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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
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北の森

17


鉱山都市への道中に広がる北の森は、密集した木々に蔓草が生い茂るひどく見通しの悪い場所だ。

森の奥から流れてくる空気は冷えきっており、太陽のあたたかさは感じられない。そんな中フラウに肩を引き寄せられたリースは、歩きずらそうに進む。


「ここから西へ進んだところに、血華草がありました」

「血華草かぁ。血のように赤い薬草だね。通常の傷薬は薄緑色の軟膏だけど、赤い軟膏は止血効果が高いんだよ」

「血の草かよ…嫌な想像しちまった」

「あはははっ。大丈夫、地中に死体はないよ」


蔓草を剣で払いながら進むルーティの後を、リースを挟むようにしてアレクとフラウが続く。

最後尾をついていくレイジは強張った表情をしており、木の根や蔓に足を取られながら、辺りを警戒している。


「レイジ君ビビりすぎだよ」

「っ!ビビってねぇよ!」

「うるさいよっ」


道を逸れてしばらく進むと、開けた場所に出た。正面には一際暗い色をした蔓草が厚く巻き付き、おどろおどろしい姿となった大樹がある。先頭に立つルーティは鼻をくんくんして何かを探っていた。


「うぉ!トレントか?」

「おや?トレントを知ってるのかい?」

「あっいや。聞いたことはある」

「トレントじゃないわ」


一行から飛び出したルーティは、左腰に吊るした革製の鞘から剣を抜き放ち、大樹に巻き付いていた蔓草の一部を切り裂いた。

切り離された蔓草が地面に落ちると、ウネウネ動きながら萎びていく。


「なっなんだ!?」

「レイジ君落ち着いて。ただの子巻蔓だよ。近くを通る小さい生き物に巻き付くだけの植物。リースちゃんくらいだと抜け出すのにちょっとめんどくさいかな?」

「見て」


ルーティが剣で指し示した先を見ると、先程切り裂いた部分の奥には、緑色の物体が蔓草に埋もれていた。


「おぉ…ゴブリン…なのか?」

「だね。死んでるとは言え、こうも簡単に発見できちゃうとは。結構入り込んでるのかな?」

「討伐証明部位がないわ。倒したのは冒険者ね」


リースは興味を引かれて覗き込むが、腐臭に鼻を押さえて悶えた。


「くさっ!くっさいです!」

「リース、離れるな」


フラウに後ろから抱き寄せられ、外套で覆われる。するとたちまち嫌な匂いは消え失せ、清涼な空気になった。


(あれ?こんなにくっついてるのに匂いがしない?)


フラウの匂いを嗅ぐリースを見て、ルーティが引きつった顔をする。


「リース…あんた何やってるの?」

「っ!ゴ、ゴブリンが臭くて隠れてたの!」

「なるほど…さぁ先に進みましょう」


ゴブリンはそのままに、アレクは大樹を迂回して進む。




「うーん。この腐臭は…」


徐々に強くなる嫌な匂いにアレクが顔をしかめる。

間も無く再び開けた場所に出た。


「ここです。この辺りに…っ!」

「これはひどい」

「うっぷ…」


リースが示した辺りにはゴブリンの死体があった。

腹が破れ辺り一面に広がっている。


「レイジ君大丈夫かい?吐けるなら吐いた方が楽だよ」

「いや…大丈夫」

「血華草は…見当たらないわ。他の冒険者が採取した後にゴブリンを倒して放置したようね。後処理をしないなんて、まったく!」


緊急時以外、冒険者は倒した魔物を埋めるなり焼くなり、処理をする事が常識となっている。


「ほっとくとアンデッドになるのか?」

「アンデッド?…あぁ!死霊ね。なるよ。特に魔族が放つ負の魔力に汚染された魔物の死骸は、放置するとその場をどんどん穢して瘴気溜まりになるんだ」

「やっぱりいるんだ…」

「アンデッドなんて言い方よく知ってたね。魔法学園のマリさんくらいだよ――」

「マリ?」


アレクの言ったマリと言う名前に反応するレイジ。

しかしルーティの警戒を促す声に遮られる。


「待って!この傷…何か来る!」

「…フォレストウルフだ!」


突然木々の間から飛びかかってきた生き物は、薄汚い灰色と黒の斑狼だ。

その牙をアレクは持っていた杖、1メートル半の黒曜石のような艶のある黒い杖で受け流した。


「うおっ!?」


目の前を横切る森狼に後ずさるレイジは、背後から飛び掛かる別の森狼に気付かなかった。しかしフラウが振るう銀の剣を受け、森狼からは内蔵がこぼれ落ち、ヨタヨタと数歩進んだ先で倒れた。


「リースはフラウから離れないで!」

「オレは!?どうする!?」

「判断できないならリースの側にいて!」


ルーティは二匹の狼相手に剣を振るい、片方の脚の付け根へ深く切りつけていた。


(早ぇよ!一瞬で反撃とか無理っ!)


レイジは借り物の短剣を抜くのも忘れ、フラウとリースの側で右往左往している。

その横で狼と距離を取ったアレクが杖を一閃した。


「――――・―――」


レイジには理解できない言葉で何かを唱えると、森狼の足元に生い茂っていた蔓草が巻きついていく。

地面に縛りつけられ動けないのを一瞥したアレクは、振り向き様に杖を下から振り上げる。ルーティが対峙していた一匹に向かって石礫が飛び、首元に当たると骨の折れる音を響かせ倒れた。

ルーティが脚を引き摺る森狼の首を落として終わる。


「――ふぅ。油断でしたね」

「アレクありがと。リースも大丈夫ね?」

「はい!大丈夫です!」


(いい動きをしている。この二人はそれなりに経験があるようだ)


フラウが静かに見守る中、ルーティは森狼を見つめたまま動かないレイジに指示を出す。


「…レイジ。止めをさして」

「オレ?…あっああ!わかった!」


ルーティが睨むとそそくさと短剣を抜き、蔓草に埋まるようにして縛りつけられている森狼を見下ろす。


(よし、やるぞ…なんか普通の狼ってかシベリアンハスキーに見えるな…)


「早くしてね。討伐証明部位の牙と毛皮は欲しいから解体するわよ」

「お、おう」


レイジが意を決して森狼の首に短剣を突き入れる。


「ガァァァウガァ!」


突き入れた短剣は半分ほどで止まり、森狼は苦痛から暴れ始めた。


「なにやってるの!しっかり刺しなさい!」

「っ!」


レイジがさらに力を入れると刃の根元まで差し込まれ、ビクンと数度痙攣をおこして動かなくなる。


「…よし!解体するわよ!フラウとリースは周囲を警戒して!」

「はい!」


青ざめた顔をしているレイジは、森狼が暴れた際に付いた返り血で、赤く染まった手と短剣を見下ろしていた。


(……やったろ?ちゃんとできるさ!)




四匹分の狼の毛皮と牙を手に入れたルーティ達は、ゴブリンとフォレストウルフの死体を集め、アレクの魔法でズブズブと地中へ沈めていく。


「埋めると大地の浄化作用がはたらいて死霊にはならないよ」


その後一行はさらに西側へと移動し、僅かながも血華草を採取する事ができた。


「薬草は手に入れたわ。依頼の薬草採取は種類や量の指定はないから楽ね」

「あとは穴鼬ですね。ここから南へ行けば丁度生息地です。解体に時間を使いましたが、日暮れまでには充分間に合いますよ」


楽しそうなルーティ達に対し、リースは後ろをトボトボとついてくるレイジが気になり振り返った。


「フラウさん。レイジさんは大丈夫でしょうか?」

「…人の中には生き物を殺す度に変わっていく者もいる。彼の覚悟次第だ」


(…あ~やったな。初討伐だろ?アレクの手柄だけど…やってやったぜ。うわ~生々しいなぁ。ガチな異世界転移かよ。まいったね…)


ふと前を見るとアレクの腰にまとめてある毛皮が目に留まる。


「…」


レイジは暗鬱とした目でじっと見ていた。

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