お人好しの勘
気付かないフリはしません。
自惚れだってしません。
ただ、笑って背中を押すことくらいは出来ます。
だから、自信持って下さい。
私を本気にさせた貴方なら、あの人落とすくらい何てことないはず。
[キューピッドくらいならなれますが?]
先輩に買い物に誘われた。ちょっと照れたように。
でもね、先輩。私はそこら辺の軽い女子と違うんで、勘違いなんてしないんですよ。知ってました?
だって、普通に見たら分かるもの。先輩の視線の先、私と同類の雰囲気纏った良い子だから。
私は嫉妬深いギャルでも何でもないので、作り笑顔で聞いてあげるんです。長い愚痴を。
先輩はお酒弱いですからね、介抱するの大変なんですよ。少しはこっちの身にもなってください。強いだけじゃなくて、酔えない私の身にも。
だから今日も二つ返事で承諾した。嫌いじゃないもの、友達同士の買い物だって。
だけどそれだけじゃなかった。それに気付いてしまう私の勘の鋭さを今日は恨みます。幸せな時間くらいあってもいいのに。
なるべくユニセックスな服を着る。あの子にバレたら大変でしょう、あの時は私と居たのになんて。
髪型もどことなく似てるし、遠目兄妹?見えるだろうか。それはそれで美味しいポジションかも、なんて思ってクスリと笑ってみた。
「お待たせ。待った?」
「いえ、今来たところなんで。」
端から見れば、このやりとりって恋人の会話ですよ、先輩。だけど先輩は絶対に分かってない、だって天然タラシだもの。
それでいい、それが先輩。そう思ってしまう私も相当だけど。
「さ、行こうか。」
買い物に付き合わさせるだけじゃ申し訳ないと思ったのか、常々面白そうだと語り合った映画に足を運ぶ。
この光景だってデートなんですって先輩。他の人にやったらマジで勘違いさせますって。私だからそうは思わないですけど。
「面白かったね。」
ふにゃ、と柔らかい笑みを浮かべる。その独特な雰囲気に流されてしまいそう。好きだと言いたくなってしまう。だけど、そんなの駄目だ。
今からが先輩との買い物の本番。何があっても驚かない、凹まないように心の準備をしておく。
もういいですよ、だから早く本題を。
「何、買いに来たんですか?」
あくまで頼りになる可愛い後輩。女とかそういう壁なんか端から無いようなので。いいんです傍に居られるなら。
「うん、実はね……」
得意のポーカーフェイス、こんなとこで役にたっても辛いだけなんですけど。実際聞けば凹むんです、衝撃デカいんです。いくら私でも。
「勿論お付き合いしますよ。」
馬鹿な私、哀れな私。
今度告白するんだけど、その時渡すプレゼント選んで、なんて。そんなこと、純粋な笑顔で言われたら断れませんとも。
「これなんかどうですか?」
派手な格好をする子でも、派手な顔の子でもない。悪く言えば地味だけど、普通に純粋で真面目で質素な良い子。ハッキリ言って恋愛には程遠いイメージ。
だけど私がなんでここまでしてあげられるのか。友達ではあるが恋のライバルでもあるあの子に。
それはただ単にあの子が良い子で、私も好きだから。だから仕方ないかな、って思える。
それでギャルで嫌な子だったら、寧ろ虫を追い払うように蹴散らすからね。
「それ良いね、質素だけど存在感はある。ピッタリだ。」
これ下さい、と先輩は店員さんに言う。プレゼント用ですか?お決まりの返答に、頷く。
私じゃないんですよ、店員さん。先輩がプレゼントする相手は私じゃないんです。
暇になって、というより何故か苦しくなって。私はショーケースを見た。
「欲しいのー?」
「馬鹿ですね。」
お人好しな先輩ですから、買ってあげるの言葉が見え見えなんですよ。だから私は吐き捨てるように言うんです。仮にも今度違う子に告白する人が言う言葉ですか。
「良いんですよ、私全て分かってますから。」
「良い友達を持ったなー。」
ズキリ。恋愛小説の中にあるように、焦がれが胸を刺す。何でもないとドライに振る舞っておきながら、心の中はとんでもなく湿っているんです。恥ずかしながら。
だから先輩が私のこと「友達」と見てくれたことに、嬉しさもあったけど、悲しさも沢山含まれていたんです。
「女の勘って凄いけどさ、お前の勘が一番凄い。エスパーなん?」
先輩の鈍感、とつい口を告いでしまいそうになる。それだけ見てるとは、考えもしないんでしょうね。
「はい、先輩のことなら透視率100%だったりします。」
お茶目にウインク……は流石にしないけれど、ただ勘の良い女を演じる。いっそ先輩のことなんて何ひとつ知らなければ良かったんです。
だけどそれは、違うのでしょうか?今度は私の愚痴でも聞いてもらおう。そうすればおあいこでしょう。
「お前にはバレバレなのか。」
えへへ、と笑った横顔を盗み見る。綺麗だと思う。その気持ちは表したらいけないから、私は数歩前に出る。
「じゃあ、私の買い物にも付き合って下さい。」
買うものなんてないけど、適当に買ってあいつにでも渡そう。幼なじみを良いように使って、私は先輩を忘れるために物を買った。
「今日はありがとうな。お前も告白でもするの?」
先輩にはしません、安心してください。もう大丈夫ですから。
「そうですね……まあ、見ていれば分かるんじゃないですか?」
笑って答える。上手く笑えてますか?作り笑顔が上手いと自画自賛する私ですから、失敗は有り得ないんですけどね。
「そっか、お前も頑張れよ。」
「先輩、先輩なら大丈夫ですよ。私はずっと見てきましたから。」
「ありがとう。」
周りを笑顔にする笑み。そんなところが私は大好きだったんです。
「じゃあ、さようなら。」
「またな。」
「はい。」
手を振る。
きっとこれからも先輩は私のところに来る。私は先輩に大学の課題を教えてもらいながら、先輩の愚痴や惚気を聞くんです。
でもいいんです。先輩の特別枠、既に私がいますから。その枠は誰にも渡さないんで。
あれから一週間。
あの子の首元には、私の良く知るネックレスが輝いていて。先輩は私に向かってにこやかにピースサイン。
私は左耳にこないだ買ったピアスを着けて、先輩にピースを返す。だって私の隣には、同じピアスを右耳にした幼なじみが笑っているんだから。
私も先輩も、隣には好きな人を置いて。だけど二人の間は見えない絆が繋いでいるんです。
(欲張りな私たちだから、どちらも欲しいんですよ)