秘密
14
「で、話ってなんだ?」
冒険者ギルド二階の一室に二人の男がいた。
昨夜遅くに呼び出され、迷宮核の確認を終えて戻ってきた冒険者ギルドのマスター・グラントは、不機嫌そうに目の前に立つ男を見上げた。
受付カウンターにいた冒険者風の男は資料を机の上に広げる。
「冒険者登録に来た四人組の1人が、受付嬢の秘密に気付いた可能性があります」
「なんだと?…どんなやつらなんだ?」
「4人組は男1人、女3人で登録したのは男女2名。男は黒髪黒目でレイジ・キムラ。女は白髪銀目のフラウ・スノーホワイトと言う名で、女の方が気付いたようです」
「ずいぶんと特徴のあるやつらだな」
グラントは机の上に広げられた鑑定魔道具の鑑定結果を手に取る。
「受付嬢の話では女がギルドに入ってまもなく、仕掛けた看破が失敗し、逆に覗かれた…と」
「覗かれただと!?看破持ちか!…妖精種。精霊魔法ってことはエルフか?」
「いえ…おそらくハーフエルフかと」
受付嬢達の不自然なまでの笑顔は彼女達が授かる真実神の加護の一つ、看破が失敗しフラウの能力が見えなかったからだ。その上一人は逆に覗かれている。
「まぁいい。今までにも秘密を見破った奴はいた。だが看破を仕返してきた奴は初めてだな…」
「登録後は探索者ギルドへ向かったそうです」
「…やつはなにか言っていたか?」
「いえ、特には…」
「そうか。その女の動向は逐一報告するよう受付に伝えろ」
男が出ていくとグラントは背後の訓練所を一瞥し、その向かいにある探索者ギルドの建物を見る。
(奴の勢力に対抗するためにも優秀な人材なら引き込みたいが…)
孤児院に到着したフラウ達は、奥から聞こえる賑やかな声を耳にする。
「授業中みたいだね。ちょっと覗いてみようか」
玄関から右へ回り込み居間の窓から覗き込むと、モルト達は食卓で向かい合って座っている。
モルトの手元には淡く光る分厚い本があり、子供達の前には黒い板が置いてあった。
「なんだあれ?」
「モルトさんが持っているのは真実神の加護が付いた学術書だよ。まだ現役の探索者だった頃に迷宮で手に入れたらしい。本当はあの本を使って迷宮区初の学舎を始めるつもりだったみたい」
「迷宮から教科書?なんか微妙だなぁ」
「教科書じゃないよ学術書。すごく価値あるものだよ。誤りのないたしかな知識や情報ってお金にもなるんだよ?あの魔法の本…たぶん大金貨数枚くらいはするよ」
「大金貨…金貨100枚以上!?」
「君ねぇ…真実神の加護付きってなかなかないんだよ。一部でも誤りや偽りがあるとだめだから。賢者や大魔導師の方々が作成する本はほとんどが薄く加護なしなんだ。それでも金貨数十枚はするから」
とレイジの声が大きかったので子供達がこちらに気付く。リオやマールはアレクを見ると嬉しそうに近寄ってきた。
「アレクー!こんにちは!」
「やぁこんにちは!モルトさんお邪魔します。菓子パン買って来ましたよ」
「いらっしゃいアレク君。いつもすまないね。今玄関開けるから」
「アレクさん、ありがとう!」
居間ではアレクから菓子パンを受け取る子供達が列をなしている。甘い香りがする菓子パンを受け取り、満面の笑みを浮かべるリースを見て、フラウは買わなかった事を少し後悔した。
レイジは先程の話をモルトに聞くと、学術書を手渡される。学術書は金縁の緑の表紙で、湖の畔にあるお城に根を張る大樹が描かれていた。
中は見たこともない文字で書いてあり、表紙と同じく淡く明滅していた。
「よ、読めねぇ…」
「あぁ魔法文字だよ。魔法学園等で学ばないと読めないから。モルトさんは独学で読める様になったんですよね」
「ハハハッ!読めない本を持ってても無駄だからね。それはもう必至に勉強したよ」
「でもこの本の内容難しいですよね。禁啓言語もあるし本来は学園の大魔導師の方々が使うような本ですよ」
「きんけいげんごぉ?」
レイジは聞き慣れない言葉に胡散臭いものを見るような顔をする。
「世の中にはあらゆる手段をもってしても知ることができない、伝えられない事があるんだよ。その言葉や文字が禁啓言語だよ」
「えぇ~?そんなことあるんですか?」
「君は神々の名を始め、国や土地の固有名詞を見聞きしたかい?」
「え…!!?」
「っ!?」
モルトの言葉にレイジとフラウは今さらながらに、この世界の固有名詞が人の名前くらいしか無いことに驚愕する。
「それらは重要な意味があるそうだよ。私も詳しくは知らないが、神々が過ぎた知識を持つことを禁じたとも、私達自身の魂の格が足りないともいわれている。そしてその名を知る事は力になるそうだ」
「え、あ、ちょっと待って…頭が混乱してきた…」
レイジは急に顔を青くし、立ってられないようでその場に座り込んでしまう。
フラウもその美しい顔が曇っていて、リースが心配して寄り添う。
「うーん、ちょっと衝撃的だったのかな?どうやら君たちは一般的な知識がほとんどないようだ。それでは生き辛いだろう?明日から少しお勉強だねっ!アッハッハッハッ!」
モルトは盛大に笑っていた。




