塩森へ
112
迷宮都市を出て十一日目の冬の八十二日。
リースは窓の外の騒がしさで目覚めた。
いつものように後ろから抱きついているフラウはまだ眠っているようで、目の前のテーブルに置かれたランタン内では、鼻提灯なのか胞子なのかわからない風船を膨らませたヒノコが寝ていた。
「――って!必ずさ――から、まだ――」
(…アルト?)
外からはアルトの必死な声と同時に、ガタガタと荷車の動く音がする。
確認しようとベッドから抜け出すリースは、背後のフラウが自身の赤髪を咥えている事にギョッとなり、彼女の白い頬をつねった。
「もう無理だよアルトくん、あの魔虫が死んだとはいえ、翼人に睨まれたならその地の村や人は消えていく、昔からそうだった…」
「大丈夫です!あの白髪の女性が話をつけてくれたでしょ?一緒にやり直しましょう!」
窓の戸板をずらして外を見ると、村から出ていこうとする男を引き止めるアルトがいた。
しかし男は荷車を引く痩せた大獏の手綱を取り、西門から出ていく。
立ち尽くすアルトを、後から現れたジニーが抱きしめ、手を引いて帰っていった。
(また人が減ったわ…)
(怪我が治り村を出ていくのだろう…この地に残るも出るも苦難が待っている、だがこれ以上助ける訳にもいかない、人は楽な方へ流れる生き物だから…)
後ろから抱きついてくるフラウに抵抗せず、立ち去るアルト達を見送る。
言われるまでもなく、過酷な南部に生きるリースは助けたり、道を示したりするつもりはなかった。
「…って重いです!寄り掛かって寝ないでください!」
(眠りとはいいものだな…親神様…)
朝食の席では、不機嫌なカーマインがフラウに文句を言いながら、リースとの間に割って席に着く。
睨むフラウに宿のおかみさんは話題を変えようとしてくれたのか、隣の雑貨屋がいらない物を置いていったと話し、少しして暗い顔をする。
顔を見合わせるアリエル達に、村の人口が三十人を切ったと話した。
「…厳しいですね、南部の人里はどこも四五十人が固まって生活しています、十日前までは百人は越えていた村がこうも…」
「魔物や魔獣の襲撃に合い、生存者がいただけでも奇跡だ、私達エルフは役目上、各地の人里を見て回っていたが、襲撃され人知れず滅んだ村をよく見掛けた」
アリエルの言葉に頷くエレメント対策班の者達、エルトゥスはすっかり良くなったようで、朝早くに村の守りを確認しながら、出発する事を伝えて回っていたようだ。
リースは宿の二人も村を出るのか質問すると、宿を経営するまだ若い夫婦は、村をでるつもりはないと言う。
「生前の村長には良くしてもらっていたので…それにアルトは私達にとっても息子のようなものです」
おかみさんとアルトの亡き母は幼馴染みで、子に恵まれなかった夫婦は息子のように可愛がっているらしい。
朝の訓練とペット?のヒノコ達の世話を終え、村を出る準備を始める。
色々と物が増えたリースは鞄としっぽに仕分けるのに苦労していた。
「塩村についたら売れるものは売ってしまわないと…」
「何か作ってみたらいい、外套の意匠はリースが刺繍したのだろう?」
「…嫌です、もう針仕事はしません」
「よくできているよ、いつの時代も人は群れると、皆同じ基準の物を作り始める、リースの個性を出すんだ」
「…考えてみます」
部屋を出ると階下には男女の冒険者がいて、おかみさんは元気に対応していた。
会話からこの村出身の冒険者とわかり、自由民国の迷宮から帰ってきたようだ。
「よかった…帰ってくる人もいるんですね」
「ここは妖精里と中州街を繋ぐ街道の中心だからな、それに来年の夏になれば魔法学園からの支援もある、持ちこたえればやり直せるさ」
隣の部屋からカーマインが出て来てそう話すと、見覚えのある薬瓶を見せられた。
「雑貨屋に七色薬の材料になる緑黄草と夏実の粉が僅かにあった、あの男わざと置いていったのだろう…多目に渡して譲ってもらったんだ」
黒い半透明の小瓶には、どろりとした黄緑色の薬液に赤い粉が入っている。
六等傷薬を受け取ったリースはお礼を言うと、背後から手を伸ばすフラウに薬瓶を掴まれた。
「おい、それはリースに…むっ?」
「なにを――!?」
戸惑う二人を他所に掴まれた薬瓶は光り、うっすらと黒い透明な薬瓶に変わる。
中には水のようにちゃぽちゃぽ揺れる黄緑色の薬液に、赤くキラキラ光る粉が入っていた。
「これで飲みやすいだろう、リースが飲む薬は私が調整する」
「な、なんだこれは…三等?二等か?こんな低級の材料でできた薬に…」
「ありがとうございます、フラウさん♪」
リースの感謝を受け満足気な顔を向けてくるフラウに、カーマインは意図を理解した。
「――!?ふざっ…ふん!」
リースにはわからなかったが、同じ部屋から出て来たアリエルは、額に手をやり頭を振っていた。
宿の前に停まる馬車へ乗り込む際に、新村長となったアルトが見送りに来た。
「この度は色々とありがとうございました、少ないですがこれをお持ちください」
アルトは大人びた話し方でそう言うと、フラウに青く明滅する拳大の石を渡した。
「…これをどこで?」
「以前、流星花の結晶を拾った際に一緒に拾ったものです、空の魔虫は村に来た際にこれを探していたみたいでした」
「なるほど…ありがとう、ありがたく頂こう」
フラウは石を受け取ると、代わりに歪な形をした黒い笛を渡した。
「(お前が召喚した魔虫が残した物だ、近くの低級魔虫を呼ぶ…昔、気性の穏やかな鎧虫が山のように成長した事があったな…)」
「――!?あっありがとうございまぐぇ!?」
アルトに近より耳打ちするフラウに、ジニーは火が出そうなほどカッと目を見開き、背後からアルトの首に腕を回すとフラウから引き離した。
「皆には見えないだろうが、上空にはお前達を守る(監視する)飛空船がある、暫くは安全だろう…」
全員が空を見上げたが何も見えず、ロムスが空笑いをしながら礼を言った。
村人達は門まで見送りに出て、いつまでも手を振り続けていた。
フラウにだけは上空の飛空船から見下ろしている、ニナエスティスの、手を振る姿を確認していた。
(緑樹と仲が良かった彼女が担当なら問題ないだろう…)
西の小川に架かる二つの橋を渡ると、馬車は南へ向かう。
丘の村から塩村まで直線的に移動する事はできず、草木がまばらに生える荒れ地と谷を抜けなくてはならない。
「――なのでヒノコは死なない、死という概念を持たない力の塊なんだ、危なくなったら盾にしなさい」
フラウの非情な言葉にヒノコは震え、リースに助けを求めるように、短く小さな真ん丸の手を伸ばす。
「攻撃されると増たり大きくなったりして、最後は発火ですか…すごいですね…可哀想ですけど」
茸の小さな手を指で押し返すとぷにぷにとして気持ちが良く、暫く遊んでいると御者席から声が聞こえてきた。
「この辺りは静かだな」
「たしかアントやワーム系が現れたはずだが…」
馬車の窓から外を覗くと、広い道幅の端には、穴が所々空いていて、道から逸れた荒野には草の塊が風に関係なく転がっていく。
暫く進むと道の先には大きな穴が空き、そこから赤い絨毯のようなものが湧き出してくるのが見えた。
「何か来たぞ!…アント系の魔虫だ! 」
「集まれ!矢を放て!」
カーマインが手綱を引いて馬車を停め、アリエル達が矢を放つ。
迫る赤い絨毯は数十匹からなる真っ赤な蟻で、一匹一匹が人の大人程もある大きさだった。
矢は最前列の数匹に刺さり仕留めるもきりがなく、オルティスの土の精霊が築く土壁を簡単に突き崩してきた。
アリエル達が契約している精霊は、ここ数日間力を使い続けた結果、精霊力が弱り実体化もままならなくなっていた。
「よし、いけ!」
「あー!?」
フラウはランタンからヒノコを引っ張り出すと、ヒートアントの群れに向かい投げ入れた。
短い手足をばたつかせながら飛んでいった茸は、あっという間に呑み込まれてしまった。
「いくらなんでも酷いですよ…」
「大丈夫だ、守護者は弱くない」
蟻の群れの中央辺りからは泡のように数を増していくヒノコが見え、ある程度増えると今度は巨大化し熱蟻を押さえつけ始めた。
そのうち見上げる程になると、中には潰れるものも現れ、アリエル達が何をするまでもなく全ての蟻を倒してしまった。
「すご~い!でもこんなに沢山、しかも大き過ぎですよ?ランタンには入りません」
「大丈夫、溜まった力は火となって放出される…辛いならこっちへおいで」
心配するフラウの誘いを断り、ヒノコ達の頭の先にある火種から炎が立ち上るのをじっと見ていた。
(怖くない!炎に怯える事はあいつに怯えるも一緒!私は負けない!)
その後、比較的原形を留めている蟻を集めてもらい、牙を採取していく。
牙は引き抜くと噛んだ相手に熱病を与える毒袋がついていた。
「毒袋って…何に利用されるんですか?」
「矢じりに塗ったり罠に仕掛けたりするが…噂では盗賊ギルドが薬にする技術を持っているらしい」
「え?魔物や魔獣の血や肉は口にしたらダメなんですよね?毛皮や牙だってたしか数日間土に埋めたり、浄化してから使うって聞きましたよ?」
「一般的にはな、大きなギルドにはそれぞれ秘伝の技術がある、詳しいことは話せないが、冒険者ギルドも加入して貢献度やランクを上げていけば、いずれ教えてもらえる」
小山のように集まった牙と毒袋をフラウがしまい、馬車は大穴を避けて荒れ地に入る。
進むにつれて土色だった地面は、所々灰色に変わっていき、ガタガタと激しく揺れる馬車は、白い粉が降り積もった大岩を横切っていく。
「あれが塩森の塩だ、処理する前の塩は食べてはダメだぞ?塩枯症という、恐ろしい病にかかる」
この地の風土病で、長期間塩森の側で暮らす者や、処理前の塩を食べ続けた者が発症する病で、どんなに水を飲んでも干からびていく病らしい。
もうすぐ村だと言うアリエル。
前方には白い岩棚があり、小さな谷になっていた。
その時突然激しい揺れが馬車を襲い、横転しそうになる。
谷の手前の地面は捲れていき、十メートルを越える巨大な生き物が姿を現した。
「ロードイーター!?こんな場所に出るなんて!」
「なっなんなんだ!?これも怪物なのか!?」
「違う!イーター系の大物だ!」
谷の先からは人の悲鳴や怒声が聞こえてくる。
驚きつつもカーマインは火の鳥を飛ばしたが、大きな背中に舞い降りた鳥は、僅かに表面を焦がすだけだった。
しかし攻撃されたロードイーターはゆっくりと振り返り、長い鼻と小さな目をした少し愛嬌のある顔を向けてくる。
そのアリクイ姿の魔獣は長い舌を使い、谷から出てくる赤い蟻を絡め取っては食べていた。
「村をアントが襲っているのか!?」
「今度はファイアアント…どこかに巣が?」
「アリエル達は谷へ向かえ、あれは私がやる」
と言いながらフラウはリースにしがみつくヒノコを掴み上げ、ロードイーターの脇をすり抜け谷へ向かう馬車から放り出した。
「あー!?また投げた!」
短い足を必死に動かして追いかけてくる姿に、可哀想になったリースも馬車から飛び降りた。
「リース!?」
「可哀想ですよ!」
火蟻がヒノコを追いかけてきて襲いかかる。
間一髪取り上げると火に包まれた牙が空を噛む。
直後に長い舌が鞭の如く飛んで来て、火蟻を巻き取っていった。
火蟻は谷の壁面に空いた穴からぞろぞろと現れ、すぐにも新手に取り囲まれてしまう。
左手にヒノコを抱え、右手に持つ魔爪杖を向けて構える。
直後に背中に背負っていたランタンから牡鹿が飛び出し、背後から飛びかかってきていた火蟻を蹴り倒した。
そのまま大きな角でリースを持ち上げると、背中に乗せて包囲を飛び越えた。
代わりにフラウが中心に飛び込むと、光剣を一閃、周囲の火蟻の頭が空に舞う。
「無茶をしないと約束したのに…」
「フラウさんがこの子に酷い事するから!」
かなりの早さで走る牡鹿に余裕で追い付いたフラウは、道を塞ぐ火蟻を蹴散らし、途中から岩棚を駆け上がる。
ロードイーターは脇を抜けていった馬車を諦め、火蟻を勝手に倒して回るフラウ達を優先して狙ってきた。
長い舌を避ける牡鹿から落ちそうになったリースは首筋に抱きつく。
その際、眼下の谷底を駆けるアリエル達の前には、商隊の馬車が三台停まっていて、複数の人が火蟻に囲まれていた。
「ぐあぁぁ!たっ助けてくれ!」
「やー!」
商隊を護衛する冒険者風の男が、火蟻にのし掛かられているのを発見したリースは、魔爪杖の爪を伸ばして頭を射ぬく。
岩棚の上まで登ったフラウは、ボウガンから風の矢を連射して、商隊までの道にいる蟻達を一掃した。
アリエル達が合流するのを見届けると、狭い谷間に入ってこようとしている、ロードイーターの顔面へ氷の嵐を放った。
顔を押さえて暴れる巨体に落石がおき、火蟻が潰されていった。
「リース!ヒノコを投げて!」
「えぇっそんな…大丈夫なの?」
抱えていたヒノコはやる気を出したのか手を振って答え、ロードイーターへ向けて投げられると舌によってあっけなく地面へ叩きつけられた。
「あぁやられちゃった…」
「大丈夫、ヒノコはやられてから真の力を発揮するんだ」
潰れたまま地面に張り付いたヒノコは舌で叩かれる度にムクムクと巨大化していき、あっという間にロードイーターに並ぶ大きさになった。
しかし狭い谷間に挟まり動けないようで、ジタバタと足を動かしていた。
「嵌まっちゃいました!嵌まっちゃいましたよ!?」
「…大丈夫、まだ炎がある」
ロードイーターへ頭を向けたまま巨大化していたヒノコは、極大の炎の柱を噴き出し谷から一気に吹き飛ばした。
しかし縮んでいくヒノコもアリエル達がいる場所へ飛んでいき、火蟻と最後尾に停めてあった馬車一台を巻き込んで岩棚を滑り上がっていく。
後にはギリギリ難を逃れた商隊とアリエル達が、壁面に広がった蟻の死骸を見上げていた。
「ありがとうございます!あなた方がいなければ私達は皆死んでいました!本当にありがとうございました!」
「皆無事で良かったな、ロードイーターに退路を絶たれたとはいえ、蟻にとっても窮地だったのが良かったのだろう」
残った蟻を倒し終え、商隊の代表からお礼を受けるフラウ。
白岩谷の南東にある小村から第一塩村へ帰る途中、谷へ入った直後に蟻の襲撃を受けたと言う。
馬車に積んでいたのは鏡湖と呼ばれる湖の水で、乾燥の激しい塩村では金貨に等しい価値があるらしく、お礼にと一樽受け取った。
「ヒノコー!ヒ~ノ~コ~!…いないなぁ」
牡鹿に乗ったリースは飛んでいったヒノコを探していたが見つからなかった。
谷の出口を塞いでいた前面が黒焦げのロードイーターを、丸々マジックボックスへしまったフラウは、非情にも出発すると言う。
「…フラウさん、ヒノコに対しては冷たいですね」
「そんなことはない、飛んでいった方角から塩村にいるよ、それにアレら守護者をどうにかできる者はいない、だからリース達の安全を優先した」
白岩谷は思ったよりもすぐに抜ける事ができた。
西側は雪国のようで、正面には真っ白な森が見え、手前には中州街と同じく白い村があった。
森以外草木が一本も生えていない不思議な土地を進む途中、ポツンと雪玉が転がっていた。
「ほらいた」
「えー!?ヒノコー!」
急いで塩玉を割ると、塩漬けになりシワシワになったヒノコが出てきた。
貰ったばかりの湖水を掛けてもみ洗いをすると若干膨らんだが、いつもの泣いてるような裂け目の顔は見分けがつかなかった。
村には異常なかったようで、白い建物は全て塩で固められた物だった。
商隊の到着に村長を始め村中から人が集まり、結構な人数が広場に現れた。
「おぉ、そんな事が…早くあの巣をなんとかせねばなぁ…」
「やはり巣があるのか」
「はい…ここから南の今は廃村となった第二塩村に赤蟻の巣が出来ております、この村は塩に守られていますので安心なのですが、時折他の村との交流が阻害されております…」
南端にある第二塩村は、塩森の影響からの一時避難場所としてできた村だと言う。
断崖絶壁の南の海からは潮風が吹きつけ、過酷な環境に変わりないが、塩森周辺でかかる塩枯症を発症しない土地として重宝されていたらしい。
東は白岩谷を越えて鏡湖に近く、北や西は塩森に面していて、東からの脅威にだけ注意を払えばいい土地だったようだ。
しかし赤蟻の群れに襲撃されて滅び、生き残りも散り散りになったと話した。
「…わかった、後で様子を見てみよう」
「おぉ、ありがたやありがたや、さぁどうぞ宿へご案内します」
塩村は辺境にある村にしては大きく、建物もしっかりしていた。
宿のある通りには様々な店が並んでおり、料理屋からは香ばしい匂いが漂ってきていた。
村長の計らいで厩舎と宿を確保し昼食にする。
村の料理はどれも塩気がキツく、リースはいつか食べた塩漬け肉を連想した。
新鮮野菜や塩を使ってない食材の料理は割高らしく、エルフ達は自身が持ち歩く食料のみを食べていた。
宿への帰り道、商隊の代表と再会した一行は、森へ立ち入る為の装備を扱っている事を聞いた。
施設を見学させてもらうと、若い男がツルツルした艶のある服を着込み、樽を背負っていた。
「鏡湖の水は浄化の力が強く、この防護服の中を満たす事で、濃塩から身を守るんですよ」
頭から爪先まで丸々包まれるような服は、水棲魔獣の皮で出来ていた。
(あっこの材質、トワンさんから貰った外套と一緒かも?)
エルフ達森の監視者は厚手の服を着て精霊の守りを得て進むらしく、人が使う防護服を興味深そうに見ていた。
夕方、宿二階の部屋で魔力操作の練習と、ヒノコの頭に点いた火でトラウマ対策をしていたリースは、喉の渇きを覚え一階へ降りた。
そこでフラウが塩枯症の治療をしているのを見た。
干からびた死体のようになってしまった人はまだ息があるようで、ヒューヒューと渇いた喉で呼吸をする様は痛々しかった。
通常の治癒魔法では治療ができず、カーマインが見た限りでは二等以上か、特別な薬でないと治療ができない難病だと話していた。
エルゥスィスの本にも複数の材料が必要で、とても辺境の人が揃えられる物ではなかった。
夕食後、フラウは塩枯症になったら大変だと、リースの身体を拭こうとする。
「いいですよ!自分で出来ます!」
「背中は大変だろう、私の外套の力で清めても、やはり拭いた方が気持ちいいだろう?」
「そうですけど…いいですって!やめてください!」
強く拒絶されて、ショックを受けたような顔をするフラウ。
しかし譲る訳にもいかないので、シーツのカーテンに隠れて手早く済ますと、一人自分のベッドに潜った。
隣のテーブル上ではヒノコがもじもじしながら背中を向けていて、フラウは無表情のまま鷲掴みにすると雑巾絞りをした。
カラカラになったヒノコを放り棄てて、リースの寝ているベッドに忍び込んでいった。




