の変化などを確認する為、日帰りで潜るはずです」
「迷宮内で泊まるのか?」
「そうよ。大丈夫、三区にいる知り合いも一緒に潜るから準備は任せてあるわ」
(うおぉ行きてぇ…いやいやだめだ。もう迷うもんか…うぅ)
冒険者ギルドと探索者ギルドの間にある訓練所に着くと、ガルドは獣人と話をしていた。
「―――ほぅ…」
「ガルドさ…ガルド教官!お願いがあり来ました!」
「…なんだ?」
「間抜けがきたにゃ~♪」
「おいシャケ、やめろって」
「もう一度…手合わせしてください!」
ガルドはてっきり指導を望みに来たと思っていたのか、多少驚いた様子を見せる。
「…いいだろう、好きな得物を使え」
訓練所の一角で対峙するレイジとガルド。
ガルドは以前と変わらず木剣だったが、レイジは木製の短剣を手に取っていた。
「お前は槍を使うんじゃなかったのか?」
「オレは武器を使ったことがほとんどないです。今は手元にある短剣を使い慣れるまで他は使いません」
「…まぁいい。こい!」
レイジは脚を肩幅に拡げ腰を落として構える。
右手には逆手に持った短剣、左手は少し前に出した。
「……フゥーー…」
(もうオレはオレに期待しない。無い物ねだりはしない。目を逸らさない。逃げ道はないんだ。この手の届く範囲がオレの世界、オレの現実だ!)
深く息を吐き、吸うと顎を引く。その様子を黙って見ていたガルドは内心動揺していた。
(…この変化はなんだ?素人がたった数日でこれほど変われるものか?)
レイジは大きく踏み出すのではなく、地を滑るように踏み出して、ガルドの動きに速やかに反応する。
ガルドが右下から斬り上げると、目を見開きしっかりと捉え続け、右手に持った短剣を胸の前で構える。木剣を受ける間際、身体ごと捻り左へ受け流した。
「っ!」
「おぉ?」
ライガ達が驚く声にも反応しないで、外へ払った右手の短剣でガルドの顔を殴るように突き出した。
「…悪くはない」
ガルドは木剣の根本で短剣を受け止めると、一歩前へ踏み出して体ごと当てにいく。レイジはすぐに身を引き、その動きの中でガルドの右腕を掴み引っ張る。
「むっ」
「うぐっ」
ガルドは右脇腹に迫る短剣を、体格差に物を言わせて捻って避けると、木剣をレイジの首元に当て軽く引き下がった。
「…明日から二の鐘がなる前にここにこい!」
「は…はい!よろしくお願いします!」
ルーティ達は満足そうに頷き、ライガ達もどこか嬉しげだ。
「…つまんにゃいにゃ」
「おまっ、性格悪くなってるぞ?」




