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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
21/169

初挑戦

20


翌朝。目を覚ましたフラウは心地よい温もりを感じる。腕の中の小さな息遣いに疑問を抱き、少し身体を動かして覗いてみると、赤髪の少女がいた。


(リース…そうだった。忘れていた。とても安らかな眠りだった)


フラウが慈しむように少女の髪を撫でていると、外から気配を感じる。窓から放たれる冷気は空気そのものが凍るようだ。

リースに無垢なる乙女の外套を掛け、静かに起き上がる。窓に掛かるカーテンを横に払えばやはり――


「フフフッ…」


青く透き通った身体はより鮮明に、フラウによく似た顔は表情さえ見てとれる。しかしその目は人ならざる氷の目だった。


「――サマ、オシタイシテオリマス、ココヲ、オアケクダサイマセ」

「…だめだ」


フラウの目には今までにない明確な敵意が現れている。


「…ソコナヒトノムスメノタメニ、ナニユエ、アナタサマホドノカタガ」

「お前には関係ない」


氷の精霊は明らかに前より力を増している。氷の指先が窓を瞬く間に凍りつかせると、室内の壁まで白くなる。肌を刺すような寒さにフラウは我知らず左腕を抱いた。


「ワタクシデアレバ、アナタサマノ、オチカラニナレマショウ」

「…それ以上来るなら容赦はしない」

「……マタ、オアイシマショウ、――サマ」


そう言い残して、氷の精霊は霧のように霞んで消えていった。少しして身動ぎする気配に振り返る。


「う?うぅ…ん?」

「リース…まだ早い、もう少しお眠り」


フラウが手をかざすと目をうっすら開けていたリースはまた深い夢の世界に旅立った。


(…やつの狙いは私か…なぜかわからないが、この子に対する反応はよくない)


頭を撫でながらフラウは考える。




リースは気配を感じて目を覚ます。いつも以上の寒さと、自分のではない温もりに急速に覚醒する。


(…ん?マール?……!!?)


自身をしっかりと抱き締めた存在がフラウだとわかり混乱する。フラウも目覚めたようで目が合う。


(え!…えー!?あ!昨日のまま?)

「リース。目が覚めたか?」

「さっさめまちた!?」


寒さのせいか、舌がうまく回らず言葉を噛むリース。フラウは気にした様子もなく優しく頭を撫でて開放した。


「皆起きたようだ」

「は、はい!私も起きないとっ」


リースは飛び起きるようにベッドから離れると、ドアノブに飛び付き振り返る。


「あっ…おはようございます!わたしも準備してきますっ!」

「おはよ…う」


フラウの返事も聞かず、途中で出ていってしまった。


(元気になったな。よかった)




朝の挨拶とマールからの追及を掻い潜り顔を洗う。


(な、なんであんなことに…フラウさんがわからないわ)


その後、皆揃っての朝食を済ませて勉強をし、ルーティとアレクが訪ねてくる。それまでずっとフラウをチラチラ見ていたが、いつも通りだった。


「おはよう!」

「「おはようございます!」」


アレクの挨拶に子供達が答える。


「おはよう。今日もギルドの依頼かい?」

「はい。稼げる時に稼がないと。迷宮杯も近いですし」

「なるほどなるほど…そうそう、レイジ君は体調が悪いようでね、休むそうだよ」

「あいつ…わかりました。では私達はリースとフラウを連れて行ってきますね」

「気を付けてね」


レイジは勉強後に不調を訴え、今日のギルド依頼は休むと伝えていた。




「覚悟…見せてやるよ!」


レイジがこの世界へ迷い込んでしまったのは、マラソン大会の予行練習をしている時だった。

着の身着のまま来てしまい、赤いジャージと体操服に運動靴だけ。その後リース達と出会い寝場所は確保できたが、全て人頼みになっている。今手元にある物はモルトから借りている短剣と、ギルド依頼の達成報酬と素材の換金で得た、銀貨四枚と鉄貨三枚だけだった。


「…アレクの話からすると…銀貨は1000円位の価値か?物価は場所によってだいぶ変わるみたいだけど、どれだけ買えるか…とりあえず必要なものを探しにいこう」


庭ではモルトが子供達に混じって遊んでいた。


「おや?レイジ君、具合良くなったの?」

「あっはい。もう大丈夫です」

「何処か行くのかい?」

「ちょっとギルドの訓練所まで行ってきます」

「なるほど。無理しないようにね」


そのまま大樹迷宮の入口前まで来ると辺りを見回す。幸か不幸か、レイジを気にする者はいなかった。


「リースちゃんが言ってた通り、人は少ないな…たしか入るのに必要なものはギルドカードだけだったな」


レイジは近くの屋台を見て回り、必要なものを探す。

丈夫そうな2メートル程の棒と麻紐。小さな麻袋に焼き鳥を1本買うと、迷宮前の衛士に挨拶をする。


「お疲れさまです~」

「ん?あぁ、ギルドカードを」


若干不審がってはいるものの、そのまま手続きを終えて大樹迷宮への坂を下っていく。


「…入った。もうやるしかないよな?いくぞ」




「な!?なんだよこれ!?」


大樹迷宮はその名の通り、太い蔓が大樹に巻き付いた姿の迷宮だった。

足元は巨大な大樹の枝木なのだろう、四人が横並びでも余裕なほどで、幹には人が入れる程の隙間があり、中を覗くと通路になっていた。


中でもレイジが一番驚いたのは、天地に空があったことだ。


「はぁ!?どうなって…あ!たしかこういう迷宮って異空間にあるって読んだ事あるな…」


大樹の枝の上で四つん這いになり身を乗り出すと、下には雲海が広がり、蛇のような生き物が飛んでいた。


「嘘だろ?この距離であの大きさ?ドラゴンとかなのか?」


上はどこまでも青い空が続き、非常に明るい。

レイジは若干ビビりながら下っていく。


「やべぇ…予想外過ぎる。スケールでか過ぎだろ。もっとこぢんまりした部屋の寄せ集めかと思ってた。落ちたら死ぬ…当たり前か、早く見つけて帰ろう」


緊張から独り言が増える。キョロキョロと見回し魔物を探すと、枝の道の先に体高1メートルくらいの黄緑色の斑な生き物がいた。

大樹の葉を一心不乱にモシャモシャしている。


「っ!…クロウラーって奴か?芋虫は気色悪いが…やるしかねぇ!」


持ってきた小さな麻袋から焼き鳥を出し、芋虫の手前に投げる。


「モゴモゴ…キュキュキュー!」


微妙に可愛らしい鳴き声をあげながら、近くに落ちた焼き鳥に飛び付くと、モシャモシャと食べ始めた。


(普通に肉食かよ…いくぞ)


即席の槍――2メートルの棒の先端には短剣が麻紐でぐるぐる巻きにされている――を構え7~8メートル先の芋虫を見据える。一気に近づき芋虫の脇腹目掛け槍を突き出した。


「―――オラァァー!」

「ピギィィィィ!?」


芋虫の脇腹へ深々と突き刺さった短剣は、棒から外れて残る。レイジは勢いをつけ過ぎた為に、芋虫に乗り上げて反対側へ落ちた。


「ぐっ、くそ!」

「ギギギィ!」


芋虫はまだ動けるようで、のし掛かろう迫ってくる。レイジはそのまま這うように前へ駆けていき距離を取ったが、短剣を失っていることに気付く。


「抜けちまった!」


芋虫は不意に縮まり、次の瞬間には目前に迫った。


「ぶっはっ!!」


幸いにも幹まで吹っ飛び倒れる。まるで鉄球でも腹に食らったかのような痛みに呻く。


「ぐぅぅ!」

「ピギィィ!」


同じ動作を見て反射的に転がり避ける。幹に激突した芋虫の傷口を棒で突き、捻り上げ、抉る。


「死なねぇ!?なんでだよっ!」


芋虫は意外と生命力があるようで、腹部周辺を攻撃してもすぐには倒れない。何度目かの突き刺しで芋虫が動かなくると倒れ込むレイジ。


(た、倒した…あとは持って帰るだけだ)


「ギギッ…ギーィ!ギーィ!」


そこへ幹に巻き付いた蔓の坂から真っ赤な目をした緑の子供、ゴブリンが棍棒を振り回しながら駆け上がって来る。


「ちくしょう!」


転がっていた短剣を拾い立ち上がって構えるが、ゴブリンの奥からもう一匹来ているのが見えた。


(ヤバい!)


芋虫を担いで引き返そうとするが見た目に反して重く、ゴブリンはすぐそこまで来てしまう。


「ギーィ!」

「うお!?」


ゴブリンが繰り出す棍棒の一撃は、とても子供の体格から繰り出される力ではなく、棒で受け流そうとして体勢を崩される。


(嘘だろ!?子供の力じゃねぇ!!)


前蹴りで突き放すと体重は軽いのか、すんなり離れた。棒を振り回しながら枝木の縁まで追い込むが、もう一匹が飛びかかり、短剣を突き立てようとしたレイジの右手首を叩いて短剣を落とす。


「あぁぁぁっ!!?」


折れた右手首を胸に引き寄せ、棒をめちゃくちゃに振り回しながら下がる。だが二匹のゴブリンは動きが早く、レイジの脛や腰を激しく叩いた。


(ああぁぁ!やめろ!やめろ!)


左のゴブリンが横凪ぎに振るう棍棒がレイジの棒を砕き、背中を叩かれ前屈みになっていたレイジの側頭部に当たる。


(あ、しんだ)


薄れゆく意識の中、視界の隅から何かが迫るのを捉えつつ闇へ落ちた。

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