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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
19/169

魔法名

18


「そっちいくよ!」

「こいやー!」


薬草採取を終えたフラウ達は、北の森を無事抜け出し、次の目的地である南の平野へ辿り着いていた。

遠く迷宮都市外郭まで続く野原を、南部山脈から流れる小川を右手に進む。道中には所々窪みがあり、覗くと小さな穴が地中深くまで続いていた。


それは穴鼬の巣穴であり、捕獲の依頼を受けているルーティとレイジは、無数に空いた穴を一つ一つ覗き込む。そして時折巣穴に向かって用意していた鐘を鳴らして様子を窺っていた。

しかし離れた位置から見守っているアレク達は、別の巣穴から顔を出す穴鼬と向き合っていた。


「この寒さで動きは鈍ってるはずなんだけど、やっぱり穴鼬は大変だね」

「フラウさんも穴鼬捕まえて!」

「私が出るまでもないな」

「えー!」


思わぬ返答にリースはがっくりと肩を落とす。

その間もレイジが必死に掘り返す穴とは別の穴から、穴鼬は現れ悠々と別の巣穴へ移っていく。その姿は美しく緑翡翠の毛並みが優雅になびく。


「くっそ!」

「これは受ける依頼を間違えたかも…」

「さて、僕の出番かな」


アレクは徐に前へ出ると、黒曜石のような黒い杖の先で地面を軽く突っつき始めた。


「キキキッキキッー!」

「なっなんだ?」

「アレク♪その調子よ!」


キーキーという鳴き声が巣穴の中から聞こえ、その直後に飛び出した穴鼬をレイジがキャッチした。


「オッシャー!1匹ゲット!」

「あんた、たまに変な言葉使うわね…」

「ふぅ、うまくいったね」

「何をしたんだ?魔法か?」

「巣穴の中に音を集めたんだよ」

「なんだそれ?なんて名前?」

「名前?…あぁ魔法名かい?君は学園に来た事があるの?」

「いや…ないけど」

「?…魔法名はマリさんが古い文献から見つけ出して流行らせようとしている、魔法の特徴を一言で表す固有名だよ。だけど魔法を使うのに名を決める必要はないよ。精神集中の為に魔法言語で詩を朗読…つまり詠唱するかしないかの違いくらい。そこは個人の力量で変わるよ」

「そうだ!マリって――」


ルーティは生け捕りにした穴鼬の両手両足を結ぶと、次の獲物を探し始める。いつまでもお喋りをやめない二人に鐘を振り回す。


「ちょっと!男ども働きなさい!」

「「はーい!」」




どうにか穴鼬を二匹生け捕りにして北門へ戻った一行は、街を出る際手続きをしてくれた若い衛士に挨拶した。


「おかえり。成果はどうだった?」

「森狼4匹に穴鼬2匹。あとは血華草が少し」

「おっ!穴鼬を捕まえたか。いいなぁ。それを贈れたら…」


若い衛士は手を止めチラチラとフラウの様子を窺っていたが、当のフラウは縛られた穴鼬を突っつくリースに夢中で気付かない。そのうち順番待ちをしている背後の者達が騒ぎ始めた。


「手が止まってるぞ!早くしてくれ!」

「あっと…よし。いいぞ」




ルーティ達が七区へ入ると、出店など普段見掛ける店や探索者の姿は大分少なくなっていた。残っている店も片付けを始めていて、大樹迷宮前には暇そうな衛士が数人いるだけだ。


「やっぱり人は少なくなってますね」

「攻略された迷宮にいったのか?」

「今は入る事ができないはずです。代わりに情報収集や坑道迷宮で活動していた探索者を勧誘しているのでしょう」

「そっか!経験者か!」

「それよりも訓練を受けるならガルド教官に話してきなさいよ。この時間ならまだ訓練所にいると思うわ」

「換金は僕達がしておくよ」


迷宮へ思いを馳せていたレイジは、急な話に迷う。


「あっあぁ…わかった。行ってくるわ」

「…大丈夫かな?」

「訓練で死にはしないわ。たぶん…」




レイジと一時別れたフラウ達はギルドの裏手へ回り、三人の冒険者がギルド職員と揉めている現場に遭遇した。


「なんでこれっぽっちなんだよ!ちゃんと鑑定しろ!」

「しましたよ。このフォレストウルフは状態が悪い上、解体していないので買い取り額は下がります。銀貨1枚」


職員の足元には森狼の死体が二匹分転がっている。どちらも解体しておらず、そのまま運んできたようだ。

一匹は至るところに切りつけた後があり、毛皮はボロボロ、二匹目も引き摺って来たのか泥だらけだ。


フォレストウルフは木級の魔狼だ。

群れを成して襲って来る時は石級だが、個々の強さは

それほどでもない。駆け出し冒険者の相手として、ゴブリンに並ぶ有名な魔物だった。


魔狼からは討伐証明部位の牙が二本と毛皮が手に入り、状態の良さで最大銀貨二枚になる。彼らが運んできたものは、買い取り拒否もあり得る酷さだった。


「ふざけんな!北の森からわざわざ運んできたんだぞ!」

「普通はその場で解体しますよ」

「解体なんてめんどくせぇことしてられっかよ!いいから銀貨4枚で買えよ!」


男達が騒いでいると、全身艶のない黒染めの革服を着て覆面をした男が現れ、立て続けに男達の首筋を軽く叩く。すると男達はバタバタと倒れていった。


「あっデイズさん!」

「雑魚は掃いて捨てろ、こっちの奴らを見てやれ」


デイズと呼ばれた男はそう言うとギルドの中へ入っていく。ルーティはその男の背中へ羨望の眼差しを送り、アレクは乾いた笑みを浮かべながら頬を掻いている。


「今のってゴールドランクのデイズさん!?すごい!」

「ハハハッ…すごいこと言ってたね」

「あの人…どこかで見たような」


リースがウンウン唸ってる間に鑑定が終わり、森狼は四匹で銀貨七枚、鉄貨四枚。血華草は銀貨一枚。穴鼬は二匹で金貨一枚になった。


「ごっめ~ん!首切りしちゃったの値段下がっちゃった」


とルーティが舌をちょろっと出すと、アレクは壊れた人形の様に頷いて許した。




レイジが訓練所に行くとちょうどガルドが探索者ギルドから出てくるところだった。


「あっあのガルドさん」

「…なんだ」

「実は戦えるように鍛えてほし――」

「無駄だ。諦めろ」

「え?」

「死ぬぞ?」

「あっあ~と。そうならないように――」

「お前には覚悟がない。鍛えたところでウッドランクどころか、一般人が相手でも勝てん!」

「――!」


そう言うとガルドは出て行ってしまった。


(…覚悟つったって)


日暮れが迫る訓練所には、帰り支度をする探索者が数人いるだけで、冒険者ギルドの酒場からは楽しげな喧騒が聞こえるだけだった。

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