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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
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悩み事

19


用事を済ませたフラウ達は、冒険者ギルドの正面玄関に設けられた掲示板前で、レイジの帰りを待っていた。

掲示板にはギルドに寄せられた様々な情報が張り出されており、ルーティとアレクは一つ一つ情報を精査しながら、北の森で目撃された魔物について話し合っている。


「まだ小物だけね。けど森を根城にされると、あっという間に数が増えるから油断できないわ」

「近場の依頼が増えるのはありがたいですけど…悩ましいな」


迷宮都市の冒険者に対する依頼は、迷宮の影響により比較的少ない。ほとんどは採取や護衛であり、討伐系は近隣の村から出される遠征依頼となり、人気がなかった。

また街で暮らす人々にとって迷宮攻略は街の安全に直結する為、外回りに人を割かれるのは不本意な事でもあった。


その二人の傍で膝を曲げて屈んでいたリースは、つまらなそうに頬杖をつきながらボーッとしている。フラウはその様子が気になり手を伸ばしたが、振り返ったリースに手を引っ込めた。


「リース、疲れたか?」

「大丈夫です。清掃の奉仕活動をしていた時は、東から西へ一日中歩いた事もあるんですよ」


そう話すリースは再び通りの方へ視線をやると黙ってしまう。その様子にフラウはリースに習い、通りを行き交う人々を観察した。


右手の商店街からは身なりの良い女が買い物籠を抱えてやってくる。その向かいから幼い少年が駆けてきて飛び付くと、女は優しい表情を見せて頭を撫でてやっていた。

そこから少し離れた場所には、リースと同年代くらいの綺麗に着飾った少女がおり、両親に連れられて暖かな明かりが灯るお店へ入って行く。リースはその後ろ姿を見るともなしにぼーっと眺めていた。


(リース…どうしたのだろう?元気がないな)


心中を察する事が出来ないフラウが、再び声を掛けようとしたところで、背後から大きな声がする。


「おっ待たせーっと!」


レイジが入口の段階を勢いよく飛び降り、フラウ達の前に着地した。


「ずいぶん時間掛かったのね。それで?」

「ん?あぁだめだった」

「…どうしてだい?何か言ってた?」

「いや、忙しいんだと。オレより見込みのあるやつでもいるんだろ?」

「教官がそんな理由で素人を投げ出す訳ないでしょ?さては怖じ気づいて話してないわね!ちょっと来なさい!」


ルーティが腕を引っ張り連れていこうとするが、レイジは頑なに拒む。


「いやいや話たって!まぁ他でなんとかするよ。それより疲れたろ?もう帰ろうぜ?」

「…そうだね。孤児院の方も気になるし、帰ろうルーティさん」

「?…わかった」


ブスッとしたままズンズンと先に進んでいくルーティは、屋台で買い物をしてそのまま一人行ってしまう。レイジは換金して手に入れた金を前に笑顔を見せていたが、どこか表情が固い。アレクは眼鏡のズレを直すふりしてレイジを観察していた。




孤児院は――平和だった。モルトが毬栗のような物を被り、アニィを追いかけ回している点を除けば。


「まてまて~♪そこのかわいこちゃんおじさんと遊びましょ~♪」

「…何をしてるんですか?」

「やぁ!おかえり。みんな無事でなにより」


何事もなかったように振る舞うモルトに、リースはため息をついて頭を振る。


「ロリコンか?お巡りさん呼ぶか?」

「?」

「…なんでもないなんでもない。ハハハ…ガクッ」

「今アニィに不審者対策を教えていたのさっ!皆もやるかい?」


肩を落とすレイジを置いて、被り物をルーティに差し出すモルト。しかし香ばしい匂いを嗅ぎ付けた子供達によって阻まれる。


「それより夕食にしましょう。おかずも買ってきましたから」

「やったー♪なになに何があるの!」

「野うさぎの香草焼きよ」


子供達は飛び跳ねて喜び、モルトの指示で夕食の準備を始める。豪華な夕食に盛り上がり、あっという間に時間が過ぎた。




「ではまた明日。おやすみなさい」

「「おやすみなさーい!」」


アレクは眼鏡に触れ魔法の光を宿すと、ルーティを先導して帰っていく。子供達はそのまま就寝の準備をしに二階へ上がるが、フラウはリースが気になり呼び止めた。


「リース、少し話をしよう」

「え?…はい」


フラウは自分が使っている部屋にリースを誘い入れると、扉を閉めてベッドの隣をポンポンと叩く。しかしリースは顔を赤くしたまま立ち尽くしていた。


(えー!?これってどういう…まっまさか!?わ、私まだ子供…)

「リース?どこか具合が悪いのか?」

「~~!!?」


フラウは帰宅後すぐに装備を解いていて、今は白い艶やかなドレスローブを着ている。リースにはその姿が精霊以外の何者にも見えず、手を引かれ間近から見つめられると凍ったように動けなくなった。


(精神の均衡が乱れているな。やはり何か思うことがあるのだろう)

(え!?えぇ!?どうなるの!私どうすれば!?)


そのままリースをベッドへ座らせると、その距離はどんどん狭まっていく。


(人の精神構造は把握できていない。精神に感応するのは危険だろう…どうするか)

(もう覚悟を決めるしか…ない…の?)


とキツく目を閉じたリースだったが、フラウは彼女を横たわらせると、頭を膝の上に載せて優しくなで始めた。


(…………あれ?)





薄い壁越しに聞こえていた子供達の声が止み、静まり返る頃、レイジは狭い部屋の中で毛布も掛けずに寝転がり、天上を見ていた。ここまで漠然と流されてきたことを思い返す。


(オレはなんでここにいるんだ?なんで冒険者なんだ?覚悟ってなんだよ…)

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