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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
114/169

塩と…

113


「わぁ~!真っ白!どこまでも真っ白ですよ!フラウさ~ん!どこですか~!?」

「ここにいるよ…」


見渡す限り白一色な景色に同化したフラウは、笑うリースに唇を尖らせる。


翌朝準備ができた一行は、塩村の西側にある門と建物が一体となった祭儀場へ来ていた。

森へ立ち入る際には、ここで儀式を行うのがエルフも村の者も、共通の掟だった。


そこからはアリエルを除いた四人のエルフ達が、塩森外周を南へ回り込み、第二塩村の偵察に向かっていった。

朝食時に、かたまって森へ立ち入れる人数には制限があると、アリエルから伝えられた為だ。

その際カーマインはまるで迷宮のようだと話した。


一般的な迷宮においては一定範囲に存在できる人数は、六人から十人までと知られていた。

正確にはそれ以上の人数が集まると、転移装置の人数制限に溢れる者がいたり、結界等に阻まれ進めない他、それぞれの縄張りを守っているはずの強力な個体や、大量の魔物が押し寄せて来るからだ。


これに対しフラウは幻獣達の聖地である塩森に、無闇に立ち入られる事を防ぐ為、似たような仕組みになっているのだろうと話した。


結果、森へはリースとフラウ、カーマインに案内役のアリエルが向かう事になり、エルトゥス達は村長の正式な依頼を受けて第二塩村の赤蟻調査に向かう事になったのだ。




リースはエルフの外套に、トワンから貰ったレインコートを重ねて着ていた。

見た目には首もとに半透明な紐があるだけだが、周囲を舞う塩の粉は肌に触れる事なく弾かれていた。

当初、フラウは自身が纏う無垢なる乙女の外套に、一緒に入るつもりでいたが、魔法のレインコートの存在を思い出し、がっくりと膝をついていた。


アリエルはカーマインと肩を並べ、風の精霊に守ってもらっている。

二人とも厚手の帽子にマフラー、外套に手袋と、一回り大きくなった姿にリースは笑ってしまった。




塩森の縁に辿り着くと、ランタンから牡鹿を解放した。

牡鹿は辺りを見回してから、首を振って何かを伝えてくる。


「案内をしてくれるようだ」


牡鹿とフラウを先頭に、全てが塩でできた森を進む。

足跡のない雪原のような場所へ踏み入ると、リースの足首まで容易く埋まった。

森の奥はさらに深く、木々は塩でできていた。


「わわわ…転んだら埋まっちゃいそうですね」

「王国の冬に降る雪よりサラサラだ…樹が塩になってるのか!?」


掴んだ塩は指の間からサラサラとこぼれ落ち、樹皮に付いた塩を払うと白い幹が現れた。


暫く進むと膝下まで埋まり始める。

フラウに手を引かれ、時折振り返る牡鹿の後をついていく。

その先では真っ白な大樹が、門のように並ぶ場所へ出た。


「おぉー…塩の嵐です!フラウさん、門を境目に嵐になってますよ!?」

「結界のようだな、この先からは幻獣達の聖地だ」


すると嵐の中から大きな白い影が現れる。

六メートル以上ある四足の幻獣は全身長い毛に覆われ、顔は白い毛に埋まっていて見えなかった。


牡鹿と匂いを嗅ぎ合う仕草をした後、フラウの前で頭を下げた。

牡鹿は大樹の根元を掘り返した後、最後に一鳴きして幻獣と共に嵐の中へ消えていった。

掘り返された跡を覗いてみれば、木の皮で包まれた何かがあった。

フラウが包みを解くと、ガラスのような質感の白い枝が出てくる。


「なんでしょう?」

「これは…砂糖か?」

「なんだと?塩の森に砂糖!?」


透明な枝に触れたカーマインも、自身の指を舐めて驚いた。

精製された砂糖は、一部の地域でしか手に入らない大変貴重な物だった。


リースも枝に触れ舐めてみれば、滅多に感じないその甘さに、顔がほころぶ。

渡された包みをしまっていると、カーマインが隣の大樹の根元を杖で掘り返していて、アリエルに頭を小突かれていた。


「さて、後はアレを見つけて連れ帰るだけだが…来ないな」

「連れ帰る?」

「私の守護者がこの辺りにいるはずなんだ、食いしん坊でな…私の呼び掛けに答えない」


アリエルに案内され塩森を南に移動しながらフラウの言う守護者を探したが、見つからなかった。

そのまま森の南側へ出てしまうと、遠くの岩場の影から手を振るエルトゥス達の姿があった。




「どんな様子だ?」

「非常に良くないですね、巣の規模は村から白岩谷まで広がっているようです」

「赤蟻はファイアアントを中心に働き蟻のヒートアント、一度キングアントが出てきた際にはクリムゾンアントが数匹いました、他に巣の周辺には変種も二匹います」


岩場の影から少し下がった村を見ると、廃墟の中に多数の赤蟻が見えた。

村の中央には大きな穴が空き、深紅の角を持つ大型蟻が二匹守っている。


「クィーンは当然中か…あのデカいのに火は効かないだろう」

「耐性持ちの蟻か、クリムゾンアントとはなんだ?」

「上位個体です、鋼鉄の体をしていて火を吐きます、毒持ちでその体液は爆発すると聞きます」

「なんだその危ない奴は…ここから攻撃した方がいいな」


カーマインの提案により、白岩谷近くの高所から遠距離攻撃で一掃する事にした。

フラウは震えるヒノコをじっとみていたが、リースが庇うように抱きしめていると諦めた。

エルトゥス達は万一に備え、白岩谷側の出入り口を監視するよう指示され、リースはフラウの後ろに隠れているよう言われた。


(あぁもぅ魔法石があれば一緒に戦えたのに…早く魔法を教えてもらはないと)


配置に着くとフラウの合図で一斉に矢を放つ。

魔法のボウガンからは、風の矢が途切れる事なく打ち出され、騒ぎ始めた赤蟻を弾けさせた。

カーマインから飛翔した火の鳥は、その姿に相応しく、赤蟻を廃村ごと呑み込んでいく。

アリエル達の矢は空高く放たれ、曲線を描いて降り注ぐと蟻の頭を正確に射ぬいた。


村の周辺を彷徨いていたファイアアントやヒートアントは、あっという間に数を減らし、角蟻は巣へ逃げていった。


「よし!谷側の穴を塞ぎつつ、巣穴の中を焼き払うんだ!」


オルティスは予め準備していた精霊石を使い、土の精霊を呼び出した。

谷に無数に空く穴はとても塞げそうになかったが、激しい揺れを感じると周辺の景色が一段下がり、穴からは一斉に砂ぼこりが吹き出した。


「ふぅ…無理をさせてすまない友よ」


数匹のファイアアントが飛び出してきたがあっさりと倒し、粗方穴が土砂で塞がっている事を確認する。

カーマインは唯一無事な穴から火の鳥を飛ばし炎が吹き上がると、アリエルから送風され勢いが増していく。


「出てきたぞ!そろそろ役に立てヒノコ!」


フラウに頭を掴まれたヒノコは、村の中央に姿を現した角蟻とクリムゾンアントの群れに投げ入れられた。

リースは可哀想だと思ったが、溢れ出す蟻の数に、皆の安全を思うと止められなかった。


炎と風が吹き荒れる巣の内部から飛び出してきた蟻達の中には、クィーンとおもしき姿もあり、その巨体に相応しく角蟻に貫かれたヒノコへ炎のブレスを放った。


ヒノコは一瞬で炎に包まれ見えなくなり、グングン巨大化していくと、角蟻を踏み潰し爆発がおこる。

クリムゾンアントに似た個体だったらしく、爆発により散り散りになって数が増えたヒノコは、津波のように蟻の群れとぶつかり合った。


「はぁ、はぁ、キングはどこだ?」


カーマインは魔力切れギリギリまで火の鳥を操り膝をついている。

村には巨大なクィーンとクリムゾンアントの群れがヒノコの群れとせめぎ合う、その中にキングともう一体の角蟻は見当たらない。


その時、クィーンのかな切り声が響き渡ると、巣から羽を羽ばたかせた深紅の蟻が飛び出した。


「クィーンが二匹!?しまった!第一塩村へ向かっているぞ!」

「新たな女王蟻か、キングと角蟻は時間稼ぎをしていたようだな」


巣穴には焼け焦げたキングと破裂した角蟻が横たわり、巨大化したヒノコの群れが放つ炎の柱に、クィーン共々呑まれていった。

数十回におよぶ爆発を背に、フラウ達は高速で北へ飛び去ったクィーンを追う。

しかし途中で塩森から飛んできた何かに、撃ち落とされた深紅の女王蟻は、綺麗に頭を失っていた。


――メェー――


巨大な蟻の上に降り立ったのは、モコモコした白毛に包まれた首の長い馬のような羊だった。


「可愛い~♪モコモコ♪」

「な、なんだこいつは?」

「やっときたか」


見た目はとても強そうには見えない生き物は、トコトコと近寄ってきて、リースの匂いを嗅ぐと歯を剥いて笑った。


(あ、あははは…可愛いけど笑うと怖いわ…)

「守護者のプネウマだ、空を駆ける事ができるよ」

「わぁ~♪乗せてください!」


モグモグと口を動かしているプネウマは知らんぷりをしていて、フラウは頭を撫でた後リースを乗せたが飛ばなかった。


「…気分屋だからな、そのうち飛ぶよ」

「おい見ろ!この蟻、紅鋼を呑み込んでいたぞ」


紅鋼ベニハガネは火属性の金属で、カーマインが言うには水属性の蒼鋼アオハガネとは対になるものらしい。

手に持つ不死鳥の杖は芯に不死鳥の羽根を使い、柄は紅鋼、不死鳥は赤晶石でできていると、少し誇らしげに話していた。




丸ごと回収して巣穴へ戻ると、煙を上げて倒れているヒノコを発見し、慌てて湖水を掛ける。


「ヒノコ~!しっかり!」

「大丈夫だよ、弱ってるふりしてリースの注意を引いているだけだ」


廃村は完全に燃え尽きてしまい、辺りは爆発の為か地面が捲れている場所もある。

蟻のほとんどは焼け焦げていたが、角蟻とクィーンを回収して巣穴に入った。


「……暑い…ダメだ帰ろう」

「えー!もしかしたら紅鋼がまだあるかも知れませんよ?」


フラウやエルフ達は入口でリタイアし、カーマインとプネウマを連れてリースは巣穴を下っていく。


途中道に迷いつつも、プネウマは道がわかるようで最奥に着くと、山のように積まれた紅鋼の原石があった。


「すっすごいすごい!こんなに沢山!」

「あぁ!これは近年でも稀な量だ、しかしここは元々塩村の者達が住んでいた場所だ…持てるだけにして、残りは置いておこう」

「そうですね、欲張りすぎはいけません…マジックバックに入るだけにします♪」


笑い合う二人はプネウマが奥の暗がりを覗いている事に気が付いた。

カーマインが明かりの魔法を先行させると、奥の壁にはオーガが着けそうな程大きな兜があった。

しかし兜には角張った顔があり、首の辺りから先は壁に埋まっていてわからなかった。


「なんだこれは?自動人形?ではないな…核ゴーレムか?」

「あ!?」

「どうした!?」

「いえ…どこかでみたような気がしたのですが…」


リースは持っていたハバキリの体毛、純ミスリルの毛で壁を削ろうとするも、異様に硬く欠片一つ落ちなかった。


「これは…魔法か何かで封じられているのか?…どうすることもできないなら仕方ない、いこう」




原石を回収して出口に向かうと、フラウ達は蟻の死骸を埋めているところだった。


「ゴーレム?…そうか、まだあったのだな…オルティス、すまないがこの巣穴を塞いでくれ」

「え?塞いでしまうんですか?」

「今はまだ眠らせておこう…村の者にはリースが回収してきた物を渡して」

「えー!…はぁ」

「女王蟻の分がある、体内で精製されたか既に利用できる状態で、結構な量あるから十分だよ」




穴を塞ぎ回りながら第一塩村へ帰る頃には夕方になり、村長に報告すると村中お祭り騒ぎになる。

プネウマは騒がしいのが嫌いなのか落ち着かず、牡鹿の代わりに牧場へ入れようとランタンをかざすと、倒れたままのヒノコの部屋の隣に収まっていた。


「守護者程になると他の生物と一緒は負担を与えかねない、落ち着ける場所を確保したら外へ出してあげよう」


その後村長から依頼料を貰い、代わりに紅鋼の原石を渡すと、第二塩村の復興に当てると言い喜んでいた。


帰り道ではお祭り騒ぎの村で、白い卵型の笛を目にする。

塩を固めて作った笛らしく、他にも様々な物が売っていた。

中でも塩の家具は手軽に塩分補給ができると、売り子が笑顔を振り撒いていたが、誰も足を止めなかった。


「お土産を買うのを忘れていました…」

「丁度良かったな、ここには色々と珍しい物があるみたいだぞ?」

「世界樹にいったなら、やっぱりエルフさんのお土産が良かったです」


結構入っていそうな皮袋を、ポンポンと放りながら話すカーマインは、宿へ向かう通りに面した店を覗いている。


「ん?里にお土産を売っている店はないぞ?私達は基本必要な物は自分で用意するからな」

「え…そうなんですか…じゃあえ~と…どれにしようかな?」


孤児院へのお土産には塩オカリナと塩と蜜を固めたお菓子、ルーティらには自由民国から伝わったとされる塩大福(ただの塩の塊)を買った。


「なんか変じゃないか?うまいのか?これ…」

「さぁ…お店の人は自由民国へ行った事があると言ってましたよ?」




夜、一通りの用事を済ませたリースは日課の世話を始める。

植物妖魔三種は相変わらずかと思いきや、シードランプの蕾頭がなくなっていて、蔓の身体は萎びて花壇に落ちていた。

マンドレイクとアルラウネも花壇の前に集まっていた。


「あわわわ!?共食い!?枯れちゃったの!?」

「落ち着いて、よく見てごらん」


無造作に落ちていた蔓を、フラウの白く細い指が取り除くと、その下には蕾頭が埋まっていて、僅かに動いていた。

リース達に気付いたマンドレイク達は、いそいそと自分達の定位置に戻ると埋まり静かになる。


「進化する準備段階に入ったらしいな」

「進化!?どんな姿になるんですか?」

「それは…お楽しみだな」


話をはぐらかすフラウは再び昨夜と同じやりとりをして、リースに拒絶された。




翌日の朝、リースはプネウマの餌付けに成功し空を駆ける。

砂糖の枝はいくら舐めさせてもなくなる気配がなかった。

始めこそ恐怖心もあったが、この旅で散々高い場所に登り落ちたリースは、恐怖を克服する術を身に付けていた。


「すごいすごい!飛んでる!私空を飛んでるわ!」


プネウマが一本踏み出すと空を踏みしめフワリと浮き、そのまま空へ駆け上がった。

遠く黒森の北にある南部山脈まで見通せる快晴にも恵まれ、妖精里を目指す。

地上ではカーマイン達が馬車を走らせ、フラウが寂しそうに見上げていた。

暫くすると、北の黒森からは黒い影が多数近づいてきていた。


「あ!?…あれ?」


その影の前を何か小さなものが、リースを目指して飛んで来た。

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