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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
117/169

帰郷

116


ゴーン…ゴーン…ゴーン…


鐘九つ、夜十時を伝える鐘の音が微かに聞こえる。

七都市連合領内でお馴染みの鐘は、ほとんどの者が物心つく頃から耳にする音だが、その発生源を知る者は少ない。


魔法学園がある学園都市にも、大陸西側の物流が集中する商業都市にも、連合一広い迷宮都市や南部山脈麓の鉱山都市にも、領内全域に響き渡るような鐘はなかった。


しかし多くの人々はそんな鐘の音を、風雨や太陽光などと同じく自然現象と捉え、気にする事はなかった。




遅くまで仕事をしていたらしい近隣の家屋からは明かりが消え、鎧戸が閉じられていく。

曇り空の下、明かりは里の周囲に広がる田畑の輝きだけとなった。


「エメランは、始めから切り捨てられる役目だった!ギルガーは里を出るぞ!」


薬草園を飛び出し、サーカス団の大きなテントが建ち並ぶ、北広場を駆け抜けたカーマイン達は、ギルガー商会が貸し切る宿へ急いだ。

身体能力の差からリースは遅れ始め、フラウに手を引かれると不思議と脚が軽くなる。

里の中心は連日続くモース祭にまだまだ騒がしかったが、それとは別に西側で騒ぎが起きていた。


「――あ!エルフさん達や!帝国の人達は西へ行ったや!」


ギルガーと傭兵団が滞在していた宿の前では、ハーフリングの娘がウロウロしており、馬車が鐘の音と共に飛び出していった事を教えてくれた。

その料理屋の娘は結局食い逃げされたと泣き出し、リースが背中を撫でて落ち着かせる。


「やはり見張りがいたのか、あの騒ぎは…まさかワーカーと戦っているのか?」

「急ごう、盗まれた薬草は馬車にあるはずだ」

「私達は先回りします!」


里の西側からは怒声に混じり、微かに悲鳴も聞こえる。

アリエル達は藁葺き屋根の家屋を軽々飛び越え、あっという間に姿を消していった。


「リース!離れるなよ!その変な茸は抱えておけ!」

「変て…はい!」




命脈の力により魔物魔獣を寄せつけない妖精里の周囲には、高い壁は必要とされず、土塀があるだけとなっている。

その土塀の外、奈落の裂目から続く西の通りでは、傭兵団の者達が馬車を横倒しにして道を塞いでいた。


「時間を稼げばいいんだ!前に出すぎるなよ!」

「おらっ!ワーカー共め!ここまで来てみろよ!」


金属製の武具で身を固めた男達は、馬車の陰から矢を放ちワーカーを挑発している。

十数体集まっていたワーカー達は、土塀から外に出ることを躊躇っていた。


「ワーカーは何をしているんだ?」

「天敵誓の範囲外なんだ、ワーカーは本来大人しい妖精だ、土塀の外に出ればやられてしまう」

「調べはついているという事か!」


飛んできた矢を杖で叩き落とし、間髪入れずに炎の矢をお返しする。

しかし馬車に当たる直前、炎の矢は消失し、一人身なりの違う男は笑う。


「ハハハハッ!馬鹿め!魔法など恐れるに足らず!長年の研究により創造されし、我が魔道具の力を見よ!」

「チッ!魔力霧散の魔道具か!なにが長年研究しただ!魔道具だって結局魔法だろう!」


馬車の陰に身を潜めた傭兵達には、槍と弓矢で武装した八人の他に、頬が痩け充血した目を見開くローブ姿の男がいた。

男は杖の代わりに輝く小さな盾と引っ掛け棒を持ち、棒を馬車に引っ掛けると軽々と引き摺り始めた。


「させるか!」


矢が降り注ぐ中、フラウのボウガンからは氷の嵐が吹き荒れる。

傭兵達はその威力に一瞬怯むも、輝く盾により無力化しヤジを飛ばし始めた。

しかし余裕の表情をしていたローブ男は、いつまでも止まない嵐の猛威に顔が引きつる。


「あ、ありえない…あり――ひぃ!?」

――バガァン!――

「おぉい!?なにや――ギャアァァ!」


急速に輝きが増していく小さな盾は、あっという間に限界に達し砕け散る。

そのまま氷の嵐は容赦なく馬車を襲い、傭兵達諸とも畦道を越えて田んぼの中まで吹き飛ばした。


「なっなにやってんだ?あんたら――」

「丁度いい!手伝ってくれ!奴らを捕まえるんだ!」


里の中からは騒ぎに気付いた者達が現れ、その中には冒険者のハーベイもいた。

普段着に帯剣しただけのハーベイを引っ張りだし、馬車の下敷きになって呻く傭兵達に駆け寄っていく。

ワーカーの陰から覗いていたリースも魔爪杖を取り出し、抱えていたヒノコを盾に飛び出そうとして腕を掴まれた。


「リース!?リースなの!?あんた何やってんの!」

「――えっ!?ルーティ姉さん!?」


そこには懐かしい顔があり、ルーティの隣では魔法を詠唱し、複数の石礫を浮遊させるアレクの姿もあった。


崩れた馬車を挟んだ奥では、立ち上がった傭兵達が武器を構え、カーマイン達を牽制しながら後退し始めた。

その先からは十を越える騎兵が猛然と迫ってきていた。


「こっちにきな!」

「あっ、だ、大丈――」

「バカ言ってるんじゃないの!早く!」

「――ストーンブラスト!」


アレクが放った複数の石礫は前列の三人を撃ち落としたが、唯一石礫を軽く払った斧使いは馬上に立ち上がると跳躍し、青い残像を残して一気に飛んできた。


「心気使い!?」


アレクに迫った斧をフラウが光剣で受け止め押し返す。

激しい火花を発しながら下がった大男は、両刃斧を軽々振り回し咆哮を上げた。


「奴は私が相手をする!近づくな!」

「ぐっ!?てめぇ!やりやがったな!」

「ハーベイ下がれ!」


正面ではフラウと大男がぶつかり合い、田んぼでは槍の突きを肩に受けたハーベイが、剣を振り回して男を斬り伏せる。

石礫の雨に統率が乱れていた騎兵の集団は、馬上から矢を放ち、ルーティは咄嗟に剣で叩き落とした。

打ち漏らした矢を、ワーカー達が身体を張って受け止め弾き返す中、目まぐるしく変わる状況に、リースは慌ててランタンを揺すった。


「ヒノコ行って!皆を助けて!リザ!キャス!」

「嫌よ、なんで私達が人同士の争いに巻き込まれなきゃならないのよ」

「ぶー!残念でしたぁ!」


と言いつつもキャスはワーカーの壁を通り抜けてきた矢を、金色の盾で弾き、リースを庇うとそっぽを向いた。


「…プネウマ!」


ランタンからフワフワのアルパカが飛び出すと、迫る騎兵に唾を吐き掛け、次々と落馬させていった。

ヒノコもハーベイに迫る矢を受けると分裂し、槍で突かれると巨大化していき、その理不尽な生き物を前に、呆然となった男の上へ倒れた。

しかしヒノコもプネウマも、魔物相手の時のような勢いはなく、どこか戸惑っている感じをリースは受けた。




「おのれぇ!魔法使いめ!これでも食らえ!」

「ふん!魔法才能がなくて魔道具に溺れたか?憐れな奴め!」

「ぶべっ!ぐぇ!」


引っ掛け棒を使い馬車の残骸を投げつけてきたローブ男は、カーマインの杖術の前に打ちのめされ、ワーカーに引き渡された。

ヒノコの援護とアレクの不可視の障壁により、守られたハーベイも善戦するが、度重なる打ち合いに痩せていた剣が砕ける。


「折れちまった!」

「これしかない!使え!」


槍の突きが魔法の障壁をガリガリと削る中、ハーベイは投げ渡された引っ掛け棒で槍を払うと、簡単に叩き落とす事ができた。

そのまま胸鎧に引っ掛かけて、ワーカーのところまで投げ飛ばす。


「おぉ♪こいつはいいや!」

――ヒュルルル…ドオーン!!――

「ぐおおぉぉぉ!」


その時、大きな音と共に曇り空には火の花が咲く。

一瞬にして昼のように明るくなった周囲では、逆光に目が眩んだ大男が、両刃斧の一撃を空振りさせ、フラウの光剣に両手首を切り落とされた。

絶叫し膝をついた大男はそれきり大人しくなり、辺りには呻く傭兵団の者達が残るだけとなった。


「…ここは片付いたようだな」

「聖霊様!峠に入る前に商人を捕らえる事ができました!」

「そうか、良かった、これで約束を果たせたな」

「一つだけおかしな点がありました…馬車を見つけた時には護衛の者は皆倒れ、商人も気を失っていました」

「…あの商人に恨みを抱く者がいたのだろう」




ワーカーに連行されていく直前、列から飛び出した団員の一人が、懐に隠し持っていた短剣を手に、近くの民家から顔を覗かせていた父娘に襲いかかった。



「ぐあぁ!?」

「お父さん!?いやぁ!」

「来るな!来るんじゃねぇ!こいつの喉をかっ切るぞ!そこを通しやがれ!」


ハーフリングの成人男性でも、人の子供くらいの背丈しかなく、娘を庇おうとした父親は胸から赤い血を吹き出しながら倒れた。

そして娘の喉に短剣を押し付けた男は興奮し、刃の辺りからは僅かに血が流れていた。


「貴様!往生際が悪いぞ!」

「うるせぇ!ここで捕まったら後がねぇんだ!なんだってやってやる!」

「…さない…許さない!」


リースは激昂すると、男を睨み付けながら飛び掛かる。

男は急に燃え上がった少女の姿にギョッとなり、慌てて短剣を引こうとしたが、身体の自由が利かない事に目を見開いた。


「ギァアァァァ!」

「リース!?」


炎の中からよろめきだした娘をルーティが抱き止め、カーマインの杖が燃える男を突き飛ばした。

娘は一切の火傷もなく、フラウの治療を受けていた父親の元へ向かうと泣き崩れ、男は全身真っ黒に焼け焦げていた。


激しく燃え盛るリースは身体と炎の境界が曖昧で 、服やランタンなどもユラユラと幻のように揺らいでいる。

恐ろしい形相で男を睨みつける姿に、連行されていた傭兵団の者達は震え上がった。


フラウは揺らめくリースに近づくと、炎も恐れず抱きしめ、ゆっくりと炎は収まっていった。


「…え、あっ…わっ私…」

「大丈夫、もう大丈夫だよリース…帰ろう」


炭化しているかのような男はヒューヒューと、乾いた呼吸を繰り返していて、奇跡的に生きていた。




薬草の回収をアリエル達に任せたフラウ達は、偶然居合わせたルーティ、アレクの二人を連れて拠点へ戻った。


「リース、大丈夫なの?…あんた魔法使えるようになったんだね、けど火の魔法って…」

「ルーティ、少し休ませてやってくれ、リースはまだ魔力の扱いに不馴れだ」

「それがいいですよ、あの様な魔法?知りませんが、かなり魔力を消耗したはずです」


俯くリースをベッドに寝かせ、ランタンを隣のテーブルに置くと、中ではリザ達が抱き合って震えていた。


「きっ聞いてないわ!赤の聖霊!殺戮者!?わっ私達を騙したわね!」

「違う…彼女はお前達を救っただろう?リースはエレナとは違う…素直で優しい娘だ」


居間に戻るとカーマインとアレクが知り合いだったのか、話をしていた。


「噂は耳にした事があるが実際会うのは始めてだな。私はカーマイン。リースとは異母姉妹になる」

「姉!?そう!血縁者が見つかったのね!」

「はじめましてですね。不死鳥の魔導師またはフレイザー侯爵家のカーマイン様。学園の有名人にここで出会うとは思いませんでした」


魔法学園ではお互い、有能な魔法使いとして知られた者同士で、カーマインの母方の実家フレイザー侯爵家は、アレクの実家と親しい間柄だった。


「リースは大丈夫だ。一眠りすれば良くなるだろう…ルーティ達はなぜあの場に居合わせたのだ?」

「それは…魔法学園で死者蘇生に関する文献を調べたからよ」

「死者蘇生!?あの書庫へは賢者しか入れないはず…」

「ロデウス師がこの度賢者に昇格しましてね。学園長に頼み込み、閲覧させてもらいました」


ルーティ達は迷宮都市で別れた後、学園都市にある最大規模の学舎、魔法学園へ向かった。

そこで本来賢者の称号を持つ魔法使いのみが立ち入れる禁書庫から、この地で過去に行われた命脈回帰の儀式を知った。

その後、迷宮都市でヴィヴィに紹介状を書いてもらい、昼には訪れていたらしい。


「そうか…コルドランの蘇生を望むのだな?」

「ええ…私のせいで死なせてしまった――」

「違う。あの時あの瞬間、私達は精一杯戦った。誰かのせいなどではない」


しかしルーティは頭を抱え、いやいやしながら自分を責め続けた。

アレクは悲しい顔をしながら背中を擦り、落ち着かせる。


「…まずは彼の意思を確認しよう。死者蘇生は正しい手順を踏まえれば可能だが、必ずしも望んだ結果になるとは限らない」


儀式場の利用は夜間の、生者には聞こえない鐘が鳴る間でなければならないらしく、リースをカーマインに任せると、フラウ達は足早に南のワーカー庄へ向かった。




里の南へ来ると、辺りは急に雰囲気が変わった。

田畑の輝きで暗くはないが、どこか重々しい空気にルーティはアレクに寄り添う。


「ワーカーって他の妖精種とはどこか違うよね…」

「たしか彼らは非実体型の妖精でしたか。その身体は罪を犯した者達だと聞きました」

「えっ!?どういう事!?」


アレクは何度か妖精里に出入りし、ワーカー庄の見学を許された事があったと言い、その際見た光景に暗い表情をした。


「実際にその目で見てみるといい」


フラウは案内のワーカーについていき、里では珍しい黒い土を盛って建てられた、祠の建物に入った。

中は薄暗く肌寒さを感じ、不思議な匂いで満たされている。

広い部屋には黒いローブを着たワーカーが数人、左右の壁際にある棺をテーブル代わりとして、小さな蝋燭の明かりを頼りに書き物をしていた。

一言で言ってしまえば霊安室のような場所に、ルーティは一瞬身を強ばらせ、アレクの手を強く握った。


一番奥の黒いローブを着たワーカーにフラウは地下祭儀場の利用を願いでて、アレクはヴィヴィからの手紙を手渡した。

音もなく伸ばされたワーカーの手は真っ黒で、闇が人の形をしているようだった。


「…了承、管理者様、歓迎、黒様、怒」

「うっ…内緒にしておいてくれ」


少し困った顔をしたフラウは、そのワーカーについて奥の階段から地下へ降りる。

途中の階層からはすすり泣く声や、叫び、一定のリズムで繰り返される石畳を叩く音が聞こえてきた。


「妖精達の世界に人の世界ような細かな法はない。罪を犯した者は追放か、幽閉…労役だ」

「労役?連合には監獄はなかったはずよ?」

「監獄はない。ここにいる者達は皆順番待ちなんだ…身体を明け渡すんだ」


さらに下ると、幾つもの祭壇がある部屋に着いた。

一番奥には七色に輝く石柱を中心に、大きな祭壇があり、数人のワーカーが祈りを捧げていた。


「…明け渡すって?」

「あれだ」


フラウが指差した先には、小さな祭壇の前に膝をついた人種の男がいて、黒いローブを着せられると祭壇から光が差す。

暫くするとローブはムクムクと巨大化していき、隣に立つワーカーと同じ姿になった。

その光景にルーティは口を押さえて目を見開く。


「罪人はワーカー達の依り代になる。解放されるのはその罪の重さでなく、罪人の改心次第だ」

「そ、そんな…」

「里は基本的に追放です。しかし多くの人の生命線となる薬草園や、里の秘密に関わる事などで罪を問われた者は皆、ここへ送られるそうです」


そのまま七色の石柱がある祭壇まで進み、案内のワーカーが指差した場所に膝をつく。

すっかり怯えてしまったルーティに代わり、アレクが用意されていた道具を使い、儀式の手順を踏まえると、正面にはキラキラした半透明のコルドランが現れた。


「――コルドラン!?」

「おぉ…その声は…ルーティか?あぁ…眩しい」


寝起きのようなコルドランは顔を手で覆い、ゆっくりと話す。


「そうか…そうか…だいたいわかったぞ?困った娘じゃな…」

「コルドラン!私――」

「よせ…よすんだ…自分を責めるな、わしは自らの意思で戦い、力尽きた…それはお前のせいではない」

「けど…」

「わしは十分生きた…妻には先立たれ、弟子達も一人立ちして思い残す事はない…迷宮へ挑む話しを持ち掛けられた時、わしは丁度よいと思っておった…元は戦士として生きたわしの最後の場にな…すまなかった…お前に無用な苦しみを与えてしまった」


それでもルーティは自分を責めて蘇生を諦めなかったが、コルドランの背後にもう一人の朧気な人影が現れると、数度頷き泣き崩れた。

フラウはコルドランと幾つか言葉を交わし、白輝晶石を取り出すとルーティに預けてその場を後にした。




翌朝、リースはいつも通り目覚めた。

悪戯をしてくるフラウの頬をつねり、怯えるリザ達をからかうとヒノコをクッション代わりに席に着く。


「もう大丈夫のようだな…良かった」

「ご心配お掛けしました!」


居間にはカーマインの他にルーティとアレクの姿がある。

アリエル達は昨夜遅くに拠点を訪れた他のエルフらと、エレメント対策の打ち合わせに出掛け不在だった。


「ほんとよ…急に魔法を使うんだから…」

「しっかり魔法の勉強をした方がいいですね、迷宮都市へ帰ったら魔法ギルドへ行きましょう」

「鐘二つには出発するそうだ、リースも準備を済ませてきてくれ」


ルーティ達は一度宿へ帰り、出立の準備をして来ていた。

里長へ報告したのち、共に迷宮都市へ帰る予定となった。




里長の家にはひっきりなしに、農家の者達が出入りしていた。


「いやぁ!すばらしいですな!今朝から田畑の実りが急速に進んでいまして!ここ数日の損失を十分に埋められそうです」


里長は機嫌よくそう話したが、ギルガーの一件になると顔を曇らせた。

今朝早くに帝国の役人が現れ、特権を盾にギルガーの身柄引き渡しを迫ったようだ。


「あの商人めは追放扱いにしました…傭兵団の者達はワーカーへ預け、エメランという猫獣人はご指摘通り服従の魔法に掛かっていましたので、ご指示に従い団が所持していた金を幾らか持たせ、追放としました」

「服従の魔法を獣人に!?魔物魔獣以外に使うことは禁忌のはず…帝国め、また戦争になるぞ?」


エメランの不可解な行動に、フラウは事前にアリエル達へ指示を出していた。

カーマインは侵略戦争時に流行った、獣人を強制的に従え戦わせるやり方は、世界協定に反するものだと話した。

その後、被害にあった料理屋の娘や親子も無事補償してもらっている事を確認して、里長の家を後にした。




用を済ませ里の西口へ向かうと、そこにはサーカス団員のアキヒトと黒髪の女性が待っていた。


「ありがとうございました、おかげで疑いが晴れましたよ、このまま里から出られないかと思った…」

「何を言ってる、昨夜は楽しそうに飛んでいたじゃないか」


フラウがそう話すと、慌てるアキヒトは隣の女性を紹介する。


「うちのサーカス団団長ヒナミさん」

「はじめまして!この度はうちのアキヒトがご迷惑をお掛けしました!お詫びとお礼を兼ねて、これをどうぞ♪」


活発な感じの女性から渡された色鮮やかな包みを開けると、中には紙玉や筒、紐状のものがあった。

エルゥスィスの本によれば、先端に付いている黒い膨らみには、炸裂の魔法を応用した魔法の粉が入っているとわかった。


「気に入ったら自由民国まで買いに来てね~♪」

「じゃあまた、お元気で」

「また…か、なるほど」

「深読みしないで!?俺達は関係ない一般人だから!」


銀色の瞳で睨まれたアキヒトは汗だくになりながら否定し、笑うヒナミに背中を押されて帰っていく。

すると入れ替わるように大量の荷物を担いだハーベイが現れ、迷宮都市まで同行させてくれと言った。


「なんだその荷物は?」

「もちろん戦利品だぜ!冒険者がタダ働きなんてする訳ないだろ?里長に話つけて傭兵団の連中が持ってた武具を貰ってきた!」


ホクホク顔なハーベイの歩みは遅く、フラウは馬車へ荷物を載せてやる事にした。

よく見ると大男が使っていた斧や鎧など山盛りで、中には砕けた魔道具の盾まであった。


「帝国は稀少金属が豊富だからな…なかなかの財産になるぞ」

「この斧なんかミスリル銀製だぜ~♪さすが傭兵団の副団長は違うね――」

「副団長だと?あれで全員ではなかったのか…」




一行は何事もなく奈落の裂け目に差し掛かる。

アリエル達は先行して危険がないか調べていると、谷を覗き込みながら首を傾げた。


「ん?バルーンの数が減っているな」

「あっ…ほんとですね!どこかへ飛んでいったのかな~?」


リースが馬車の窓から覗き込んだ谷には、バルーンの数が減っていて、その先には青白い大きな人影が一瞬見えた気がした。

夕方には迷宮都市が見えてくると、かん高い音が都市から響き渡った。


「なんだ!?」

「まただわ…大丈夫、禍罪大迷宮の侵略に対する警報よ、今は高ランクパーティが交代で駐留しているから、それほど危険ではなくなったわ」


しかしルーティの言葉とは裏腹に、西の空からは真っ黒な影が迫っていた。


「やれやれ…ほんと忙しい旅だな」

「私もたた――」

「リースは馬車から出ちゃだめよ!」

「さぁいくぞ!」


迫る魔獣の群れにフラウ達は馬車から飛び出していった。

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