迷宮杯
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「迷宮杯?」
探索者ギルドの休憩室前。横になって休んでいたレイジが、先程の騒ぎに部屋から出てくる。
扉の隙間から見える奥のベッドでは、唸っていた狼獣人がフラウと目が合うなり、悲鳴を上げながら飛び跳ね落ちていった。
「もう大丈夫なの?さっきはごめんね」
「あ~なんか…大丈夫だな。逆にすっきりした感じもする」
「迷宮杯だったね。4区の螺旋迷宮から迷宮核が持ち出されて数日後、迷宮に残っていた魔物が出てきてしまうことがわかったんだ」
「それで迷宮核のあった場所に魔法学園が作った封魔石ってものを設置したの。魔物を迷宮内に留めておくものらしいわ。それの外観が杯に見えたカミュが最深部到達の証を入れて、証を持ち帰ったものに魔法の品々を贈ると言ったそうよ」
「そうすることで広大な迷宮内に散らばっていた魔物達を狩り尽くしたらしいよ」
アレクとルーティの説明を聞きつつ玄関ホールを観察するレイジは、沸き立つ探索者達の姿に鼻息を荒くしていた。
(魔法の道具かよ!ぜってぇ欲しい!)
「さて、私は一旦家に帰ってから孤児院に行くわ。フラウ達は…道覚えてるよね?」
「あっ時間空いてるし、子供達に会いにいこうかな…フラウさん達は僕が連れていきますよ」
「そう?じゃあお願いね」
ルーティの姿が見えなくなるまで見送るアレク。
探索者達の話に聞き耳を立てるレイジ。
騒がしいのが嫌いなフラウは、動き出さない二人を置いてギルドホールを出た。
「あ!まっ待ってくださ~い!」
「おっと置いてくなよ~」
冒険者ギルドの正面へ出たフラウは、迷宮区との違いに改めて辺りを見渡した。
今は太陽が真上に差し掛かるお昼頃。冒険者達や街の住人は、何を食べるかで楽しそうに話している。
大通りの端からは肉の焼ける香ばしい匂いや、果物を潰して果実水を売る店が並んでいた。
フラウ自身は空腹を感じていなかったが、リースの食事事情を思い出ししばらく観察していた。
「お腹空きましたか?ここの通りは冒険者の往来が盛んで、色々な食べ物を売る店が多いんですよ」
「私はいらない」
「ちょっと腹減ったな。あっ金ないんだった…」
「じゃあ…あれ買いましょう」
アレクは菓子パンを売る屋台の前で立ち止まる。店は荷車に載せてある簡素な屋台だ。
黄色や紫の果物が練り込まれた出来立ての菓子パンは、どれも美味しそうだ。
「いらっしゃい!どれにします?」
屋台の主は明るい水色の髪をしたお姉さんで、アレクが適当に十数個の菓子パンを指さすと、嬉しそうに白い麻袋へ入れていく。それを近所の子供達が物欲しそうに眺めていた。
「鉄貨6枚と銅貨2枚になります♪」
「…結構買うんだな」
「子供達の分だよ。レイジくんにも1つあげよう」
「あ、ありがとう」
アレクの横ではフラウが金貨を差し出していた。
受け取った女店主はその硬貨を二度見して戸惑う。
「え…えっ!?金貨!?」
「これで買えるだけ」
「フラウさん!?金貨はちょっと買い過ぎじゃないかと!?それに僕が買った分で十分ですよ。食べきれずにだめにしてしまいます」
「そうか…わかった」
アレクに促され東の内郭門へ向かうフラウ。その背中をお姉さんは残念そうに見送った。
「なぁここら辺の通貨ってどんな感じなの?」
「はい?…通貨は神々の迷宮産硬貨を使ってるから世界共通のはずだけど?まぁ一応…迷宮産ではない銅粒から始まり銅貨、鉄貨、銀貨、金貨までが10枚で繰り上がって、大金貨は金貨100枚だね。白金貨ってのもあるけど、庶民には無縁のものだよ」
「お、おぉそうだった…ここらで一番安い一食っていくら?」
「え~と南側のお店で鉄貨2枚だったかな?質や量が下がるけど迷宮区で探せばもっと色々あると思うよ」
それからしばらくレイジのおかしな質問に、アレクは律儀に答え続けた。
孤児院前まで来ると、中から元気な声が聞こえる。




