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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
106/169

安否確認

105


エルフの戦士団長ケイエスは、後始末は任せるよう言っていたのだが、フラウ達は森の至る所に散乱した魔獣の死骸を集めながら、世界樹へ向かっていた。


そのついでに西風は欲しい素材を見つけると剥ぎ取りを始め、黒牙の毛皮剥ぎが一段落した後、短くなった斧槍で何かを確かめるような演武をしていたデリックの様子を眺めていた。


「…お?今なんか見えなかったか?」

「あぁん?…おぉ!?あんた心気の使い手だったのか?」

「――!?…いや。魔法士上がりの騎士だが?」

「なにぃ!?魔法才能があるんなら心気は使えないんじゃなかったか?」


ジェスターの言葉に驚くデリックは、近くの木に狙いをつけて構える。しかしアリエル達エルフから一斉に非難の声が上がり、慌てて何もない開けた場所へ向かい斧槍を全力で振るう。


「――ふん!せいっ!おらぁ!!」


しかし確かな実感は掴めず、見ていたジェスター達が首を傾げたのを見て落胆する。


「焦ることはない。魔法も最初から上手く出来た訳ではないだろう?」

「…そうか」


カーマインの言葉にデリックは納得すると、再び型を確認しながら斧槍を振るい始めた。


「って事は…マジか?若年者の心気発現は聞いた事あるが…デリックは最近心気に目覚めたのか?しかも魔法と両立――」

「ちょっと!ジェスターも素材集め手伝いなさいよ!」


黒牙の大きな牙を両手に持ち、角に見立てたアーシェが話に夢中になっているジェスターへ文句を言う。ジェスターは片手を上げるだげで、憤慨したアーシェは毛皮を集めてきたレインと共に西へ向かっていく。


(格の上昇によって新たな才能が開花したか)


オリヴィア達が死骸を集めてくる間、デリックの様子を見ていたフラウの元に、アメリアがやって来て挨拶を受ける。


「初めまして白の聖霊様。私は星神国から使者として参りましたアメリア・スコーピオンと申します。この様な場でのご挨拶お許しください」

「フラウだ。話は彼女から聞いている」

「私達の問題に時間を割いて頂いてありがとうございます」

「例の件なら里に戻ってからにしよう」


ミリアンが引き摺ってきたハーピーを最後に、人力で運べる死骸が粗方集まると、最後に負傷者がいないか探していたアリエルも戻る。


「少し待ってくれ」


そう言ってフラウは死骸の山へ左手を翳す。キラキラとした光が生まれ、血や泥で汚れていた魔獣の死骸は綺麗になった。


「聖霊様?浄化してどうなさるので?」


アリエルが疑問に思う一同を代表して質問すると、フラウは矢傷だらけな四手熊や、角が根元から折れた二角馬、バラバラな人喰い花等を見ていく。


「ダメか…負の魔力を中和して使える素材にできるかと思ったが、変質が定着したまま死んだものは変わらなかった」

「中和を?生きた者であれば可能なのですか?」

「出来る」


フラウは死骸の山の間から何かの尾を引っ張り出すと、ぐったりした蜥蜴が出てきた。

アリエル達は咄嗟に身構えるが、よく見ると蜥蜴は死んでおり、その下から半分潰れた蕾と蔓の身体をしたシードランプが地面に落ちる。


フラウは蜥蜴を放るとシードランプの傷を癒す。蔓がウネウネと波打ち、蕾が膝の高さまで上がると、フラウに向かい頭を振り始めた。


「負の魔力から開放してある。大丈夫だ」

「それでも妖魔だろう?それに植物系では意思疎通も出来ないぞ」

「――問題ない。私に従うと言っている」


カーマインは納得出来なかったが、西風が戻って来ると騒がしくなり、水蜥蜴や鎧犀がいなくなったと話す。


「ブラック…あの黒い影を視界に捉えた魔物は、命を囚われる。その身体は周囲に認識する者がいなくなると、影となって消える。探しても見つらないだろう」

「そんなぁ…?それ生きてない?それになんだか死骸が綺麗になってない?」


アーシェはシードランプを避けて山に近づき、素材が得られる事に喜ぶ。アリエルがもう帰る事を伝えると、西風はもう少し残ると言うが、デリックが護衛の依頼はどうする気だと詰め寄る。


「あぁ、じゃあ俺が戻るよ。あっちは安全なんだろ?」


ゴライオがアリエル達に問い、頷くのを確認すると、デリックは呆れた顔をした。


「ずいぶんと適当だな」

「ギルドを通した正式な依頼じゃないしな。それに俺らは四人ともシルバーランクだぜ?依頼料安いんだから大目に見てくれよ」


そうゴライオは言いながらデリックの背中を押していく。




ジェスター達三人を置いて進む途中、ミリアンはチラチラとアメリアの様子を盗み見ていた。

それに耐えられなくなったアメリアが小声で問う。


「あの…何か?」

「あっ失礼。あなたの…そのドレスは先程までと違う様ですが…?」

「あぁ…これは私の国に伝わる秘伝の技術で仕立てられた鎧衣ですよ」


アメリアのドレスは当初、金属鎧に見えていたのだが、今は上質な絹のドレスに変わっていた。


「ミリアン。彼女は大精霊様の賓客なのだ。詮索はしないでくれ」

「失礼しました」


アリエルに注意され謝罪したミリアンは、ウネウネと伸びてきた蔓から距離を取る。足の遅いシードランプをフラウが抱えようとしたが、それをアリエルが許さず、代わりに抱えていた。


魔神がいなくなり、本来の明るさに戻った森は、鐘四つのお昼に相応しい穏やかな雰囲気に変わっている。しかし木々の合間には魔獣の死骸があり、アリエル達は時折死んでいるか、戦士団の負傷者がいないかを確認して回った。




世界樹の北側まで戻ると魔獣の姿はなくなり、巨大な世界樹を迂回して根の道を進む。南側ではエルフ達と伯爵家の執事がいて、泥だらけなルヴァルが横たわるロランの様子を見ていた。


「ルヴァル様!?ご無事ですか?」

「ああ。ロランに庇われて無事だ」


執事によれば皆が北へ向かった後に魔人の襲撃があり、ロランがルヴァルを庇って根の道の合間へ落ちたと言う。ロランは背中に無数の木の破片が刺さり、右足を骨折していた。


エルフの治療を受けて傷は癒えたが、意識は戻らずにいた。


「生命力を多く失っているようだ…これで時期目が覚めるはず」


フラウが手を翳すだけで、ロランの顔色は良くなり、呼吸が安定した。

デリックはビンスが何処へ行ったか、執事に詰め寄る。


「彼は知らせが来た際に起きた混乱から、未だ行方不明です」

「チッ!ビンスめ…今回の旅ではやけに動きが悪い」


そこへ里の代表コーラストスが現れ、フラウに状況を説明する。


「警護に当たっていた者二人と一緒に、南の外れで人の遺体が発見されました」

「デリックは確認に向かえ。リース達は?」

「子供らは里の家に。リースさんは魔力を急激に消費して気を失っていますが、無事です」


デリックはゴライオに残るように伝えると南へ向かっていき、フラウ達は里の家に案内される。




一部が半透明になった緑の茎家は二階建てだった。


植物の薄皮が幾重にも重なった入口があり、カーテンの様に押し退けて不思議な部屋に入る。中は意外と広く、植物全体が仄かに光っていて明るい。


床は絨毯でも敷いてあるかのように軟らかく、半透明になった一部の壁の中では、下から上へ気泡が上昇していくのが確認出来た。


テーブルやイスも同じ材質か、カーマインが触れると芯は硬いが表面は軟らかい。


「リースは二階か?ちょっ!?」


カーマインが壁に沿って曲がる階段を上ろうとすると、フラウに押し退けられた。




二階には椅子へ腰掛けたまま寝ていてるシャルロットとパメラがいて、ベッドにはリースが寝かされていた。

側にはササネがいて、フラウに気付くと場所を入れ替わる。


「リース。リース?」

「う…んん?」


白綿玉の枕を抱きしめ黄色い毛布に包まれたリース。

額に掛かった髪を払ってあげながら呼び掛ける。

アリエルになだめられながらカーマイン達が上がって来ると、目を覚ましたシャルロットとパメラはお互いの無事を喜んだ。


「フラウさん…フラウさん?あれ!?私…」

「魔力を使い過ぎて気を失ったようだ。身体の具合は?」

「大丈夫ですよ?皆さん無事ですね…よかったぁ」


背中を支えて起こしてやると、リースは皆の無事を喜ぶ。

何があったか話すリースに、カーマインが驚きつつも心配そうに覗き込む。


「炎の魔法を使った?それに妖魔が作った魔道具の真名を使ったのか?」

「はい!急に使えるようになりました!」

「リース…妖魔の魔道具は怒りや憎み…強い殺意に反応して使える様になる事もあると聞く。だがそのほとんどの使い手はいずれ狂気に呑まれて身を滅ぼすらしい…その魔道具は使うな」

「え…でも大丈夫ですよ?私は」

「今は大丈夫でも一年、いや半年後にもお前はお前のままでいられるかは確かではないだろう?」

「私が側で見ているから、大丈夫だ」

「――っく!はいはい!そうですかっ!」


フラウがそう言って許すと、カーマインは膨れっ面をして階段を降りていく。


シャルロットからパメラの左目の下にある青い痣について相談されると、フラウは左手首にある蒼い宝石から、ごく普通の丸縁眼鏡を取り出して手渡した。


「…これは?」

「その左目には妖魔の力が宿っている。北の様子を見た時、魔物の視点だったろう?」

「妖魔の!?」

「そのままではいずれお前の精神を蝕むだろう。それは魔眼の力を抑えるものだ」

「ありがとう…ございます」

「大丈夫。どんな力も使い手次第で良くも悪くもなる。常に正しくあれ」

「常に正しく…ありがとうございます!」




シャルロット達は一旦隣の家に移って休む事になり、階段を降りていくが、一階で待っていたアメリアと出会うと、シャルロットは急に怖い顔をして睨みつけた。


「…」


アメリアは黙ったまま一礼すると、シャルロットは人が変わった様に粗雑な態度で横を通り過ぎて出ていく。

パメラやササネ達も困惑しながらもついていき、見送っていたフラウはアメリアを二階へ呼んだ。




二階に戻るとリースはうとうとしていて、フラウは寝かしつけながら、先程の事を考える。


「今は話せる感じではなかったな」

「申し訳ございません…」

「お前は悪くないだろう?…時期を見て彼女を説得してみよう。代わりと言ってはなんだが、お前達の種族に関する出自を知りたい」

「私達…ハイレアの出自ですか?」


フラウがこの世界が抱える精霊の問題について話すと、アメリアは快く承諾して、自身より詳しい者を紹介すると約束した。


それだけでなく彼女はフラウが負の魔力中和を試みた事について、星神国の技術を使えば可能かもしれないと言う。


「未だこちらの世界の仕様が把握できていませんので、確証はないですが。緑の聖霊様からもお話は伺っています」

「中和の魔道具を研究している者に心当たりがある。その者にも相談してみよう」

「私も技術者に話を通してご連絡致します。私の他に二名、宮威が大陸を視察させてもらっています――」


アメリアは空いた時間に、星神国の特徴を聞かせてくれる。

星神国は太陽、月、星を冠する三女神が守護する創始国で、選ばれた七人の乙女が七彩光宮で加護を得て、外敵の星喰いと言う異形から国を守ってきたと言う。


ハイレアの他に、こちらの世界で言う精霊に近い存在のピュアと、星大陸の特殊な物質に宿るスタニアンと言う種が存在するらしい。

女性が多く、力や能力も女性の方が高いのだとか。

彼女達ハイレアは、左手の甲に円を描くように光る、七色の光点から星法陣を展開し、様々な効果を発揮するという。




(なるほどな…所々で親神様の定めた決まりと酷似した話がある。彼女達の世界でも原色の特殊性があり、女性優位の風潮があるのか)


「…わかった。色々聞かせてくれてありがとう。また何かあれば頼む」

「はい。良い関係が築けますよう全力を尽くして参りますので、どうかよろしくお願いいたします」


アメリアは一礼して階段を降りていく。

リースの頭を撫でながら、ふとシードランプを思い出して見渡してみるも、アリエルの姿はなかった。




外へ出てみると、植物の家に並ぶようにしてシードランプが植えられており、蕾頭を力なく垂れる妖魔にアリエルが水を掛けていた。


「確かに植物系だが…シードランプは肉食だ。何か与えてやってくれ」

「――えっ!?か、畏まりました!」


身震いして水滴を払うシードランプ。

アリエルと入れ替わるようにしてカーマインとミリアンがやって来て、デリックの報告を聞く。


「発見された人の遺体は、やはり伯爵家のビンスでした。傷の具合からしてリースちゃん達が戦った魔人によるものでしょう」

「近くに位置情報を伝える高度な魔道具が落ちていた。大川の一件や魔人を森へ引き入れたのは奴だろう」

「そうか。魔人に魅入られるなど愚かなことだ。それに協力する者も…」




どこからか鈴の音がなり夕食の時間になった。

世界樹の麓にある開けた場所で皆が集まり、静かに黙祷し、細々とした食事を始める。


その場所からはキラキラと光るものが地面から現れ、上昇していく。遥か高みの枝葉には妖精や幻獣の姿が見え、幻想的な雰囲気が広がる。そんな中、パメラは儀式の結果をリースへ伝えた。


「ルヴァル君は居残りだそうです」

「帰ったら嫌がらせされそうだね」

「大丈夫ですよ。パメラには私が付いています」


向かいの場所では目を覚ましたロランに、エルフ特製の酒を注いでやるデリックと、ルヴァルの姿があった。

フラウはハイエルフ達に呼ばれてリースから引き離され、詰まらなそうに話を聞いている。


「黒牙の毛皮。オークションに出せば高値がつきそうだな」

「ロイヤルローズがボロボロだったのは残念…ってこんな時に言うことじゃねぇな」

「負の魔力に汚染されてなければ、良い香水が作れたのに」


西風のメンバーは集めた素材の山を思い浮かべながら終始顔がにやけていたが、レインだけは粛々と食事を続けていた。




夕食も終わりお湯で身体を拭いて寝る時間になると、フラウはいつも通りリースを連れて二階へ上がる。

ベッドではお互いに向き合い、今日見聞きした事、体験した事などを念話の耳飾りを付けて話した。


(だいぶ変わりましたね。最初は…正直子供っぽかったけど、今は自然な感じがします)

(今は私の中にいるもう一人の私とも和解して、お互いが同一の存在であるとわかった。同化が進めば落ち着くだろう)

(私も…過去と向き合い、本当の自分を取り戻すために戦います)

(…復讐したいか?あの男達に)


リースは少し瞼を伏せると頷く。

しかしそれ以上にあの男達を放置しては、自分と同じ経験をする者が増えるかもしれないと話した。


(そうか、そうだな…私も協力する。管理者としての勤めもあるが…これからもずっと一緒だ)

(え?えぇと…ずっとって?私は来年、孤児院を出て暮らすんですけど?)

(もちろん一緒に住む…嫌か?)

(はぁ…わかりました。よろしくお願いいたしまあっ!?)


と、フラウのお腹辺りから白い髪をした少女が顔を出してびっくりする。

それは小人の里で別れたきりのスノウであり、フラウは彼女がもう一人の自分、白の聖霊シャーリィだと教える。

シャーリィが口を動かすとフラウの口も一緒に動き、リースはそのおかしな様子に笑いそうになった。


(帰ったらしばらくは、共に力をつける事に集中しよう。それと調べたい事がある)

(え?異世界転生勇者の本ですか?)

(その本の著者を探して何者か確かめたい。私のこの姿はその本の登場人物、実在した人物を元にしているらしい。見ての通り白の聖霊シャーリィと変わらない姿だ。つまり、その著者は姉妹の誰かなのか…親神様を知る者の可能性が高い)


頷くリースは本を取り出して裏表紙を確認する。掠れていたが僅かに読み取れた名前はヒトミと言う名前だった。


その後、眠る準備をしていてもリザ達は戻らず、怠さの残るリースは深い眠りについた。

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