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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
22/169

獣人

21


「ヴォルフ!くるにゃ!」

「へへっわーてるよ!」


第七迷宮区にある大樹迷宮は現在、人手不足になっている。迷宮杯に参加する者達が、第三迷宮をメインに活動していた経験者や、攻略に役立つ情報を収集しに行ってしまったからだ。


この期間、他の迷宮では魔物を討伐する者がいなくなり、質も量も上がりやすくなる。冒険者ギルドはこの問題を解決する為に、銅級以上の探索者へ報酬の良い巡回討伐の依頼を出していた。




大樹迷宮の上層の一角、獣人のパーティーがドラゴンテイルと戦っていた。


ドラゴンテイルはドラゴンとは言うものの、大きな牙を持つ昆虫の頭に、丈夫な甲殻が背中を覆う、胴回り1メートル、体長6~7メートルの虫だ。

胴体の左右には羽虫のような羽が無数あり、尾の先には鋭利な鋏がついている。ややゆっくりと飛行する鉄級の魔物だった。


大口を開けて降下してくる龍尾。獣寄りの小柄な猫獣人は低く構えた姿勢から素早く近づき、牙を回避すると細い槍で右目を突く。そして遅れてやって来た鋏を背面跳びで避けた。


「ギィーーッ!」

「ッシャー!」


急旋回して上へ逃れようとする龍尾に対し、ヴォルフと呼ばれた狼獣人が、潰れた目の死角から飛び込む。反りのある剣を一振して、片側の羽を全て斬り落とすと墜落した。


「オラに任せろ!」


2メートルは軽く越す黒い熊獣人の男が、両刃の戦斧を叩きつける。首を甲殻ごと砕いて斬り飛ばすと、魔石を残して霧散した。


「よしよし、順調♪順調♪」


武器も構えず後からやって来た虎獣人の男が、ニコニコ顔で落ちた魔石を拾い上げた。


「ライガはさっきから楽しすぎにゃ!」

「何いってんだ?周辺の警戒も大事な役目だろ?」

「へへへ、今日もいい切れ味してやがるぜ」


ヴォルフが愛剣に頬擦りする。


「相変わらず気持ち悪いにゃ…」

「んだとこら!?やんのか!?」

「騒ぐなよー、疲れたしもう帰ろ?」

「んー…まっいいか、今日は数多かったし」


それぞれ荷物を背負うと、迷宮門目指して登っていく。


四人ともほぼ同じ時期に、南の島から渡ってきた馴染みの者達だ。

獣人発祥の地である南の島は、妖魔との狭い土地を巡る争いが絶えない場所で、彼等のように新天地を目指して海を渡る者は多い。しかし北上して辿り着いた地には先住民の妖精種や、時期を同じくして海を渡ってきた人種もいた。

その上、赤い目をした魔物――負の魔力を受け自我を失った妖魔――までいた。


この世界の海は荒れている。その為航路はほとんど決まっていて、他に行き場もない彼等はこの地で人と争い、魔法や心気使いの登場で敗北し、大陸南端の限られた土地に留まる事を余儀なくされた。




「シャケは迷宮杯に参加しないのか?」


ライガは魔石の数を数えながら猫獣人の女に聞く。


「…信用できそうな仲間がいないにゃ」

「あん?ララカの所は相変わらずだめなんか?」

「あの兎めは嫌にゃ…」

「シャケーそれは禁句」


熊獣人のオラがたしなめる。

獣人は獣寄りの姿の方が身体能力が高く、獣人種の創造神と言われている獣神に近いことから敬われるが、ただの獣と同一に見られると激怒する、気難しい者達だった。


迷宮入口に近づくとなにやら騒がしい声がする。


「なんだぁ?」

「…!あのバカ!!」


何かに気づいたヴォルフが突然走り出し、先に行ってしまう。


「お?誰か倒れてんな?」

「こんな表層でやられるにゃんてだめだめにゃ」




ヴォルフはあっという間にゴブリン二匹の首を飛ばすと、足元に倒れている黒髪の男を見た。


(死んではねぇが…治療が必要だぞ)


「ヴォルフー、それはいきてるのかぁ?」

「一応生きてる…拾ってくか」

「人にゃ!間抜けにゃ~」


ヴォルフに荷物のように担ぎ上げられるレイジ。

顔と右手は腫れ上がり、あちこち打撲の後がある。


「おい!こいつぁ麻痺蝶の幼生体じゃねぇか!」

「ほんとだぁ珍しいなぁ」

「こっちを持ってくにゃ!高く売れるにゃ!」

「へ…おめぇひでぇな」


魔石となって消えない点から、迷宮の外から転移してきた魔物だとわかる。多少萎んでしまった芋虫を、ライガは大事そうに袋へ入れた。


魔物の幼生体。幼虫は成長が早く滅多に目撃されない。生態研究に使える他、その頭部は硬く防具の素材になり、体液は罠の材料になる。捨てる場所がない程価値のあるものだった。


「へへ、助けてやっから虫は貰うぜ~♪」





フラウ達は昨日と同じく堅実に稼ぎ、ギルドの裏手で換金していた。


「フラウさん、すごいです!狼の毛皮たくさん取れましたね!」

「そうだな」

「よし♪今日もおつかれさま。帰りましょ」


と、そこへ獣人のパーティーが現れる。


「あ!あぁぁ…」

「あっ!てめっ!邪魔すんなって!」


突然震えだしたヴォルフはライガを押し退け、荷物を背負ったオラの背後に隠れてしまう。荷物から滴り落ちる謎の液体を器で受け止めていたライガが文句を言うが、正面にいるフラウ達に気付いた。


「ん?あぁ!あん時の嬢ちゃんか!」

「ヴォルフーくっつくなよぅ、キモい」

「…誰にゃ?」


事情を知らないシャケにオラが説明する傍ら、ライガがフラウ達に話し掛ける。


「あん時の男がよぅ、大樹迷宮の入口でぶっ倒れてたぞ?」

「あの時…レイジ!?」


ルーティが叫ぶように問うとライガは先程の事を話し、治療院に放り込んできたという。


「フラウさん!レイジさんが!」

「聞いた限り死んではいないようだ。治療院とはロサナの家か?」

「そうだぁ、七区から一番近いからなぁ」

「いくわよ!」


ルーティはみんなの返事も聞かずに走っていってしまった。




冒険者ギルドから出て右手の道を進んでいくと、様々な商店が建ち並ぶ通りに出る。魔法道具屋から武器防具など、冒険者が必要なものはこの通りを端から端まで歩けば揃うと言われている。


その中に小さな治療院がある。全体的に白く清潔感のある建物で、入口はいつも開いていた。


「ロサナ!レイジいるの!?」

「ルーティ。静かにして、大丈夫だから」

「…あのバカの具合は?」

「右手首の骨折と左側頭部の打撲ね。あとは背中や脚も数ヶ所打撲があるわ。ゴブリン2匹に襲われていたそうよ」


ルーティは歯を食いしばって顔を真っ赤にする。そこへアレクに連れられたフラウとリースがやってきた。


「ここがロサナさんの治療院だよ。ロサナさんこんにちは」

「アレクさん、こんにちは。レイジさんなら大丈夫よ。母が治療を終えて今は眠っているから、静かにね」

「あのバカっ。一人で迷宮に行くなんて…」

「今は体力の回復を待ちましょう」


この時、フラウはおかしなものを見た。

奥の部屋で休むレイジの側には人の形をした淡い光が佇んでいる。


(なんだあれは?…いや、私は知っている?)


「フラウさん?」


リースはフラウの微妙な変化を感じとれるようになってきていた。今の彼女は何か悩んでいるようだと。




(…あー死んだ。死んだ。簡単に死んだ。ほんとあっけねぇ。ハハハッ…これが異世界か。オレのチートは?テンプレは?どこにもねぇ。主人公どころか脇役でもなかった。ほんとうになんかの間違いでいる…部外者だったんだな)


「…キミには失望しっぱなしだよ。まったく」


(っ!?)


「キミが望んだことだろう?と言ってもわからないか」


(だっ誰だ?)


「…これでいいのかい?まだ始めてもいないが…これで終わりにするかい?」


(!?)


「キミはまだ何も知らない。わかっていない。だけどここで終われば楽だろうね…キミ次第だ」


(…ま、まだ…まだ死にたくない)


「ならしっかりと目を開けていなさい。最後の瞬間まで」

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