『ハイパーガール』20年目の復讐
ATTACKの副隊長である赤井碧は苛ついていた。
何故か、ATTACKの男子隊員ばかりが二日酔いで、だらしなく
『うーん』
と唸る姿を見ているからだが、それだけにしては苛立ち過ぎのようでもあった。
どうやら原因はATTACKの隊長であり、碧の夫でもある
『赤井秀夫』
にあるようだった。
「碧さん…、うっ、今日、休暇!あと…、うえっ、よれしく。」
基地に着くや否やこんな事を唐突に言われ、なおかつ、若い男子隊員までもが苛立ちの原因である隊長の悪影響を受けているのだから…。
碧の堪忍袋の緒がキレた!
「男子隊員!今から訓練場でマラソン10km、終わったら格闘訓練!直ちに行きなさい!」
当然、男子隊員からはブーイングの嵐だったが、
「つべこべ言うな!」
鬼より怖いと揶揄される碧の気迫に適うものは居ない。
男子隊員は渋々トレーニングのために作戦室から出て行った。
たった1人、何故か椅子にどっぷり座っている
『東郷裕』
だった。
「副隊長~。風邪引いて走れませ~ん。」
水で冷やしたタオルを頭に乗せながら憐れみの表情で懇願したが…。
「裕、あなた、昨晩は他のみんなと一緒じゃなかったの?」
碧がイラッとしながら裕に尋ねると、
「行ったんですけど…始まる直前から頭が痛くなって…。」
「ちゃんと医師に見てもらったの?」
「いえ…、医者とか嫌いなんで…。」
医者嫌いの裕の一言が碧の逆鱗に触れた。
「今すぐ医者に行って来い!」
「は、ハイイッッ!」
碧の一喝にビビった裕は慌てて作戦室を飛び出し、メディカルセンターに逃げ出した。
「全く、どいつもこいつも…。」
男子隊員の不甲斐なさに苛立ちを隠せない碧だった。
「副隊長!ちょっと厳しいかと思います。」
そんな碧に裕の恋人であり、地球を守るスーパーヒロインである『ハイパーガール』こと
『神村春美』
が反論しようとした。
「何かしら、春美?」
「今日の男子達はだらしないかと思いますが、裕は病気なんですよ。何もそんなにつらくあたらないでも…!」
「春美、私は裕を医者に診せたいから行ったまでだぞ。」
「で、でも、あれじゃああまりにも可哀相です!」
「何かしら?」
春美の反論にキツい反応を碧が見せた時、
「副隊長、今から春美とパトロールに行って来ま~す!」
春美の同期隊員であり、女性ながら春美に強い愛情にも似た感情を持つ
『長原ひとみ』
が春美を連れ去るように作戦室から出て行った。
「全く、どいつもこいつも…!」
碧の苛立ちは一向に収まる気配がなかった。
「今日の副隊長、スゴ過ぎよね!」
「何でも昨日、隊長と副隊長の結婚記念日だったらしいけど、隊長がすっぽかしたか何かでパーになったみたいよ!」
「え~っ!可愛そう!」
作戦室内のレーダースコープ前にいる残りの女子隊員2人がひそひそと話をしていたが…!
「そこっ!いつまでもおしゃべりしない!」
「ハ、ハイッ!」
今の碧には、何を言っても怒りの結果しか帰って来なかった。
「もうっ!幾ら何でも怒り過ぎよ!」
パトロール中の偵察機の中で、春美は碧が苛ついていた事に腹を立てていた。
「落ち着こうよ!春美!」
「だって、裕は本当に風邪ひいてるのよ!ちょっとヒドすぎるわよ!」
「仕方ないわね。副隊長はATTACK初の女子隊員だし、プライドも高いからね。」
「そう言えば、副隊長って男性顔負けのバリバリ隊員だって言ってたもんね。隊長が。」
「隊長も副隊長の同期隊員だったよね。」
「何でも、副隊長が隊長に一目惚れしてプロポーズしたみたいよ。」
「あ、それ、副隊長が言ってた~っ!」
「でも…、何で、副隊長みたいな『いかにも仕事出来ます』オーラ全開のキャリアウーマンタイプが、隊長みたいなのほほんとしたタイプに惚れたのかしら?」
「まあ『蓼食う虫も好き好き!』て言うから、ちょうどあんたと裕の関係みたいなもんじゃない?」
「それどういう意味よ~!」
雲一つない澄み渡る青空の中、どうやらパトロールそっちのけで、おしゃべりに夢中な2人だった。
ちょうどその頃だった…。
「ひとみ…、前に黒雲が発生してるみたい。」
「本当だ。あれ、前の雲、天候レーダースコープに写ってないわよ。」
「うそっ!何で?あんなに大きいのに?」
春美達の操縦している偵察機の進路前方に、突如として雷雲のような黒い雲が現れた。
「雷雲かしら?よけましょう!?」
春美が操縦レバーを右に傾けた。…が。
「レバーが…動かない!」
「何で?」
「レバーが動かないのよ。」
「春美、レバーを私に貸して!」
春美に代わりひとみも操縦レバーを握ったが、ビクともしなかった。
「ダメ…、動かない。」
「ひとみっ!計器もまでもが狂ってる。」
全ての計器がデタラメな数値をだしていた。
「見て春美!雲がだんだんと大きくなってるわ!」
何故か?前方の黒雲がどんどん膨れ上がって、春美達の偵察機に接近して来ている。
「本部、本部、応答願います!本部、応答願います!」
ひとみが必死になって基地に無線機での交信を試みるが、基地からの応答は一切無かった。
「無線機が通じない!」
「ダメ、操縦出来ない!」
どうすることも出来ない状況に、2人はパニック状態に陥った。
その間にも、黒雲は更に巨大化し、2人の偵察機を呑み込もうとしていた。
「きゃあーっ!」
黒雲が偵察機を呑み込む瞬間、並列式コクピット内の2人はお互いを抱きしめるように身を庇いあった。
黒雲が偵察機を呑み込むと、偵察機もろとも急速にしぼみ込み、澄み渡る青空の中、黒雲がぷっつりと消えてしまった。
黒雲と共に消えてしまった2人の運命は…
同じ頃、偵察機の航跡をレーダースコープで監視していたATTACKの女子隊員は、突然消えた機影と、基地から春美達へ無線機で交信しても応答しない事態を掌握していた。
「副隊長!春美達の偵察機の機影が消えました!こちらからの応答にも応じません!」
「何ですって?」
不測の事態に作戦室に緊張が走った。
そこに、メディカルセンターでの診察を終えた裕が帰って来た。
「裕、緊急事態よ!」
碧が現在の状況、春美達と連絡が取れなくなった事を説明した。
「まさか!」
裕が勢い良く作戦室室から飛び出した。
「裕!待ちなさい!」
急いで駆け出した裕を止めようとした碧だが、裕には届いていなかったようだ。
しかし、裕はすぐに作戦室に戻って来た。
そして、戻って来るなり一言
「春美達が消息を絶ったのは何処ですか?」
碧達女子隊員が吉本新喜劇張りに転けた。
「もおっ、あんたって子は?ちゃんと聞きなさい!」
「痛テテテッ…。」
碧は裕の耳を摘んで裕をレーダースコープ前に引っ張って来た。
「丁度、この辺りよ!」
「了解!」
裕は再び駆け出した。
「本当に手の掛かる子ね。」
何時もの事であるが、春美達を助けようと必死になる裕を見て、碧はにっこりと微笑みながら溜め息をついた。
同時に、碧は自分が命じた訓練中の男子隊員を集合させた。
「訓練中済まない。一大事が起きた!」
碧は一連の状況を全員に告げた。
そして、
「今は裕が現場に向かっている。我々は一旦待機する!」
「了解!」
丁度そこへ、まだ二日酔いの治らない隊長の秀夫が作戦室に入って来た。
「あ、あなた…、じゃなかった。隊長!休暇で家に帰ったんじゃなかったの?」
「碧の居ない家に帰っても仕方ないからね。」
「まあっ、て、そんな事、みんなの前で言わないで下さい!」
秀夫の言葉に顔を赤らめた碧だったが、流石にみんなの前では恥ずかしいのか、すぐ元の副隊長に戻った。
「それより、みんなを緊急に招集してどうしたんだい?」
「実は、」
碧は再び秀夫に状況を説明した。
他の隊員達は
(二日酔いの隊長に説明しても…。)
と、諦め気味だったが…、
「マズイな!」
秀夫の一言に皆が目を見張った。
「マズイって、春美とひとみの事ですか?」
「それもあるが、単独で行動してる裕も危ないな。」
「し、しかし、単なる事故の可能性もあるし…、ここは裕を先行させて様子を見るのがセオリーかと…。」
碧は秀夫の発言に疑問を持ったが、
「レーダーや無線機の故障ならセオリー通りでも良い、しかし、裕の戦闘機の機影がバッチリ映っているし、連絡も取れている。しっかり者の春美達が連絡しないまま消息を絶つと思うか?」
「あっ…!」
「今から全員で春美とひとみの捜索に行く。私と男子隊員が上空から、女子隊員は碧の指揮下で地上から現場に急行する!」
「り、了解!」
二日酔いもどこへやら、地球防衛の精鋭『ATTACK』の隊長に相応しい秀夫の指揮の下で春美達の捜索が開始された。
「…ん、ここはどこ…?」
果てしなく広がる暗闇の中でひとみは目覚めた。
正確には、地面らしきところがぼんやりと青黄色く光っており、今自分が不思議な空間に引き込まれている事を実感していた。
「春美は…、春美!」
不時着した偵察機のコクピット内に居たひとみの右隣には、気を失ったままの春美が居た。
「春美、春美、大丈夫?起きて!」
「う…ん、…。」
ひとみが幾ら揺すっても春美は目を醒まさなかった。
その時!
『ガギイイーン!』
「な、何?」
コクピットを守る強化ガラス製のキャノピーが機体から引き剥がされる凄まじい音に、ひとみは驚いた。
そこには、怪力の持ち主…コクピットからキャノピーの引き剥がし、そのまま放り投げる真っ黒な怪物が居た。
「こ、来ないでー!」
怪物はコクピット内で恐怖におののくひとみにゆっくりと顔らしき部分を近付けた。
顔らしき部分とは、姿形は人に近いようだが、頭に相当する部分が胴体よりも丸く大きく、あたかも、ティーとその上に置かれたゴルフボールのようにも見えた上に、暗闇の中で真っ黒な全体像だと、誰が見ても怪物で、巨大なゴルフボールのような頭が何か分からないだろう。
「来ないでーっ!」
ひとみは震えながらレーザーガンを抜き取ると、怪物目掛けて何発も撃ち込んだ!
しかし、
怪物は怯む事なく、近寄るのを止めなかった。
いつしかひとみのレーザーガンのエネルギーが切れ、弾が出なくなった。
「春美、目を覚まして!ハイパーガールに変身して!」
ひとみは傍で気を失っている春美を揺り起こそうとしたが、幾ら揺すっても春美は目を覚まさなかった。
やがて、怪物はひとみの身体を掴み、自分の顔らしきところに近付けた。
「止めてーっ!」
半狂乱になって叫ぶひとみだったが、全く気にする事なく、怪物は顔らしき部分の上部からペンライト大の光を点滅させ、
「…オマエ、使エル…。」
「イ、イヤッ!止めて!」
怪物はひとみをコクピット内の座席に固着させている頑丈なシートベルトを引きちぎり、恐怖におののきもがき暴れるひとみを肩に担ぎ上げ、気絶した春美の残る偵察機から離れた。
「春美ーっ、春美ーーっ!助けてーっ!」
怪物の肩の上で両手足をバタバタさせて暴れるひとみを担いだまま、怪物の姿は小さく消えて行った。
「いやああああーっ!」
ひとみの悲しい叫び声だけが暗闇の中に木霊したが、それもかき消された。
「本部、こちら裕、現場に到着!」
その頃、裕は操縦する戦闘機と共に春美達が消えてしまった現場上空に到着した。
「現場付近に墜落した形跡なし、春美達の行方はわかりません。」
裕は現場付近の上空を何度も旋回したが、春美達の行方は一向に分からなかった。
「春美、ひとみ、2人共無事で居てくれよ!」
裕は心の中の葛藤と戦いながら、2人の行方を示す手掛かりがないか、現場付近の上空を幾度となく旋回した。
「…あぅ…、ここは?」
春美がようやく目を覚ました。目の前には果てしなく広がる暗闇と、僅かながら不気味に青黄色く光る地面らしき部分があるだけだった。
「ひとみはどこ…?ひとみ?」
姿の見えないひとみの身を案じ、春美は動こうとしたが、胸の圧迫感と共に身体の異変に気がついた。
気を失っていたにも関わらず、何故か立ったままの姿勢で居た自分に違和感を感じたからだ。
「あ、あれ…?身体が動かない?」
身体が動かない?
正確には身体の自由が効かない?
特別な違和感に不安になる春美だったが、自分の姿を確認するために首を下に向けた春美は驚愕した!
「し、縛られてる!」
地面に突き刺さった棒のようなものに、胸元や足首を縛られて、両手首を棒の後ろで組まされた上で同じく縛られている自分の姿に驚いた。
「だ、誰?ひとみは?」
春美は姿の見えないひとみを案じながら自分を縛り付けている棒から逃れようともがいた。
そこへ…。
「春美…。」
ひとみの声が聞こえた。
「ひとみ?ひとみーっ!無事なの?」
暗闇の中で懸命に辺りを見回したが、ひとみの姿を見つけられなかった。
しかし、春美の目の前にひとみは忽然と姿を表した。
「ひとみっ!無事だったのね!」
春美はひとみの無事な姿に安堵した。
目覚めた時、暗闇の中で縛られている状態での春美には気付けなかった。
そこに居たのがいつもと違うひとみだった事に。
「ひとみ、この縄を解いて!」
「嫌よ。」
「エッ?」
春美はひとみの意外な反応に驚いた。
「だって、春美を縛ったのは私だもん。」
「ひ、ひとみ…?何言ってるの?」
「私が春美を縛りたかったから縛ったのよ!」
春美には信じられなかった!何故ひとみが自分を縛ったのかが。
「ひとみ…、こんな時に冗談は止めて!早く解いて!」
「冗談…?私をバカにしてる?」
「何でよ!早く解いてよ!」
「うっせー!静かにしろ!」
ひとみの恫喝に春美は驚き、身体をビクッとさせた。
「いつもいつもいつも、てめぇは裕、裕ってうぜーんだよ!」
「ひとみ…、どうしたの?」
ひとみの怒りが理解できない春美はひとみに問いかけた。
「男にピーピー言ってるのがムカつくんだよ!」
「そんな…。」
信じられないひとみの暴言に、春美は目に涙を浮かべた。
その頃、春美達を捜索する裕は、何の手掛かりを見つけられないまま苛立ちを募らせていた。
「隊長、依然手掛かりが見つかりません!」
苛立つ裕に秀夫から連絡が入った。
「裕、焦るな!見つかるものも見つからんぞ!」
「し、しかし、隊長。」
「仕方ないな、手は無くはない。」
「ど、どうやって!」
秀夫は裕を落ち着かせるためにある方法を裕に伝えると、最後に、
「いいな、皆が来るまで待つんだそ!」
と、裕に釘を刺した。
つもりだったが…。
「わかりました!隊長!」
裕は秀夫の言い付けを守らずに言われた方法を試した。
「裕!一人で行くのは危険だぞ!」
秀夫は裕を止めようとしたが、裕からは何も帰って来なかった。
「フフフ、まるで昔のあなたみたいね。」
無線を傍受していた碧が言った。
「そうかなあ?」
「私が言うんですから間違いないですよ!」
「まあいいか、それより急ぐぞ!」
秀夫や碧達はそれぞれ上空と地上から春美達が消えた現場にいる裕の元に急いだ。
「春美達が消えた地点の高度3万メートルまで一気に上昇して、そこから一気に降下すると、高度5千メートル付近で黒い雲が発生するから、一気に突っ込め!と言ってたな。」
裕は戦闘機を一気に上空3万メートルまで上昇し、躊躇うことなく、一気に降下した。
「もし、黒い雲も現れず、そのまま降下したら、地面に激突して死ぬな!」
流石に、無鉄砲な裕も冷静に判断したが、それでも一縷の望みを託して、5千メートル上空に現れるであろう黒い雲の発生を信じて降下した。
尋常じゃないハイG(高重力)が裕の身体を締め付けていた。
「春美、ひとみ、待ってろよ!助けに行くぞ!」
その時!
目の前に黒い雲が現れた。
「あれか!うおおおおーっ!」
裕は一気に黒い雲に突っ込んだ。機体は黒い雲の中に入ると、どこともなく消えて行った。
「何とか間に合った。黒い雲が現れたぞ!みんな、裕に続くぞ!」
秀夫や他の隊員は上空と地上から黒い雲目掛けて飛び込んだ。
「ひとみ!目を覚まして!」
暗闇の中、縛られたままの春美は自分を責めるひとみに訴えた。
「うぜえ!」
ひとみは乱暴な言葉を吐きながら、春美に近づくと、
「きゃっ!止めて!」
ひとみはロープで縛られている春美の胸を隊員スーツの上から鷲掴みにすると、
「こんな中途半端な小いせぇ胸でも男が出来るんだからな!」
「ひ、酷い…。」
ひとみの春美に対する容赦ない屈辱的な攻撃は更に続いた。
「ブサイクな顔しやがって!」
「臭せぇ!ケツがデケエんだよ!」
ひとみの攻撃に堪えきれなくなった春美は遂に涙を流し始めた。
「何で?何でそんなにヒドい事言えるの!私達、あんなに仲がよかったじゃない!」
春美は涙混じりで訴えたが、今のひとみには届かなかったようだ。
「仲が良かっただァ?てめぇで勝手に勘違いしてただけだろうが!」
「そ、そんな…。私達ずっと友達じゃない!」
「友達だァ?」
ひとみは春美の顎を掴むと、自分の方に力一杯振り向けた。
「てめぇ!何時も私と仲良くしてたんだろうが、私の気持ちを分からなかっただろ!」
「気持ちって?私達いっぱいいっぱいお互いの事を話し合って来たじゃない!」
「それがうぜえっつってんだ!私の気持ちを知らない癖によォ!」
「そんな…。」
「私はおめぇが大好きだったんだ!なのに、おめぇ何時も『裕』『裕』って、どれだけ私の気持ちを踏みにじって来た癖に!」
「ど、どう言う事なの?」
春美にはひとみの言葉が理解できなかった。
「私がオマエの事が大好きだ!ってんだ!」
「ひとみ!私だってあなたの事が好きよ!」
「意味違うだろ!私は男以上にオマエを愛してんだ!なのに、おめぇは裕ばっか!何時も私が悔しい思いをしてるのに気付いてなかっただろうが!」
「だって、だって、私は裕もひとみも好きよ!」
「喋べんじゃねぇ」
「痛い!」
ひとみが力一杯に春美の頬を平手打ちした。
「何良い子ぶってんだ?何カワイ子ぶってんだ?てめぇのそういうとこがムカつくんだよ!」
「お願い!もう止めて!」
ひとみの止まらない暴走に春美は情で訴えたが、当のひとみには全くと言って聞かなかった。
「オラ!いい加減、『助けて!裕!』ぐらい言えよ!」
ひとみの容赦ない責めは続いた。
「ひとみ、今のあなたは本当のあなたじゃない!目を覚まして!」
「私に指図するな!」
再びひとみが春美を殴ろうとした。
「止めろ!」
そこに裕がやって来た。
「裕!」
「何しに来たァ?」
「春美、ひとみ、どうなってんだ?」
「裕、ひとみの様子がおかしいの!」
「邪魔すんなよ!」
無理もない。いきなりやってきた裕には縛られている春美や悪態をつくひとみの状況が理解できないでいた。
「ひとみ、春美を自由にしてやれよ。」
「いちいち指図するな!」
「ひとみ、どうしたんだ、一体?」
「どうしたぁ?私はこのカワイ子ぶりっこがムカつくからイジメてんだ!」
「え?ひとみは春美の親友だろ?」
「親友だァ?何時も何時もこのブスとイチャイチャしてるだけの変態が!」
「へ、変態っ?」
ひとみの豹変した態度に戸惑いを隠せない裕だった。
「てめぇら、恋人同士かなんか知らんが、人の前でもイチャつきやがって!私がどんな気持ちになってたか知らねーだろうが!」
ひとみは更に話を続けた。
「入隊した時から好きだった春美を取りやがった裕!おめぇは絶対許さねーからな!」
「春美を好きって…レ…。」
「勘違いしちゃだめ!私とひとみは親友なだけよ!」
「ぶりっこは黙ってろ!」
ひとみの叫び声にビクッとした春美だった。
「私から春美を奪っといてよくもまあのこのこと来れたなァ!」
「別に、俺は春美を奪っただなんて…。」
「何も言えまい!」
この3人のやり取りを遠くから覗いている集団があった。
「隊長、早く裕達と合流しましょう!」
「ひとみの様子が変です。宇宙人か何かに操られているみたいです。」
隊長の秀夫以下、ATTACKの隊員達が遠くから裕達の様子を窺っていた。
「まだ待て!」
「隊長!ひとみの様子は明らかに変ですよ。春美も縛られているし、裕達の救出を優先しましょう。」
あくまでも様子を窺う秀夫に副隊長の碧が進言した。
「今行ったところで3人の身柄は確保できるが、ひとみの狂った精神までは助けられない。悔しいが、今の我々には見守るしか手はない。」
「しかし、このままではあの子達が危険よ!」
「碧、君は覚えていないかも知れないが、20年前のあの出来事を覚えてないか?」
「エッ…、ま、まさか…!」
秀夫は碧に『20年前の出来事』と言った時、碧の脳裏の奥底に忌まわしい記憶が蘇った!
「思い出したか?ここがあの時の現場だよ!君にとっては思い出したくない記憶だろうから、黙っていたけどね。」
秀夫は少し狼狽する碧を落ち着かせるように優しく問いかけた。
「あなた、もしかして、知ってたの?」
「そうさ、ここへの入り方もね。そもそもあれは俺が見つけたしね。」
「じゃあ、早くひとみを助けないと!あのままじゃあ、あの子の精神が崩壊するわよ!」
「わかってる。だから裕に託してる。裕は普段は無謀で子供っぽくて落ち着かないとこだあるけど、あいつの優しさには人の心を揺り動かす何かがある。ひとみを元に戻すにはあいつが必要だ。もうしばらく様子を見よう。」
その頃、我を忘れたひとみの暴走は続いていた。
「おい!おめぇは春美を助けに来たんだろうが!」
「春美だけじゃない!ひとみ、お前もだよ!」
「ハァ?笑わせんじゃねーよ!」
「笑い事じゃないよ。」
「春美!春美!春美!そればっかりしか言わない癖に、そんな事がよくぬけぬけと言えたなァ!」
「ひとみ!俺達喧嘩もしたけど同期同士で仲が良かったじゃないか!」
「仲が良かっただァ?」
春美の傍に居たひとみが裕の元に詰め寄った。
「お前、私の気持ちを知ってて言ってんのか?」
「当たり前じゃないか!ひとみが春美と仲良しだって。」
「違う!」
「…エッ。」
「違う!違う!違ーう!」
「お、おい、ひとみ?」
「私があんたの事も好きだって事に気付いてなかっただろうが!」
「ひとみ?」
「ひとみ!」
予想だにしなかったひとみの突然の告白に春美も裕も二の句が告げないほど驚きを隠せなかった。
「ひとみっ!何で私に言ってくれなかったのよ?」
「言ったとこでおめぇ、裕の事を諦めるのかよ?」
「そ、それは…。」
「それ見ろ!偽善者ぶってんじゃねぇ!」
「ひとみお願い!あなたが裕の事を好きだって事は知らなかったわ。だからって裕を責めないで!」
「ひとみ…、俺の事を好きだったら、春美だけでも解放してくれ。お前達友達じゃないか!」
春美と裕は必死になってお互いを助けようとひとみに呼びかけた。
しかし、ひとみは2人の気持ちを意に介さず、
「裕、あんた、以前シュランゲ星人が春美を人質に取った時も、この前の修道院で春美がザッカー星人に捕まって襲われた時も、必死になって春美を助けたけど、私がああなっても何もしないでしょ!」
「そんな事無いよ!」
「嘘つくな!」
ひとみが裕の隊員スーツの襟首を両手でつまみながら、
「春美命のあんたに、私なんか…私なんか…。」
それまで興奮の極みに達していたひとみが裕の胸に頬をうずめ、突然、泣き崩れてしまった。
「ひとみ、泣くなよ!」
裕はただ黙ってひとみに泣かれる事しか出来なかった。
「…バカ。」
ひとみが涙混じりに裕の胸元でしゃべった。
「バカ!バカ!バカ!裕のバカァ!あんたが優しすぎるから、私まであんたを好きになったじゃないの!あんたには春美が似合ってるのに!私どうしたらいいの?バカァ!」
「ひとみ、泣かないで!」
「ひとみ…。」
何とか半狂乱のひとみを落ち着かせるために宥める2人だったが、異変は突然起きた!
「ウッ…、ウェッ!」
裕から一歩下がったひとみは、何やらどす黒いものを吐き始めた。
「ま…、まさか、コイツがひとみを狂わせた正体?」
口を両手で覆うひとみの指の間から、どす黒いコールタール状のネバネバしたものが漏れていた。
「だったら…!」
裕は左手でひとみの左肩を少し上げると。
「ひとみっ、ごめん!」
「裕!ひとみに何て事するの!」
裕の右手がひとみの鳩尾を痛打した。
「よく見ろ春美、コイツがひとみを狂わせた正体だ!」
「何ですって…?」
裕のボディーブローによりうずくまったひとみはそのまま体の中からどす黒い固まりを吐き出した。
「ウホッ、ゲホッ!」
むせび苦しむひとみに裕が近寄った。
「ひとみ…。」
「ひ、裕!」
またもやひとみは裕の胸に頬をうずめて泣き出した。
しかし、今度はしっかりと裕に抱きつきながら大泣きしていた。
「ごめんなさい!私、私、ごめんなさい!」
「操られてただけだったんだから、謝ること無いよ。それより春美のロープを解かないと。」
漸く元に戻ったひとみを優しく諭すと、裕はひとみと一緒に春美を棒に縛り付けているロープを解いてやった。
「春美、ごめんなさい!」
ひとみは今度は春美の胸の中で大泣きした。
「大丈夫よ。ひとみが元に戻ったから。ね。」
春美もひとみを優しく慰めた。
その時!
「オ前タチ…、コロス!」
暗闇の向こう側から不気味な声が聞こえた。
「ア、アイツ…!」
ひとみが突然ワナワナと震えだした。
「アイツが私を攫って、私に変な物を口に入れた宇宙人よ!」
「何?」
「何ですって?」
闇の中から頭の巨大な宇宙人がやって来た。
「20年前ニモ、オ前タチニ…はいぱーがいニ地球ノ征服ヲ邪魔サレタ…オ前タチノ精神ヲ破壊シテカラ、はいぱーがいヲ倒シテ、地球ヲ征服シテヤル!」
暗闇の中から巨大な一つ目の大入道が姿を現した。
「くそっ!」
恐怖で震えるひとみを春美が庇い、裕がレーザーガンで応戦するが、一つ目の宇宙人には効かなかった。
「裕!目だ!目を狙え!」
秀夫が応戦する裕に指示した。
「隊長!」
秀夫達他のATTACKの隊員が来ていた事を知らなかった裕だが、先ずは秀夫の指示通り、大きな一つ目を狙ったが…、
「ムダダ!」
一つ目の宇宙人はびくともせず、傍にあった大岩を持ち上げた。
「きゃあああーっ!」
「隊長ーっ!全然効きません!」
「違う!奴の目はこっちだ!」
その時!
「ぎゃあああああ!」
秀夫の撃ったレーザーガンが一つ目の宇宙人の大きな一つ目の上に不気味に光っていた部分に命中した。
一つ目の宇宙人は、自分が持ち上げた大岩の下敷きになって動かなくなった。
「みんな大丈夫か?」
「隊長!副隊長!」
一つ目の宇宙人の前に居た3人の元に秀夫や碧達が駆け寄った。
「ひとみ!大丈夫?」
碧がひとみの傍に来て、ひとみの無事を確認した。
「みんな…ごめんなさい…。」
「ひとみ、私もう気にしてないから泣かないで!」
ひとみの傍に居た春美がひとみを優しく介抱した。
「さあ、ここから撤収するぞ。」
碧が全員に命令した時だった。
「…置いて行って下さい。」
ひとみが力無く呟いた。
「どうしたの?」
春美がうなだれているひとみに問いかけた。
「私…、もうみんなと一緒に居られない。」
「ねぇ、ひとみ、何言ってるの?」
「一緒にここから出るぞ!」
春美と裕がひとみを抱き起こそうとしたが…、
「お願い!ほっといて!」
ひとみは春美達の手を払いのけた。
「ひとみ、どうした?」
碧がひとみの前に来た。
「私…春美や裕、それにみんなに迷惑をかけた!春美や裕の心を傷付けた!みんな私の事嫌いになったでしょ!もうみんなに迷惑かけられない!」
「そんな事無いよ。私達いつまでも友達よ。」
「気にするなよ!ひとみは操られてたんだし。」
「操られてたって、でも私の気持ちが出てたのよ!春美達をあんなに傷付けた私は…私は…!」
その時!
「甘ったれるな!」
ひとみの前に居た碧がひとみの頬を平手打ちした。
「ふ、副隊長!」
「ひとみ、仕方なかっただろ。誰もが心の中に闇を抱えてるんだ。それを乗り越えて初めて友情が芽生えるんだ。気にするな!」
「副隊長には私の気持ちが分からないでしょ!」
「ひとみっ!」
碧は今度はひとみを優しくしっかりと抱き締めながら、
「今のあなたの気持ち、私にはよく分かるわ。」
「エッ…!」
「私も20年前にあなたと同じ目に遭ってたから!」
「…副隊長。」
碧の思いがけない一言に、ひとみは思い切り碧の胸で泣いた。
「あんまりゆっくり出来ないみたいだな!」
秀夫が言ったと同時に、一つ目の宇宙人を潰したはずの大岩がグラグラと動き始めた。
「エッ…!まさか!」
「みんな、ここから離れるぞ!」
ATTACKの全員が走り出してから大岩が一気に砕け散り、あの一つ目の宇宙人が立ち上がった!
「…許サン、許サンゾ!」
一つ目の宇宙人はみるみるうちに巨大化し、ATTACKの隊員達の後を追いかけた!
「…待テイ!」
一つ目の宇宙人に追いかけられている隊員達の最後尾を走っていたひとみが何かに躓いて倒れた。
「ひとみ、大丈夫?早く!」
「春美!あなただけでも逃げて!」
「あなたを置き去りになんか出来ないわよ!」
「だって私はさっきあんなに酷い事したのよ!だから早く逃げて!」
そんな2人を踏み潰そうと、一つ目の宇宙人の大きな足が2人の頭上に覆い被さった。
「きゃあーっ!」
「春美ーっ!」
ひとみが春美を力一杯両手で突き出し、春美を宇宙人の足から踏まれないところまで押し出した。
「ひとみーっ!」
春美のひとみを呼ぶ叫び声が辺り一面に響き渡る中、宇宙人の足がひとみを踏み潰した。
ように見えたが…、
「ひとみ!諦めるなよ!」
ひとみが宇宙人に踏み潰されそうになる瞬間、裕が決死の覚悟で飛び込んで、ひとみを宇宙人の足に踏み潰されないところまで連れ出したのだ。
「裕、何で私なんかのために無茶するの?」
「お前を助けたいからだろ!」
「あなたまで死んだらどうするの!」
「構わないよ!俺にとってひとみは大事な人だから、命がけで守に決まってるだろ!」
「裕、あなたって、あなたって…!」
「ウガアアアア!」
ひとみを踏み潰せなかった宇宙人が怒り狂い、今度は裕とひとみを踏み潰そうとした。
「きゃああーっ!」
「逃げるぞ!」
宇宙人が2人を踏み潰そうとした時!
「いい加減にしなさいよ!」
春美が胸ポケットから変身カプセルを取り出して、ハイパーガールに変身し、変身して巨大化する過程で裕達を踏み潰そうとする足を両手で受け止め、巨大化が完了する前に宇宙人の足を払いのけ、そのまま宇宙人を倒した。
「ハイパーガール!ありがとう!」
地球を守るスーパーヒロインである『ハイパーガール』が一つ目の巨大な宇宙人と対峙した。
「オ前ハ、はいぱーがい…チガウ?」
「さっきからあの宇宙人『ハイパーガイ』とか言ってますけど、ハイパーガールの間違いじゃないですか?」
碧と共に逃げている女子隊員が言った時に、
「実はね、20年前に居たのよ!地球を守るスーパーヒーロー『ハイパーガイ』がね。」
「そうだったんですか?」
碧の口から過去に居たスーパーヒーローの話を聞いた女子隊員達は驚いた。
「みんな、俺達が上空からハイパーガールを援護する。女子隊員はその間に裕達を救出して来れ!」
戦闘機に乗り込んだ秀夫が暗闇の空間の上空からハイパーガールの援護射撃を始めた。
「ウゴゴゴ!」
戦闘機から無数の弾丸を浴びながらも、宇宙人は持ち前の怪力でハイパーガールを組み伏せようとした。
「ハーッ!」
ハイパーガールは両手を宇宙人と組みながら、ジャンプすると宇宙人の巨大な目にキックした。
「…痛クナイゾ!」
「ハーッ!」
ハイパーガールは再度キックを試みるが、宇宙人には効かなかったようだ!
「ハイパーガール、聞こえるか?奴の弱点は目だ!しかし、奴の本当の目は大きな目玉じゃなくてその上にある小さく光っているところだ!」
ハイパーガールは秀夫のアドバイスを聞くと、宇宙人と組んでいた両手を離し、右手に全身の光を集め、光を纏った右手で手刀を作り、宇宙人の本当の目に突き刺した!
「アガガアアガアーァ!」
弱点である目を攻撃され、宇宙人はそのまま爆発した。
すると、辺りを覆い被さっていた暗闇が一気に消え去り、全員が春美とひとみが消え去った地点に居た。
「戻って来た!」
全員が安堵したなかで、
「みんなーっ!」
「春美ーっ!」
春美が皆のところに駆け寄った。
「あんた、どこ行ってたのよ?」
「心配してたぞ!」
春美の正体を知らないATTACKの隊員達は無事に戻った春美との再会に喜んだ。
最も、ハイパーガールの正体が春美だと知っている裕とひとみだけは2人で顔を合わせてニッコリと微笑んでいた。
しかし、
「春美、ありがとう。」
「エッ…?」
何故か秀夫だけが春美の耳元でこっそり呟いた。
「た、隊長?今なんて…?」
春美が秀夫に問いかけたが秀夫はただただニッコリ笑うだけで、春美には何も言い返さなかった。
(ま、まさか…、ハイパーガイって?…、まさか、ね。)
春美は心の中で自問自答した。
さっきまで春美とひとみを呑み込んだ暗闇はもうどこにもない。澄み渡る青空だけがどこまでも広がっていた。
「さあ、帰りましょう!」
碧が全員に言った時、
「ゴメン…、まだ二日酔いが…。」
秀夫や他の男子隊員が二日酔いを訴えた。
「あなた!さっきまで戦闘機を操縦してたでしょ!」
「あの時は非常事態で…。」
「もうっ!本当に20年前から変わって無いわね!」
呆れた碧は男女隊員ごとに戦闘機やパトロール車に分乗して、仲良く基地に戻った。
翌日、基地内の女子専用の待機室に碧以下のATTACKの女子隊員が談笑していた。
「一昨日、メカニックの前田君がメディカルセンターの加藤さんにプロポーズして振られたから、男子で慰め会をしてたんですって。そこで前田君がめちゃくちゃ落ち込んでたから、隊長に連絡が入って、隊長、副隊長との結婚記念日のレストランでの食事より彼の事を気遣って男の子達と合流したみたい。」
「なあーんだ、副隊長との結婚記念日を忘れてたんじゃなかったんだ。」
ここ数日の出来事をみんなで話していた。
「そう言えば副隊長、昨日私に『同じ事を経験した。』とか言ってましたが、あれってどういう事ですか?」
ひとみが碧に尋ねた。
「実は、私もあの宇宙人『バルグーレ星人』って言うけど、20年前、私がまだATTACKの新人の頃にあの宇宙人に捕まった事があったのよ!」
碧が話を続けた。
「あの頃の私はATTACK初の女性隊員と言うこともあって、絶対に男には負けない!と思って頑張ってたわ。また、隊長の秀夫さんも、私と同期隊員だったけど、昔っからあんな性格だったから『あんな人には絶対に負けない!』と思って必死で頑張って来たの!」
「そうだったんですか?」
「そんな時、秀夫さんと偵察中に黒い雲に襲われて、あの宇宙人に攫われて、黒い塊を飲まされて、ひとみみたいに自分の隠していたストレスを秀夫さんにぶちまけてたみたいなの。」
「それで、どうなったんですか?」
「その時、私を助けてくれたのが秀夫さんよ。その時、私は銃を振り回してたらしいけど、秀夫さんが優しく受け止めてくれたの。『僕は君を助けるんだ!』って言ってくれてたらしくて…、私がこうして居られるのもあの人のおかげなの。」
そう言う碧の頬にうっすらと紅が差した。
「副隊長も女の子だったんですね!」
「どう言う意味よ!私だってちゃんとした女よ!」
「だって副隊長、さっきから顔が紅いですよ!」
「えっ!」
隊員の言葉に碧は両手で頬を隠した。
「副隊長カワイーイ!」
「こ、こらっ、大人をからかうんじゃない!」
「ウフフフフ。」
彼女達の楽しい会話は続く。
「でも、その時はどうやって助かったんですか?」
「よく覚えてないけど、私がひとみみたいに元に戻ってからハイパーガイが現れて、あの宇宙人と戦ってくれたわ。その時は逃したみたいだったけど。」
当時の話を満更でもないような感じで碧は話した。
(春美、副隊長がハイパーガイの正体を知ってた?)
(ううん、どうやら知らないみたい。)
ハイパーガールの能力を使って碧の心を読んだ春美だったが、碧はどうやら伝説の戦士『ハイパーガイ』の正体を知らないようだった。
(あんたはハイパーガイって知らないの?)
小声で春美に問いかけるひとみに、
(ハイパーガイさん自体には会った事はあっても、誰に乗り移ってたかなんて知らないわよ!)
春美は少しムスッとした口調で小声で返答した。
(ゴメ~ン。)
「さあみんな、そろそろ作戦室に戻るわよ。」
「は~い。」
休憩時間も終わり、女子隊員達が女子の待機室から出て作戦室に向かった。
最後尾を歩いていた春美とひとみが手を組みながら歩いていたのが何時もと違う光景だったが、誰もその事に気付いていなかった。
その頃、作戦室では男子隊員達が同じように秀夫から20年前の出来事を聞いていた。
「隊長!カッコイイッスよ!」
「俺、尊敬します!」
「真似出来ないっすよ!」
「そ、そうかなあ。」
裕達若手から誉め讃えられている秀夫は照れていた。
「さっすがは隊長ですよ!この話をあの女共にしてやりましょうよ!」
裕がテンションを上げて語り出した。
「だいたい、アイツらは生意気なんすよ!昨日も春美とひとみが『ブス!』だの『ペチャパイ!』だの『ケツでけぇ!』だの『カワイ子ぶんな!』だの、凄かったんですから。大して違わないのにですよ!」
裕は得意になってしゃべり続けた。
「お、おい裕!」
他の男子隊員隊員が何故か青ざめる中、裕は更に得意になって話を続けた。
「大体、今女子隊員はみんなで待機室に行ってるんでしょ。」
何故か他の男子隊員は話を止めた。
「どうせ今頃お菓子でも食べながら『私太った~!』とか何とか言ってるんですよ。それなら女子便所で女子会やってりゃ丁度出すものも出てラッキーなのに、アイツらわかってないんですよ!と止めは副隊長ですよね!あのヒステリーババア!」
「ヒステリーババア!ですか?」
「そうそう、昨日も風邪ひきの俺を殺そうとしてましたから…?あ、あれ?」
声のする方を見た裕の目の前に、碧達ATTACKの女子隊員が立ちはだかっていた。
「あ、あ、あ…。」
裕が後ろを振り返ったが、そこに居たはずの男子隊員が何処にも居なかった。
「裕…、悪かったわね、ブスで胸が小さくて!」
「お尻がデカくてカワイ子ぶってて!」
「お菓子ばっかり食べてて勝手に太って!」
「女子便所で女子会してたらいいって!」
「ヒステリーババアで!」
春美、ひとみ、最後に碧と続いた怒りの言葉に裕は恐怖し、そこから動けなくなった。
「み…、皆さん、今日もお綺麗ですねぇ。」
裕の無意味なお世辞などは意味を持たないほど、春美達は怒りの眼差しを裕に向けていた。
「裕!」
「た、隊長!助けて下さい!」
裕が作戦室の扉付近に居た秀夫に助けを求めたが…、
「自業自得だよ!自分で何とかしなさい。」
秀夫はポツリと呟いて作戦室を後にした。
「そ、そんな…、助けて下さーい!」
作戦室の扉が閉まり完全防音が成された作戦室内で、裕の絶叫だけが木霊した。
本来なら打撲だけで1日で退院出来る筈なのだが、裕はメディカルセンターで治療を受けた医師がたまたま女医で、まともな処方を受けられず、なおかつ、その後の処置も看護婦からきちんと受けられなかったからか、全治3日でメディカルセンターの病室に放り込まれた。
その間には春美とひとみが見舞いに来たが…2人は裕の顔を見るなり、
『ふんっ!』
と一瞥して病室から去っていっただけだった。
「すんません。、もう女性の皆さんの悪口は言いませ~ん!」
取りあえずは心に誓う裕だった。