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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第一章 迷宮杯篇
13/169

腕試し

12


冒険者ギルドへ入って右側の酒場では、集まった冒険者達が迷宮攻略の知らせに沸いている。

それに対して左側はお通夜のような静けさで、レイジは顔を青くして俯いていた。


「何らかの適性がある人なんて4、50人に1人よ?私だって…魔法が使えないんだから」

「レイジさん。冒険者だけが全てではありません。それに冒険者は常に命の危険と隣り合わせです。命を大切にしてください」


ルーティとロサナが励ますが、聞こえているかどうかわからない。その時、書類へ書き込みを終えた受付嬢が補足する。


「当ギルドの鑑定魔道具は大変希少な品ですが、真実神の加護があるものではありません。どうかご留意ください」

「…真実神?」

「真実神は数多いる神々の中でも特に力のある神で、国によっては光りの神、または至高神とも呼ばれます。その加護があるものは誤ったもの、偽ったものはなく、全てを明らかにすると言われています」

「それじゃあ…ま、まだわからない…よな?」


レイジは自分に言い聞かせるかのようにカードを見つめながら呟いている。その間に受付嬢からはランクの説明や依頼の受け方、税の天引き等の話がされた。


ランクは木級から始まり、石、銅、鉄、銀、金があり、特別な功績によってミスリル、アダマンタイト、オリハルコンのカードが贈られるという。貴族にはその特権によりプラチナやダイヤモンド等の装飾がなされたカードがあり、受けられる依頼やギルドからの支援内容が変わるようだ。


七都市連合では各都市内に滞在して一定期間活動する者に、納税義務が発生する。俗に言う人頭税は依頼の報酬から天引きされる為、一定期間活動記録がなかったり、最低保障金額に満たないと除名される。


事務的に淡々と話す受付嬢と、だいぶ前から興味を失っているフラウに、見かねたルーティが手を振って遮った。


「もういいわ。後で私から教えるから。あとは…一応、探索者ギルドにも登録しておきましょ」

「探索者ってのは別なの?」


と気持ちを切り替えたレイジが質問すると、受付嬢が待っていましたと言わんばかりに話し始めた。


探索者とは…冒険者が迷宮や遺跡等の探索をメインに活動する際の呼び方だ。

元々は冒険者ギルドの管轄だったが、四区の事件で迷宮攻略とその後の処置で活躍した人物、カミュと言う男が当時の市長と冒険者ギルド長に、褒賞として探索者ギルドの設立を認めてもらい移ったそうだ。

現在では迷宮へ向かう者のほとんどが登録しており、どこよりも詳しい迷宮内の地図や情報誌が売っているそうだ。


急にすらすらと話し出す受付嬢。七割方がカミュの容姿や立ち居振舞いに関するものに、四人とも圧倒され最後は笑顔で送り出された。


「探索者ギルドへは冒険者ギルドの中を抜けて、訓練所を通った方が早いわ」


冒険者ギルドの裏手へ向かうと、前からは眼鏡を掛けた金髪金眼の男が近づいてきた。


「ルーティさん。ロサナさん。こんにちは!」

「アレク?依頼を受けに来たの?」

「いえ、噂を聞いて来たんですよ。坑道迷宮は僕も行きたかった場所なので」

「あぁ。あそこは魔法使いが重宝されるからね」

「えーと、そちらの方は?」

「っと!ごめんね。昨日からあとあとになっちゃって。彼女がリースを助けてくれたフラウよ。こっちはレイジ」

「昨日はどうも!よろしくっす」


挨拶をしている隣ではロサナがソワソワし始め、小声で謝った。


「私はそろそろ帰らないと。治療院を母一人に任せたままなの」

「あっとロサナさん。ありがとうございましたっ」

「ロサナ、付き合ってくれてありがとね。気をつけて帰って」


ロサナを見送った後、アレクも探索者ギルドへ用があると言い出して同行する事になった。


訓練所は特に区切りがある訳ではなく、冒険者ギルドと探索者ギルドの間にある、開けた場所だった。

地面は舗装されていないが均された面と、あえてそうしたようなでこぼこした場所がある。冒険者ギルド側に藁で出来た案山子が、探索者ギルド側には角の生えた木馬が設置されていた。


傷だらけな木馬を横切る際、レイジはなにかを見て騒ぎ出す。


「おっおぉ!じゅ、獣人!!」

「静かに!獣人の中には気難しいのもいるから」


騒ぐレイジをルーティが引っ張っていく。白い二階建ての建物の中は冒険者ギルドの騒ぎを越える賑わいだった。


「やっぱ魔法使いは必須でしょ?誰かいないかなぁ」

「今回の攻略の品はなんだ?」

「その前にお前は辿り着けるのかよ?」

「この後マスターから話があるってよ」


人や獣人、耳の尖ったエルフらしき者など、様々な種族が入り交じり明るい声が飛び交う。


「うっわ。多いな…」

「こっちきて、さっさと登録してギルドマスターの話を聞きましょ」


ルーティは空いてる受付嬢…ではなく、厳ついおっさんに話し掛けた。


「なぜおっさん…ん?」

「お前らが登録希望者か…外に出ろ」

「は?え?」


おっさん振り返る事もなく、ずんずん進んで行ってしまう。


「なにしてるの?ついてくよ!」


ルーティに急かされ訓練所へ出ると、おっさんは木製の武器が数種類入った籠を引っ張って来ていた。

それを見たレイジは急に落ち着きがなくなる。


「これってまさか…」

「好きなの選べ」

「頑張ってね~♪」


ルーティは訓練所の端でニヤニヤしながら見物しており、アレクは諦めた様な表情をして首を振っている。


「ま、マジで…いきなり?」

「お前は素人か?魔物は待っちゃくれねぇぞ?」


レイジはフラウを見たが、相変わらず反応が薄い。

仕方なく伸ばした手は木製の剣を通り過ぎ、穂先のない槍を取る。


「こい!」

「お、おぅ」


腰が引けた状態のまま数歩前へ歩み出し、遠慮気味に槍を突き出す。その姿は素人どころではなく、喧嘩など一度もした事がないかのようなひどい有り様だった。

おっさんは一歩も動かずに木剣を下から切り上げ槍を払う。レイジはその衝撃で手を放してしまった。


「お前正気か?死にに来たのか?」

「っ!あ、いや…」

「レイジ!何やってんの!しっかり!」


ルーティは先程とは違い真剣な表情でレイジを睨む。


「くっそ」


槍を拾ったレイジは一振してから走り出し、足払いを繰り出した。それに対しおっさんは当たり前のように踏み止める。


「…ルーティ。こいつはだめだ。死ぬぞ?」

「教官!レイジはついさっき冒険者ギルドに登録したばかりなの。いいところもあるんだから!」


(ちょ、ちょっと待ってくれよ。こういうのは訓練した後だろ?初っ端から2メートル近い筋肉の塊みたいなおっさんは…無理だろ?)


「…おい!お前!ちょっとこい!」


おっさんはニヤニヤしながら見ていた探索者の中から獣人を呼び出す。おっさんと対して変わらない長身の狼獣人の男だ。


「へへっ…なんすか?」

「代われ。こいつの相手をしろ」

「おれでいいんすか?やっちまいますよ?」


狼獣人の男は無手のままレイジの前に出ると、腕を組んだまま動かない。その姿はレイジを見下すかのようで、少し上体を反らしてさえいる。


「レイジ!昨日のように全身を使いな!自信を持つんだよ!」


(いやいやいや無理だろ?あんま変わんねぇって…)


「へっビビるくらいなら、こんなとこ来なけりゃいいだろうによ」


(…来たくて来た訳じゃねぇ!!)


レイジが走り出し、先程よりも素早く槍を突き出す。


「おせぇ」


狼獣人の男は上体を反らしただけで避け、その捻りに合わせて右足を蹴りあげると、レイジの脇腹からドスッ!という鈍い音がした。


(ぐっ!いてぇ!!)


そのまま槍から手を放し屈むと、ニヤリと笑う狼獣人の男へ体当たりする。


「っ!てめぇ!」

「うおぉぉっ!」


押し倒そうとレイジは叫ぶが、狼獣人の男は難なく腕を払いのけ、豪快に投げ飛ばした。


「あぁ!レイジ!」

「あちゃー」


ルーティはすぐさま駆け寄っていき、その後をアレクが追う。他の見物人達は狼獣人の焦った姿を囃し立てて笑っている。


「こんなもんよ?へへっ」

「…次!」

「へ?この嬢ちゃんと?」

「早く立ち合え!」

「はぁ…まぁ、いいっ!?」


狼獣人の男が振り返ると同時に、一息に間合いを詰めたフラウが顔面を鷲掴みにする。そしてそのまま軽く跳ねると勢いよく地面に叩きつけた。


「げぇぇぇっ!」

「「!!?」」


頭一個分は身長差のある男を、細身の女が片手で投げたのだ。目の前で起きたことが信じられず、周囲で観戦してた者達は沈黙する。


「おいおいヴォルフの奴、のびちまったのか?」

「…だめだぁ。完全に飛んでるよぅ」


虎の獣人と大きな熊の獣人が様子を窺うが、狼獣人の男は白目を向いたまま動かない。


「フラウ…あなた…」

「心気?って感じじゃなかったけど?」


フラウは探索者ギルドの二階――小さな風の精霊が同じ場所でぐるぐると回っている――を一瞥した後、レイジの側により頭を撫でる。


「うっ!…うぇ?どこだここ?」

「あんた投げられて気を失ったんだよ」

「マジか?いや無理だろ?いきなりは…」


じっと見ていたおっさんは探索者ギルドを振り返った後、二人とも登録を許可すると言い残してギルドに戻っていった。




探索者ギルドは二階建ての真新しい白い洋館だ。

その二階部分は立ち入り禁止になっている。

とある部屋の中には何かの肉にたかる、毒々しい色のスライムがいた。そこから少し離れた場所で、若い男女が暗い顔をして窓の外を眺めている。


「レミィ…私達はもうだめかもしれない」

「カミュ様…まだ私達が狙いと決まった訳ではありません」

「そう…だね。まだ明確な敵対はしていない…しばらく様子をみよう」




フラウ達は足元がおぼつかないレイジをギルド一階の休憩室で休ませ、ギルドホールでマスターの発表を待っていた。フラウの手にあるギルドカードには探索者ギルドの押印がされている。


「とりあえず登録はできたし、後はギルドマスターの話を聞いて帰ろ」

「フラウさんは美しい上にお強い。みんな見ていますよ」


アレクの言う通り、訓練所の一件からフラウはかなり注目されていた。

既に迷宮攻略の噂は、遅れてきて事情を知らない者達くらいになっている。


「…力を示し認められる。単純だが納得のいく答えだ」

「そうですね…まぁ魔法使いの僕は勘弁してほしいですけど」

「アハハッ。アレクには例の道具があるじゃない」

「アレを使うような状況は、魔法使いにとって致命的ですよ」


少しするとギルドホール正面、二階へ上がる両階段上に美青年が現れる。後ろには同じく綺麗な面立ちの小柄な女性が控えていた。


「みんな!すでに聞いていると思うが、昨夜第三迷宮区にある坑道迷宮が攻略された!現地ではギルド関係者が既に迷宮核を確認している。攻略者達はパーティ、夏の宴だ!」


みな静かに聞き入る。


「そして…三日後に―――」


誰もが前のめりになり――


「迷宮杯を開催する!!」

「「うぉーーー!!」」


探索者達が突き上げた拳と轟く雄叫びに、ギルドホールは激しく揺れた。

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