表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
116/169

薬草園の影

115


サーカスからの帰り道、エメランという猫獣人が泊まる宿屋へ立ち寄った一行は、意外な者達と出会った。


「よぅどうした?お姉さん達、ここはギルガー商会が貸切った宿だぜ?」


宿の前には赤い蠍の印を胸鎧に付けた、傭兵団レッドテイルの男が二人立っていた。

いやらしい目付きでジロジロ見てくる男は、顔が赤く酒の匂いを振り撒いている。

リースを背後に隠すフラウの前に、エルトゥスが一歩踏み出し用件を伝えた。


「あ?エメラン?…あぁあいつか、今ギルガーの旦那と大事な話をしてんだ、ちょっとすれば終わるだろうから、それまで仲良く酒でも飲もうや、へへ――!?」


エルトゥスには見向きもせず、フラウやアリエル達に近寄ろうとした男は、急に青ざめ、肩を抱いてガタガタ震え始めた。


「おい?どうした?」

「ひぇ?あ?な、なんでもねぇよ?ちょっと寒けが…」


震える男は、相方へ代わりの者を呼んでくるといい、宿へ入っていった。


「…夕方頃、ワーカーに連れていかれなかったか?」

「はっ、許されたからここにいるんじゃないか、俺達は特別なんだよ」


男は顎を上げ自慢気にそう言うと、邪魔だから宿から離れて待てと追い払われた。




宿の向かいにある料理屋で炒り豆茶を飲みながら待つ間、ワーカーが見逃した訳を考えていた。


「里で騒ぎを起こした者は南の倉に連行されます、そこでワーカーの監督者と会い罪に問われると、里から追い出されるはずです」

「特別とはなんだろうな…」

「あの宿に泊まってるのは、帝国のサファイア公爵家ってとこのお抱え商人らしいですや」


オリヴィアとカーマインが話していると、料理屋の娘が話しに加わってきた。

ハーフリングの娘は種族の特徴通り背が低く、目が幾分か大きい可愛らしい顔をしている。

しかし今は困った顔をして溜息をついていた。


「サファイア公爵家だと?」

「そうですや、ここ最近食べに来る蠍の人達がいつも話していましたや、がいこうとっけんってので食事代はツケにしろと、連日無銭飲食されて困ってますや」

「ツケ?外交特権ってなんですか?」


麦のお菓子を取り合うピクシーとフェアリー達を押さえつけるリースは、聞きなれない言葉に首を傾げた。


「帝国が始めた侵略戦争は停戦の際、王国や連合に賠償金を払い、終戦そして国交の正常化を目指して交流の機会を設けるようにした、そこでお互いの使節には特権を与え、様々な権限や免除、身の安全を保証する事を決めたのだが…」

「一介の商人にそんな権利があるのか?それに護衛の食事代を連日ツケにできるとは思えない」

「もちろんない、公爵家お抱えの商人はわからないが、傭兵団の言っている事は越権行為だ、ちゃんと代金を貰えよ?」


そしてカーマインはオリヴィアを連れだってワーカーの監督者に会いにいき、傭兵団の詳しい経緯を調べる事にした。




暫く宿へ出入りする者達を観察していると、アリエルがある事に気が付いた。


「人ばかりですね…ん?エメランは猫獣人と言っていましたが、帝国の者と一緒となると…」

「奴隷か」


フラウはそう言いながら、宿の脇から現れた男達に目を向ける。

武装した傭兵団の男二人に付き添われて現れた猫獣人は、みすぼらしい姿をしているが、奴隷を表す首輪はしていなかった。


「わっ私がエメランです…なっ何かご用でしょうか?」

「私達は…」

「おっと姉ちゃん、俺達は忙しいんだ、あんま時間ねぇから手短に頼むぜ?それと質問一つにつき金貨一枚な」

「なんだと!?ふざけっ――!」


男はニヤついた顔でそう言うと、エルトゥスが立ち上がるがフラウは手で制し、金貨をテーブル上にばら蒔く。


「ではエメラン、お前は薬草園が荒らされた日の夜、薬草園でサーカス団員のアキヒトを見たと言うがお前は何をしていた?」

「え?…あっ!あっしは旦那様の使いで薬草を受け取りにいってました」


エメランは一瞬訳がわからないというような顔をした後、急に焦って答えた。

アリエルはその答えに疑問を持つ。


「夜にか?それに薬草園で直接取引はしないはずだが?」

「あ…とっ取引した場所は別のところです、旦那様は特別な方なので、夜に会う約束をしていました…」

「北広場の先に薬草を扱う店はなかったと思うが?」


すると背後に控えていた男の片方が僅かに動くと、エメランはブルッと震え怯え始めた。


「とっ取引した後に薬草園へ散歩にいったんですっ、そこで見たんですっ」

「…よく見えたな、獣人の視力が良いのは知っているが、薬草園外周の道から園内の様子を見るには木の塀と、蔓の巻き付いた網を透視しなければならないが?」

「え?――ぎゃ!?」


再び背後の男が僅かに身体を傾けると、今度は悲鳴を上げて飛び跳ねた。

するとフラウが手を一振りし、バチンという音が鳴ると、男が驚いた顔して飛び退く。

床には蛇のようにのたうつ半透明の縄があり、青白い光を発していた。


「なにしやがる!」

「こっちの台詞だ、その魔道具でエメランを操っているのはわかっているぞ?」

「ふざけたこと言ってんじゃねぇ!――くそっ!もう終わりだ!行くぞ!」


通りの先からカーマインに連れられたワーカーの姿を見た男は、床に落ちた魔道具と金貨を掴み、エメランの背中を蹴りつけながら宿へ戻っていった。




「ギルガーはサファイア公爵家傘下の、バラル伯爵についてきた使節団の一員だ、迷宮都市でおきたバラル伯爵殺人事件を受けて、ここへ避難してきたらしい…その護衛の傭兵団も同じく外交特権があると言っているが、そんな取り決め、王国では聞いた事がない」

「私、監督者、特権?、確認中」


黒ローブを着た背の高いワーカーは、自身を指差しながらゆっくりと話した。

オリヴィアが言うには、商業都市に事実確認中で今は仮釈放中とのこと。


「エメランは首輪をしていないが操られていた、証言は怪しいな」

「サーカス団員に容疑を掛けたのはなぜでしょうか?」

「薬草園に近い場所にいたからか…自由民国の者に恨みがあるのか…今はわからないな…そろそろ移動して見張ろう、エルトゥス、リースを宿へ――」

「嫌です、私も見張ります」

「…仕方ないな、私から離れるなよ?」


フラウ達はサーカス会場から来た道を戻り、里で一番北にある薬草園に着いた。

厚い木板の塀を越え中にはいると、さらに蔓の絡まる網の囲いを通り抜ける。

中は広く様々な植物が栽培されている場所に出た。


「入口は二つ、倉は隣か…どこも入口は南に面しているが見通しは悪いな、三手に別れ見張ろう」


フラウとリース、カーマインが見張る薬草園の入口は最も里に近く、誰かが来れば最初に気付く場所だった。

辺りには、黄色い花を咲かせる植物が一つ一つ鉢に入れられ、透明な覆いを被して管理されていた。

ウトウトするリースは懸命に瞼を開けていたが、結局明け方の鐘一つが鳴るまで何もおきなかった。


「ふぁ~!」

「来なかったな…気付かれたか?」

「もう戻ろう、別の手を考えた方がいい」


宿へ帰る途中、丁度里長の家の前を通るので立ち寄って報告したところ、里長はリースを指差して困惑していた。


「あ、あの…その背負っているランタンはいったい?」

「え?…あー!」

「持って来てしまったのか」


ランタン内の牧場には、ティニーが七色の花を抱いて眠っていた。

色鮮やかな七色花は貴重な花で数が少ないらしい。


「ごっごめんなさい!ごめんなさい!許してください!」

「その花は摘んでから一日しか持たないのです、困りました…」

「…報酬はいらない、犯人は必ず捕まえよう」

「私が薬草園の収穫を早めよう、明日の朝には収穫までの期間が早まっている物もあるだろう」

「そんなことができるので!?…わ、わかりました、それはお譲りし罪には問いません」


カーマインとフラウに擁護され、なんとか事なきを得たが、リースは勝手に持ち出したティニーの扱いに悩んでいた。


(もう!盗人を捕まえようとして盗人になるなんて!…ティニーにはしっかり言って聞かせなきゃ…あれ?リザ達はどこへいったの?)




八十五日の朝、鐘二つにエルフの活動拠点へ戻ったリース達は、一眠りして昼に目が覚めた。

背後にフラウの寝息を感じながら、枕元から聞こえてきた声らしきものに耳をそばだてる。


「アーアー――」

「ンダンダ――」


訳のわからない言葉を聞いていたリースは、スゥーっと意識が遠退いていき、突然耳をひんやりした手で塞がれた。


「マンドレイクの声に耳を傾けては駄目だよ」

「フラウさ、ん…」

「もう少しおやすみ」


そのまま深い眠りについた。




昼の喧騒にハッと目覚めたリースは、部屋に一人でいる事を確認すると、出掛ける準備を始める。

枕元にあるランタンの前では、ヒノコが背中を向けてウズウズと身体を揺すっていた。


「なに?どうし――ぶっ!?」


振り返ったヒノコは口らしき裂け目の上に、髭を生やしていて、泣いているようだった目の裂け目はつり目で固定されていた。


「アハハハ♪な、なぁに?なんのつもり?」


短い左右の手を交互に繰り出し、回し蹴りをしたところで倒れたヒノコは、部屋に入ってきたフラウにつまみ上げられると、髭を取り上げられ、元の泣いているような表情に戻ってしまった。


「進化のつもりか?残念だが守護者に進化はない、これはマンドレイクの爪先だよ、負の魔力に晒されていない貴重な薬の材料だ」

「あっ、ありがとうございます」


ジタバタするヒノコをランタンに放り込むと、少し遅い昼食にしようと、呼びに来たフラウについて広間に向かう。


「先程里長に聞きましたが、やはり昨夜も被害が…倉の方で貴重な薬の材料が数点無くなっていたようです、申し訳ございません」


オリヴィア達が見張っていた奥の倉が被害にあった事に驚く一同。

フラウにもわからなかった事に、丘の魔虫と同じく真剣な顔をしていた。


「時間操作はありえない…転移いや…?」

「ティニー、私達は貴重な薬の材料を盗む悪党を捕まえようとしているの、その私達が盗んじゃったら駄目でしょ?」


フラウが可能性を熟考していると、隣のリースはランタン内にいるティニーに話しかけていた。

しかしティニーは七色花を抱きしめ、そっぽを向いている。


「ねえ、聞いてるの?ティニー!」

「うるさいわねぇ、花の一つや二つで」


窓からリザ達が飛んで入ってくると、ランタン上部の赤い鳥に止まり、騒ぐリースを見下ろしてきた。


「リザ…あなた達に言われたくないわ」

「…その子が取り返さなきゃ今頃その悪党の懐の中よ」

「え?今なんて?」


対策を話し合っていた皆が一斉に振り向き、事情を聞きたそうにしているが、リザは完全に無視して牧場に入ると、木の皮を見て回っている。

キャスは面白そうに皆を眺めた後、小さな手をだしてきた。


「…なに?」

「タダで教えるもんか!アレくれアレ!」

「なっ!?教えてくれたっていいでしょ!ぐぬぬぬ!アレってなによ!」

「卵だよ!魔法の卵!」

「ないわよ!調整してもらうのに返しちゃった!」

「なに~!!このっアホ娘ー!」

「なんっ――え?ギャー!?」


何もないところから毛虫を取り出して投げつけたキャスに、驚いたリースは椅子に座ったまま後ろへ倒れた。

頭を押さえて転げ回るリースを助け起こそうとしたフラウは、途中で床に落ちた毛虫を摘まみ、テーブルに戻した。


「酷いです、フラウさん!」

「すまないリース、でもこれを見て、生きてる」

「生きてますね!それがなにか!」

「落ち着いて、キャスは生き物を収納できる力を持っているって事だよ」


卵を返せと騒ぐキャスを捕まえたフラウは、代わりに紅鋼の欠片をちらつかせて話を聞き出した。


「裏部屋の異能…ですか?」

「空間拡張系の力に似ているが魔力を使わない、自身の周囲に本人にしか認識できない空間を展開し、なんでも収まるものなら収められるらしい」

「生き物もですか…すごいですね」

「…ランタンの方が沢山入るよ」


対抗心に火がついたか、フラウは口を尖らせてそう言い、盗人は異能の力で移動し、倉へ侵入した可能性を話した。


「もっと!もっとくれ~!」

「…なら盗人を捕まえる手伝いをしたらこれだけやろう」

「楽勝~♪あいつすげ~とろいから!」

「キャス、とろくたって獣人よ、慎重に――」

「「獣人だって!?」」


驚く一同の視線を浴びるリザ、その背後の牧場をヒノコがそろりそろりと移動していた。




鐘七つになり、早めに準備をするリース。

ランタンでは相変わらずリザ達が、我が物顔で庭園を荒らしていた。


「やめなよ、アルラウネになにか恨みでもあるの?」

「ないよ~♪けどこうやって剥いてやると面白いんだよ!」


落ち葉に包まれたアルラウネは、葉を剥がされる度に泣きそうな顔して他の葉を集めた。

そこへヒノコが現れ割って入った。


「頑張れ!ヒノコ!アルラウネを守るのよ!」


睨み合う両者、しかしリザが背後から近づき、笠を掴むと飛び立った。

短い手足を必死に振り回すヒノコはピクシー達に運ばれ、イシグモが隠れる井戸に落とされた。

逆さまに井戸へ嵌まったヒノコは足をバタつかせるだけとなり、リースはがっくりと肩を落とした。


「仕方ないやつだな」

「フラウさん…?」


フラウは手に草を持っていて、庭園に入れると黒い人影がサッとよぎる。

ヒノコをつつくピクシー達は人影に気付き、振り向くと顔に泥を受けた。


「ぶっ!ぶへっ!やったな!」

「あぁー!私の服がぁ!」


庭園内ではおいかけっこが始まり、リザは意気消沈して自分の部屋へ帰っていった。


「草の影に住み着く妖精グラスパーだよ、庭園の世話を手伝ってもらおう」


フラウは泥だらけなキャスに、捕まえる事ができなければ、庭園はグラスパーが管理者だと話し勝負させた。




薬草園に移動した一行は、キャスの指示通り倉の前で隠れて待つ事にした。

雲のある暗い夜は更けていき、暫くすると唐突に倉の前に人影が現れた。


「ひゃ!?なっなんで!?」

「エメラン!お前か!?一連の犯人は!」

「ひぃぃ!?まっ待って!」


腰を抜かしたエメランは艶のない真っ黒な外套を纏っており、手には膨らんだ袋を持っていた。


「…間違いありません、倉にあった薬草です」

「エメラン!貴様なぜこんな事を!?ギルガーの指示か!」

「ひぃぃ!ひぃぃ!」


カーマインに胸ぐらを掴み上げられたエメランは、怯えるだけでなにも話さず、隙をついて外套に手を伸ばしたところを、フラウに踏まれた。


「…強いられていると思っていたが、獣人にも色々いるのだな」

「しっ仕方なかったんですっ!わっ私は操られてて!――いっ!?」

「アハハハ!ウケる~♪」


そこへ袋をぶら下げたキャス達が現れ、硬貨を取り出すとエメランに投げつけ始めた。


「これは…帝国硬貨じゃないか!」

「帝国硬貨?」

「帝国は神々の硬貨を全て潰し、稀少金属を取り出してしまうので、残った金や銀を使い帝国領内だけで流通する硬貨を作っています、時々知らない人が騙されて掴まされるので、注意が必要です」


エメランは悲しい表情で見下ろしていたリースに気付くと必死に訴え掛けた。


「おっお金が必要だったのです…帝国に妹がいるんです!解放するのにお金がっ!」

「たとえどんな事情があるにせよ、南部の薬業界を支える妖精里の薬草園を狙った以上、極刑は免れないぞ」

「ひぃぃ!許してください!」


ゾロゾロと現れたワーカー達に連れていかれた後、残った外套を調べるとフラウはなにもない虚空から手紙を出して見せた。


「袖に手を通すと魔力消費なしで効果が現れるようだな…これは姿を消すことまでできるのか?…む、外套を纏ったままでは触れる事ができないのか…」

「――エメラン…あいつは囮だ!すぐにギルガーの宿へ向かうぞ!」


手渡された手紙には、エメランが失敗したらギルガーと傭兵団が集めた薬草を持って、撤収する手筈になっている事が書かれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ