表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
100/169

丘の生活

99


「ステータス」


リース達を見送った後、アルトは部屋に籠り一人呟く。

視界の隅にはゲーム等でお馴染みのステータス画面が表示されるが、赤と青の円にミミズがのたくったような文字らしきものが映るだけだった。


「アリサル低知識」


すると文字らしきもは変わらないが、意味はわかるようになる。


「やっぱり変化してる…今ならできるかな?力が欲しい…せめて守る力が」




不幸は連鎖する。間違いないと思う。


特に苦労する事もなく進学し、大学を卒業した俺は間もなく死んだ。


一年ほど付き合った彼女はいたが、卒業式の日に公衆の面前で別れを告げられると、二人でよく通ったカフェのマスターが運転する高級車に乗って走り去った。


そんな素振りなど微塵もなかったが、友人達は知っていた様で慰めてくれる。皆と夜の街で気を失うまで飲み明かし、店員に起こされると支払いは全て俺持ちだった。


電車代もなくふらつきながらの朝帰り。ながら運転の車に引かれそうになると、逆に罵声を浴びせられる。そして自宅のベッドへ倒れ込めば、布団下でお気に入りのフィギュアが砕けた。


ふと視界内を探って見ても彼女の持ち物は一切なく、PC画面は初期化完了を告げていた。


「あるある…」


なげやりに笑い、泥のように眠りについた。

僅かな時間寝れたようだが、ふと目が覚めてしまう。


――ガタッ…ガタタタッ!――


「――うおっ!?」


突き上げるような激しい揺れに、見慣れた天井が急速に近づいてくる。

咄嗟に右手を突き出すが何の衝撃もなく、天井はそのまま身体を通過していった。


「…は?夢?」


辺りは完全な闇が広がり物音一つしないその場所は、上下の感覚も怪しい。そんな中でしばし呆然と漂う。

徐々に止まっていた思考が動き始め、助けを呼ぼうとした時、向かいから何かが近寄ってくる気配を感じた。


それが何かもわからないが、言葉でも音でもなく、色の波紋が広がる。時にはギザギザした赤い輪が広がり、またある時は湾曲した青い輪がゆっくり広がった。


波のように迫る様々な色と形の輪に、首を傾げれば諦めたような気配が伝わってくる。そして背後へ引き倒される様な感覚の後落下が始まり、叫ぶ間もなく意識が途絶えた。




目が覚めると視界が低かった。

身体は重く思うように力が入らない。

霞む視界の先には若い男女がいて、手を叩いて招き寄せようとしている。どうやら子供の頃の夢を見ているようだ。

その内バランスを崩して床に頭をぶつけると、意識が遠退いた。




次に目覚めたのはベッドの中だった。

高熱に頭痛と早くも死にそうで、なにも考えられない。

誰かが側にいるようで、必死に助けを求めるがギャーギャーと赤ん坊のように泣き喚くだけで言葉は出なかった。

そのまま意識を失う直前、首筋になにかが噛み付いた感覚を最後に暗転した。


そしてアレに出会った。

真っ暗闇の中でも確かに感じる存在は、言葉ではなく色と形、早さでもって色々と指示を出してくる。

意味はなんとなくわかり、その存在が俺を異世界に転生させたこと、代わりに支配地域を拡大して種を増やせと言っている事が理解できた。


戸惑っていると、視界の端にステータスと脳裏にスキルを得る。スキルは俺でもわかるようにしてくれたのか、起死回生という四字熟語が浮かんだ。




そして次に目覚めた際、本当に異世界転生をしたのだと理解した。

五、六歳の子供の身体に名前はアルトと呼ばれ、ボロい木造家屋に祖父と父の三人暮らし。祖父は黒森と言う気味の悪い森と、流星の丘の間にある丘の村の村長で、父は都会の元衛士だったようだ。


外は中世ヨーロッパのよくある剣と魔法の世界で、始めこそわくわくしたが、貧しい暮らしはただただキツかった。

精神年齢はいい歳になっているはずだが、身体に影響されるのか、覚えもない母が恋しくなりよく泣いて過ごした。


母は去年の流行り病で亡くなっている。

俺も同じ病に掛かっていた様だが、病床の母が誰かと会話しているかのようにブツブツと呟き始め、俺の首筋に噛みつくと、間もなく俺の熱は下がり、母は息を引き取ったという。


後日、夢に現れた赤筋が血管のように走る白蟻の異形から、治りかけていた母が病を肩代わりしたお陰で助かったのだと教えられた。


そして格というものが上がったようで、今までわからなかった事が幾つかわかるようになりスキルを得たが、素直には喜べなかった。




二年後、一つ下で環境相応に頭の悪いマルロを相手に、数を数える遊びをしていたある日、村の北西にある小川へ、水を汲みに出掛けた夫婦が魔物に襲われた。


ゴブリンとオークを遠目に見て、男の死体だけは取り返せたと門番の男が話す。村は四十人くらいしかいない小さな村で、魔物の群れに襲われたら大変だと、村長の祖父が隣街の冒険者ギルドに討伐依頼を出した。


魔法や魔物が存在する世界だと聞かされていても、直接見た事がない俺は興味津々に大人達の近くを彷徨き、父から拳骨を受けた。


数日後に訪れた冒険者達は、普段村にやって来る強面の冒険者達とは違い気さくな感じで、話を聞くことができた。


「拐われた奴がどうなるかって?坊主。子供の癖に変な事気にするんだな?――フゥ。大抵は生きたまま喰われる。手足から先に喰ってギリギリまで生かしておくんだ。昔は子供を増やす為に…なんて話もあったが。そもそも奴等は――」


酒を飲みながら平然と話す男を前に、気分が悪くなった俺は吐いてしまい、笑い声を背に家へ運ばれた。


二日後の夕方には荷車を引いた冒険者達が帰ってきた。

布が掛けられてはいたが、下半分がない人型の物体が何かはわかる。荷車が揺れて滑り出した女の手に、指はなかった。

それを見て、自分がどれだけ危険な世界に来たのか改めて認識した。


翌日から祖父達にトイレと井戸を作ろうと頼み込む。たかだか八歳の子供が突拍子も無い事を言い出したと二人はとても驚いていたが、当然貧しい村には無理な話で却下された。


早々に説得を諦めた俺は端材を貰うと、村を囲う塀の端に穴を掘り始める。祖父達はなかなか諦めない俺に根負けして、早朝深夜に手伝ってくれた。


約二季、半年かけて穴を掘っただけのトイレと、汲み上げ井戸が出来た。

まさかL字の金属棒が水脈を探し当ててくれるとは思わなかったが、後になって立ち寄ったエルフが精霊の導きのお陰だと言っていた。

村人達は皆喜び、父を飛び越して俺が次期村長だと笑う。父もそれも悪くないと喜んでいた。




翌年には南大壁国領から移住者が流れ着く。

過酷な環境に多数の死者が出て逃げてきたらしい。

急な話に空き家は足りず、困っていた一家をうちで預かる事になった。


母親のマーサは女手一つで二人の娘を育ててきた器量良しの女性で、俺に対しても実の母親の様に接してくれる。そんな彼女は祖父達が炭作りに専念出来る様、夜遅くまで家事をこなしていた。


長女のジニーとは歳が近く、何故か積極的に話し掛けてくる事もあって、直ぐに仲良くなれた。

彼女もまた幼い妹の世話をしつつ家事を手伝い、一人で頭を悩ます俺を見ては側にいてくれた。


彼女達がどんな思いで親身に世話を焼いてくれるのか知らない俺は良い気になり、マルロと同様に算数を教えて尊敬の眼差しを受ける。そして本来なら一つ上のジニーにドキドキするものを、父と談笑するマーサに恋していた。


そこへ不安がやって来た。

村の特産品である木炭の売上げが激減したのだ。

商人であるマルロの父は新参の商会が安い木炭を流し始めたせいで、今年分はもう買い手はいそうもないと言う。


不安そうな顔をするジニーを連れて夜の流星の丘へ行き、以前村を抜け出して見つけた流星花の結晶をプレゼントする。

まだ方法はあると安心させたつもりだったが、彼女は暗い顔をしたままだった。




それからは冒険者や年に数回やって来る魔法学園の生徒から、石鹸に関する話をなんとか聞き出し、石鹸作りの準備を始める。その際、話をせがむ俺が気に入らなかったのか、トイレに魔虫の卵を仕込んだ者が現れた。


俺が卵を処分する為に割ると高揚感を感じ、ステータスを確認すると新たなスキル・テイムを得ていた。

割った卵からは小さな団子虫に似た鎧虫が現れ、試しにテイムをすると、少し気味が悪いが感覚が繋がる。しかし家に連れ帰ると、祖父達からテイムの力は秘密にしろと強く言い聞かされた。


年の終わりには南西の塩森前にある第二塩村からの移民も加わり、さらに苦しい状況になる。そこへ狙ったように奴等は現れた。




年が明けて訪れたその商人は、木炭の売れ残りを前に、姉妹を買い取ってやると尊大に言い放った。

もちろん祖父達は激怒して追い返したが、商人は嫌な笑みを残していく。


そしてその夜に賊が侵入し、マーサを庇った父や門番、出歩いていた人など多数の村人が殺害された。

テイムしていた鎧虫も応戦させたが死んでしまい、賊は暴れるだけ暴れて去っていった。

被害が拡大した理由は、第二塩村から来た移民の中に、手引きをした者がいたからだった。



父の遺体を前に俯く。

マーサと仲良くしてる姿に嫉妬していたが、身を呈して守った父を誇りに思い、自身の無力さを嘆いた。

ジニー達は自分達のせいだと泣きながら謝り、流星花の結晶を渡される。気の利いたことも背中を擦ってやることもできず、俺はそれをマルロの父に頼んで売ってきてもらい、村の復興と石鹸作りの材料費に当てた。


異形の存在は俺の格が上がった事を伝えてくる。勝手にスキルを決められる前に希望を伝えると、低鑑定のスキルを得た。




あてもなく村を去ろうとしていたマーサ達を引き止め、強引に手伝わせる。ジニーは四六時中ずっと側にいて、俺が何かしようとすると代わりにやると言い出して申し訳なかった。

少し病んでいる様子のマーサは、懸命に石鹸の試作を手伝ってくれた。


何度も失敗を繰り返しながら、低鑑定で最良を探っていく。

塩森に立ち入るエルフから塩を買い、黒森の木を灰にし、丘の花を混ぜ合わせ、大川の水を使った。


出来上がった石鹸をマルロの父が中州街へ売りに行く。翌年には石鹸の商売は大成功し、村の復興に尽力した祖父のお陰で高い塀が作られ、門には小さな鐘が設置された。


しかし村に忍び込んでいた商人ギルドの者に、石鹸作りの小屋がバレてしまい、脅迫された俺は蜂の魔虫をけしかけて殺してしまう。


その現場をジニーに見られたが、彼女は黙ったまま俺を部屋へ連れ帰り、騒ぎになるとずっと一緒にいたと証言した。

商人の死体と蜂の魔虫を前に険しい表情をした祖父は、空から飛来した魔虫に殺られたのだと皆に嘘をついた。


人を殺めた罪悪感や嘘をつかせた後ろめたさに苦しむ俺に、マーサとジニーは優しく接してくれた。




それから十二歳までは事件もなく、穏やかな時を過ごした。

ある日、魔法王国から来た貴族が、鳥籠に入ったピクシーをジニーに見せびらかしているのを見かける。しつこく言い寄るそのロリコン野郎へ羽魔虫をけしかけると、男はあっけなく逃げていった。


羽魔虫は村人達に倒されて素材になってしまったが、羽で髪飾りを作り、ジニー達にプレゼントした。

マーサと妹のエニスは喜んでくれたが、虫が嫌いなジニーには嫌がられた。


冬にはリース達が来て起死回生が起きた。格が上がりテイムの力の強まりを感じる。前々から狙っていたものを手に入れる為に行動へ移した。




「夜の丘に行きたい?またか…だめだだめだ。村からは誰一人出てはならない」

「村を守る助けになるんだ。前に見せた通りちゃんとテイムできるから!」


あれから二日。今は村を守ってくれている責任者のエルトゥスさんに食らいつき、夜の丘へ行く為に何度も説得を試みていた。


「テイムなど…なんの魔虫をテイムする気だ?」

「それは…わかりません。だだ丘の上空にたしかに見たんです」

「夜の丘は魔除けの効果があったはず…それが効かないとなるとかなりの大物だ。何かあれば止めようがないぞ?」

「大丈夫。今までにテイム後で暴れた事はありません」


それから夜まで説得を続け、僅かな時間だけ連れていってもらうことになった。


祖父達も反対していたが、村を守る為と言って聞かせ、夜の流星の丘へ向かう。丘には白い星型の花が咲き乱れ、美しい景色が広がっていた。


「来い…来い…来てくれ!」


満天の星に一つの影が現れる。高速で飛行するそれは丘の上空で旋回し、何かを捕食しているかのように口をぱくぱくさせている。


「なんだあれは?」

(来い…来い!頼む!」


すると旋回していた影はそのまま降下し始め、アルト達の真上に来ると一気に急降下する。

エルトゥスは咄嗟にアルトを突き倒し覆い被さると、目の前には体長五メートルほどの羽魔虫が浮遊していた。


「やった…やったぞ!テイムできました!」

「な、なんだ…この魔虫は?」


細長い銀色甲殻の身体には、左右に薄い膜のような羽が幾つもあり、月明かりに照らされてキラキラと波打つ。矢じり頭には眼がなく、代わりに小さな穴が無数に空いている。

下部の口をぱくぱくさせながら、花の回りを忙しなく移動していた。


「え~と…スカイフィッシュ?あ、俺の知識で一番近い名前になるんだったな――!?」


その時エルトゥスがアルトを抱え上げ、村に向かって駆けていく。

一瞬何が起きたかわからなかったが、村からは鐘の音と悲鳴が聞こえていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ